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豊かなオアシスに恵まれた原油の宝庫
(サウジアラビア王国東部州) その5 アラビア湾岸 (Vo.5 Arabian Gulf_4) 著: 高橋俊二 |
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3. アラビア湾の海岸地勢 3.1 沿岸湿地帯 3.2 珊瑚礁 3.3 海草床 3.4 マングローブ林 3.5 砂海岸 3.6 下干潮帯の岩場 ユーフラテス川(the Euphrates River)およびチグリス川(the Tigris River)からシャッタルアラブ水路(the Shatt al Arab Waterway)を通ってくる栄養分豊かな真水の流入はアラビア湾北部に沈泥(silt)を堆積し、広大な干潟(mudflats)と塩湿地(salt marshes)を作り出している。 澄んだ暖かい海水、良好な太陽光の差し込みと浅い水深が珊瑚礁の成長を促している。珊瑚礁は海洋で最も繁殖力のある棲息地を生み出し、それがプランクトンの繁殖に貢献し、魚と鳥の食物連鎖を支えている。 アラビア湾沿岸は沿岸湿地帯、珊瑚礁および海草床(sea-grass bed)やマングローブ林、砂海岸(Sandy Coastlines)および下干潮帯(sub-tidal)の岩場によって代表され、それぞれが厳しい環境下でのきわどい海洋生物棲息地とも成っている。高い生物繁殖性のある潮汐平地(tidal flat)や浅い湾は豊かな動植物相を支え、アオウミガメやジュゴンの餌場であるばかりでは無く、重要な魚、牡蠣や海老の繁殖地であり、数千の渡り鳥や固有種の鳥を支えている。 沿岸湿地帯とは塩湿地(Salt Marshes)、サブハ(Sabkhas)(Salt Flat)および干潟(Mudflat)の総称である。 サブハ(Sabkhas)は高塩分の湿地帯で海草床と共に見られる。サブハはイラク領のカウール アブド(Khawr Abd)やクウェイト湾等の特にアラビア湾の北部と西部に分布している。東部州ではタルート湾(Tarut Bay)、ムシャリハ(Musharihah)およびマッサッラミヤ(Mssallamiyah)等1,000km2余りの面積を占める。サブハはカタール、アラブ首長国連邦の沿岸やバハレーンの北東部にも見られる。 潮だまり(saltpans)や干潟(mudflats)は越冬する渉禽(waders)や沿岸の鳥に重要な餌場を提供している。クウェイトとサウジアラビアの国境に近いコール アル ムファッタ(Khawr al Mufattah)の干潟は渡り鳥にとって重要な場所である。この地域はその傑出した生物学上および地形学的(geo-morphological)価値から自然保護区として提案されてきた。ムファッタに居る鳥の多くは知られていないけれどもその数は2万羽に及ぶ。冬にはヨーロッパおよび北アジアからの多くの渡り鳥をまじえて100万羽を越える鳥たちがこの内湾の豊かな餌場を利用している。 塩分濃度が高く、海水温の大きく変化する浅海のアラビア湾の環境は珊瑚が成長する理想的な条件とは程遠いが、種類は少ないながら珊瑚礁が発達している。特にアラビア湾のサウジアラビア沿岸北部分では珊瑚礁が数百数えられる。その多くは台型でその平らな頂部は海底から低潮位水面の少し下まで盛り上がっているが、更に海岸を縁取りする珊瑚礁や幾つかの珊瑚島もある。 アラビア湾は珊瑚礁の分布の北限であり、温度と塩分濃度が変動する為に珊瑚にとっては非常にストレスの高い環境である。従って、珊瑚礁は熱帯地方と較べると多くの異なった種類では形成されず、紅海と較べても多様性は少ない。アラビア湾の珊瑚は世界の多くの他の珊瑚礁に生育する珊瑚より高い温度域に耐えられるが、油濁汚染等の追加のストレスには傷つきやすい。それでもこの多くの部分が生態的には非常に豊かに数百種の生物を支え、幾つかの漁業対象魚に産卵場所を提供している。珊瑚礁は多様な種を育むので海中の熱帯雨林である。 (注)紅海は水深が深く、大きな水の循環があるので珊瑚にとってはアラビア湾よりはもっと安定した海洋環境である。
クウェイトの珊瑚礁はアラビア湾でももっとも北部にある。本土では隔離された露出(outcrops)があるけれども最も良く発達した珊瑚礁は沖合の島々の周囲にある。これらの中の最も発達した珊瑚がカル島(Qaruh)とウンム アル マラディム島(Umm al Maradim)である。珊瑚は主として15m以下の浅い水域であり、その種類はやや少なく、1985年の観察では26種類であった。それにもかかわらず、これらはアラビア湾の最も北にある珊瑚礁として重要な意味がある。 アラビア湾の最上の珊瑚礁はクウェイト国境から東部州の海岸に沿って、バハレーン湾の入り口のラス タンヌラー(Ras Tammurah)までリボン状に広がっている。堆積物が多い海岸の高い沈泥化(siltation)の為に本土の海岸では珊瑚礁は殆ど発達して居ないが、沖合の島々の周囲には璃礁(patch reefs)(注)や裾礁(flinging reefs)(注)が大規模に発達している。珊瑚が発達している最も重要な水域はカラン島(Karan)、クライン島(Kurayn)、ジャン島(Jan)、アル ジュライド島(Al Jurayd)、ハールクス島(Harqus)およびアル アラビア(Al Arabiyah)の周囲である。ここでは珊瑚の種類は50種以上と多いが、それでもインド洋の一般的な標準よりも少ない。ラスタヌラ(Ras Tanura)から南ではサルワ湾(the Gulf of Salwah)の高塩分濃度と堆積物の増加で珊瑚礁の発達も種類も減少している。 (注)璃礁(patch reefs):孤立して散在する小さな珊瑚礁) 裾礁(flinging reefs):キョショウ、岸から続いて広がり海岸を縁取る珊瑚礁 「バハレーン(Bahrain)の海洋環境は珊瑚礁には高いストレスがあり、珊瑚礁は北岸と東岸に見られるだけである」との見解がある一方では珊瑚が活動的に成長しているとの説もある。それでも種類は少なく1985年の調査で確認されたのは31種類だけである。カタール(Qatar)には密度の少ない浅い珊瑚礁がある。最も良く発達しているのは東岸である。たった8種類の珊瑚が確認されているだけではあるが、もっと調査が進めばもっと多くの種類が見つかるだろうと思われる。珊瑚の群生と璃礁(patch reefs)はアラブ首長国連邦(UAE)やオマーン(Oman)の海岸でも見られる。アラビア湾のイラン側の北海岸では東端沖合の島の周囲以外では珊瑚礁の発達は制限されている。ショツール島(Shotur)は1976年に珊瑚礁で縁取りされていると報告されている。この他の主な珊瑚礁水域はホルムズ海峡(the Strait of Hormuz)にある。
海草或いは海中の牧場は下干潮帯(sub-tidal)から0.5mから1m位の浅い水深に生えるウミヒルモ(Halophila ovalis)、スティピラシア(Halophila stipilacea)、ウミジグサ(Halodule uninervis)のような種に代表される高い生物繁殖率に特徴がある。これらの海草は沿岸に沿ってイラクからイランおよびクウェイトを通ってバハレーンを越え、アラビ首長国連邦まで広く生育している。東部州でこれらの海草が最も繁殖しているのがサファニヤ(safaniya)とマニファの間やムサッラミヤ(Musallamiyah)とアブ アリ(Abu Ali)南部およびバハレーン湾(the Gulf of Bahrain)の中である。バハレーン湾でも特にタルート湾(Tarut Bay)、ダウハト ザルム(Dawhat zalum)およびダウハト サルワ(Dawhat Salwah)には最高の海草床(sea-grass bed)が幾つかあり、これらの海草床が2,500から3,000頭のジュゴン(Dugong or sea cows)を育んでいる。但し、クウェイトでの分布は限られている。
海草床は最も重要な海洋棲息地の1つであり、アラビア湾では500種を越える動植物に餌と隠れ場を提供している。海草はこの地方の漁獲量を維持する主要な役割を果たしており、アオウミガメ、ジュゴンや幾種類かの漁獲対象魚は海草を直接食べているし、海老や真珠貝は海草床で見つかる他の餌に依存している。 アラビア湾のマングローブは満潮と干潮で水が満ち引きする潮間地帯(the upper inter-tidal zone)に沿って生育するが、生育が悪く、途切れ途切れに分布する傾向がある。アラビア湾に生育するマングローブは沖縄で見られるヒルキダマシ(Avicennia marina)に近いアビセンニア メディア(Avicennia media)のみである。このマングローブの生物的繁殖率の高さによって、様々な海生動物、海老、魚、水鳥および海生哺乳動物の重要な海洋棲息地の役目を担っている。 マングローブはイラクとクウェイトには無い。これは緯度の高さによる気候の影響や過去に人間が大規模に乱伐したのが原因である。東部州ではマングローブはタルート湾(Tarut Bay)の特にダハラン南のクライヤ(Qurayyah)およびジュベイル(Al Jubayl)に近いラス アル ガール(Ra's al Ghar)とアブ アリ(Abu Ali)の間に限られて生育している。その他にカティーフ(Qatif)およびダンマン港の北海岸にも大きな群生が見られる。バハレーン湾のマニファ(Manifa)、タルート湾(Tarut Bay)およびダウハト ザルム(Dawhat Zalum)は生態的に微妙なマングローブの生育地である。
バハレーンにおけるマングローブの名残はサナド(Sanad)に見られる。マングローブはアラビア湾の南部にも生育し、最も濃く繁っているのがホルムズ湾(the Gulf of Hormuz)である。アブダビの沿岸の島々にはマングローブが小高く繁った小島が多くその間の茂みが影を落とす水路はリゾートになっている。イランには推定8,900ヘクタール(89km2)のマングローブ林があり、最も大きい林はコラン海峡(the Khoran Strait)のハラ保護区(the Hara Protected Area)である。アビセンニア メディア(Avicennia media)はサウジアラビアやバハレーンでは実際に絶滅の危機にある。イランのマングローブも人間の乱獲に脅かされている。 (注)植林されたマングローブはサウジアラビア国境のアル カフジおよびクウェイト研究所(KISR)( Kuwait Institute for Scientific Research)の構内で育てられている。 総延長が500kmの東部州の海岸の内で350kmが砂浜である。それ程、海岸線を砂浜が占める割合は高い。しかしながら、晒された砂浜の生態的繁殖力(biological productivity)は低く、巻き貝(gastropods)や幽霊蟹(ghost crab、Ocypode spp.)のみが砂浜で繁殖する種として他を圧倒している。これらはアラビア湾沿岸諸国の砂浜にまんべんなく分布しており、特に沖合の島での棲息が顕著である。 東部州の海岸に沿った砂浜そして特にカラン(Karan)の様な沖合の島の砂浜はアラビア湾を代表する小トサカアジサシ(Lesser Crested Tern)およびホウジロアジサシ(White-cheeked Tern)を含む8種類のアジサシ等の鳥やアオウミガメ(Green Turtles)等の海亀の大切な営巣地となっている。イラン側の海岸および沖合の島々は同じく絶滅種のタイマイ(hawaksbill turtles)の世界的に重要な巣作りの区域を提供している。 下干潮帯(sub-tidal) の岩場はアラビア湾の西海岸の沿岸域に多いが、非常に疎らで限られている。主要な下干潮帯(sub-tidal)の岩場はクウェイト湾(Kuwait buy)にある。東部州ではこの様な岩場の最大級の集中がアル ミシャブ(Al Misha'ab)、アブ アリ(Abu Ali)、ラス アル ジュアイマ(Ras al Ju'aymah)、タルート(Tarut)、アル コバール(Al Khubar)およびバハレーン湾(the Gulf of Bahrain)にある。アラビア湾のイラン側の海岸はその殆どが特徴的に岩場である この岩場に生えるのは密に繁ったカジメ昆布、ホンダワラやカセモノリ等茶色の海藻類(alga) (注)であり、その間に多くの軟体動物(molluscs) 、特に巻き貝等の腹足類の動物(gastropods)や幾つかの二枚貝(bivalves) が棲息している。又、スポンジ類も見られる等、海藻床は650種以上の動植物を支えている。海底が泥の棲息地では600種以上を支え、海底が岩の棲息地では200種余りを支えている。例えばクウェイト湾(Kuwait bay)やサウジアラビアのタルート湾(Tarut Bay)の様に亞潮間帯(sub-littoral) の砂や泥の生育地は重要な海老や魚の漁場である。亞潮間帯(sub-littoral)の岩の棲息地は海藻床が豊かで海老、真珠貝やアワビ (abalone ) の漁に重要である。 (注)茶色の海藻類(alga):カジメ昆布(Ecklonia radiata)はカジメ(Ecklonia cava)等と同じ昆布目(Laminariales)昆布科であり、ホンダワラ科(Sargassaceae)にはフシスジモク(Sargassum confusum)やヒジキ(Sargassum fusiforme)が含まれ、褐藻網(Phaephycease)カセモノリ目(Scytosophonales)にはフクロノリ(Colpomenia sinuosa)やワタモ(Colpomenia bullosa)が含まれる。
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