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豊かなオアシスに恵まれた原油の宝庫
(サウジアラビア王国東部州) その5 アラビア湾岸 (No. 5 Arabian Gulf_8) 著: 高橋俊二 |
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7. 東部州沖に並ぶ6つの珊瑚島 7.1 珊瑚列島とその形成 7.2 渡り鳥と営巣する鳥 7.3 アジサシ 7.4 ネズミの大繁殖 7.5 ウミガメの産卵 7.6 潮間帯の動物
東部州の沖合には北から南へハールクス (Harqus)、‘アラビヤ ('Arabiya)、カラン (Karan) 、クライン (Kurayn) 、ジャナ (Jana) およびジュライド (Jurayd)この六連れの珊瑚礁列島が並んでいる。カラン島が最も大きく1.3km2 (320acres) であり、嵐の時には波で島が洗われてしまう最も小さなハールクス島は僅か0.2km2 (50acres) である。この列島は全て、波の動き等で形成された砂が水没している珊瑚礁の上に堆積して出来た珊瑚礁島である。それぞれの島は砂が蓄積するに連れてさらに成長を続け、やがて植物の群生がゆっくりと生育し、砂が次第に潮間帯の浜辺の岩に固まるに連れて永続的な島となる。この6島の中ではハールクス島が一番未発達な島である。 冬と春にヨーロッパ又はアジアとアフリカの間を毎年渡る多くの種類の渡り鳥がアラビア半島を横切り、この六連れの珊瑚礁列島もこの短い間に逗留する渡り鳥をそれぞれに収容する。渡り鳥に関しては渡りの最盛期もその種類も特定できないが、島の生態系にもっと顕著なのはこれらの島に依存して営巣する鳥達である。営巣季節は気候や餌の入手可能性によって変わるし、鳥の種類によるが一般的に晩冬から晩夏である。この期間の間、非常に多くの鳥がこの島々に逗留する。 ペルシャウ (The Socotra cormorants、Phalacrocorax nigrogularis) は寒い冬の間に到着し最初に巣作りを行う。ウ達は数百羽規模でクライン島 (Kurayn) を唯一の営巣地としている。巣は砂の中にくぼみを掘って作られ、くぼみは時として排泄物が溜まり半永久的に固められた小さな小石で囲まれる。幾つかの大きく、白亜質の青い卵がそれぞれの巣に産み落とされ、孵化され、若鳥の養育は何ヶ月も続く。「ウは多数の寄生のダニを運んで来てウが滞在している間、そのダニが巣のある場所にウジャウジャ繁殖するので人は近寄れない」と言う。 アラビア湾で営巣する代表的な海鳥は何と云ってもアジサシである。海燕とも呼ばれ近い親戚のカモメに似ているが、舞い降りて襲いかかり、潜水し、空気を横滑りし、素早くさっと身をかわしそして向きをかえ、アラビアの空を転げまわる等その行動はもっと優雅である。アジサシの長く、狭い翼と弱くて短い足はアジサシを本当に空中の生き物にして居る。アジサシは止まれるが、歩くのは難しく、海面に降りるのも水浴びの瞬間に過ぎない。繁殖の為だけにアジサシは陸地に居るがこの大洋の放浪者は隔離され、近くに魚の漁場のある島を繁殖用の営巣地として選ぶ。そこでは数百、数千のペアがつがい、地面をこすって最小限の巣を作り、卵を返し、雛を育てる。六連れの珊瑚礁列島が毎年5月と6月に数千羽のアジサシの繁殖地を提供している。 E. A . バトラー大佐 (Colonel E.A. Butler)等がオオアジサシ (swift terns 、Sterna bergii), ベンガルアジサシ(lesser crested terns 、Sterna bengalensis), マミジロアジサシ(眉白鯵刺) ( bridled terns、Sterna anaethetus) および アラビアアジサシ(white-cheeked terns 、Sterna repressa) 等9種類(注)のアジサシがこの列島を営巣地として雛を育てる事を確認している。これらのアジサシは春および夏の初めの少し異なった時期にこの列島に到着するが、時として営巣地はお互いに非常に密着し、混ざってしまうのはそれ程、特別な事では無い。 アジサシは複雑な巣は作らない。子育ての場所に着くと直ぐに雄と雌の両方はこすり(浅い穴)を作り始める。この鳥達は胸を地面に押し付け、長い翼とフォーク型の尾を邪魔にならない様に水平に維持する。それからその足の指で土を引っかき、後ろに押し出す、時には砂やシルトの上に浅く丸いくぼみを作るように引っかきながら回転する。ペアの鳥が同じこすりで作業することも少なくない。この鳥は一個(或いは2個)の卵を砂の巣に産む。この鳥達の巣の殆どは日陰が無く、それら卵の上には小さな水滴が乗っている。海からの帰りに少量の水を胸の毛に入れて巣に持ち帰り相方に渡す、水は卵へと運ばれる。意識してかしないでかこれは卵を冷やし、中の胎児を乾きと熱で死ぬのを防いでいる。アジサシの営巣地の密集しているのは肉食の鷹から雛を守るのに役立つ。 漁師がダウ船 (dhow)に乗って卵を採取にくるがアジサシは10日位で代わりの卵を産む事が出来、営巣地の同じ部分で繰り返し卵を収穫されても余り大きくは影響せずにアジサシは繁殖出来ている。残された卵は6月半ばに孵化し、孵化は数週間続く。孵化した後の最初の数時間はこすりの底の濡れた様に見える、濡れた塊の中で過ごす。軟らかい羽を包んでいる薄皮がこすり落とされると雛は綿毛に包まれた本来の形を見せる。オオアジサシの雛は殆ど同じ時期に孵化する。そして孵化した後、まだ羽毛の中に居るうちに外敵から雛を守る為に両親が巣離れさせ、雛を営巣地外れの保護覆いのある、散らばった茂みに導く。それでも親鳥が漁をして居る間に子守をする大人の鳥は比較的僅かしか居ないので何かが間近に近づくと雛に深刻な打撃を与えてしまう。カラン島の大人の子守鳥は離れた所に身構え、徹底的な決意で顔に飛び掛る等して攻撃してくるが、雛はパニックに成り、泳よげもしないのに海へと走り、直ぐに水浸しに成って溺れてしまう事も多い。アジサシの脅威となるのはネズミ、ハツカネズミ、蟹、肉食鳥や巣を潰す亀等に加え、荒海等の自然災害である。それでもアジサシはその様な自然の脅威と上手く調和して今日までこの島々で繁殖を繰り返して来ている。 (注)Terns of the Gul:アジサシはシギ・チドリ類()shorebirds、カモメ(gulls)、ウミスズメ(auks)等を含むCharadriiformesに属し、アラビア湾には下記9種類が営巣する。 the gull-billed tern (Gelochelidon nilotica) ハシブトアジサシ (嘴太鯵刺) the Caspian tern (Hydroprogne tschegrava) オニアジサシ the swift tern (Sterna bergit) Greater Crested Tern or Swift Tern Sterna bergii (Thalasseus bergii) オオアジサシ the lesser crested tern (Sterna bengalensis) ベンガルアジサシ the common tern (Sterna hirundo) アジサシ the white-cheeked tern (Sterna repressa) アラビアアジサシ the little tern (Sterna albifrons) コアジサシ(小鯵刺) Saunders' little tern (Sterna saundersi) アラビアコアジサシ the bridled tern (Sterna anaethetus) マミジロアジサシ(眉白鯵刺) 鳥の営巣の時期はネズミの数の爆発となる。ネズミ達は稀に訪れるボートに潜んで島に移って来る。島の乏しい食料は春が着て鳥達が到着するまで一年の殆どネズミの数を制限している。それから豊富な卵や雛がタナボタの様にネズミ達に食料を供給し、ネズミ達はその機会に目一杯に繁殖する。ネズミは卵を割ったり、雛を殺したりはしないが、巣作りをしている鳥達のそうぞうしい行動が十分な量の割れた卵や死んだ雛を用意してくれ、若いネズミの生存率が上昇し、ネズミの数が急増する。 夏の始まりは海亀が産卵をする合図である。晩春、美しい甲羅したタイマイ (hawksbills 、Eretmochelys imbricata) が交尾の為に島の周りに集まる。5月の半ば迄にメスは夜に成ると陸に這い上がり、海岸の奥に大きな穴を掘って、卵を産みつける。最初にタイマイが現れてから1ヶ月以内にはアオウミガメ (the larger green turtles、Chelonia mydas) が現れる。アカウミガメ (loggerhead turtles、Carreta carreta) もこの列島で時折、巣作りをしている様である。交尾と巣作りは夏の間、殆ど続く。9月に成ると亀達は列島の周囲から離れ始める。海亀達が後に残した唯一の痕跡は浜辺の大きな巣穴であり、夜な夜な小亀が孵化し、彼らが一生を送る水辺へとドラマティックで危険な歩行で浜辺を横切って行く。本土の海岸に産卵する海亀もいるが、90%を越える海亀がこの列島で産卵している。その6つの島の中でもカラン島 (Karan) がこの絶滅しつつある生き物が最も好む巣作りの場所である。 各々の島の浜辺は殆どが砂浜に囲まれているが、動物生の殆どは岩のある潮間帯(注)に棲んで居り、小さな動物達がそれぞれの生態系の役割を見事に演じている。岩だらけの浜辺の主要な動物イワオオギガニ (rock crab、Eriphia sebana smithii) である。この蟹はスピードと機敏さは無いが、身を隠すのに適した色合い、人目に付かない形と力で夜間、岩場を支配している。この蟹は自ら動かずに獲物を待ち伏せして捕らえ、その強い砕くハサミで攻撃する。 一方、オオイワガニ (sally-lightfoot crab、 Grapsus tenuicrustatus) は大きく壮観な程、ケバケバしい色をして居り、岩の上を機敏に横走する。この蟹は通常は岩に生える藻を拾い上げて食べている様に見えるが広く多様な餌を食べている。 頻繁に見かける殻無しカタツムリは岩の間に育つ藻を頼り生きているウミウシ(sea slugs、Onchidium peronii) の仲間である。ウミウシは肺として膜腔を利用できるので、水から出てもある程度は生きていける。 岩の多い浜辺ではセンカエルウオ (a fish of the blenny family、Istiblennius lineatus) も棲んでいる。魚は通常は潮間帯の動物ではないが、この魚は自分の体に水を蓄え、それでエラを湿らせ、束の間、陸行する事が可能である。有明湾のムツゴロウにそっくりであるが、センカエルウオは干潟に住むのではなく、夜中に身をよじって岩に登り、そこに育つ藻を食べている。 砂浜を好む数少ない動物生には幽霊蟹、ヤドカリ等がいる。 幽霊蟹 (Ghost crabs、Ocypode samtari) は素早く機敏な捕食動物であり、食料を求めて島の殆どで見受けられる。蟹たちはネズミと同じ場所をうろつくがもっと大胆で攻撃的であり、生きた餌を好む。蟹は生きた餌をそのスピードと強力なハサミで捕まえる。島上の他の小さな動物全ては幽霊蟹の餌食である。蟹達はしばしば日中をその中で過ごす穴の入り口に円錐形の砂の盛り土を作る。この盛り土の数を数えれば蟹の棲息密度を測る日中の鍵となる。 島の浜辺の全域を棲みかとするもう一つの動物はヤドカリ(hermit crab、 Coenobita sp.) である。ヤドカリは岩の多い海辺を好み、ネズミ達や幽霊蟹達の様に島の内陸には入らないが、どの浜辺にもいる。ヤドカリは餌を捕らえて圧倒するには非常に限られた力しか持っていないので植物と動物の両方を食べる。 (注)潮間帯とは低潮位と高潮位の間に陸地に成る浜辺である。
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