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豊かなオアシスに恵まれた原油の宝庫
(サウジアラビア王国東部州) その5 アラビア湾岸 (Vo.5 Arabian Gulf_3) 著: 高橋俊二 |
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2. アラビア湾の棲息環境 2. アラビア湾の棲息環境 アラビア湾は世界の多くの海よりも浅く、暖かく、遙かに塩分が濃く、孤立している。アラビア湾の特異性はこの様な世界の殆どの塩水域とは異なる特徴にある。 (1) アラビア湾は極端に浅海である。 その最深部はわずか100m程度であり、平均水深も30mを少し越える程度で、海岸に近い殆どの水域では水深10m以下である。アラビア半島の東に向かって1kmあたり38cmという非常になだらかな傾斜は海底でも続いており、これがアラビア湾の水深を浅くしている。浅海は暖まりやすく冷えやすいのでアラビア湾の年間温度変化25℃にも達する。又、浅海は風と潮の合わさった影響を受けやすいのでアラビア湾の温度に深さによる変化は比較的小さい。 (2) アラビア湾は著しく塩分の高い海である。 周囲の陸地の年間降雨量が250mm以下或いはそれよりもずうっと少ないので真水を供給する川は殆ど無い。実際にサウジアラビアの海岸には川は全くない。そして高温の為に浅海のアラビア湾の海水はチグリス川(Tigris River)およびユーフラテス川(Euphrates River)や東海岸の小さな川から流れ込む水量を上まわって蒸発している。この為に世界的に海洋の塩分濃度は平均3.5%なのにアラビア湾では干満のある水域では3.8%から7.0%であり、浅い海岸塩湖や潟湖(lagoons)では6.0%から20.0%もあり、極端な場合は33.0%にもなる。 (3) アラビア湾は世界の他の塩水域と隔離されている。 唯一、ホルムズ海峡を通してインド洋とつながってはいるが、この海峡を通ってアラビア湾の海水は海底に沿って流れ出し、水面のインド洋からの塩分濃度の低い潮の流れ込みで交換されている。しかしながら、この海峡は幅48kmで、水深もアラビア湾の他の水域よりも急に深くはなっては居らず、アラビア湾の高塩分で高温の海水をインド洋に排出するにはこの海峡は狭すぎる。ホルムズ海峡を通して水が出入りして、アラビア湾の全ての海水が入れ替わるには14年から200年も掛かる。 この様な環境でも海水の出入りする水域、下干潮帯(the sub-tidal sea floor)や満潮と干潮の間である潮間(the inter-tidal zone)の様な各々大きな生物学上の範囲(province)においては自然の地形(the physical place)とそこに棲む植物と動物の関係がキチンと安定している群落(communities)が存在し、そこには小棲息圏(biotopes)がある。 小棲息圏(biotopes)の一つの例は浅海の海草床である。そこでは貝や甲殻類(shellfish)、巻き貝(snails)、海老、幼生(larvae)、亀、魚、蟹、ワームが棲み、牧場の様に海草の生える平らな地形で、潮の干満水路で、太陽光が差し込み、沈積物があり、プランクトンがいる。これら全ての生物、条件およびこれらを結びつける連携の存在がアラビア湾生態系全体の中での繁殖する群落の一つである海草床小棲息圏を構成している。 繁殖力とは有機物が明確に組織を植え付ける率であり、植物の組織は重要である。緑色植物は光合成により全ての生命を活気つけるエネルギーを太陽光から得ており、植物組織に変えられさえすればそれを食する動物に変わる。海草床小棲息圏は熱帯雨林よりも繁殖力に富み、農地平均より6倍以上の緑色植物を生長させる。海草床はアラビア湾沿岸の大きな部分を占めている。例えばタルート湾(Tarut Bay)はその66%が海草床で被われている。海草床は人間にとって価値のある海老、魚、牡蠣や海亀等の動物やその他のアラビア湾の小棲息圏を維持するのに重要な動物が利用できる大量のエネルギーを作り出す。一例としては若い海老に春から夏まで隠れ家と餌を提供し、海老はその恩恵で体重を2,000倍に増加させるので海草床小棲息圏(the grass-bed biotope)が今日のアラビア湾海老企業の基盤となっている。からみあった葉は海草床生物分布の多様性にとって重要な要素であり、無防備な動物に隠れ家を提供する為に500種類以上の動物種が棲んでいる。この様な動物種にはノコギリエイ(sawfish)、青海亀、ウミヘビ、60cm長さの海鼠、大きな肉食性の巻き貝(large carnivorous snails)、ハボウキガイ(鵞ペン状の二枚貝)(pen shells)、真珠貝の仲間、大きな食用のワタリガニ(larage edible seimming
crab)や小さなストライプのある魚等もいる。 生物学的にはずうっと重要性は低いけれどもアラビア湾には高塩分の小棲息圏(biotope)もある。高塩分の小棲息圏(biotope)は特にアラビア湾の他の水域よりも水の循環が更に制限されている海岸に沿った浅い湾、潟湖(lagoons)、海岸塩湖等の水域に存在し、水分の蒸発で塩分が異常に高い水準まで濃縮されている。この高塩分濃度の小棲息圏(the hyper-saline biotope)は独自の世界である。夏には水温が33℃までも上昇し、この小棲息圏(the biotope)に住む光合成バクテリアの幾つかが水の代わりに硫化水素(hydrogen sulfide)を使う生命維持機能を持ち、副生成物として酸素に代わって硫黄を発生させる程、水中の酸素含有量は低い。 この非常に苛酷な極限状況の例は半月湾(Half Moon Bay)とも呼ばれるダウハト ザルム(Dawhat Zalum)湾の岬(the head)にある海岸塩湖である。この海岸塩湖は小さく深さは4mしかないが、その湖底には驚くほどの量の純粋な塩の結晶を含んでいる。夏の塩分濃度は33%にもなり、殆ど海洋の10倍で死海の1.5倍の塩分濃度である。(注) (注)塩分濃度の高い死海でもバクテリアの生命だけは維持できると考えられている。 しかしながら、この海岸塩湖のストレスのある特異な環境でも種類は少ないが群落を支え、その群落は豊富に繁殖している。ある種の藻はピーク時には1リットルに1,900万の個体を数えられ、その数はこの海岸塩湖を岸に沿って赤く血の色に染めるには十分である。藻を除いても多くの動物性プランクトン種の群が棲息している。科学者がそれまではどのような多細胞生命も生存出来ないと考えた塩分濃度よりも遙かに高い塩分濃度の塩水の中で、5種類の小さな甲殻類(crustaceans)、平らなワーム種(a flatworm species)そして幾つかの線虫ワーム(nematode worms)の種類が見事に生存し繁殖している。 この海岸塩湖の陸地やアラビア湾の高塩分の海岸で見つかった他の藻類は浅海に炭酸マグネシウム(magnesium carbonate)を沈殿させる。炭酸マグネシウムは砂、礫や沈泥(silt)を一緒に固めてファロウシュ(faroush)と呼ばれる石を作る。その石は浅瀬に集められ塊や板状となり建築資材として広く使われて来た。 その他に砂浜そして岩浜、泥平地(mud flat)、砂平地、岩平地そして潮汐流水路(tidal creeks)、岩海底、軟弱海底、珊瑚礁や作井用プラットフォーム等の人工構造物や外海自身等、それぞれがそれぞれ独特で複雑な生き物の群生を支えている。
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