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| 豊かなオアシスに恵まれた原油の宝庫
（サウジアラビア王国東部州） その２原油の宝庫 (Vo.2 Treasury of Petroleum) 著: 高橋俊二  |
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1.1サウジアラビア経済の石油依存 1.2 石油歳入の増加 1.3 長期にわたる経済的困難さ 1.4 民営化 1.5 外国投資促進 1.6 近隣外交 1.7 治安問題 2.1 最初の利権の付与 2.2 バハレンでの石油発見 2.3 ソーカルのサウジアラビア石油での利権取得 2.4 カソク(CASOC)の設立 2.5 地質踏査 2.6 ダンマン7号井での石油発見 2.7 原油の生産開始 2.8 アラムコ(ARAMCO)への改名 2.9 利権協定の改定 2.10第二次世界大戦後のアラムコの拡張 2.11 Exxon/MobilのARAMCOへの参加 2.12 タップライン (Tapline) 2.13 操業基盤整備 2.14 人材育成とサウジ人登用 2.15 外国人雇用とサウジ人化 2.16 地場産業の育成 2.17 鉄道とのかかわり 2.18 ホフーフからダンマンへの州都の移転 2.19 アラムコ(ARAMCO)の国有化 2.20 ペトロミン (Petromin) 3.1 サウジアラビアの油田 3.2 原油の生産能力 3.3 生産原油の種類 3.4 陸上主要油田 3.5 海上主要油田 3.6 空白地帯沙漠のシャイバ油田 3.7 旧中立地帯（分割地帯） 3.8 バハレン(Bahrain)への原油供給 4.1 原油の供給先 4.2 原油脱硫化水素 4.3 石油輸出主要ターミナル 4.4 搬送用パイプライン 4.5 アラムコ子会社の船会社ベラ(Vela) 5.1 国内製油所 5.2 製油所の増強 5.3 ペトロラビーグ 5.4 メガプロジェクト 5.5 海外製油所 6.1 天然ガスの埋蔵量 6.2 最近のガス田発見 6.3ドラガス田 6.4 マスターガスシステム(MGS、Master Gas System) 6.5 サウジガスイニシアティブ(SGI、Saudi Gas Initiative) 6.6 空白地帯沙漠のガス開発 6.7 ガス開発と発電および造水 7.1 オイルショック後の生産量と開発投資の減退 7.2 OPECの適正バスケット価格 7.3 9/11攻撃の影響 7.4 バスケット価格維持の為の生産調整 7.5 イラク戦争の影響 7.6 バスケット価格引き上げの動き 7.7 原油価格沈静化の為の増産 7.8 市場が決める原油価格 7.9 露西亜の供給不安 7.10 米国、中国および印度の需要拡大 7.11 インフレ要素を加味した原油価格割安感 7.12 歴史的高値の原因 7.13 原油価格$50/BBLへ記録的高騰 7.14 バスケット価格低下と100万BPDの生産調整 7.15 ゴールドマン サッチスの$100/BBL越えの予測 7.16 サウジアラビアの1,500万BPDへの増産努力 7.17 消費国の精製能力不足とOPECの価格沈静化への限界 7.18 第三次オイルショックと呼ばれるカトリーナの影響 7.19 高いエネルギー価格の吸収と原油価格の沈静化 7.20 イラン、ナイジェリアの緊張、ロシアの供給削減等の影響 7.21 原油の生産余力と消費国の精製能力不足 7.22 供給不安を生む治安、国際問題 8.1 確定埋蔵量 8.2サイモンズ氏の絶頂期論 8.3サウジアラムコの反論 8.4サウジアラムコの埋蔵量論への疑問 8.5 サウジアラムコの埋蔵量評価 8.6 その後の論議 9.1サウジアラムコの増産計画 9.2上流部門の設備増強更新プロジェクト 9.3上流部門のメガプロジェクト 9.4 海上油田の増強
アル ハサ(Al Hasa)やカティーフ(Qatif)に代表される掘り抜き井戸の原理で豊かに湧き出す泉とその恵みでのオアシス農業、真珠取りや交易で栄えた中央部、牧羊の集散地ハファル アル バティン(Hafar al Batin) のある北部、空白地帯沙漠の特異な駱駝遊牧の南部等の東部州の伝統的な社会は1938年3月初め石油発見で余りにも大きく変貌し、世界の辺境であったこの地が今ではエネルギー供給源として世界経済発展に無くてはならない重要な役割を演じ、大きな影響力を行使してする様になった。エネルギー高価格時代における世界市場への原油･ガス等の安定供給の重要な役割を東部州はこれからも担い続けるだろう。
サウジアラムコがサウジアラビアで占める大きさは国家歳入の大部分を賄っているばかりでは無く、一企業でありながらこの国の経済から抜く去ることの出来ない存在である。アラムコの給仕からたたき上げたサウジアラビア立志伝中の人物であるアリ アル ナイミ博士が1995年にサウジアラムコ社長からサウジアラビア石油鉱業大臣に抜擢されてからはサウジアラムコはサウジ政府と緊密に連携し、積極的に下流部門の併合や外国企業との数多くの合弁事業の設立を進めてきている。その結果、サウジアラムコはサウジ経済に対して従来にも増してその影響力を強めている。
サウジアラビアは世界最大の原油埋蔵量を持ち、原油輸出国として世界経済の重要な基本物資であるエネルギー供給を担っている。それと同時にサウジ国営会社であるサウジアラムコはその生産余力を生かし、長年にわたって世界市場における原油の供給と価格の安定の為の唯一のスウィングプロデュサーとしての役割を待ち続けて来た。今ではサウジアラムコ無しには国際エネルギーの供給と価格を論じる事が出来ない。
サウジアラビア東部州の紹介には私自身が長年にわたり石油鉱業にたずさわって来たこともあって、どうしてもサウジアラムコを抜きには出来なかった。サウジアラムコに関する資料を集め始めた頃にはアメリカ石油資本が創設したサウジアラムコの歴史とこの国への貢献と係わり合いを主題とするつもりで居た。その間に、第三次石油ショックとも言える2005年8月末の70ドル/バレルを越す原油の高騰が起きた。その様な事態に対してサウジアラムコが貢献した価格と供給の安定への努力は大きくそれもここに紹介したかった。それと共に唯一のスウィングプロデュサーとしてのサウジアラムコの特異性と限界にも言及してこの第三次石油ショック後のエネルギーの問題を私なりに考えてもみたかった。
1.1 サウジアラビア経済の石油依存
世界の原油確定埋蔵量の四分の一を有し、一番低価格で原油生産の出来る世界最大の石油輸出国サウジアラビアの石油輸出収入は輸出の90%から95%、国家歳入の70%から80%を占めて居る。石油化学への投資が増大し、最近では下流部門の重要性が比較的増してきているにもかかわらず、その経済は依然として大きく石油に依存し続けている。
比較的高い原油価格と輸出の組み合わせで2004年と2005年前半にサウジアラビアは急激に歳入を増やした。2004年度だけでサウジアラビアは1,160億ドルの石油輸出収入を稼いだ。これは2003年に比べて35%増しである。2006年3月末のサイモン ウィリアムス氏(Simon Williams)の報告によればサウジアラビアの純石油輸出収入は2005年および2006年と増加し、それぞれ1,540億ドルおよび1,600億ドル余りに達する見込みである。これは原油価格と原油供給の水準が高い事に由来している。国内総生産(GDP)の伸びが2004年には5.2%、2005年および2006年の予想はそれぞれ5.7%および4.8%とサウジアラビアの経済状況は1998年の原油価格崩壊以来の目覚しい改善を示している。
1.2 石油歳入の増加
2004年予算年度にはサウジ政府は元々、赤字予算を予想していた。これは原油価格を極端に控えめに19米ドル/バレル ($19/BBL)と仮定し、770万BPD（バレル/日）の生産量を予想して立てられていた。しかしながら、この両方の見積もりは実際の水準よりもずうっと低い事が分かった。その結果、元々の見積もりの二倍近い1,048億ドルの歳入が有り、承認予算の28%増しの786億ドルの支出をしても2004年12月中旬までにサウジ財務省は261億ドルと巨額な黒字を得た。
この余剰金はサウジアラビアの公共債務の支払い（2004年の初めの1,760億ドルから1,640億ドル）、教育と開発事業への追加支出、警備費用の増額（2004年には25億ドルの追加）、補助金によるサウジ人雇用促進（住宅、教育、保健等）等の幾つかの目的に使われた。2005年にはサウジアラビアは歳入、支出それぞれ746億ドルの均衡予算を立てた。
1.3 長期にわたる経済的困難さ
最近の石油収入の急増にもかかわらず、サウジアラビアは深刻な長期の経済的困難が続いている。それは13%或いはそれ以上のサウジ国民の高い失業率および世界で最も早い人口増加率とその結果としての増大する政府支出の継続する補充である。これら全てがサウジ政府の石油歳入を圧迫している。
又、2003年から2004年での主として外国人居住者に対する多くのテロ攻撃と云う深刻な警備上の脅威にサウジアラビアは直面していた。これに対応してサウジ政府は警備費用を2003年の55億ドルから2004年には50%増額した。
サウジアラビアの一人当たりの輸出収入は1970年代および1980年代に達した高い水準より遥かに低い水準に止まっている。サウジアラビアは一人当たり$4,564の収入があるが、これは1980年には$22,589であった。1980年以来、主として若年人口が三倍近くに成った為に石油収入は一人当たりにすると現実に80%も下落しており、石油輸出歳入は最近の増大にもかかわらず実質的は40%も落ち込んでいる。
この間の二十年近くサウジアラビアは厳しい予算不足と貿易赤字、1990年/1991年のイラク戦争の費用および総額1,750億ドルの公共債務等に直面してきた。その一方でサウジアラビアは重要な財政予備費となるおよそ1,100億ドルの高額な外国資産を確保していた。
サウジアラビアでは補助金の削減等の経済再生に向かった動きもあるが、いくら贔屓目に見ても依然として不均衡は残っている。更にサウジアラビアでは外国直接投資(FDI)を引きつけるその主要な国内目標も緩やかな進行でしかなかった。それでも2004年1月にサウジアラビア閣議は多くの分野で20%、天然ガス分野で30%の外国直接投資への減税をサウジアラビアの経済再建と民有化の促進策として承認した。
1.4 民営化
サウジアラビアの代表企業には上流部門を寡占し,54,000人を雇用し、この国の石油埋蔵量の98%を統括しているサウジアラムコ(Saudi ARAMCO)と世界で11番目の石油化学製品生産者であるサウジ基礎工業会社(SABC、Saudi Basic Industries Corporation)がある。これらの様な大規模な国営会社がサウジアラビアの経済を支配しており、現在までのところ、民間支配へ国有財産を売り渡した事例は無く、民有化は特定の役務機能(Service Function)を民間企業が担う許可のみに大幅に制限されてきた。
一般的にサウジアラビアはサウジ政府の補助金削減、増税あるいは金融機関の再編に向かっても注意深く、ゆっくりと進めてきた。サウジの指導者は、アブドッラ国王は特にそうであるように、「政策的な選定として論議があるにせよこれがサウジアラビでの民有化への過程である」と説明している。
しかしながら、最近は2002年5月にサウジアラビア石油鉱物相アリ アル ナイミ(Ali Al Naimi)博士（同博士は1995年現職に就任し、2003年5月に三回目の4年任期を再任されている。）が「サウジアラビアはサウジアラムコの操業のある部分を民営化する様に考慮している」と述べた様に、サウジアラムコを軸に上流のコアベンチャー等のガス開発や下流の精製、石油化学、発電造水等を中心に産業の民営化を促進している。
「サウジアラビア民営化の為の一つのはずみは世界貿易機構(WTO、World Trade Organization)への加入である」とサウジアラビアはこれを念願していた。様々な国内外の問題からWTOへの加入の動きは緩慢ではあったが、2005年11月11日にWTOの149番目の加盟国になるとようやく確認された。
1.5 外国投資促進
1999年8月に投資を促進し、サウジ人への職場創出と民有化を担当する最高経済評議会議(SEC、Supreme Economic Council)が設立され、2000年5月にサウジエネルギー業界に外国資本を引きつける目的の新しい法律が有効になった。この法律はサウジ資産と免許を受けた事業に対し完全に外国資本の所有を認め、外国投資促進のワンストップショップ(One-stop Shop)として総合投資庁(SAGIA、the General Investment Authority)を設立し、会社利益を45%から30%に引き下げた。以前にはサウジ国内の提携者との合弁会社では49%に制限されていた外国企業の持分は100%まで認められる様になった。
しかしながら幾つかの重要な事業に関しては外国資本の持分は100%認めらせずに残っている。2005年7月迄でも、その様な事業には原油の上流部門、パイプライン、メディアおよび出版、保険、電気通信(telecommunication)、防衛、警備、その他が含まれていた。この様に外国資本投資法は最初に現れた内容に比べてこれまで実際には余り魅力的ではなかった。
1.6 近隣外交
1999年11月に故ファハド国王（2005年8月1日没）が「時代は世界化に向かっている。その中でサウジアラビアだけがゆっくりと発展する事はもはや出来ない」と述べている。世界経済にうまく統合されて行くとの状況の中で故ファハド国王は湾岸産油国の経済、政治および軍備における地域的統一の重要性を強調した。これらの道筋に沿ってクウェイト(Kuwait)、バハレン(Bahrain)、カタール(Qatar)、アラブ首長国連邦(UAE)、オマン(Oman)等GCC諸国間の関税同盟が1999年12月のGCCサミットで合意され、2003年から発行した。GCC諸国は2010年から共通の通貨を持つ合意にも達している。この様にGCC諸国との関係は良好であるが、「1974年に締結し、シャイバ油田の権利をサウジアラビアに譲った国境制定条約改定を望んでいる」と2005年6月にアラブ首長国連邦が述べている様な問題もある。
2000年6月に調印した条約で、サウジアラビアとイエメンは1930年代から論争に成っていた共通の国境の線引きに合意した。この処置でサウジアラビアのイエメンとの交易および投資が増大する機会が開けると期待されている。これにはイエメンを通過してのアラビア海へ原油を直接搬送出来るパイプラインや以前は領土問題で揉めていた国境地域に近いイエメン国内の原油・ガスの探鉱利権の承認等が含まれる。
2001年6月11日の国連事務総長コフィ アナン氏(Kofi Annan)への書簡の中で1990年8月から送油が止まっているサウジアラビア領内の紅海岸へ至るイラク所有のパイプラインを国有化するとの声明をサウジ政府は出した。しかしながらサウジアラビアとしては最も長く国境を接し、世界の原油需給の上で重要なイラクの存在は将来的に大きい。イラクの重要さはこの国のすでに知られている80の油田にある。そのうちで生産されているのは現在、17油田に過ぎない。その他の63油田の原油埋蔵量は750億バレルと推定され、専門家はさらに1,000億バレルから2,000億バレルの未探鉱の油田があると考えている。歴史的にイラクの生産量のピークは1979年12月の370万BPD（バレル/日）であり、クウィエト侵攻直前の1990年7月には350万BPDであった。2006年1月の生産量は110万BPD、2月の生産量は142万BPDであり、南地区油田の技術的問題や警備上の問題が多い上に内戦の可能性もあるが、イラク石油省は2006年末には300万BPDを生産目標としている。
1.7 治安問題
2004年12月のジェッダ米国領事館攻撃で5人の職員が殺された。同じ月に二回、自爆自動車がリヤドで爆発し数人が負傷した。2004年6月の最初の二週間で何人かの西欧人が殺され、内一人は誘拐されて首を切られた。これらの最近の攻撃の更に以前には、2004年4月および5月に、ヤンブーのABBルーマス事務所(ABB Lummus office)、リヤドの治安本部および特にコバール(Khobar)の住宅コンパウンド等で数件のテロ事件が起き、サウジアラビアでは治安確保が大きな問題となっている。中でもサウジアラビアの石油施設およびそこで働く3,000人の西欧人の警備が内外の関心事である。
2004年4月中旬にアルカエダ(Al-Qaeda)のサウジ支部はその賛同者に向けて「この半島から異教徒とその支援者を追い出すために全ての外国の目標と専横者の隠れ家を攻撃せよ」とのメッセージをウエブサイトに掲載した。2004年4月の終わりに近い頃、アラムコのCEOで社長あるアブドッラ ジュマ氏(Abdullah Jumah)は「サウジアラビア程、石油施設が守られている場所は世界中の何処にも無い。サウジアラムコは石油施設を守る為に5,000名の警備員を雇用している。更にサウジ国家警備隊(National Guard)、通常の軍隊、内務省要員が油田、国内で10,000マイル(16,090km)に及ぶパイプライン、ラスタヌラ(Ras Tanura)、アル ジャアイマ(Al Juaymah)およびヤンブー(Yanbu)の港湾、製油所および集油所(gathering center)、ガス/油分離プラント(GOSP)等のその他の石油施設の警備任務に当たっている」とサウジアラビアの石油施設に対する万全な警備体制を説明している。
2004年5月にサウジ王家家族へのアドバイザーでありナワフ オバイド氏(Nawaf Obaid)は「サウジ政府はこの二年間、石油業の警備を向上させる為に治安予算を7億5,000万ドル増額して来た。サウジアラビアは2003年に石油施設警備の為に55億ドルを費やした。直接警備に加えて、サウジアラビアは直接警備の体制として、輸送や輸出等の石油システムにどの施設が使用不能となった場合にでも対応できる様に、幾つかの選択を持つ予備余力を維持している事で知られている」と述べている。
2.1 最初の利権の付与
1922年にアラビア湾岸の石油産業に決定的役割を演じたのは元気溢れるニュージランド(New Zealand)の鉱山技術者フランク ホルメス少佐(Major Frank Holmes)である。ウガイル会議(Uqayr Conference)に出席したサウジアラビアの初代国王イブン サウド (Abd al Aziz ibn Abd ar Rahman Al Saud)は石油埋蔵の可能性をホルメス少佐から助言された。これが1923年に石油を開発する利権を英国の投資シンジケート(the Eastern and General Syndicate)に与える結果と成った。この時にはイブン サウド(Ibn Saud)はまだこの国の西半分を支配しては居なかった。
その利権取得者であった英国の投資シンジケート(the Eastern and General Syndicate)は利権を売って利潤を得ようとした。この時代の地質的知識やイラクおよびイランにおける石油会社の関わり合いから英国石油会社(BP)等がこの利権に興味を示さなかった。シンジケートが石油開発業の興味を引きつけなれないままに、この利権は1927年に期限切れに成り、1928年に無効が宣言された。
2.2 バハレンでの石油発見
ホルメスはバハレン(Bahrain)でもっと幸運で石油利権を得た。ホルメスはこの利権も石油大手の会社に売却しようとしたが、石油大手の会社は赤線協定 (the Red Line Agreement) と呼ばれる協定を結んでおり、利権取得を阻まれていた。（赤線協定にはイラク操業会社の所有権がある者は中東の殆どを含む禁止地域で独立して操業が出来ないと言う規定があった。）
その当時のペルシャ湾では石油発見が相次ぎ、アラビア半島での石油埋蔵の可能性を強く示しては居た。そこでホルメスは赤線協定に加入して居なかったカルフォルニア スタンダード オイル(Socal、Standard Oil of California)にこの利権に興味を持たせ、1928年に譲渡するのに成功した。これが1930年にバーレン石油会社(the Bahrain Petroleum Company)の設立と1932年のバーレンでの石油発見の契機に成った。
2.3 ソーカルのサウジアラビアでの石油利権取得
ソーカル(Socal)の地質技術者達はアラビア本土の地層がバハレンの地層に驚く程似ている事に直ぐに気が付き、1933年までにソーカルはジェッダ(Jeddah)でアブド アル アジズ王(イブン サウド、King Abd al-Aziz ibn Abd ar Rahman Al Saud)と東部州に関する暫定的な探査と利権を獲得する為の交渉に入った。この結果はソーカルのロイド ハミルトン(Lloyd Hamilton)が起草し、1933年5月29日にハミルトン本人と財務大臣シャイク アブドッラ スレイマン(Sheikh Abdullah Sulayman)の間で調印された歴史的利権協定となる。
2.4カソク(CASOC)の設立
ソーカル (Socal) がサウジアラビアで求めた石油利権は1933年7月に有効となった。1933年11月にこの利権はソーカル(Socal)が特別に設立した100%子会社のカソク(Casoc)(the California Arabian Standard Oil Company)に継承された。ソーカルは国際的株所有の利権からの発見された原油の市場機能を高める為にカソク(Casoc)の株の一部をテキサコ (Texaco) に売却した。1936年にはテキサス会社（The Texas Company、後のTexaco）がカソク(Casoc)の株の半分を取得した。
2.5 地質踏査
カソク(Casoc)はゴセイビ兄弟(the Gosaibi Brothers)をアル ハサ(al Hasa)におけるエージェントに指名し、当時漁村であったホフーフ(Hofuf)とジュベイル(Jubail)に粗末な施設を設営した。1933年9月に最初の地質技術者達が上陸し、直ちに地図作りと地質踏査を始めた。地質技術者達は間も無くダンマン ドーム（Dammam Dome）が地質的には有望であるのを確認し、1934年に試掘を行う事を決めた。試掘用のキャンプは一番特異な形をしたダハラン山(Jabal Dhahran)に近いドームの上に設営された。後にこのキャンプは単にダハランとして知られる様に成り、ダンマンの南の小さな町に過ぎなかったアルコバル(al-Khobar)と呼ばれる海岸の小さな漁業集落にアメリカから輸入された設備が陸揚げされた。1934年での桟橋工事では魚舟を使い、大量の石をアラビア湾の海底から拾い集め、二列の壁として並べ、ゆっくりと海まで延ばして行った。1935年に完成したアルコバル(al-Khobar)桟橋建設の為に、この地方の住民が最初に大量に雇用された事は意義深い。その後はこの様な仕事はこの地方の住民自身の手でこなせる様に成った。
地質的に後から調べてみればダンマン ドームでの石油の発見と開発は必然である様に思える。今日ではこの地に石油が存在する事に疑問を持つ等は思いもよらない。皮肉な事にそれでも開発は明らかに心もとない始まりではあり、サウジアラビア国内での試掘の冒険的時代であった。この時代の石油産業に貢献したアメリカ人ではミッラー(Miller)、ヘンリー(Henry)、フーバー(Hoover)、ケール(Kerr)、マウンテイン(Mountain)、ステイベーク(Steibeke)およびオーリガー(Ohliger)そして地元の人間ではカミス イブン リムサン(Khamis ibn Rimtahn)、伝説的なウジマニ(Ujmani)の案内人でアル ムッラー族(Al-Murrah)のアブド アル ハディ イブン ジシナ(Abd al-Hadi ibn Jithina)およびサリム アバ ルス(Salim Aba Rus)を生み出した。一緒に働き地図作りや踏査を行う内にアメリカ人もサウジ人も東部州を広く眺める様に成った。1934年に両者は飛躍的に調査の効率を高める偵察飛行でも一緒だった。
これらの先駆者であったアメリカの地質技術者や技師は苦難に耐え、臨機応変の性格を持ち、自分達の目標を必要によって即興で間に合わせ、最小限の道具で達成するのが常であった。自分達が到着した時に自分達の置かれた外国の文化に付いて何も知らない事を直ぐに知った。しかしながらアメリカの技術者達は率直で、適応性に富み、不屈であった。技術者達はこれらの資質を現地の人達と分かち合い、お互いに尊敬を喚起した様だった。この時代カソク(Casoc)もその親会社のソーカル(Socal)もこの地域における英国石油(BP、the British oil company)の様に政治的介入等や圧力への配慮を必要としなかった。これもサウジ人達を元気付けるもう一つの要素であった。
2.6 ダンマン7号井での石油発見
1935年から1938年の間に10本の坑井がダンマン ドーム(Dammam Dome)に作井されたが、期待された結果は得られなかった。マックス スタイネーク(Max Steineke)の助言もあり、駐在マネージャーであったフロイド オーリガー(Floyd Ohliger)を始め、カルフォルニア スタンダード オイル(Socal 、Standard Oil of California)のアメリカ人地質技術者達は7号井でアラブ層(the Arab Formation)として知られる地層をもう少し深く掘る事にした。その結果、1938年3月初めに深度1,440mから商業量の油が流出し始めた。この出油によりサウジアラビアは石油産業の仲間入りをし、東部州の全体としてはサウジアラビアの新しい時代が始まった。
ダンマン(Dammam)7号井は1982年まで量は多く無いにせよ生産を続けて来た。世界最大の既存の油層を見つける契機と成ったにしてはいじらしい程小さいが記念碑としてその坑井は今でも残されて居る。リヤド周辺で見つかった新しい油田も入れて東部州の油田の埋蔵量は2,600億バレルと考えられている。この量は世界の既存埋蔵量の四分の一以上であり、新しい油田の発見や生産技術の進歩で絶え間なく上方修正されている。サウジアラビアの経済的繁栄、石油産油国機構(OPEC)での指導的役割および世界経済に及ぼす影響力は東部州の沙漠や海の下にある「黒い金」の埋蔵量に由来する。
東部州の石油資源発見は建国して間も無いサウジアラビア王国が国としての組織を確立するちょうど良い時期に到来した。最初の政府機関が設立の過程にあり、首都としてのリヤドが最初の拡張を行っている最中であり、若い国が効率的に統治出来る為の基本的な基盤整備に資金が緊急に必要であった。サウジアラビアが40年余りで中東の伝統的な著しく後進的な地域から今日の繁栄した近代的な社会に変容する手段を与えたのが東部州の石油資源であった。
2.7 原油の生産開始
石油発見はカソク(Casoc)関係者が東部州に大量に流入する合図でもあった。多くの宿泊施設がダハランに追加して建設され、オットマン政府(the Ottoman government)がかつては石炭の為に施設を維持して居たラスタヌラ(Ras Tannurah)の深い海に隣接して石油積み出し港の建設が始まった。前述の様にアルコバル(al-Khobar)では資材荷揚げの為に小さな船着き場が造成された。この地方の住民が雇用され、カソク(Casoc)はこれらのサウジ人(Saudi)労働力の訓練を始めた。この訓練の成果が今日のサウジアラムコ(Saudi ARAMCO)の経営陣および従業員の大半がサウジ人化している事に現れている。
カソク(Casoc)のスタイネーク(Steineke)を長とする地質技術者グループは現在アブケイク油田(Abqaiq)やアブ ハドリヤ油田(Abu Hadriyah)と成った油層を次々と確認し始めた。有望な石油の発見でもっと多くの人手が必要であり、1940年迄には妻子同伴も混じえて435名のアメリカ人が動員されていた。その他にこの地方出身のサウジ人を主として3,300名のアメリカ人以外の従業員が雇用されていた。
1930年代にはサウジ政府には管理的熟練も技術的熟練も無く、カソク(Casoc)をサウジ政府の為に大きなプロジェクトを推進してくれる友人と考えていた。カソク(Casoc)がそれに答え、サウジ政府は病院、社会的健康管理、水井戸の開発、農業プロジェクト推進や交通機関等全てをカソク(Casoc)から受け取っていた。第二次大戦後もアラムコ(ARAMCO)はこの伝統を大規模に続けた。この様に第二次大戦前の数年間にサウジアラビアにとって柔軟で助けに成る関係をアメリカ人はサウジ政府と築いて居た。
2.8 アラムコ(ARAMCO)への改名
石油が生産を開始した事で、1944年1月にサウジアラビアで操業している会社(カソク(Casoc))の名はアラムコ (ARAMCO、Arabian American Oil Company) と改名された。
2.9 利権協定の改定
最初の利権協定では「石油発見までの賃貸料は年間5,000英ポンド (British Pound)でこれは金或いはそれ相当で支払われ、50,000英ポンド相当の貸付金が金でサウジ政府に支払われる。鉱山使用料 (a Royalty Payment) は石油発見の後、正味トン当たり4シリング (Shilling) であった。それに加えて、アラムコが石油発見後に建設する製油所からサウジ政府は必要とする石油製品を無料で必要な量だけ供給を受ける権利を持っていた。（1933年当時、英ポンドは4.87米ドルの価値があり、12シリングで1英ポンドであった。）一方、カソク(Casoc)は60年間に渡ってサウジアラビアの東側領土の大部分でサウジの全ての税金や役務無しに石油を探鉱し、開発し、そして輸出する特権（独占的な権利）を得る」と云う内容であった。王の資金の必要性、将来の石油開発に対する過小評価および交渉に対する弱い立場を反映して、サウジ政府が保証したこの利権協定の内容はカソクに対し気前の良いものであった。
その後、利権協定は何度も修正された。最初は1938年の石油発見後の1939年であり、この改定でサウジ政府は最初に協定で決められていた支払いの受け取りを相当に増額させ、カソクからサウジ政府へのガソリンとケロシンの無料供給量を多くした。その見返りにこの変更でカソクは利権を1999年まで延長出来た。1950年には50対50の利益均等配分協定に調印し、それによって税金はサウジ政府による徴収される事となった。（収入税と呼ばれているが、実際には原油バレル当たりに賦課された。）この税金でサウジ政府の歳入はずいぶん増えた。更なるサウジ政府の取り分を増やす修正は1970年代まではゆっくりとして居たがそれ以降は急激になった。もともとの利権区域はおよそ1,300,000 km2があり、その80%を放棄したが、それでも1982年初めにアラムコの利権区域は220,000km2（陸上189,000 km2、海上31,000 km2）であった。
2.10 第二次世界大戦後のアラムコの拡張
1940-1941年のカソク(Casoc)の操業は戦時中の様々な困難の為に落ち込んだ。1944年までの戦争の小康で連合軍側の戦争遂行の為に増大していた石油特需は無くなったが、海路の安全性は高まった。アラムコ(ARAMCO)と名を改めたカソク(Casoc)の拡張が始まり、新たな人々が到着した。
1945年までに新しい製油所がラスタヌラ(Ras Tannurah)に完成し、この製油所に付随して貯蔵用のタンク、積み出し用送油管、タンカー用桟橋を持つ埠頭およぶバハレンへの海底パイプラインも建設された。石油生産は年々増加し、1944年以前は日産2万バレルであったのが1949年には日産50万バレルと成った。
巨大なガワール(Ghawar)油田への最初の坑井群が掘られ、ガワール油田は1951年から生産を始めた。この油田が世界最大であるのが分かったのはもっと後になってからである。探査は空白地帯沙漠やアラビア湾までも広げられ、アラビア湾では世界最大の海洋油田であるサファニヤ(Safaniya)が1951年に発見された。1950年代には原油生産量は安定して増加し、1958年には日産100万バレル(100万BPD)、1967年には250万BPDに達した。
2.11 Exxon/MobilのARAMCOへの参加
1946年に後のエクソン(Exxon)と成るジャージィスタンダード石油(Standard Oil Company of New Jersey)と後のモービル石油 (Mobil Oil Company) と成るソコニ バキュウム(Socony-Vaccum)の2社（現在のエクソンモービル(Exxon/Mobil）)をアラムコに参加させた。この2社の参加はサウジアラビアで発見される巨大な油層への投資資金の確保と産油の市場取引拡大の為に必要であった。
アラムコが世界一の原油生産会社となった1948年にその所有権を拡大し、エクソン(Exxon)とモービル(Mobil)に30%、10%を譲り、ソーカル(Socal)とテキサコ(Texaco)はそれぞれ残りを30%ずつに分けた。1970年代初めにサウジ政府が資本参加するまではこの4社がアラムコの完全な所有主であった。
2.12 タップライン (Tapline)
原油埋蔵量が確認されると3,200kmを航海し、スエズ運河 (the Suez Canal) の通行料を支払うのに比べて、地中海までの搬送用送油管を建設する方が有利である事は明らかであった。増産した原油を輸出する新たな方法の為にアラムコは1945年にアラビア横断送油管会社 (the Trans-Arabian Pipeline Company) を完全子会社として設立し、送油管（タップライン (Tapline)）を1950年に完成させた。油槽船と油層価格の競争には送油管の建設費を低減させる必要があり、その為に多くの技術革新が必要とされた。
タップラインはシドン (Sidon) に近いレバノンの港のアズ ザハラニ (As Zahrani)とサウジアラビアのアル カイスマ (Al Qaysumah) を結んだ。その距離は1,200km以上あり、タップラインはアラムコの油田から原油を回収する集油管と結ばれていた。当初の送油容量は320,000BPD（バレル/日）であったが、その後、送油能力は上げられ1970年代半ばには480,000BPD（バレル/日）であった。サウジ当局の徴税の問題やヨルダン (Jordan) 、イラク (Iraq) およびレバノン (Lebanon) による通行料の問題でタップラインは長年に渡って機能を麻痺していた。又、送油管の損傷で1970年代の半ばには数回にわたり操業不能に陥った。
さらにタップラインの操業経費が高くなったのに比べ、超大型タンカーの導入で油槽船での搬送費が安くなった。この為、1975年以降はタップラインがシドン経由でサウジ原油を輸出するのに使われる事は無くなった。1982年に送油管が再び打撃を受け、1983年の終わりにタップラインはシリア (Syria) とレバノンでの操業を正式に停止した。その後もヨルダンの製油所向けに臨時ではあるが少量の送油は続けられていた。
2.13 操業基盤整備
アラムコは本当に操業の始めから単に油だけでは無く、それ以外にも係わらなければ成らなかった。この会社の社長は実質的にサウジアラビアにおける米国大使であり、この石油会社の創設期において米-サ関係を形作る重要な役割を担っていた。更に、アラムコは発展途上のサウジアラビアの公共基盤や施設の整備も求められていた。
それには資機材を持ち込む港から作業区域への生活用水の確保・給水、住宅、病院や事務所等何も無いところから実質的に必要な全てを建設しなければならなかった。その上、建機を使えるサウジ人は殆ど居なく、地場の建設業者も満足に存在せず、そして大部分の資材は国内では調達できず、長距離を運搬してくる必要があった。
2.14 人材育成とサウジ人登用
カソク(Casoc)が設立から50年足らずで、サウジアラムコ(Saudi ARAMCO)はサウジ人従業員によって運営される様に成った。これらの従業員の殆どがこの地方の伝統的な部族出身者でアラムコ従業員であった人達の息子や孫である。従業員のサウジ人化はカソク設立当初から極めて重要視され、それがアラムコの精力的な訓練計画で人材育成が促進され、サウジ人化に成功している。
1950年代までにサウジ人従業員の為の一般的な学校教育も出来る様に成った。サウジ人従業員は教育的に技能が増すに連れて確実にもっと責任のある地位に昇進させられた。1957年迄にサウジ人従業員は全アラムコ従業員18,325名の内の70%を占めて居た。
毎年60名の外国留学を含む広い範囲に及ぶ訓練計画および公共事業計画がアラムコによって立案された。例えばサウジ人は医者、資材専門家、機械運転手、水先案内人、トラック運転手、作井作業員やコック等に訓練され、責任を引き受ける様に成った。1967年迄には会社の1,373ある経営者・管理者の役職の内57%をサウジ人従業員が占めるに到った。サウジ人従業員は外国留学奨励金で更に訓練を積めた。
1963年に石油鉱物大学(the University of Petroleum and Mineral)が単科大学としてダハランに設置され、1975年には総合大学の資格を得た。今日、ファハド国王石油鉱物大学（KFUPM、the King Fahd University of Petroleum and Minerals）として在校生は14,000余名であり、石油業界の新技術を開発する先端を担い、この国の鉱工業を担う人材育成に比類無い名声を得ている。
アラムコは出来るだけ多くの役割をまかせる為にこの様にサウジ人を訓練すると言う長期政策を導入した。その一方で、親会社から抜いてきた人材で固める主要な役職は放棄する積りは無かったが、1970年代および1980年代に入るとサウジ政府の圧力でそうせざるを得なかった。
2.15 外国人雇用とサウジ人化
アラムコは米国以外の様々な国から労働者をサウジアラビアに雇い入れた最初の外国企業であった。1980年までは3,400人の米国人がアラムコに居り、その他に約44の国籍の労働者がいた。それでもこの年までにアラムコの請負業者が雇用している20,000人を除く、アラムコ従業員38,000人の内の約22,000人がサウジ人であり、管理職と監督職の45%以上がサウジ人で占められていた。
11歳でアラムコに入社し地位を登り詰めてアラムコ社長に就任した現石油鉱物相のアリ ナイミ博士 (Ali Al Naimi) が1981年に操業を担当する最初のサウジ人上級副社長に成り、その2年後の1983年に最初のサウジ人アラムコ社長に成った。
米国の存在は年を追って低下し、1989年の総従業員数43,248名の内で米国人は2,482名に減員しており、31,712名がサウジ人であり、その他の外国人労働者は9,000人を少し越える程度であった。
2.16 地場産業の育成
アラムコが訓練した多くのサウジ人が後に独立して地場経済に事業を起こし、又、ジェッダやリヤドの官吏に成長して行った。加えて、アラムコは従業員が家を建て、自分の商売を始めるのを奨励する為に持ち家制度を採用した。
供給および役務の副業を除く為にアラムコは常に地場の企業に対して請負契約を持って居り、時として技術的、財政的および資材的援助を行った。1950年代および1960年代にこの地方の経済は特別にその分野の成長の為に設けられた地方産業振興部、農業支援部等のアラムコの担当部によって多大な援助を受けた。ビン ラーデン(Bin Laden)の様なサウジの産業界で一番著名な名前の幾つかはこの様な方法で起業して来ている。
1970年代にアラムコの活動は大きく拡大した。その拡大の一部はこの期間に3倍の規模になった原油開発に必要な施設増強に伴った分野であった。作井、送油管建設およびガス・油分離槽、貯油タンクや海上搬出設備の建設等が大掛かり促進された。世界最大の産油会社としてアラムコはしばしば何処よりも大規模な設計や工事が必要と成った。
2.17 鉄道とのかかわり
アブド アル アジズ国王の要請でアラムコチームは水源を見つけ、農業計画を発展させるのを援助した。サウジ政府はこの会社に近代的なダンマン港の建設とこの港とリヤドを結ぶ鉄道建設の監督も要求した。
カソク(Casoc)の戦前の政策を守って、アラムコもサウジ政府に対する直接の援助を踏襲していた。その中でもっとも大きいのがダンマン(Dammam)からリヤド(Riyadh)までの580 kmに及ぶこの鉄道建設であった。この鉄道は1947年に建設が始まり、アラムコをプロジェクト マネージャーとして1951年に完成した。この鉄道は今でも使用されているが、その役割は道路と定期航空路の為にその重要性は以前程では無くなっている。何を置いても鉄道は内陸部にアラビア湾からの輸入品をもたらし、一挙に鉄道は大きな設備や近代的建築の材料を輸入するのを可能にしてくれた。
実際に鉄道の開通はホフーフとリヤドの発展の新たな段階を象徴して居た。鉄道建設後にはコンクリートと鉄材で作られた新しい建物がますます増え、町の様相は変わってしまった。中央政府が治安維持と水の確保をもたらしたので働き手が増えるに連れて町は外へ外へと拡大した。
鉄道交通は最近になって再び見直され、ダンマン、リヤド、ジェッダを結ぶ東西ラインと北部の鉱物資源を東部州工業地帯のジュベイル地区へ運ぶ為の南北ラインが検討されて来た。東西ラインは延長950 kmに及び、2001年8月時点でそれぞれ2,300万人、3,000万トン以上と推定され、20%近い伸びを示している大量の乗客や貨物の輸送を円滑に行う為の既存のダイマンとリヤド間のダンマン鉄道の更新、リヤドとジェッダおよびダンマンとジュベイルの新線の敷設であり、毎時220 kmの高速輸送への対応が求められている。サウジアラビア鉄道機構(SRO、the Saudi Railways Organization)は2005年5月5日に40億ドルの投資を必要とする東西ラインの新設、更新プロジェクトの為のジョイントストック会社(a Joint Stock Company)設立の呼び掛けを高速鉄道の技術を持つ北米、ヨーロッパ、日本の企業に行った。サウジアラビア ランドマーク鉄道計画(Saudi Arabia’s Landmark Railway Expansion Project)と命名されたこの事業は引き続き各方面に照会し、実現を急いでいる。
南北ラインは別名をジャラミド鉄道計画(the Jalameed Rail Project)とも呼ばれ、北部辺境州のジャラミドからカシム(Qasim)、リヤドを通り、ダンマン、ジュベイルを通り、ラス アル ゾウル(Ras Az-Zour)まで燐鉱石およびボーキサイト等鉱物資源の搬出の為に敷設が計画されていた。南北ラインの実現に大きくかかわるサウジアラビア鉱業会社（マアデン）(Maadin、The Saudi Arabian Mining Company)は1997年3月23日に設立された石油鉱業省直轄の国営鉱山会社であり、南北ラインの建設はサウジアラビアが日本政府に示したアラビア石油㈱の利権延長の主要条件となっていた。この21億ドルに及ぶ投資を日本政府が断り、アラビア石油㈱の利権は2000年2月に消滅した経緯がある。
サウジアラビア鉱業会社（マアデン）は国家プロジェクトとしてはカフジ南西130 ｋｍでジュベイルの北60 kmに位置するラス アル ゾウル(Ras Al Zour)にアラビア湾海岸工業地帯の一部として大規模なアルミニウム精錬所および燐酸肥料プラントと鉱石専門港の建設を2005年8月から始め、2008年から年間生産量64万トンのアルミニウム精錬所と年間生産量300万トンの燐酸肥料工場が稼働し輸出を開始する予定である。アルミニウム原料は北部中央のアル ズベイラ(Al-Zubeira)にある年間330万トン生産するボーキサイト(Bauxite)鉱床から又、燐酸鉱石(Phosphate)はジョルダン、イラク南部およびシリアへと広がる大規模な燐酸鉱物埋蔵堆積地域の一部であるシルハン・トライフ地区のアル ジャラミド鉱床から鉄道で運ばれる。
この南北鉄道はリヤド経由で北部地区と東部州を結ぶ1,600 kmの鉄道拡張計画であり、交通省がサウジアラビア鉄道機構(SRO)に建設を指示していた。2005年11月29日財務相イブラヒム アル アッサフ博士（Dr. Ibrahim Al-Assaf）は総額1億3,680万ドルで米国のルイス バーガー(Louis Berger Group)の率いる国際コンソーシアムとの間に鉱山鉄道の設計契約に調印した。この鉄道はヨルダン国境のアル フダイサ(Al-Hudaitha)からアル ジョウフ(Al-Jauf)、アル ズベイラ(Al-Zubeira)、スダイリ(Sudayr)、リヤド(Riyadh)およびジュベイルとラス アル ゾウル(Ras Az-Zour)との新線等で構成され、原案よりも多少延長されている。
2.18 ホフーフからダンマンへの州都の移転
輸出物資としての石油の開発は東部州の経済や文化に大きな影響を与えた。世代と共にその経済的基盤が変わり、世界市場との密接な関係がこの地域に夥しい変化をもたらした。個人の住居や商売も発展は通信、健康、病院、水、排水および農業等に対するサウジ政府の支出のお陰で近代化した。1950年代にはダンマン(Dammam)、ダハラン(Dhahran)およびアルコバル(al-Khobar)の様な新しい町に人口の密集が進み、成長・発展する一方で伝統的なカティーフ(Qatif)やハサ オアシス(Hasa Oasis)の卓越した繁栄に陰りが出始めた。この地域中心の移動を考慮して、東部州知事アミール サウド イブン アブドッラ イブン ジュルウィ(Amir Saud ibn Abdullah ibn Jiluwi)は1955年に東部州の行政本部をホフーフ(Hofuf)からダンマン(Dammam)に移転した。
2.19 アラムコ(ARAMCO)の国有化
1968年に石油鉱業大臣 (Minister of Petroleum and Mineral Resources) のアハマド ザキ ヤマニ (Ahamd Zaki Yamani) が最初にアラムコへのサウジの参加を公式に話題にし、長い交渉が始まった。1972年12月にサウジ政府がアラムコの株の25%を買い取り、1973年からそれが有効になった。
1973年の交渉でサウジの参加分は1974年当初から60%に増加する結果となった。1976年にアラムコの全所有権をサウジ政府が100%取得する手筈が合意され、1980年にアラムコの4つの親会社への支払いが完了した。
1988年までにアラムコはSaudi Arabian Oil Company (Saudi ARAMCO)と呼ばれる完全にサウジ政府が所有する会社に変った。1990年代までにサウジ アラムコは国内の探鉱および開発の全ての責任を持った。その権限は海外の下流部門の合弁会社、原油の市場に近い陸上貯油施設および油槽船子会社 (Vela Marine International) を含めて、全サウジアラビアに広げられた。1993年には石油精製と製品販売を行っていたサマレック社を統合して、現在の石油関連部門も管轄する様になった。2000年2月には分割地帯沖合のサウジアラビア利権がサウジアラムコの管轄となり、2004年初めには空白地帯ガス開発の四つのコアベンチャーそれぞれのパートナーともなり、2005年10月24日にはペトロミン(Petromin)も合併吸収した。
2.20 ペトロミン (Petromin)
ペトロミン (Petromin、the General Organization of Petroleum and Minerals) は1962年に石油、天然ガス及び鉱物関連の工業を直接或いは国内外の投資家と合弁して発展させる為にサウジ政府が設立した公共企業である。その企業活動はこの国の炭化水素資源を中心とした鉱業が圧倒的に多いけれどもペトロミンはその他の鉱物資源の探鉱開発も行っていた。
ペトロミンの元々の特徴からは国営石油を目指していた事が分かる。1960年度の半ば以降、ペトロミンは探鉱開発の為の利権をサウジ政府から受け取っていた。しかしながら、ペトロミンは利権では無く探鉱開発の権利を外国企業と合弁した会社に委ねようとした。イタリア国営会社とルブ アル カリ（空白地帯沙漠）の探鉱を行う合弁企業を設立したが油が見つからずにその活動は1973年に途絶えてしまった。1967年にペトロミンが幾つかの外国石油会社と合弁で紅海の利権区域を探鉱しようとしたが、同じ様に成功しなかった。
1960年代にペトロミンは部分的にアラムコの石油流通設備を購入して、石油製品の国内流通に責任を持つ様になった。ペトロミンはサウジ人投資家の持つジェッダとリヤドの製油所の部分的持ち主とも成った。ペトロミンは原油の外国市場にも参入し始め、油槽船での原油運搬にも参入した。1975年ペトロミンの幾つかの活動は省の再編成と云う事で切り離された。ペトロミンの活動を制限する為の理由は石油探鉱の成功しない試み、操業の無能力さおよびその活動の散漫さが挙げられる。ペトロミンの活動とアラムコの活動との間の明らかな相違も制限を生じさせた。肥料工場や製鋼所の様なペトロミンの部分的所有している幾つかの事業は計画段階にある多くの大規模石油化学プラントと同様に工業電力省に移管された。
1975年以降、ペトロミンの責任範囲は縮小されたけれどもペトロミンの活動は増加している。ペトロミンは東部州油田地帯から紅海岸の新しい工業都市ヤンブー (Yanbu) への原油搬送送油管の建設を監督し、その操業に責任を持った。ペトロミンは外国石油会社との合弁製油所で国内用および輸出用の為に精製設備を急速に拡大すると共に、急激に需要の増加している国内市場への供給、貯油および配送の責任を負った。ペトロミンは或る程度の原油や石油製品の外国市場への売り出しや液化天然ガスの輸出を行っていたし、探鉱および作井活動も1980年代に入っても続けていた。
しかしながら、1980年代後半までにサウジ政府はペトロミンの活動を引き継ぐ会社を設立する事を決め、サマレク (Samarec) (The Saudi Arabian Marketing and Refining Company) が1988年に王国の内外に石油製品を精製し売り出す為に設立された。サマレクは外国企業との合弁会社を監督した。更に、サウジ政府はサマレクに1990年代前半に主要な国内製油所の近代化を命じ、その費用は50億ドルを越えが、サマレックはサウジアラムコに統合された。2005年10月24日に閣僚会議はペトロミン(Petromin)のサウジアラムコ(Saudi ARAMCO)への合併吸収を決定し、サウジアラビアにおける石油関連事業はサウジアラムコ(Saudi ARAMCO)が一括支配する体制が一層強化された。
3.1 サウジアラビアの油田
サウジアラビアは文末に添付した表-1「サウジアラビアの油田一覧」に示す様に約100以上の油田およびガス田と1,000本以上の坑井がある。かなり最近の発見もあり、その全ての網羅できなかったが、その大部分は添付の図-1「サウジアラビアの油田地帯」に掲載した。
サウジアラビアの主要油田としては添付の図-2「東部州油田地帯主要部」に示すアブケイク油田(Abqaiq)、アブ サアファ油田( Abu Saafa)、ベリ油田(Berri)、ガワール油(Ghawar)、クールサニヤ油田(Khursaniya,)、ナジド油田(Najd,)、ガティーフ油田(Qatif,)、サファニヤ(Safaniya)、ズルフ油田(Zuluf) 、クライス油田(Khurais)およびマニファ油田(Manifa)等がある。（クライス油田やマニファ油田は部分的に開発された後、2004年12月までモスボール(Mothball)されていた。）
前記の表-1「サウジアラビアの油田一覧」には100を越す油田が掲載されているが、サウジアラビアの原油埋蔵の半分以上がたった8つの油田に埋蔵されている。それらの油田には世界最大の油田で残存埋蔵量が700億バレルと推定されるガワール油田(Ghawar)、世界最大の海上油田で残存埋蔵量が350億バレルと推定されるサファニヤ油田(Safaniya)が含まれる。ガワール油田の主要生産構造には北から南にアイン ダール(Ain Dar)、シェドガム(Shedgum)、ウスマニヤ(Uthmaniyah)、ハウィヤ(Hawiyah)とハラダ(Haradh)がある。ガワール油田だけでサウジアラビアの全生産量能力の半分を占めている。
サウジアラビアの長期目標はもっと多くの軽質原油の開発である。この目標にはアラブ首長国連邦と国境近くで遠隔の空白地帯沙漠にあるシャイバ油田(the Shaybah field)が含まれる。シャイバ油田は80%がサウジ領に20%がアラブ首長国連邦領に位置しているが採掘権はサウジアラビアが保有している。シャイバ油田は157億バレル以上のプレミアム品質の41.6°APIの殆ど硫黄分の無いスィート（Sweet）のアラブエキストラライト原油(Arab Extra Light crude)が埋蔵されている。
3.2 原油の生産能力
サウジアラビアは世界の主要な産油国であり原油輸出国である。2005年初めでサウジアラビアは原油生産能力を1,050万BPD（バレル/日）から1,100万BPDに維持しており、「将来、1,500万BPDを生産し、50年間に渡って維持して行くのは容易い」と公言している。
2005年6月にサウジアラムコ上級副社長のカリド アル ファリ氏(Khalid al-Falih)は「サウジアラビアは2009年までに生産能力を1,200万BPD以上まで引き上げるだろう。その上で市場が必要とすればその生産能力を1,500万BPDまで引き上げるのは可能である」と述べた。更に、同氏は「2006年までにサウジアラビアは国内に90基の掘削リグを持つだろう。これは2004年に操業している掘削リグ数の倍以上である」と付け加えた。サウジアラビアにとってこの目的を遂行する為の一つの挑戦はその既存の油田が年間5%から12%の率で減退し続けて居る事である。アラムコの上級副社長のアブドラ サイフ氏(Abdullah Saif)が週刊石油情報誌(Petroleum Intelligence Weekly)と日刊国際石油誌(International Oil Daily)で報告している様にサウジアラビアは生産量を補充するだけに50万から100万BPDの新たな埋蔵量が必要である。
2005年1月から7月の間のサウジアラビアの生産量を米国エネルギー情報局(EIA)は「サウジアラビアの総原油生産量は原油、天然ガスおよびその他の液体分およびサウジ/クウェイトの分割地帯の生産量61万BPDの半分を含めて1,090万BPDである」と推定している。これは2002年の総原油生産量850万BPDと比べると急激な増産である。サウジアラビアは2005年7月1日から効力を持つ現在の生産制限枠909.9万BPDを越えて、2005年前半は約960万BPDの原油を生産していた。原油に加えてサウジアラビアは130万BPDの天然ガス油(NGL)およびその他の液体分を生産している。これらはOPECの生産制限の対象では無い。
3.3 生産原油の種類
サウジアラビアは重質油(Heavy Crude)から超軽質(Super Light Crude)までの範囲の原油を生産しており、高軽質原油(Extra Light Crude)および超軽質原油(Super Light Crude)を除いてサワー(Sour)と呼ばれる硫黄含有率の比較的高い原油である。
サウジアラビアの全生産能力の約65%から70%が軽質油であり、残りが中質(Medium Crude)および重質油であり、サウジアラビアは中質および重質油の割合を減らしつつある。軽質油は一般的には陸上で生産されており、重質油は主に海上油田から生産されている。
3.4 陸上主要油田
ガワール油田(the Ghawar Field)が34°APIのアラビアライト原油の主要生産油田であり、170億バレルの確定埋蔵量を持つ超巨大油田アブケイク(Abqaiq)が37°APIのアラブエキストラライト原油(Arab Extra Light Crude)を生産し、リヤドの南にあり、ホウタ油田(Hawtah)および周辺のヌアイイム油田(Nuayyim)やハズミヤ油田(Hazmiyah)等の中小油田を含むナジド油田群(the Najd Field)とも呼ばれるホウタ傾斜(Hawtah Trend)が45°から50°APIで硫黄分0.06%のアラブスパーライト原油(Arab Super Light Crude)を20万BPD生産している。
3.5 海上主要油田
海上油田の生産には50万BPDを生産するズルフ油田(the Zuluf Field)と 27万BPDを生産するマールジャン油田(the Marjan Field)からのアラブミディアム原油(Arab Medium Crude)およびサファニヤ油田(the Safaniya Field)から生産されるアラブヘビイ原油(Arab Heavy Crude)が含まれている。
3.6 空白地帯沙漠のシャイバ油田
シャイバ油田の開発費は約25億ドルで1998年7月から生産を開始した。2005年5月現在での生産量は約50万BPDである。ナイミ石油鉱業相は1999年10月に「シャイバ油田の開発は生産能力に対して費用を加算するとその生産に必要となる基盤整備費、生産輸送設備等は1バレル増す毎に多くてもおよそ$5,000であり、世界の殆どの地域の$10,000から$20,000比べると遥かに低い」と述べている。今後の数年間にシャイバ油田の生産能力は30万BPD増産される計画である。
シャイバ油田の設備には三つのガス/油分離装置(GOSP)とアブケイク油田(Abqaiq)とつなぐ395マイル(635.6km)のパイプラインが含まれている。アブケイク油田はシャイバ油田に最も近い集油所(Gathering Center)であり、そこでシャイバ油田から送られてきた原油はベリ油田(Berri)とアブケイク油田(Abqaiq)で生産されるアラブライト原油（Arab Light Crude）と混合される。原油に加えて、シャイバ油田では埋蔵量が25兆立方フィートと推定される大量の随伴ガスが存在する。日産8億8,000万立方フィート(Mmcf/d)生産されているガスは天然ガス液(NGL、Natural Gas Liquid)と共に油層に再圧入されている。このガスを石油化学の原料として使う為に5、6年以内にガス事業が計画されると思われる。
3.7 旧中立地帯（分割地帯）
サウジアラビアが与えた主要な利権は旧中立地帯での石油開発の為の二つの小さな独立系石油会社であった。
クウェイト首長が中立地帯の陸上クウェイト利権を受権者にとって非常に有利な条件でアミノイル(American Independent Oil Company) と締結した。アラムコはそれに追従するのを望まなかったので1948年にこの地域の利権を放棄した。1949年に旧太平洋西部石油会社 (Formerly Pacific Western Oil Corporation) であったゲッティオイル (Getty Oil Company) が中立地帯陸上のサウジ分を開発する権利を与えられた。
1953年に石油が発見されたワフラ油田(Wafra Oilfield) を中軸に両社の共同操業で生産が開始された。その後、1962年に南フワリス油田(South Fuwaris)、1966年に南ウム グダイール油田(South Umm Gudair)が発見され、それぞれ1964年、1968年から生産が開始されている。1978年クウィト政府はアミノイルの利権を国有化し、操業会社としてワフラ石油(Wafra Oil Co.,)を設立した。1970年代から部分的にサウジアラビアの所有であったこの利権区域からの生産量は1980年代に6万BPDであった。1984年ゲティ石油がテキサコに吸収合併されたので、その後はサウジテキサコが事業を引き継ぎ、クウェイト側アミノイルを引き継いだ国営会社ワフラ石油（Wafra Oil Co）との共同操業を行っている。
1991年1月17日に始まったペルシャ湾戦争の間、イラク占領軍によってゲッティの施設は甚大に打撃を被り、坑井や集油施設および製油所と14基の原油タンクの10基は大きく被害を受けるか或いは破壊された。油田には430坑井全てに地雷が仕掛けられ生産は中止されたが坑口圧が低く火は燃え広がらなかった。1991年から1992年にかけて戦争被害は復旧され10万BPDまで復旧した。生産も施設も増強され、1995年までにはイラク占領以前の生産量14万BPDには及ばないが12万BPDまで増産された。
1995年3月からの行った三次元地震探鉱と6億ドルの投資で南フワリス油田および南ウム グダイール油田を含むワフラ油田生産量は1999年には30万BPD、2005年には42万BPDと大幅に増産された。又、ワフラ油田では重質(API 24 °)で硫黄分の多い(3.4-3.6% )原油しか産出していなかったが、1993年にテキサコはワフラ油田深層部のフッマ油層(Humma Reservoir)で軽質原油を発見し、500以上の坑井を作井し開発している。
旧中立地帯のもう一つの主要な利権は1957年にサウジアラビアによって日本法人に所有されるアラビア石油㈱ (AOC) に与えられた。
この利権は中立地帯沖合の探鉱の権利で、延長を前提で2年間であった。もし経済量の油が発見されれば、開発リースは40年間が保証される条件であった。1960年1月29日に商業量の石油が発見され、引き続いてサウジアラビア政府とクウェイト政府はアラビア石油㈱(AOC)の10%ずつの所有者となった。1970年代の半ばにサウジアラビアおよびクウィトは持分を各々30%に引き上げたが1990年代の初期でも40%の持分のアラビア石油㈱(AOC)が中立地帯沖合の石油操業を行っていた。主要油田で重質油のカフジ油田(Khafji Oilfield)と軽質油のフート油田(Hout Oilfield)等合わせて約66億バレル(1984年末)の確定埋蔵量があり、1980年代の平均生産量はカフジ原油25万BPD、フート原油5万BPDであった。1991年1月17日にイラクが貯油施設を攻撃し、沙漠の嵐作戦(the Operation in Desert Storm)の間は人員が撤退させられ、操業は閉鎖された。1992年初期に生産は再開された。
分割地帯のサウジの海上鉱区利権の延長は原油上流部門でも特に日本政府が関心を示して居た。サウジアラビアは分割地帯のアラビア石油㈱(AOC)の掘削利権を更新する条件としてアラビア石油㈱(AOC)および日本にサウジ原油の買い付けと遠隔の鉱山地帯と輸出港を結ぶ20億ドルの鉄道事業を含むサウジアラビアへの投資を増やす様に要望した。サウジアラビア側では「これはサウジ高官のこの利権を延長しようとする努力の結果での条件であった」とされているが、サウジアラビアの望む開発事業投資への約束を日本政府が拒否した為に利権延長は失敗した。
2000年2月にサウジアラビアとの利権は消滅し、分割地帯沖合のサウジアラビア利権はサウジアラムコの管轄となり、子会社のAGOC(ARAMCO Gulf Operations Company)がサウジ側の操業を引き継いだ。又、2003年1月4日にクウェイト側との利権が終了した後はサウジアラムコの子会社のAGOCとクウェイト政府の操業会社であるKGOC(Kuwait Gulf Oil Company)が共同で操業を行っている。アラビア石油㈱(AOC)は2003年1月にクウィト政府と技術援助の提供と今後20年間はカフジ油田の生産量から少なくとも10万BPDを買い取る権利獲得で合意している。
3.8 バハレン(Bahrain)への原油供給
サウジアラビア/クウィト旧中立地帯を除いて、サウジアラビアは海上のアブ サアファ油田(the Abu Saafa Offshore Oilfield)でもバハレイン(Bahrain)と共同で原油を生産している。隣国の経済を支える方法として1996年以来、サウジ政府はこの15万BPDの原油生産全量の収入をバハレン渡して来た。2004年後半にアブ サアファ油田の生産量を30万BPDに増産したのに伴い、サウジアラビアはこの割合を50%に引き下げた。又、サウジアラビアはバハレンへ伝統的に大幅な値引き価格で5万BPDの原油を供給してきた地域をアブ サアファ油田のパイプラインが通過するのでこの販売も止めている。
4.1 原油の供給先
サウジアラビアは米国およびヨーロッパへの主要な原油供給国である。現在、中国、日本、韓国、印度等のアジア諸国はサウジアラビアの原油のおよそ60%を精製された石油製品と共に引き取っている。2005年の初めの5ヶ月間でサウジアラビアは151万BPDの原油を含む157万BPDの石油を米国に輸出した。この期間にサウジアラビアはカナダ、メキシコおよびベネゼエラに次いで原油と精製石油製品全体の四番目の米国への供給元であり、原油だけだと三番目の供給元である。
4.2 原油脱硫化水素
サウジアラビアの原油の殆どは巨大なアブケイク処理施設を経由してアラビア湾から輸出される。アラビア湾沖のサファニヤ油田以外のサウジアラビアで生産される原油の約三分の二は硫化水素を含むので、アブケイクにおいて原油からの脱硫化水素処理作業が行われている。アブケイクには原油安定装置として知られる大きな処理プラントがあり、腐った卵臭を放つ硫化水素を原油から除いている。硫化水素は坑井から生産される原油に含まれ、嫌な臭いがするだけでは無く、人体に有害である。硫化水素(H2S)は水(H2O)と反応して硫酸(H2SO4)を形成するので腐食性もあり、鉄のパイプラインや貯油タンクを腐食させる。アブケイクの硫化水素取り除く為の原油安定装置は世界最大であり、95万バレル/日(BPD)の原油を処理している。回収した硫化水素からは輸出用硫黄を生産している。
安定化プロセスは基本的には部分蒸留であり、硫化水素を除き、蒸発圧力を下げる二つの作業を同時に行っている。メタン、エタン、プロパンやブタンの様な軽い留分の炭化水素を原油の圧力を下げ、液体状態からガスに変えて抜き出し、原油の蒸発圧力を下げる作業を行っている。この様な軽い炭化水素が十分に取り除かれると蒸発圧力は殆ど大気圧で積み出しできる状態となり、処理された原油の輸送船への安全な積み込みが保証される。
4.3 石油輸出主要ターミナル
サウジアラビアの主要な石油輸出ターミナルはアラビア湾にある600万BPDと世界最大の海上油積み出し施設を持つラスタヌラ港(Ras Tanura)と300万BPDの積み出し能力を持つラス アル ジュアイマ港(Ras al-Juaymah)と紅海岸にある積み出し能力500万BPDのヤンブー港(Yanbu)である。これらのターミナルの積み出し能力を合わせると1,400万BPDとなり、サウジアラビアの原油生産量1,050万から1,100万BPDよりも300万から350万BPD多く、2005年の前半にはサウジアラビアの原油生産量は公式割り当てを400万BPD超過している。この超過積み出し能力にもかかわらず、サウジアラビアは南サウジアラビアの空白地帯沙漠からイエメン(Yemen)のハドラマウト(Hadramaut)を経由してアラビア海に抜けるパイプラインのフィジビリティスタディを行っている。
サウジアラビアの石油積出港：
ラスタヌラ港(Ras Tanura)： アラビア湾にある世界最大の積出港で原油積み出し能力は一日当たり600万バレル(600万BPD)である。 ヤンブー港(Yanbu)： サウジアラビア横断のペトロライン(Petroline)で搬送された紅海にある原油の積出港で積み出し能力は500万BPDである。 ジュベイル港(Jubail) ラス アル ジャイマ港(Ras al-Juaymah)： ラスタヌラ港の北西にあるアラビア湾の積出港で積み出し能力は300万BPDである。 ジェッダ港(Jiddah)： ヤンブー港南の紅海岸にある積出港。 ジザン港(Jizan)： 紅海の南海域にあり、石油製品を積み出している。 ラス アル カフジ港(Ras al-Khafji)： クウィイトの直ぐ南のアラビア湾にあり、旧中立地帯のカフジ原油およびフート原油を積み出している。 ラビーグ港(Rabigh)： ジェッダ港の北でヤンブー港の南の紅海岸にあり、原油およびラビーグ製油所の石油製品を積み出している。 ズルフ港(Zuluf)： アラビア湾海上のズルフ油田(Zuluf oil field)で沖合から外航タンカーに直接、船積みしている。
4.4 搬送用パイプライン
サウジアラビアは二本の主要なパイプラインを所有している。一本はモービル(Mobil)から接収し、1984年からアラムコが操業している500万BPDの通油能力を持つ東西に原油を搬送するペトロライン(Petroline)である。ペトロラインは紅海岸にある西部州の製油所およびヨーロッパへの積出港へアラビアンライト原油およびスパーライト原油を輸送する為に使われている。
1981年に口径48”(AY-1)の一本のパイプラインがペトロライン（東西パイプライン）として建設され、輸送能力185万BPDを持っていた。特にアラビア湾のタンカー戦争と呼ばれたイラン/イラク戦争のさなかの1987年に既設ラインに口径56”ライン(AY-1L)が平行して追加建設され、ペトロラインの送油能力は320万BPDに増加された。1993年にライン上の送油ポンプの能力を高める増強が行われ、ペトロラインの送油能力は最終的に500万BPDに高められている。輸出が止まる様な出来事がアラビア湾の港に起きた場合の戦略的な代替として紅海岸のヤンブー港を維持する為にサウジアラビアはこの拡張は行ったと言われている。
純粋に経済的にはヤンブー港はラスタヌラ港よりもサウジ原油の輸出用としての経済的な利点はずうっと低い。ヤンブー港からの船積みはバブ アル マンダブ海峡(the Bab al-Mandab strait)を通過するのでホルムズ海峡(the Strait of Hormuz)経由のラスタヌラ港での船積みに比べてアジアの主要な顧客に対して往復で5日間紅海日数が多く加わる。この為、ペトロライン(Petroline)は送油能力の半分しか使われているに過ぎない。この事はナイミ石油鉱業相も認めている。
もう一本はペトロライン(Petroline)と平行して送油能力29万BPDのアブケイクからヤンブーへ敷設された天然ガス液のパイプラインであり、このパイプラインで搬送される天然ガス液はヤンブーの石油化学プラントに供されている。
又、「2.12 タップライン (Tapline)」の章で述べた様にレバノンへのアラビア横断パイプライン(Tapline、the Trans-Arabian Pipeline)はモスボール(mothball)されている。
サウジアラビアを横断する送油能力165万BPDの口径48”のイラクパイプライン(IPSA)は1990年8月のイラクのクウェイト侵攻以来、完全に閉鎖されている。このパイプラインは第3送油ポンプ場からペトロライン(Petroline)と平行に走り、ペトロラインに沿って全ての動力はガスタービン発電機で賄われた11ヶ所の送油ポンプ場が設けられ、ヤンブー港の少し南のムアッジズ港(Muajjiz)まで敷設されている。2001年6月にイラク政府の立場の永続性を考えてサウジアラビアはIPSAの所有権を接収した。一時的にはIPSAはサウジアラビア原油の紅海岸への輸送に使えるけれどもサウジアラビアは「このパイプラインを利用する考えはない」と述べている。
ナイミ石油鉱物相は「サウジアラビアはペトロラインを含めて原油輸出とパイプラインの過剰容量をもっている。ペトロラインは500万BPDの送油能力を持っているがその半分の送油しか行われていない」と言う。
パイプライン(capacity - million bbl/d)：
ペトロライン（東西パイプライン） (Petroline、480万BPD) アブケイク/ヤンブー天然ガス液ライン (Abqaiq－Yanbu LNG Line、30万BPD) イラクパイプライン (IPSA 、165万BPD、1990年8月以来閉鎖中)) タップライン (Tapline 、50万BPD、1984年以来閉鎖中)
4.5 アラムコ子会社の船会社ベラ(Vela)
アラムコ子会社の船会社ベラ(Vela)はサウジアラビア原油の大部分を輸送する20隻の大型タンカー(VLCC’s、Very Large Crude Carriers)と4隻の超大型タンカー(ULCC’s、Ultra Large Crude Carriers)を所有している。2004年9月にサウジアラビアは韓国の現代重工業(Hyundai Heavy Industry)に2億ドルで2隻のVLCC’sを発注し、2007年に納入される事になっている。タンカーに加えてアラムコはロッテルダム(Rotterdam)、パイプラインの集まるエジプトの地中海の港シディ・ケリール(Sidi Kerir)、韓国、フィリッピン、カリブ海(the Caribbean)や米国等世界中に石油の貯蔵施設を所有或いはリースしている。
5.1 国内製油所
サウジアラビアは8つの製油所を国内に持っている。
製油所と精製能力(2006年3月末)
ラビーグ製油所(Rabigh、400,000 BPD) ラスタヌラ製油所(Ras Tanura、550,000 BPD) ヤンブー製油所(Yanbu、235,000 BPD) リヤド製油所(Riyadh、120,000 BPD) ジェッダ製油所(Jeddah、60,000 BPD) サムレフ製油所 (Samref Refining - 400,000 BPD at Yanbu 50% with ExxonMobil Corp.) サスレフ製油所 (Sasref Refinery - 320,000 BPD at Jubail with Royal Dutch Shell) ラス アル カフジ製油所 (Arabian Oil Company - Ras al-Khafji 30,000 BPD)（既に廃棄）
5.2 製油所の増強
サウジアラムコは世界市場の安定策の一環として原油生産能力の向上と共に2010年までに2006年初めに国の内外に所有する製油所の合計精製能力300万BPD（国内200万BPD、国外100万BPD）を200億ドル掛けてその倍の600万BPDまで増強しようとしている。その一方ではサウジアラビアは湾岸のジュベイル(Jubail)および紅海岸のヤンブー(Yanbu)での精製事業をガス事業の次ぎ成長する第二の産業基盤と見ている。
石油製品の需要の伸びは2005年までにサウジアラビアの精製能力が限界に達するので、精製能力を増強する必要である事を示している。石油製品の需要伸びに伴い、サウジアラビアが精製事業の新たな中心になる事も予想される。2003年8月にラスタヌラ(Ras Tanura)製油所で20万BPDのコンデンセート スプリッター(Condensate Splitter)の操業を開始したのでラスタヌラ製油所(Ras Tanura)は現在、このスプリッター(Splitter)を含めて55万BPDの能力を持っており、サウジアラビアで最大の製油所である。この能力を含めるとサウジアラムコの精製能力は210万BPDに達している。
サウジアラビアにはエクソンモービル(ExxonMobile)およびシェル(Shell)とのそれぞれの合弁会社を含めて8ヶ所の製油所があり、200万BPDの精製能力を持っている。サウジアアラムコは2010年までに15~20億ドルを費やしてこれらの既存製油所の拡張・更新を軽質低硫黄原油（Light sweet crude）の需要に答え、サウジアラビア国内の精油所で重質高硫黄原油(Heavy sour crude)の処理能力の増強を含めて計画している。
5.3 ペトロラビーグ
サウジアラムコは原油精製能力が40万BPDのラビーグにあるトッピング製油所を所有し操業している。ラビーグ(Rabigh)製油所はサウジアラビアの紅海岸でジェッダ(Jeddah)から130km北のラビーグ(Rabigh にあり、42万5千BPDの精製能力を持っている。1995年にこの製油所の所有者となって以来、サウジアラムコは幾つかの増強計画を検討してきた。これらの検討の結果、既存の大容量の精製能力を持つ、このサイトと基盤に大幅な投資を行い、このサイトを広げて石油精製と石油化学のコンビナートとする事が最もシナジー効果があるとの結論となった。
サウジアラムコは40億ドル（をかけて1985年年に建造したラビーグ(Rabigh)製油所を2008年までに増強(Upgrade)し、巨大な石油化学コンビナートに転用すると公表している。サウジアラムコは石油精製品から石油化学製品までの一貫生産大型プラントを建設する為の30億ドル合弁プロジェクト契約を2004年5月10日に住友化学工業㈱と調印した。
合弁事業の検討が進むに連れ、この事業の内容は見直され、アラムコのラビーグ製油所の拡張を中心として世界規模のエタンベースの分解装置(Ethane Based Cracker)を含む高級オレフィン生産液体触媒分解装置(High Olefins Yield Fluid Catalytic Cracker)を含み、サウジアラビア最大の石油精製・石油化学コンビナート築く事になった。この分解装置では年間に約130万トンのエチレン(Ethylene)と90万トンのプロピレン(Propylene)を生産すると同時に製油所製品として日産6万バレルにガソリンを生産する。この為に予算規模は予想を大きく上回り、98億ドルと修正された。
途轍もないこの事業の大きさの為にサウジアラムコと住友化学工業が中心となって、内外の金融機関からの投資も受け入れ、ペトロラビーグ社(PETRO Rabigh、the Rabigh Refining and Petrochemical Company)を設立し、ペトロラビーグを通じて、この二社はサウジアラビアにおける最初の石油化学合弁会社の事業を開始することに成った。2006年3月19日にサウジアラムコのアブドッラ ジュマ(Abdullah Jum’ah)社長と住友化学工業㈱の米倉 弘昌社長が石油工業大臣アリ アル ナイミ博士の立会いの下で最終事業融資合意書に署名し、2008年末完成予定のペトロラビーグ社(PETRORabigh、the Rabigh Refining and Petrochemical Company)の事業の鍬入れ式を西海岸のラビーグで行った。
その席でナイミ相は「ペトロラビーグはサウジアラビアにおける石油化学工業と世界経済にとって新しい推進力である。アブドッラ国王の直接の指示でこの事業の株式の25%は民間から募集する。」と述べた。更に2006年3月23日にアリ アル ナイミ石油鉱物相は「ペトロラビーグ(Perturbing)の25%の民間からの公募はサウジアラビア最初の投資家向け新規株式公開(IPO、Initial Public Offering)と成るだろう。そしてこのIPOが年末までに完了する様に期待している」と補足説明している。
ペトロラビーグ社はサウジ内外のイスラム開発銀行(the Islamic Development Bank)、日本の国際協力銀行、サウジ公共投資基金(the Saudi Public Investment Fund)および17の金融機関から58億ドルの投資を受けている。17の金融機関にはフランス カリヨン銀行(French Calyon Bank)、SABB、HSBC、シティバンク(Citybank N.A)、リヤド銀行(Riyad Bank)およびBNPパリバス(BNP Paribas)および東京三菱銀行が含まれる。
又、ナイミ石油鉱業相は「間接的にこの事業はペトロラビーグの下流生産物全てを生産する工業コンビナートの建設を許容する。この工業コンビナートの全ての基盤整備の必要性を満たす為に30ヶ所を越える用地がサウジ政府によって用意されており、サウジアラビアはこの下流部門への国の内外から投資を誘致する事を念願している」と言う。
5.4 メガプロジェクト
サウジアラムコは2006年3月1日に現在計画している精製関連の新規事業として5件の新規メガプロジェクトを公表している。
ペトロラビーグ PetroRabigh、2008年完成予定 ヤンブー輸出用製油所 Yanbu Export Refining、2011年完成予定 ジュベイル輸出用製油所 Jubail Export Refining、2011完成予定 ラスタヌラ製油コンビナート Ras Tanura Integrated Refinery &Petrochemical Project、2012完成予定 ヤンブー石油化学コンビナート Yanbu Petrochemical Master Plan、2014完成予定
特に、ラスタヌラ製油所増強(Refinery Integration)については40~50億ドルの予算で製油所を更新し、10万BPD生産能力を増強し、石油化学コンビナートを追加する計画であり、
(1) Naphtha and Ethane cracking 、 (2) Integrated Olefins & Aromatics、 (3) 1.3MM TPA Ethylene、( (4) 0.9 MM TPA Propylene、 (5) 1.0 MM TPA of Aromatics、 (6) Conversion & Industrial Park
を含むラスタヌラ石油製油・石油化学コンビナート(Tanura Integrated Refining &Petrochemical Complex)になると紹介されている。
ジュベイルの輸出用製油所は予算40から50億ドルで精製能力は40万BPDであり、2006年3月現在、フランスのトタール社(Total)と合弁事業契約を交渉している。
「紅海岸のヤンブーに重質転換装置を備え、40万BPDの精製能力を持つ輸出用製油所建設を計画している」と2005年4月にサウジアラムコは既に公表している。この事業予算規模は48億ドルでジュベイル/ヤンブー王立委員会はこの事業の為の用地400ヘクタールを確保し、2007年からの準備開始を期待している。このヤンブー製油所(Yanbu)には
(1) Expand & Upgrade 235 MDD Refinery、 (2) Integrated Olefins & Aromatics、 (3) Naphtha & Ethane Cracking、 (4) Diverse Petrochemical Products
が含くまれ、ヤンブー石油精製・石油化学コンビナート(Yanbu Petrochemical Master Plan)になり、サウジアラムコは外国企業との合弁を考えている。2006年3月にサウジアラムコ副社長(Ali A. Al Muhareb)は「米国コノコフィリプス社(ConocoPhillips)とヤンブー製油所(Yanbu)合弁の話を進めている。又、既存のヤンブー製油所の10万BPDの精製能力増強を2009年或いは2010年までに考えている」と改めて紹介している。
5.5 海外製油所
サウジアラムコはシェル(Shell)との米国合弁事業であるモチヴァ(Motiva Enterprises LCC、50%、精製能力84万BPDでGS 13,000所有)を始め、ギリシャのモトール石油(Motor Oil “Hellas”、41.9%)、韓国のサングヨング製油所(Sang Yong Oil Refinery、35%)、フィリピンのペトロン(Petron、40%)等、海外に原油処理量160万BPDを確保している。更に2004年7月にアラムコは日本を基盤として製油販売事業を営む昭和シェルグループの株式9.96%を買い取る協定にシェル(Shell)と調印した。この取引ではアラムコは昭和シェルに30万BPDの原油を供給する事となった。
2005年5月に、印度国内の30万BPDのパラディプ製油所(Paradip refinery)および15.2万BPDのヴィザク製油所(Vizakh refinery)の株式取得に興味があったと言われるサウジアラビアは印度との石油事業協力協定に署名した。サウジアラムコは又、印度での原油備蓄と30億ドル規模の40万BPD製油所建設を考えていると言われている。
2005年7月に36億ドルの製油所および石油化学プラントコンプレックスを中国の福建省で操業を開始させた。この施設はシノペック(Sinopec)が50%、エックソンモービル(ExxonMobil)が25%でサウジアラムコが25%の株式を持った合弁会社である。このプラントへの原油はサウジアラムコによって供給される。アラムコは又、シノペックと北の山東省で中国での二番目の大きな製油所の建設を交渉中であると言われている。両方のプラントはサワー(sour)な高硫黄原油を処理できる。これらの製油所世界中で不足している高硫黄原油処理の能力を備えている。
6.1 天然ガスの埋蔵量
2005年初めのサウジアラビアの確定ガス埋蔵量は230.5兆立方フィートでロシア、イランおよびカタールに次いで世界第四位であり、2002年から更に5兆立方フィート増加した。サウジアラビアの現在の確定埋蔵量の内の約60%は主として陸上のガワール油田(Ghawar)、海上のサファニヤ油田(Safaniya)およびズルフ油田(Zuluf)からの随伴ガスで構成されている。ガワール油田だけでサウジアラビアの確定ガス埋蔵量の三分の一を占めている。
6.2 最近のガス田発見
1990年代に発見された一番新しい随伴ガスの埋蔵は軽質原油の油田で特にリヤドの南のナジド地方南部であった。非随伴ガス田にはマザリジ ガス田(Mazalij)、アル マンジョウラ ガス田(Al-Manjoura)、シャデンガス田(Shaden)、ニバン ガス田(Nizban)、チナット ガス田(Tinat)、アル ワアール ガス田(Al-Waar)等があり、その多くはガワール油田等の深層と同じ様にクフ層(Khuff)に存在している。
最近では2004年6月にダハラン(Dhahran)の近くのファズラン(Fazran)23号井でガスが発見された。天然ガスは又、サウジアラビア北西部奥のミドヤン(Midyan)や南東部沙漠の空白地帯(the Empty Quarter or Rub al Khali)にも埋蔵され、空白地帯だけでも300兆立方フィートの天然ガス田があると信じられている。
6.3ドラガス田
ドラ（Dora）と呼ばれるもう一つの巨大なガス田はサウジ/クウェイトの分割地帯沖合のカフジ油田北東の海上にあり、アラビア石油㈱によって探鉱･発見されていた。ドラガス田の開発には領海の問題が多く、サウジアラビアは2000年7月にクウェイトとドラの取り分についての合意に達しているが、クウェイトとイランの領海線は画定されずに残っている。イランは「その一部がイラン領海内のアラシュ ガス田(Arash)である」と主張し、このガス田へのサウジアラビアおよびクウェイトによる全ての開発の動きも妨害している。
6.4 マスターガスシステム(MGS、Master Gas System)
早期にはサウジ原油の生産は比較的単純な取引であり、原油は坑井から生産されパイプライン網で海岸にある貯蔵タンクへ送られ、輸出されていた。ほんの僅かな量が自家用に精製され、随伴ガスは焼却されていた。今日に較べて環境保全に関心の無かった時代では価値のある資源の浪費には成るけれどもこれが普通の方法であった。このガスの使用や市場が出現してアラムコはこのガスの収集と処理を行うマスターガスシステム(the Master Gas System)を整備し、その本格的運用を1970年代に始めた。
マスターガスシステムの建設費は一期工事だけで100億ドルと150億ドルの間と報告されて居り、マスターガスシステム(MGS、the Master Gas System)は1982年に一部、1984年に全体が完成した。マスターガスシステムの完成でサウジアラビアの天然ガスの三分の一の埋蔵量を持つガワール油田(the Ghawar Field)で生産される随伴ガスをヤンブーとジュベイルの二つの工業都市にガスを供給できる様になった。この二つの工業都市は合わせて世界の石油化学製品の10%を生産している。その後のガスの国内需要は1984年に完成したマスターガスシステム(MGS)の拡張を余儀なくさせている。
2002年10月にハウィヤ(Hawiyah)で40億ドルの14億立方フィート/日(1.4billion-cu-feet-per-day)の非随伴ガス処理プラントの建設が完工し、操業を開始した。ハウィヤ(Hawiyah)はダハラン(Dhahran)の南でガワール油田の一部である。ハウィヤ(Hawiyah)はこの10年以上の間、サウジアラビアを代表する最大の天然ガス事業であった。ハウィヤ(Hawiyah)ではクフ深層(Khuff)およびジャウフ深層(Jauf)から産出される非随伴ガスを生産・処理し、約26万BPD相当のアラビアンライト原油を輸出用に転用するのに十分な量の天然ガスを生産している。
ダハラン(Dhahran)の南西120マイル(193km)に位置するガワール油田(Ghawar)南端のハラダ(Haradh)ではフォスターウィラー(Foster Wheeler)が工事監修を担当し、非随伴性天然ガスを処理する為の20億ドル規模のハラダプラント(the Haradh plant)が2004年の夏に完成した。この新規プラントの完成でサウジアラビアのガス処理能力は16億立方フィート/日(1.6Bcf/day)増加し、95億立方フィート/日(9.5Bcf/day)と成った。ハラダはクフ層にある四つのガス田から生産されるスィート（Sweet、硫化水素を含まない）およびサワー（Sour、硫化水素を含む）の両方の非随伴性天然ガスを処理している。更に、ハラダ ガスプラント(The Haradh Gas Plant)は17万BPDの高価格コンデンサート(Condensate)をアブケイク処理プラント(Abqaiq Plant)へ供給している。
それに加えて12億ドル、処理容量3,800-Mmcf/d(3.8Bcf/day)のストラッドルプラントの建設が計画されている。このストラッドルプラントが完成するとハラダとハウィヤの両方に使われ、サウジのNGLの増産への貢献が期待できる。ストラッドルプラント(Straddle Plant)とは輸送する間に、繰り返し圧縮されたり、圧力を除かれたりする事で新たに形成された軽質炭化水素液を取り除く目的でガスの輸送ライン近くに設けられる天然ガスの再処理プラントである。
2004年12月26日から操業を開始したカティーフ生産基地では80万BPDの原油の生産と共に3億7千万立方フィート/日の随伴ガスと4万BPDの高価格コンデンセート(Condensate)の生産を行っている。
アラムコは又、一日当たり40億立方フィート(Bcf、4 billion cubic feet per day)からNGLを主として一日当たり数十万バレルの追加の石油化学用の原料油を回収する為にハウィヤ(Hawiyah)を拡張する為の入札を掛けていた。2005年3月に日本揮発油㈱が世界最大のNGL処理プラントの建設を含むこの契約を落札した。
その他の天然ガス関連の展開としてはマスターガスシステム(MGS)を最大のガスとコンデンサーとの埋蔵の可能性のある東部州から中央州の首都リヤドへ拡張する為の鍵となるパイプラインが2000年6月に完成した。これは既存のガス輸送システムをサウジアラビア全土へ広く拡張する事業の一部であり、現在操業されている10,500マイル(16,895km)に及ぶ原油、ガス、コンデンセート、石油製品、天然ガス液等のパイプラインに1,200マイル(1,931km)の天然ガスの追加パイプラインを2006年までに建設する事業も含まれている。
サウジアラムコはアブケイク(Abqaiq)、カティーフ(Qatif)、シャイバ(Shaybah)、シェドガム(Shedgum)およびウスマニヤ(Uthmaniyah)等14地区のガスパイプラインを5年間更新維持する為に天然ガス液(NGL)パイプラインと関連設備の設計、調達、建設の一括請負工事を入札に掛けた。サウジアラムコは「この一括請負工事を3億ドルでRHM (RH al-Marri Establishment)、CAT(Lebanon’s Contracting & Trading) と蘭スエドロバウ社(the Netherlands’ Suedrohrbau.)に3社に発注した」と2006年3月12日に公表した。
又、同じく2006年3月12日にサウジアラムコは｢スエドロバウ社にはハウィヤ(Hawiyah)LNG計画のハウィヤ(Hawiyah)とハラダ(Haradh)/ウスマニヤ(Uthmaniyah)間の口径48” で長さ25kmのパイプライン、シェドガム(Shedgum)とジュベイル(Jubail)間の口径30”で長さ170kmのパイプライン、ジュベイルのガスプラントと工業都市を結ぶ口径38”で長さ58kmのパイプラインを2億ドルで発注し、CATには2千7百万ドルでジュアイマ(Juaymah)とジュベイル(Jubail)間の口径38”で長さ56kmのエタンのパイプラインを発注した」と公表した。
2005年末にサウジアラムコはENIの子会社であるサイペン(Saipen)に東西パイプライン(Petroline)の一つである960kmのEWG-1を原油搬送からガス搬送のラインに切り替える工事を発注した。この作業は2008年初めに完成する予定である。
6.5 サウジガスイニシアティブ(SGI、Saudi Gas Initiative)
サウジガスイニシアティブ(SGI)はサウジアラビアへの外国投資を増やすと共に、天然ガスの開発し、上流部門と下流部門の石油化学、発電、海水脱塩を統合し、一貫操業する目的で計画された。サウジガスイニシアティブ(SGI、Saudi Gas Initiative)の契約案は1970年代にサウジアラムコの国有化を進め、1980年にサウジアラムコの全株式を取得し国有化して以来、初めての外国投資への炭化水素上流部門に対する大きな開放を約束する内容であった。2001年に三つのコアベンチャー(Core Venture)が下記3グループに選定され、交渉が開始された。
1) コアベンチャー1ガワール油田南方及び空白地帯沙漠北部はエクソンモービル(ExxonMobil) (35%)が主導し、シェル(Shell) (25%)、BP(25%)、フィッリプ(Phillip) (15%)が参加していた。コアベンチャー1は150億ドルの世界最大の天然ガス一貫操業事業であり、探鉱開発、パイプライン、二ヶ所のガス専焼発電所、二ヶ所の石油化学プラント、二ヶ所の海水脱塩装置等を含んでいた。
2) コアベンチャー2紅海(Red Sea)はエクソンモービル(ExxonMobil) (60%)が主導し、マラソン(Marathon) (20%)、オッキシデンタル(Occidental) (20%)が参加していた。コアベンチャー2には紅海の探鉱、サウジアラビア西北部の紅海岸にあるバールカンガス田(Barqan)およびミドヤンガス田(Midyan)の開発、一ヶ所の石油化学プラント、一ヶ所の発電所、海水脱塩等を含む40億ドルの事業であった。
3) コアベンチャー3シャイバ(Shaybah)はシェル(Shell) (40%)が主導し、トタール(Total ) (30%)、コノコ(Conoco)(30%)が参加していた。コアベンチャー3は空白地帯のシャイバ(Shaybah)付近の探鉱、キダンガス田(Kidan)の開発、シャイバ(Shaybah)からハラダ(Haradh)までのパイプラインの布設、リヤド東のハウィヤ(Hawiyah)天然ガス処理プラントおよびジュベイル(Jubail)の石油化学プラントの建設等がふくまれる費用40億ドルの事業であった。
サウジガスイニシアティブ(SGI)はサウジアラビア全体の外国投資戦略の鍵と見られてきたが、ガス埋蔵の広がりは上流部門の開放につながり、それにはサウジアラムコの利権区域(SARA)を含めるのかどうか、そしてサウジアラビアの提案よりも遥かに高い率を求める参加企業の要求するレートオブレターン(the rates of return)と云う二つの主要な障害があった。この障害への妥結は得られず、2003年6月にナイミ石油鉱業相は外国のエネルギー会社との150億ドルから200億ドルにのぼるサウジ ガス イニシアティブ(SGI、Saudi Gas Initiative)の交渉を打ち切る声明を正式に発表した。
6.6 空白地帯沙漠のガス開発
サウジアラビアは「上流部門の成長は非随伴ガス天然ガス田開発が現実的な鍵だ」と考えているが、石油収入で賄われる原油の上流部門の計画とは異なり、サウジアラビアは新しいガス開発計画の為の資金は外国からの投資で賄う方針で居た。
ガスイニシアティブ(Gas Initiative)の不成立の後を受けて、この事業をもっと小規模でもっと特化し、前回よりもレートオブリターンの高い契約に再編成し、サウジアアラムコ(ARAMCO)が操業しているコア地域(Core Area)の外のガワール油田南方及び空白地帯沙漠北部（図-6 空白地帯沙漠ガス開発を参照）で三つの40年に渡るガス利権を外国資本に入札させた。同時にサウジアラビアは上流と下流のガス、水、発電および石油化学の一貫操業と云うガスイニシアティブ(SGI)の特徴を取り去り、その代わりに外国資本にはコアベンチャー1およびコアベンチャー3を構成する地域のガス開発のみを目標にさせ、分離したガスイニシアティブ(SGI)の下流部門および中流部門の大部分をSABICとアラムコに実施させる事にした。
その一方でサウジ政府は2003年7月に空白地帯沙漠東部のシャイバおよびキダン地区(the Shaybah and Kidan areas)のブロック5-9および82-85の利権を暫定的にロイヤルダッチシェル(Royal Dutch/Shell)とトタール(Total)の連合との間で契約した。ヨーロッパの主要企業を差し置いて、アラムコがコノコフリップス(ConocoPhillips)に代わってこの20億ドル事業の持分の30%を取得した。シェルは40%の持分を維持し、トタールは残り30%の持分を確保し、南ルブアルハリ会社(SRAK、the South Rub al-Khali Company)が設立された。この会社の鉱区面積は21万平方キロであり、それぞれ5年間の三つの探鉱期間を設けている。南ルブアルハリ会社の正式な調印は2003年11月15日に行われた。
2004年1月26日に露西亜のルクオイル(Russia’s Lukoil)はサウジアラビア空白地帯の非随伴ガスの探鉱と開発生産のA鉱区入札を勝ち取った。この利権はB鉱区およびC鉱区同様に期間40年で少なくとも2試掘井の掘削、5千平方キロに及ぶ地震探鉱が含まれている。ルクオイルはサウジアラムコと80対20の合弁会社ルクサール(Luksar)を設立し、ガワール油田に近い3万平方キロにわたるこの鉱区での操業を開始した。ルクオイルは2006年2月までに8,750kmの地震探鉱をほぼ実施し、ダンマン南550kmの空白地帯のツクマン(Tukhman)で震度4,800mの試掘井の作井を開始しようとしている。
又、2004年1月27日に中国のシノペック(Sinopec、China Petroleum and Chemical Corporation)が4万平方キロの鉱区Bのガスの探鉱と生産の入札を勝ち取り、2004年1月28日にはイタリアのエニ(ENI)とスペインのレプソル(Repsol YPF )のコンソーシアム(Eni-Repsol consortium)が5.2万平方キロのC鉱区の操業免許を許可された。
外国資本はサウジアラビアの利権区域でガスが生産化しされるとコンデンサート(Condensates)と天然ガス液(Natural Gas Liquids)には20%の鉱区使用料(Royalty)を支払わなければ成らないが国際市場価格で売却できる。ガスについては鉱区使用料(Royalty)の支払い義務は無いが「ガスの国内消費に対してサウジ政府はマスターガスシステム(MGS、the Master Gas System)と納入地点を結ぶパイプラインへの資金提供を行い、100万BTUあたり75セントで外国資本の生産し、市場販売できる品質まで処理したガスを引き取る」との条件が付いている。外国資本の収益に対しては内部収益率(IRR、Internal Rate of Return)が8%に達するまでは30%の率で徐々に税金が課せられる。IRRが8%に達した時には税率は次第に上げられ沿う総資本でIRRが22%に達した時に税率は85%と成る。
サウジアラムコの専門家は「広大な空白地帯沙漠(Al Rub al-Khali) では僅か15%しか近代的な地震探鉱は行われているに過ぎないが、埋蔵されるのは随伴ガスでは無く、多くは非随伴の構造性ガスであり、未発見のガス埋蔵量は260から300兆立方フィートと推定されている」と新埋蔵量発見の有望性を強調している。サウジアラビアは現在までに随伴ガスの確定埋蔵量138兆立方フィート、構造ガスの確定埋蔵量93兆立方フィートを確認しており、サウジアラビアは「出来るだけ早く空白地帯沙漠のガスを増産し、石油化学の拡張と急速に拡大している発電事業の需要に応えたい」と考えている。
6.7 ガス開発と発電および造水
サウジアラビアの急速な人口増加とサウジ政府が料金を低く抑え、消費者補助を行っている結果での人工的低価格が年間に7%或いはそれ以上の速さで電気需要を増やしている。サウジアラビアの水電気省は2019年までに20ギガワット(GW、gigawatts)の発電能力の増強が必要であると推定している。これは現在の使用量26.6GWとほぼ近い電力量であり、この増強には年間に45億ドルから60億ドルの投資費用が必要である。サウジ政府は外国資本を含む民間からこの投資の殆どを調達しようと考えている。又、この発電事業の大半はガス有効利用政策の一部としての天然ガス専焼或いはコンビネーションサイクルで計画されている。
1970年代にサウジ政府がアラムコ(ARAMCO)に主導させ、SCECOを設立し、アラムコはSCECOの管理を通して東部州の発電・配電システムを担当した。その後、地域毎にSCECOが設立され、サウジアラビア全土で発電・配電を担ってきた。2000年2月16日、電気相ヤマニ博士(Dr. Hashem Ibn Abdullah Yamani)がサウジアラビア全土にあった10社の既存電気会社(SCECO’s)の間に合併合意書に調印させ、2000年4月5日に長い間待ち望まれ、サウジ政府が50%所有する合資会社サウジ電力会社(SEC)を設立した。
サウジ電力会社(SEC)創設でBOO (Build-Own-Operate)やBOT (Build-Own-Transfer)に基づく民間企業の新たな発電所の建設に門戸を開く事が出来る様になった。しかしながら、サウジアラビアにおける将来のIPPs (Independent Power Producers)には料金、法的操業的体系、税金および燃料供給を含む主要な問題が不確定のまま残された。2003年1月に電気事業監視機構(ERSA、the Electricity Service Regulatory Authority)が国有電気事業、IPPsやIWPPs (Independent Water and Power Projects)を担当する独立した監視機関として設立された。2005年7月初めにサウジアラビアの最初のIPPが250MW の発電能力で操業を開始した。このコジェネレーションシステム(Cogeneration System)はシーメンス社(Siemens)が建設し、操業はジュバイルエネルギー会社(the Jubail Energy Company)との合弁である。
最近の幾つかの事業ではサウジアラビアの電気事業には新しい融資の仕組みが採用されている。例えば27億ドルのガズラン発電二期工事(Ghazlan II Power Project)はサウジアラビアの歴史としては初めての5億ドルの国際シンジケート商業ローン(Internationally Syndicated Commercial Loan)によって融資を受け、三菱とベクテル(Bechtel)が指導する共同事業体によって建設された。ガズラン発電二期工事は一号機が2001年夏から操業を開始した4基の600MWの蒸気タービン発電ユニットで構成されている。ダンマン（Dammam）の北のアラビア湾岸に位置する発電能力1,600MWのガズラン発電一期工事(Ghazlan I Power Project)施設と合わせて、このコンプレックス全体の発電能力は4,000MWで東部州に給電している。
サウジアラビアはIWPP事業費用の60%を民間投資で賄おうとしており、2002年7月に最高経済評議会で民間企業が独立造水発電事業(IWPP、Independent Water and Power Projects)の開発に参入する枠組みの決議案を採択した。最初のIWPP事業としては
シュアイバ(Shuaiba)： ジェッダ(Jiddah)南東70マイル(113km)の紅海岸、投資額10億ドル、発電能力900MW、造水能力1億7,600万ガロン/日（176mmg/d、66.6万立方メートル/日）、石油専焼の発電造水所 シュカイク(Shuqaiq)： サウジアラビア南西部、発電能力700MW、造水能力2,300万ガロン/日（23mmg/d、8.7万立方メートル/日）の発電造水所 シャキーク(Shaqiq)： サウジアラビア南西部、発電能力850MW、造水能力2億1,200万ガロン/日（212mmg/d、80.2万立方メートル/日）の発電造水所 ラス・アズ・ゾウル(Ras Az Zour)： 東部州、発電能力2,500MW、造水能力1億7,600万ガロン/日（176mmg/d、66.6万立方メートル/日）の発電造水所
の建設が確認されている。
サウジアラビア塩水淡水化公社(SWCC、Saudi Arabian’s Saline Water Conversion Corp.)は「サウジアラビアが急速に増加する水需要を賄う為には2020年までに500億ドルの投資が必要である」と推定している。2004年3月にガルフニュース(Gulf News)は「サウジアラビアは2016年迄に総額160億ドルで10ヶ所のIWPPsを建設使用としている」と報告していた。2005年3月にシュアイバ(Shuaiba)に新しい石油専焼の400MW発電機を3基建設する為にサウジ電力会社(SEC)はASAC(Alstom and Saudi Archirodon Construction)を選定した。これでこのプラントの発電能力は2008年までに4,400MWとなる。
2000年10月9日にサウジアラビアは双子の工業都市ヤンブー(Yanbu)とジュバイル(Jubail)に新しいユーティリティ会社(UCO、utility company)を設立する計画に許可した。マラフィク(Marafiq)と名付けられたこの会社は王立委員会(the Royal Commission)、公共投資基金(the Public Investments Fund)、サウジアラムコ(Saudi ARAMCO)およびSABICと地方の投資家の株式を持つ形で設立された。UCOはヤンブーおよびジュベイルの幾つかの造水発電事業で始まっており、利益が出始めれば民営化される計画である。2004年7月にマラフィク(Marafiq)はジュベイルに25億ドルで発電容量2,400MW造水能力79mmg/d（29.9立方メートル/日）のガス専焼IWPPの提案の要求(RFP、Request for Proposals)を出した。運転開始は2009年初めを予定している。
発電事業の他にサウジアラビアは又、送電への追加投資を必要としている。現在、サウジアラビアの20%は全国送電網に繋げられていない。全国送電網を完成するには2万マイル(3.2万キロ)の追加の送電線が必要である。現在、サウジアラビアには15万マイル(24万キロ)の送電線が敷設されている。
サウジアラムコのその他の事業として民活の5億3,300万ドルのコジェネレーション(Cogeneration) 事業があり、この事業には1,000MWの発電とサウジアラムコ(Saudi ARAMCO)の原油ガス施設の動力として400万pound/hourの蒸気発生装置を4プラントの建設、資金調達および操業が含まれている。これら事業はサウジ民間と国際資本が設立する合弁会社が立ち上げ、20年間の合意期間が終了した後にサウジアラムコに引き渡される。立ち上げは2004年前半に開始し、2006年中での完成を予定している。サウジアラムコは電気と蒸気を作る為に必要なガスと水を提供する。
「図-3 原油価格の変遷」に示す様に昨年8月末のハリケーン カトリーナ(Hurricane Katrina)来襲後の急速な原油価格の高騰はその上げ幅から第三次オイルショックと呼んでいる専門家も少なくない。この章ではこの4半世紀位の間の原油価格の変動と変動要素を調べ、サウジアラムコの原油価格・原油供給の安定化に対する努力の道のりを辿ってみた。
7.1 オイルショック後の生産量と開発投資の減退
1979年OPEC加盟国は3,100万BPD生産していた。1985年までにOPECの生産量は50%以上も下落し1,500万BPDとなり、サウジアラビアの生産量は1908年のピーク時1,000万BPDから300万BPDまでに減産した。ナイミ石油鉱物相は「幾つかの消費国における高いエネルギー税で1986年から1998年の間の原油価格が穏やかであった時期にOECDのエネルギー探鉱開発総資金は1,000億ドル($100bn)であった。しかしながらその資金の70%が核エネルギープロジェクトに向けられ、残りも石炭へ主に向けられたので、石油・ガスの探鉱費はその5%でしかなかった。さらにバレル10ドルでは生産費が賄えなかった為に1998年の価格破壊で世界は推定400万から500万BPDの原油生産能力を失ってしまった」と指摘している。
7.2 OPECの適正バスケット価格
開発投資は30%減少したが、OPEC等の生産国は生産能力維持の投資を行い、国民経済の成長を保持し、世界の原油需要に見合う為の価格を安定させる努力をして来た。OPECは生産が維持され、消費国が供給を確保される適正なバスケット価格としてバレル当たり22ドルから28ドルの範囲が適正価格と考え、その維持に努めた。主要産油国の緊密な協力で、2001年前半の6ヶ月間OPECバスケット価格は25ドル/バレル近辺でOPEC10ヶ国の生産量2,420万バレル/日の適正な安定状況が見られていた。
7.3 9/11攻撃の影響
1999年1月に10ドル/バレルにまで下がっていた原油価格は原油需要の旺盛さで1999年半ばには約17ドル/バレルに戻り、2000年9月には30ドル/バレルに越える水準まで上がり、その後暫くは25ドル/バレル以上を保っていた。（この3倍にも成った値上がりを第三次オイルショックと呼んだ専門家も少なくはない。）
湾岸の主要5産油国（UAE, Saudi Arabia, Kuwait, Iraq and Iran）では既に2,250万BPDの生産能力に対し400万BPDの生産調整を行ってはいたが、世界消費は1999年の7,520万バレル/日から2000年は7,645万バレル/日に上がり、2001年は7,660万バレル/日に上昇すると予想されていた。
2001年9月11日にアルカエダ(Al-Qaeda)が民間航空機を乗っ取り、世界貿易センターおよび国防省へ自爆攻撃を引き起こした。この攻撃により原油価格も一時的にロンドンブレンドが$31.05/BBLと2000年12月以来の高騰になった。その直ぐ後に米国内でのテロを懸念して原油価格は湾岸戦争以来最大幅で下落し、米経済も1991年以来始めての不景気に突入した。OPECバクケット価格は2001年9月26日水曜日には1999年8月依頼の安値である20.30ドル/バレルとなった。下落した原油価格にもかかわらず、OPEC諸国は2,320万バレル/日の生産は維持していたので原油の価格破壊を防ぐには非OPEC産油国の協力が必要であった。
7.4 バスケット価格維持の為の生産調整
2002年1月3日OPECのバクケット価格が18.85ドル/バレルまで下落した為にOPECは22ドル/バレルから28ドル/バレルの適正価格帯に値を戻すために2002年1月1日より150万BPDの生産調整をカイロ(CAIRO)で合意した。その後、2002年7月末まで原油価格は25ドル/バレルまで値を戻して来た。2002年7月30日サウジアラビアは産油国と消費国の双方が経済発展を継続する為に国際市場の安定化させる為に22ドル/バレルから28ドル/バレルの範囲の適正価格を維持する努力を公表したので原油価格は25ドル/バレルで落ち着いていた。
7.5 イラク戦争の影響
2002年末は隣国イラクの戦争の危険性で情勢は不安ではあったが強い原油価格に支えられサウジ経済は堅調であり、供給不安があるにもかかわらず、2003年に入って原油価格は30ドル/バレル前半まで値上がりしていた。2003年3月18日にイラク戦争勃発の恐れのため、原油価格は30ドル/バレルまでは急落した。さらに米国がイラクとの外交関係を絶ち、爆撃に続き、懸案であったイラク侵攻を2003年3月20日に開始したので原油価格はバレル20ドル後半まで約20%も値を下げた。
OPECは値下がりしている原油価格をバレル当たり22ドルから28ドルの範囲の適正価格に戻す目的で生産量維持を決めた。この為、原油供給が不足気味になり2003年8月6日に原油価格はイラク侵攻以来の最高値30米ドル/バレルを付けた。10月初めにサウジアラビアが原油価格の高値維持決定し、米国内原油価格が30ドル/バレル($/BBL)に上昇したのでOPECは原油価格28ドル/バレルが継続すれば供給量を増加する公表した。
7.6 バスケット価格引き上げの動き
2004月3月3日、現状の原油価格約35ドル/バレルに対し、OPEC議長のインドネシアのエネルギー相を初めとしての価格帯30％（32ドル/バレルから34ドル/バレル）への引き上げ要求しようとしていた。それを牽制する為に、サウジアラビアは「現行の22ドル/バレル～28ドル/バレルの原油価格帯を維持する」と公表した。
7.7 原油価格沈静化の為の増産
2004年5月7日には1991年の湾岸戦争の前にイラクがクウェイトに侵攻した湾岸危機（1990年8月2日）以来の最高値40ドル/バレルを付けた。その後、終値は39.93ドル/バレルだったが市場関係者は当分の間は堅調に推移すると予測した。。原油価格はOPECの実際の生産量が公式生産枠を150万BPDも越えているにもかかわらず、高値が続いた。2004年5月24日サウジアラビアは原油価格沈静化の為に200万BPDの増産を提案した。サウジアラビアは当時、公式生産枠763万BPDを越え、910万BPDを生産して居り、「必要なら6月から1,050万BPD生産する用意がある」と公表した。
米国の原油価格は2004年6月1日に$42.33/BBLの最高値に高騰したが、1970年代のオイルショック時の値段よりもインフレーションを考えるとまだ安いとの見方もあった。2004年6月2日にサウジアラビア石油相が高騰した原油価格に対して「$22/BBLから$28/BBLの適正価格巾に戻す為に増産の用意ある」と述べた。これを受けてOPECは200万BPD増産し、原油価格が沈静化しなければ8月にさらに50万BPDの増量を行い、生産量を2,350万BPDから2,600万BPDに引き上げる決定を2004年6月3日に行った。この為、原油価格沈静化へ向かった。
7.8 市場が決める原油価格
ナイミ石油相はOPECの200万BPD増産の一日前にして2004年6月30日に「実際の原油価格は市場が決める事でOPECではない。現在の価格は公正なので原油生産量を増減して調整する理由は何も無い。産油国としては世界経済の安定の為に価格の安定を必要としているだけである」と述べた。同日のニューヨーク(New York) 先物は$35.84/BBLであり、原油需要は米国と工業化した中国に率いられた強い世界経済の持ち直しで急増し、それが原油の高価格を支えていた。OPEC加盟国では第二オイルショック以来25年ぶりの高い生産水準を期待していた。需要は8,100万BPDであり、OPECは公式生産量上限2,350万BPDを370万BPD超過して実際には2,720万BPD生産していた。
7.9 露西亜の供給不安
2004年7月30日米国の原油価格は「世界第二の産油国である露西亜の供給不安とOPEC諸国がその不足分を補えない」との見方からニューヨーク原油取引(New York Mercantile Exchange)の21年間の歴史上での最高値の$43.34/BBLをつけた。米国原油価格さらに43.94/BBLまで高騰した。この背景には国際エネルギー機構（IEA、International Energy Agency）等の「2004年の需要伸びは3.2%と見込まれ8,140万BPDであり、2005年の需要は8,320万BPDと見込まれる」との需要拡大の予測があった。
7.10 米国、中国および印度の需要拡大
「工業化した中国の需要は2004年前半には30%の伸びで、600万BPDを越えており、2020年末にはこの倍となり、2025年には2003年の550万BPDから1,100万BPDに増加する」との国際エネルギー機関（IEA、International Energy Agency）は予測した。この資料からはOPECの生産能力では世界需要に追いつけない見込みであったのでカナダのタールサンド開発（the Athabasca Oil Sands Project）等が着目され始めた。原油価格の高騰と中国経済の減速でアジア諸国はもちろん、打撃を受けてはいるが、1970年代や1980年代のオイルショックの様な事態とはならず、回復しつつあるアジア経済は不景気へと向かうこと無く、順調に回復に向かっていた。
2004年8月初めにサウジアラビアでは過去三ヶ月で平均生産量が930万BPDを越え、$50/BBLが現在の情勢では現実味が帯びてきた。原油価格の値上がりが米国と中国が政策的備蓄を増やしている事も大きな要因で特に中国は今後二年間に倍増しようとしていた。アブドッラ皇太子は「原油価格を$25/BBLから$30/BBLに収めたいと考えており、市場の沈静化の為に油田が許容するかぎりサウジアラビアは増産する」と述べ、「原油高騰鎮静化の為に130万BPD増産の用意がある」とナイミ石油鉱物相も声明を出した。
7.11 インフレ要素を加味した原油価格割安感
2004年8月20日にイラクの騒乱拡大と中国とインドの原油需要増大でニューヨークの原油価格は$49/BBLを越えた。一方、OPEC加盟国の原油生産は1979年以来、最も高い水準にあり、ウィーンのOPEC本部は「7月生産量2,957万BPDに対し、9月は3,050万BPDになる」と見積もっていた。国際エネルギー機構(IEA)と米国が原油高騰に懸念を表明したにもかかわらず、現実には原油高価格は世界経済に顕著な影響を与えてはいなかった。この当時の高価格はインフレ調整を加えた1980年代の最高値より遥かに低いし、2004年の米国平均原油価格$38/BBLは1974年の原油輸出禁止時期の原油価格にインフレ修正を加えた$43/BBLに達してないかった。この為に原油価格の世界経済への影響は低まり、世界的GDPは目覚しく伸びていた。
7.12 歴史的高値の原因
原油価格は5年前の$10/BBLから歴史的高値の$50/BBLに近づいていた。その原因としては2004年9月初めにアル ムハンナ博士(Dr. Ibrahim ibn Abdul Aziz Al Muhanna)は次の様に分析した。
1. 世界原油需要の伸びは予想以上に増加し、それは特に米国、中国、印度および幾つかの発展途上国で顕著であった。 2. 年初めに専門家が特に露西亜、カスピ海諸国、西アフリカ、イラク等が国際市場に参入すると分析していたが、それらは予想した量には成らなかった。 3. 幾つかの産油国では政治問題や労働問題での警備上の安定や混乱が生産に影響を与えている。その様な国にはイラク、ナイジェリア、ベネズエラおよびサウジアラビアがある。更にその一部としてノールウェイの労働争議や露西亜のユーコスの問題があった。 4. 国際石油需要の四分の一を占める米国では石油精製とその使われる石油製品の品質の問題がある。製油所の新設を阻害する法律の結果であるこれらの問題が米国の幾つかの油種で供給不足の原因となっている。その不足分は輸入に頼っているが常に要求される品質の石油製品があるとは限らなかった。 5. 世界の石油市場への金融で重要な役割を担う金融市場が投資資金や投機資金を先物市場に参入し、乱高下の原因となっていた。
7.13 原油価格$50/BBLへ記録的高騰
2004年9月22日ニューヨーク(New York)軽質低硫黄原油11月渡し分、$48.25/BBLに高騰した。原油価格の記録的高騰に対してサウジアラビアでは「価格を沈静化する為に数週間以内に生産量を1,100万BPDまで引き上げる用意がある」とナイミ石油相が声明した。この発言は米国軽質油が始めて$50/bblを越え、$50.47/BBLに高騰した為の措置であった。ナイミ石油相は「サウジアラビアは既に生産開始しているアブ サアファ(Abu Saafah)油田とカティーフ(Qatif)油田を使い、現在の生産量950万BPDを1,100万BPDに増産する為に既存油田の掘削を促進させる」と述べた。
OPECはすでに250万BPD増産し、生産量は3,000万BPDを少し下回る水準となっているにもかかわらず、ニューヨーク(New York)では露西亜の石油大手ユーコス(oil giant Yukos )の税金不払い問題の為に11月渡しの原油が2004年10月8日に$53.40/BBLまで値上がりした。原油価格が一年前に比べて80%値上がりしたが「1981年の最高値にインフレ修正を加えた値段に比べればまだ$27安い」との見方が強かった。アラブ産油国は原油価格を下げる為の増産を約したが、ナイジェリアおよびノールウェイの供給不安で原油価格$54/BBBLを越えた。この様に中国と米国の強い需要で市場は神経質で何らかのきっかけさえあれば供給が乱される情況であった。但し、原油価格の高騰は数十年前に比べると工業化経済への影響は小さく、原油高騰は主要OECD諸国に対してはわずかな経済減速を与えているに過ぎなかった。
7.14 バスケット価格低下と100万BPDの生産調整
2004年の原油価格は原油の強い需要で高騰した。政治不安、主要生産地での治安問題それに強い原油需要が重なって10月には原油価格は心理的な水準バレル当り55米ドル($55/BBL)を越えたが、年末に向けて最終的にゆっくりと沈静化した。バスケット価格が$35/BBLまで下落した為にOPECは2005年1月1日から100万BPDの生産調整を行う事を決定した。
OPECは現在、2005年の需要は減退すると考えており、2005年の需要の伸びは2003年に経験した250万BPDから経済成長の低下で150万BPDと相当に落ち込むと考えている。「中国需要の伸びが2004年の記録的な14.2%から2005年は6.4%に下がる」と予想が出る程、実際の需要は明らかに落ちていた。しかしながら原油価格は2004年を通じて実際的には高く、2004年はOPECが需要を満たすために増産しなければならなかった程に原油市場は貯油余力を使い果たしてしまっていた。原油生産の予備能力が無い事が市場に不安を与えており、特に原油生産地域での生産を妨げる治安問題がある上にOPECの2005年1月からの100万BPD生産調整は市場に心理的影響を与えていた。
ナイミ石油鉱業相は「原油価格が$40/BBLから$50/BBLの間であれば2005年の原油価格はこの巾に保たれるだろう。これは在庫、供給、需要および安定した市場志向等を勘案した推定である」と述べ、「少なくとも当面は安い原油価格の時代は終わった。」と強調した。又、同相は「サウジアラビアは原油価格沈静化の為に150万BPD増産出来るし、2009年までには1,250万BPDまで生産能力を増強する。もし、必要ならサウジアラビアは生産能力を今後15年以内に生産量を1,500万BPDまで増量し、その能力を今後50年間維持する事が可能である」と述べた。その一方で「高価格は昨年比で2%多いガソリン需要の急激な伸びに起因しており、主要消費国の製油能力がネックなっている。又、サウジアラビアおよび他のOPEC加盟国が価格を制御する能力は大きな投機資金の影響が増した事で弱まっている」とも指摘した。
7.15 ゴールドマン サッチスの$100/BBL越えの予測
ゴールドマン サッチス(Goldman Sachs)のアルジュン ムルティ(Arjun Murti)氏は「原油価格はスパー スパイク(Super Spike)の初期であり、以前に推定していた様に、特に米国と中国の原油需要と経済成長の強さに支えられて$80/BBLから$105/BBLの価格帯まで値上がりするだろう」との予想を出した。IMFも「中国やその他の発展途上国の生活水準の向上で原油価格はこの数十年間は高騰し、US100/BBLでもおかしくない」と述べた。ゴールドマン サッチス(Goldman Sachs)が$100/BBL越えのこの予測を出した為の投機で2005年3月31日に原油価格が高騰し、ニューヨーク(New York)の原油価格は$55.55/BBLをつけた。
7.16 サウジアラビアの1,500万BPDへの増産努力
2005年4月に世界エネルギー会議(WEC、the World Energy Council )は 「エネルギー消費爆発で2025年までには世界の原油需要は40%増しの1億1千万BPDまで上昇すると考えられる。特に中国での原油需要の伸びが注目される。OPECの現在の生産量が2,900万BPDだとすればOPECは2025年までに4,500万BPDまでに増産する必要がある」との見方を出した。これに対し、ナイミ石油鉱業相は「サウジアラビアは巨大な埋蔵量で今後70年から100年に渡って主要原油供給国であり続け、顧客に対して顧客が追加して原油が必要で或る限り減産はしない。現在の生産量は顧客の需要に合わせて950万BPDまで増産しており、1,100万BPDまでは増産できるし、2009年初めまでには1,250万BPDまで生産能力を向上させる。もし、必要ならサウジアラビアは生産能力を今後15年以内に生産量を1,500万BPDまで増産し、その能力を今後50年間維持する事が可能である」と述べた。
7.17 消費国の精製能力不足とOPECの価格沈静化への限界
OPECは「消費国と石油業界に原油価格を$55/BBLに引き上げている製油所能力を増強すべきである」と警告し、7月1日から生産制限を50万BPD多い2,800万BPDとし、更に9月までに50万BPDと二段階の引き上げを行うと2005年6月15日に発表した。原油価格はOPECの増産決定にもかかわらず、米国原油備蓄が低下したとの公式資料が示され、供給不安が一気に高まり、引き続き上昇した。7月渡しのニューヨーク(New York)の原油価格は同2005年6月15日に$56.75/BBLまで値上がりした。ガソリンとジーゼルへの強い需要の継続、製油所能力への懸念と世界的な供給不安の為に、原油価格は新高値の$58/BBLをつけた。2005年6月初旬にOPECは公式生産制限である2,800万BPDとする合意を行ったが、値段を沈静化するのには失敗した。この原因は石油生産国が高値で売ろうとして、すでにOPECの生産量が生産制限を越えている為である。イラクを含めて、生産制限に縛られず、OPECはすでに3,000万BPD近く、世界需要の35%を既に生産していた。曖昧な生産割り当てにより生産を合理化する為のOPECの決定は市場から殆ど無視されてしまった。
7.18 第三次オイルショックと呼ばれるカトリーナの影響
メキシコ湾でハリケーン(Cindy and Dennis)の為に米国原油生産の10分の一以上が止まり、2005年7月6日のニューヨーク(New York)での原油価格は新高値$61.35/BBLをつけた。これは6月27日につけた最高値$60.95/BBLを越えている。OPECの最も影響力のある加盟国であり、世界最大の埋蔵量を有し、最大の消費国米国への主要な供給国であるサウジアラビア高官の言として7月6日にマスコミは「OPECは西欧の石油需要にこの10年から15年で対応しきれなくなるだろうと警告している」と報道している。又、これとは別にサウジアラビアエネルギー担当の高官の言として「2020年には世界が必要とする需要とサウジアラビアが賄える供給量の間には450万BPDのギャップがある。サウジアラビアは現在950万BPDを生産おり、消費国に対して2009年に1,250万BPDの供給を保証しており、最終的には供給量を1,500万BPDにまで引き上げる。」とファイナンシャル タイムス(Financial Times)は伝えている。しかしながら同紙は「西欧のエネルギー担当高官が現在以上の生産量達成は非常に難しい」と述べているとも伝えている。
8月終わりに超大型ハリケーン カトリーナ(Hurricane Katrina)がガソリンなど石油製品の生産拠点であるメキシコ湾岸に襲来した。この為に供給不安が台頭し、指標銘柄は2005年8月28日夜の時間外取引で60ドル/バレル台であった原油価格は一気に$70.80/BBLをつけ、初めて70ドル/バレルの大台を突破した。米政府が原油の戦略備蓄取り崩しを検討しているとの情報から当面の利益確定を目的とした売りが入り、60ドル/バレル台後半へ水準を戻した。しかしながら、翌2005年8月29日、米国史上最大級のハリケーン(Hurricane Katrina)がメキシコ湾の石油ガス生産施設に打撃を与えた為に原油価格は$70/BBLを越えるまでに上昇した。カトリーナ(Katrina)はさらに100万バレルの製油所能力を止めさせている上に石油会社がメキシコ湾でハリケーンカトリーナの被害を受けた採油人工島や製油所を調べるに連れて明らかになった被害の甚大さで原油価格は2005年8月30日に$70.85/BBLまで一時高騰した。経済専門家はこの状況を1973年および1979-1980年に次ぐ、第三次石油ショックと呼ぶのを憚らないが、それが前ほど世界経済に影響を及ぼすことは無いと考えた。
ハリケーン カトリーナ(Hurricane Katrina)来襲後の急速な原油価格の高騰に対してOPECは市場沈静化の為に更なる対策として50万BPDの増産を10月に行うことを決定した。一方、国際エネルギー機構(IEA、 the International Energy Agency)は30日間にわたってその備蓄から200万BPDを放出し、日本もその6,000万バレルの12%の放出に同意した。
原油価格が$68/BBL近傍に留まっており、OPECの適正価格帯は機能してなかった。率直に言って、もはやOPECは指導権を持たず、原油価格を制御する力をOPECは失った。OPECはその設立の1973年以来、生産割り当てを強制する力は無く、世界の確定埋蔵量の四分の一を有するサウジアラビアが主要産油国であり、唯一生産余力があり、原油価格を制御する力を残していた。需要の緩みとハリケーン被害からの製油所の修復の遅れの期待薄でガソリン先物が値下げするに連れて原油価格は下がり、2005年9月9日には米国軽質油は$64.10/BBLまで下がった。サウジアラビアはもし必要であれば増産すると公約したが、世界の消費者が一番必要としているのはガソリンや燃料油の様な精製油である。スルタン(Sultan)皇太子は「米原油が$70.85/BBLの高値となった原因は世界の製油能力の不足で、そこに供給する原油の不足ではない」と消費国を非難し、「サウジアラビアは原油価格に値上がりに関しては増加する需要に対して不足の起こらないように最大限に努力している」と述べた。
7.19 高いエネルギー価格の吸収と原油価格の沈静化
OPECは高値で需要が伸び止まっているのもかかわらず、2005年の需要予測を120万BPD増やし1.4%増しの平均8,330万BPDとした。需要の落ち込みでの値下がりにもかかわらず、この高い数字は発展途上国からの力強い成長の資料、特に米国および太平洋OECD諸国等の世界経済の明るい見通しおよび中国の明白な需要の復帰によって支えられていた。金融政策の許容、低いインフレ率および工業生産の増加による世界経済の健全な発展、家族資産の高い水準が消費者に高いエネルギー価格を吸収させ、エネルギー効率の向上が工業生産コストへの打撃を和らげられていた。「2005年の世界経済の成長率は4.3%まで上がっており、2006年には4.1%が期待される。高いエネルギー価格とアジアの発展途上国での補助金の削減の影響は未だにはっきりはしていない。さらに利率の引き上げの過程にある米国経済の回復のはっきりしないが米国消費の伸びに対する遅れが中国やアジア諸国の輸出や投資に影響するだろう」とOPECは言う。OPEC原油のバスケット(Basket)価格は$55/BBLから2005年11月15日には$50.01/BBLまで下落した。
7.20 イラン、ナイジェリアの緊張、ロシアの供給削減等の影響
2006年1月17日にイラン、ナイジェリアの緊張、ロシアの供給削減等からの供給不安でニューヨーク(New York)の2月原油が2005年10月3日以来の三ヶ月ぶりの高値$65.48/BBLをつけた。最高値は$65.53/BBLであった。OPECによれば2006年の世界需要は1.9%増しの8,480万BPDであり、OPECは2,870万BPDでNon-OPEC諸国の生産が5,150万BPDと予想していた。
イラン、ナイジェリア、ロシアのからの供給不安で昨年の記録的高値$70.85/BBLから余り離れてはいない約$64/BBLと原油価格は頑なに高い。この為に、数ヶ月に渡って3,000万BPD近くをOPECが生産し、需要の減少する春に入るにもかかわらず、世界需要の三分の一を生産しているOPEC諸国は生産制限を2,800万BPDに保ち、25年来の高生産を続ける事を2006年1月30日に合意した。
7.21 原油の生産余力と消費国の精製能力不足
世界最大の原油輸出国であるサウジアラビアのナイミ石油鉱業相は「サウジアラビアは供給不足に対応するために200万BPDの生産余力を持っており、短い期間で十分な量の追加供給が出来る世界で唯一の国であり、世界的供給不足を鎮めるためにその生産量を支え続ける。それが有効に機能する為には世界全体での生産余力は500万から700万BPDあるのが好ましいと思う」と2006年2月7日に述べた。
さらに同相は「原油高値の背後にある主要な原因である世界的な製油能力の不足であり、その一部を補う為にサウジアラビアは中国、韓国でおよび国内の合弁会社を通じて5年以内に製油能力を600万BPDまで増やす。それらの製油所の幾つかは米国およびヨーロッパの厳しい環境基準に見合ってガソリンおよびその他の石油製品を生産できるだろう」と声明した。その一方で、米国ブッシュ政権の「2025年までに中東からの米国石油輸入を75%まで削減する」との発言等米国の非協力的な動きを批判した。
7.22 供給不安を生む治安、国際問題
2006年2月7日に「米国エネルギー備蓄が上昇し、専門家がイラクの核エネルギー論議を巡って供給が緩む」との見方で原油価格は下落し、ニュヨーク（New York）の原油価格は3月渡しが$63.70/BBLであった。
2006年2月24日アルカイダ系テロリストがアブケイクにある世界最大の石油施設を自爆攻撃した。サウジ治安当局は「治安部隊が少なくとも２台の不審車両を発見し、銃撃戦となり、治安部隊が武装した男数人を殺害した。2台のうち１台の車両が主要施設から約1.5km離れたゲートで爆発したが油田施設には被害はなかった」と公表した。施設への攻撃情報を受け米国の原油価格は同日、一時バレル当たり2ドル上昇し、$62.85/BBLをつけた。この様に最近でもサウジアラビアでは治安問題がおきている。2006年3月2日ナイジェリアの反乱軍による英米人人質事件、シェル従業員の脱出避難等と共に石油の価格/供給の安定を脅かしている。
2006年3月8日にOPECは原油価格を消費国の順応できる範囲内に留める為に原油価格の緩む春季であるにもかかわらず、生産量を2005年7月以来の限度2,800万BPDで維持し続ける事を決めた。その一方で国際原子力機関 (IAEA、International Atomic Energy Agency)から警告を受けているイランの原油輸出制限の動きが不安定要素となっている。これに加えてナイジェリアとイラクでの輸出妨害等で多少の上昇があり、3月中旬までは原油価格は$60/BBL前半であったのが3月末に向けて徐々に上がっており、米国ガソリン在庫が減少した事で2006年3月28日に米国の原油価格は$66.07/BBLまで上昇している。
8.1確定埋蔵量
2005年初め時点で、サウジアラビアには2,619億バレルの原油の埋蔵が確認されている。この量には旧中立地帯のサウジ分割地帯の埋蔵量を含み、世界の確定埋蔵量の約四分の一に相当する。サウジアラビアの原油埋蔵量のおよそ三分の二は軽質あるいは超軽質原油であり、残りが中質および重質原油である。
8.2 サイモンズ氏の絶頂期論
「巨大油田ガワール(Ghawar)では確定埋蔵量の48%を生産して来ており、サウジアラビアの油田全体での平均減退率は28%と推定している。何かあったとしてもサウジアラビアの埋蔵量は過小評価されているとしても過大評価されている事はない」とのサウジアラムコの楽観的な原油埋蔵量と将来の生産の評価対して2004年2月24日に米国ブッシュ政権の顧問であり、エネルギー投資銀行顧問でもあるマッテュ サイモンズ氏(Matthew Simmons)が「サウジアラビアの驚異的な石油供給能力(Saudi Oil Miracle)は絶頂期(Peak Oil)を過ぎつつある」とサウジアラビアのエネルギー供給見通しを報告(the Center for Strategic and International Studies)を公表し、多くの米国専門家を驚かせた。
サイモンズ氏は同報告の中で「サウジアラビアの5つの巨大油田は1940年から1965年の間に発見され、それらの生産量はサウジアラビアの90%を占めている。それらの油田は既に最盛期を過ぎている。ガワール油田(Ghawar)は世界最大の油田で1948年から1952年の間に発見され、サウジアラビアの生産量の55%から60%を担っている。サウジアラビアで一番新しいシャイバ油田(Shaybah)の発見でさえ1967年である。これらの巨大油田は生産の絶頂期を過ぎており、もう間も無く、安定した生産の減退が始まる。その一方でその減退を補う次世代の油田からの生産は難しく、巨大油田の多くの支脈の油層や主要油層の上下からの採油も可能ではあるがやはり困難ではある。この為には小さなこれまで生産して来なかった油田からも採油しなくてはならない。全世界はサウジアラビアが原油不足を補ってくれると理解しているが、もしそれが不可能な場合、世界は大エネルギー危機に瀕してしまう」と指摘した。
8.3 サウジアラムコの反論
これを否定する為にサウジアラムコ(Saudi ARAMCO)は探鉱担当副社長モハムウド アブドル バク氏(Mahmoud Abdul-Baqi)と油層管理部長ナンセン サレリ氏(Sansen Saleri)を米国に派遣し、「サウジアラビアは全く異なった見通しを持っており、サウジアラムコは今後50年以上に渡って原油を供給出来、2004年2月の生産量1,000BPDをこの後、1,200万BPD、1,500万BPDと増産し、2054年過ぎまでこの水準で供給を続けられる。サウジアラビアでは採油の困難さが原因で価格暴騰する様なエネルギー危機は有り得ないし、原油価格も原油供給も安定させるし、最悪の時代でも10年、15年掛けて価格が漸増して行くに過ぎない」とサイモンズ氏に反論した。
マッテュ サイモンズ氏(Matthew Simmons)がその著書「沙漠のたそがれ(Twilight in the Desert)」の中で「サウジアラビアの原油生産はまもなく減少に向かう。原油価格はこの二年間の間に特に中国および印度の需要で劇的に上昇しているが世界最大の原油埋蔵量を持つサウジアラビアの生産が減少したら何がおきるか。このシナリオはそれほど遠い将来の話ではない」と述べているのに対して、2005年7月にサウジアラムコ社長アブドッラ ジュマ氏（Abdullah Jumah）も「サウジアラビアは2,600億バレルの確定埋蔵量があり、それを定常的に増加させている。推定埋蔵量を継続的に確定して行く、世界最大の産油国であるにもかかわらず、長年にわたって生産分を追加確定埋蔵量で補って来ている。サウジアラビアは未開発地域にさらに2,000億バレルの原油が埋蔵されていると推定している」と反論している。
8.4 サウジアラムコの埋蔵量論への疑問
サウジアラムコのサイモンズ氏への反論に対して疑問を持つ専門家も少なく無く、サウジアラムコ(Saudi ARAMCO)とシェブロン(Chevron)の最高幹部であり、二回のイラク戦争の間、湾岸原油に関する米国政府顧問であったエドワード プライス ジュニヤ氏(Edward Price Jr.)は幾つかの資料に疑問を持ち、「20年前に米石油メジャー4社から派遣されていた地質技術者による詳細検討の結果はサウジアラビアには『新規の石油資源発見の可能性は殆ど無い』と既に結論付けている。従ってサウジアラビアは1,200万BPDの生産を数年間は続けられるがそれ以上の生産量を期待出来ず、世界市場は2015年までに供給不足におちいる」と批判した。
国際エネルギー機関(IEA、the International Energy Agency)の主席経済評論家ファティ バイロル氏(Fatih Birol)は「サウジアラビアは大規模な外国投資が無い限り、将来の需要に十分な原油増産は出来ない」と分析している。サウジアラムコにも1,200万BPDへの増産が急速な油層圧の減退や油層水の急激な浸入等で油層に傷め、10年以内に油層に打撃を与えるのでは無いかとの懸念を持つ専門家もいる。その一方でサウジアラムコと同様に原油価格が上がれば探鉱・採油にさらに進んだ技術が導入できるので供給不足は避けられると楽観する専門家も少なくない。
8.5 サウジアラムコの埋蔵量評価
2005年4月から5月に掛けて、ナイミ石油鉱業相（Dr. Ali Al-Naimi）は「1970年代初めに世界は原油枯渇の時代に急速に近づいていると予測した人達が居た。原油が無くなってしまうと思われた時期に世界の原油埋蔵量は増え続け、1970年の5,500億バレルから今日では1兆2千億バレル以上に増えた。これは世界がこの間に8,000億バレル消費して来た中での増大である事に注目すべきである。サウジアラビアの場合、確定埋蔵量は1970年に880億バレルと推定されていた。2002年末までの世界の原油埋蔵量は1億5百万バレルでその内の65%に当たる6,860億バレルが中東に散在している。サウジアラビアは35年間の生産にもかかわらず、控えめに見積もっても2,640億バレル以上の確定埋蔵量がある。昨年だけでも150億バレルの埋蔵量を追加した
サウジアラムコ(Saudi ARAMCO)がこの市場で主要な役割を担うのは明白である。サウジアラムコの現在の操業は85油田、320油層で世界の埋蔵量の25%を有する150万平方キロに広がっている。2005年5月の生産量は原油1,000万BPDでガスが96億立方フィートである。サウジアラムコの政策は生産した分に見合う埋蔵量を探す一方で5兆立方フィートのガスの埋蔵を加えている。サウジアラビアは2005年初めでの既存の原油確定埋蔵量2.610億バレルを今後、未開発地域で2,000億バレル新たな原油埋蔵量を追加できるだろう。そして生産量を1,500万BPD（バレル/日）まで増産しても今後70年から100年は供給を続けられる」とサウジアラムコの埋蔵量評価について公表している。
8.6 その後の論議
2004年の初めにサイモンズ氏が投げかけたサウジアラビアの原油埋蔵量に対する疑問は論議を呼んだがその後は余り論議されなくなっている。これは原油価格の高騰で探鉱・開発生産コストが十分に見込まれ様になり、最新の技術を駆使してマージナルな油田や老朽油田からの回収に相当の費用を掛けて採油しても採算がとれる様になった事が大きいと思われる。1960年代にサウジアラムコの原油は1ダイム原油(one dime crude)と呼ばれた様に探鉱・開発生産コストはバレル当たり十分の一ドルであったといわれていた。2005年にはナイミ石油鉱業相が原油に占める探鉱・開発生産コストは15ドルであると説明している。サウジアラムコは又、「原油生産能力1BPD当たりの新規投資は世界的には$10,000/BPDから$20,00/0BPDであるがサウジアラビアの場合は既存油田地帯で$2,600/BPD、シャイバ油田で$5,000/BPDと他の地域に比べ遥かに安価である」と公表している。このコストも今後はさらに増えるのは確実であるが、現在の様に原油価格が$60/BBLを越える情況では更に探鉱・開発生産コストを掛けられるので可採埋蔵量は増え続けるであろう。
2006年3月23日にアリ アル ナイミ石油鉱物相はハラダ第三プロジェクトの開所式で「サウジアラビアは世界市場に信頼される供給者として役割を保証する為にサウジ政府は少なくとも150万BPDの生産余力を確保する方針である。現在の歴史的高値が現実的に世界経済の成長を阻害しては無く、原油需要の増加が弱まるとは見ていない。サウジアラビアはこれから2030年に掛けて原油需要は50%増加すると予想している」と公表している。
2006年3月25日にはダハラン(Dhahran)の石油鉱物大学(KFUPM、King Fahd University of Petroleum and Minerals)内のアブドッラ国王科学公園（the King Abdullah Science Park、Techno-Valley）に最先端の石油鉱業科学研究所がナイミ石油鉱業相とシュランベルジャー（Schlumberger）会長兼CEOのAndrew Gould氏の立会いの下で開所した。この研究所はシュランベルジャー（Schlumberger）とサウジ国内のKFUPM, サウジアラムコ(Saudi Aramco) およびアブドルアズズ国王科学技術都市(KACST、 King Abdul Aziz City for Science & Technology )の技術者の協力よって最新の石油開発技術を駆使しての石油埋蔵量の増加促進に貢献する為に設立された。
しかしながら大油田の発見の可能性はますます無くなっているのも自明である一方、中国、印度、東南アジア等の工業化しつつある国々の原油需要の伸びには石油埋蔵量の増加はとても追いつかないと考える。
9.1サウジアラムコの増産計画
2003年におけるサウジアラムコ(Saudi ARAMCO)の原油平均生産量は810万BPD、天然ガスガス生産量69億立方フィート/日であり、確定埋蔵量は原油2,594億バレル、天然ガス234.5兆立方フィートであった。2004年末の生産能力は1,100万BPDであり、遅くとも2009年までには500億ドルを投資して生産能力を1,250万BPDに増強する計画をサウジアラムコは進めて来ている。
サウジアラムコは石油資源を管理する重要な任務を持ち、「予想される原油需要に対して常に150-200万BPDの生産余力を維持する」と云うサウジアラビアの政策に基づいて増産計画を実施している。この為に、増加していく世界的なエネルギー需要の伸び、原油市場の変動や混乱に対応して、既に幾つか油田の開発や生産強化のシナリオをサウジアラムコは立てている。
中長期需要見通しによって定期的に改定し、必要であれば現在の生産中の油田の能力を維持する作業に追加して、実行できる十分な体制をサウジアラムコは整えている。サウジアラムコは開発すべき油田とその時期を熟知しており、必要があれば増産に応じられえるし、サウジアラムコの原油埋蔵量はそれを許容できる。少なくとも今後50年間は日産1,000万バレルを生産し、生産量を1,100万BPD、1,200万BPDそして1,500万BPDと増加させるシナリオにも対しても作業しており、対応できる。
天然ガスの需要は2005年初めには75億立方フィート/日であるが、2025年までに120から140億立方フィート/日の生産が必要であるとサウジアアラムコは予想している。
9.2上流部門の設備増強更新プロジェクト
サウジアラムコ(Saudi ARAMCO)は5ヶ所の上流部門のプロジェクトを2003年以降の5ヶ年に計画し実施している。これらのプロジェクトは増産ではなく、現在の生産水準を継続するのが目的で1990年代初期に実施する予定で居たが財政逼迫の為に延ばされていた新設、拡張、増強等である。これらのプロジェクトに対する資材費と役務費に対するARAMCOの出費は2007年までに180億ドルと予想されていた。
生産水準を継続とはこれらの油田の生産を開始するとこれまで生産してきた他の油田の油層を休ませる為に長期生産停止保存(Mothball)する事を意味している。その代わりにそれらの油田はもし世界需要が十分に上がれば生産する新しい生産余力を増やすのに使われる。
これらのプロジェクトには陸上油田のクールサニヤ油田(Khursaniyah)、ヌアイイム油田(Nuayyim)、海上のマニファ油田(Manifa)、クライス油田(Khurais)アブ ハドリヤ油田(Abu Hadriyah)が含まれる。
① 1993年から生産を開始したクールサニヤ油田(Khursaniyah)はアラブ中質原油(Arab Medium)を15万BPD生産できる能力があるが5万BPDが操業停止されていた。サウジアラムコは埋蔵量35億バレルのクールサニヤ油田の生産は2007年までに50万BPDまで増産できると期待している。サウジアラムコはAFKと呼称される陸上のアブ ハドリヤ油田(Abu Hadriyah)、ファドヒリ油田(Fadhili)およびクールサニヤ油田(Khursaniya)の開発を特に急いでいる。
② リヤド南に位置する埋蔵量10億バレルのヌアイイム油田(Nuayyim)は1994年からサウジアラビアが生産を開始したナジド油田群(Najd)の一つである。この油田群にはホウタ油田(Hawtah)、ハズミヤ油田(Hazmiyah)、ギナ油田(Ghinah)およびウム ジューフ ヌアイイム油田(Umm Jurf Nuayyim)油田が含まれ、ハウタ油田(Hawtah)の施設を使って1997年1月から限られた生産が行われている。1995年に延期された建設費1億8千万ドルのヌアイイム油田(Nuayyim)の7万5千BPDの能力を持つガス/油分離プラント(GOSP)はサウジアラビアのアラブ超軽質原油(Arab Super Light)の生産量を27万5千BPDまで押し上げる。
③ 海上油田であるマニファ油田(Manifa)の生産量30万BPDまでに増産する計画も1990年代初めに延期されていた。この油田は100億バレルの確定埋蔵量を持っている。アラブ重質原油(Arab Heavy)を生産するこの油田の現在の生産量は20万BPDである。このプロジェクトには20基以上の海上構築物、数ヶ所のガス/油分離装置(GOSP)、処理プラントおよび膨大なフローライン(Flowlines)と長距離パイプラインを含んでいる。
④ クライス油田(Khurais)増強計画では2008年までにアラブ中質原油(Arab Medium)油の生産能力を10万PDから120万BPDに増産する予定で居る。このプロジェクト(Project)は総額31億ドルでこの事業には一基当たり20万BPDの処理能力を持つ、6ヶ所のガス/油分離装置(GOSP)の建設が含まれている。クライス油田(Khurais)は1960年に初めに生産が開始されたがその後アラムコによってモスボール(Mothball)されていた。
⑤ アブ ハドリヤ油田(Abu Hadriyah)はクライス油田(Khurais)と共に1993年に長期生産停止保存（Mothball）され、増強(Upgrade)する計画は延期されていた。埋蔵量18億から20億バレルのアブ ハドリヤ油田(Abu Hadriyah)、クライス油田(Khurais)および埋蔵量10億から14億バレルのアル ファディリ(Al-Fadhili)合わせて50万BPD以上の軽質原油(Arab light crude)の増産が見込まれ、10億ドルから15億ドルで開発できると見積もられている為に開発計画を前倒しに行った。
9.3上流部門のメガプロジェクト
この他にもサウジアラムコでは2つの大きな上流プロジェクトを既に進めていた。これらは2005年までに生産量を1,100万BPDに引き上げる為の計画であり、アラブ軽質原油(Arab Light)は陸上のカティーフ油田(Qatif)とガワール巨大油田(Giant Ghawar field)のハラダ(Haradh)地区の増強からそれぞれ50万BPDおよび30万BPD合計80万BPDの増産が得られ、アラブ中質原油(Arab Medium)は2004年末に完成した海上のアブ サアファ油田(Abu Saafah)から30万BPDの増産が得られた。
カティーフ生産設備増強計画(QPFDP、Qatif production facilities development program)として知られる12億ドル事業にはカティーフ油田(Qatif oilfield)とアブ サアファ油田(Abu Saafa oil field)の為のガス処理設備および原油安定化装置と二基のガス/油分離プラントの建設が含まれている。サウジアラムコはカティーフ油田50万BPDとアブ サアファ油田の追加生産は全体の生産能力を増加させるのでは無く、サウジアラビアの至る所の生産の代替として迫られていたが、最近、サウジアラビアが世界の石油需要の急激な増加に対応する生産余力のクッションを維持する為にカティーフ生産基地操業を予定よりも繰り上げて2004年12月26日から開始した。この事業では既に生産を行っているアブ サアファ油田の15万BPDに65万BPDの生産量を追加し、カティーフ生産基地は80万BPDを処理する世界最大の石油生産施設となった。
2億8,000万ドルのハラダ第三次プラントは2006年2月までにダハランの南西280kmにあるハラダ油田（ガワール油田の最南端部）が生産するアラビア軽質原油(Arabian Light)の生産能力を90万BPDに増産する事を目的にしている。この目的の為にこのプラントにはハラダ(Haradh)にある既存の二基の30万BPD処理能力を持つガス/油分離装置(GOSP)（この内の一基は2004年1月に創業を開始した。）にさらに第三番目の装置としてアラブ軽質油(Arabian Light Crude)30万BPD処理プラントの増設が行われてきた。ハラダで既に生産している非随伴天然ガスの著しい量のガス、約17万BPDのガスコンデンセート(natural gas condensates)および硫黄とは別に、このプラントでは随伴ガス1億4,000万立方フィート/日(140 million standard cubic feet per day)を処理できる。ハラダ第三プラントには原油とガス製品を160 km北のアブケイク(Abqaiq)とウスマニヤ(Uthmaniyah)に移送するパイプラインも含まれている。このプラントの建設はアラムコが民間企業のフォスターウィラー(Foster-Wheeler)等の協力を得て遂行している。
2006年3月23日にアリ アル ナイミ石油鉱物相の列席の下にハラダ第三プラントの開所式が行われた。その席上で「今年1月に完成した5億ドルのハラダ第三プラントの操業開始でサウジアラビアの生産能力は1,130万BPDに増量された。サウジアラビアは現在950万BPD生産しており、世界市場に850万BPD供給している。サウジアラビアは信頼される供給者となる事を目指しており、世界の安定を願っている。この公約の一部は増加している需要に見合い、不予の供給不足を補う為に少なくとも150万BPDの生産余力を確保する事である」と同相は公表した。
サウジアアラムコが行った最後の大規模開発はアブダヒ(Abu Dhabi)国境の空白地帯沙漠にあるシャイバ油田(Shaybah)であり、1998年7月から50万BPDの生産を開始し、2008年までにはさらに30万BPDの増産を行う準備をしている。
サウジアラムコは2006年から2008年の間にクールサニヤ油田、シャイバ油田、クライス油田およびガワール油田ハウィヤ地区に対し、増産の為の各20億ドル規模の4大増強事業を始める計画を立て、メガプロジェクトと命名している。2006年3月23日にアリ アル ナイミ石油鉱物相は「サウジアラビアの生産能力は2009年には1,250万BPDに達すると期待している。この目標を達成する為にクールサニヤ油田(the Khursaniyah oilfield)は今年50万BPD生産し始め、シャイバ油田(Shaybah)とヌアイイム油田(Nuayyim)は2008年に35万BPD増産するし、クライス油田(the Khurais oilfield)は2009年に120万BPD生産し始めると期待している」と公表している。
前述の様にクールサニヤ油田(Khursaniyah) は2007年までに50万BPDまで増産できると期待されている。クライス油田(Khurais)拡張プロジェクトの入札を2005年9月に始められており、クライス油田増産計画(Khurais increment program)では2009年6月までにアラブ軽質原油(Arabian Light)の生産能力120万BPDの増強を目指している。他には前述の様にアラブ軽質原油(Light crude)30万BPDを増産する為のアブダビ(Abu Dhabi)国境陸上のシャイバ油田(Shaybah)第二次増強事業があり、さらに開発中のヌアイイム油田(Nuayyim)で10万BPDの増産を期待されている。
9.4 海上油田の増強
2005年8月にサウジアラムコはUAEのNPCCと海上のサファニヤ(Safaniya)の北部で42基の原油汲み上げ用浸油式電動ポンプ(Electric Submersible Pump)を7つの海上構造物にある抗井に据付ける工事を発注した。この海域のマールジャン油田(Marjan,)、ズルフ油田(Zuluf)およびサファニヤ油田(Safaniya)の5基の抗井様の新設海洋構造物、3基の既存構造物構造物の廃棄、口径24”および16”の21kmのフローライン、マールジャン油田用の海洋ガス/油分離装置(Offshore GOSP)の新設の設計、調達、組み立てを同じく2005年8月から始めていた。
サウジアラムコはアブドラ アジズ（イブン サウド）国王がサウジアラビアを1932年9月23日に建国して以来、オイルマネーでこの国の財政を支え来た。沙漠地帯でオアシスでの細々として農業と広く散らばった駱駝、ヤギ、羊の放牧で生業を立て、部族毎に細かく分かれて争いの絶えなかった現在の国土が今では石油鉱業を中心として工業化と大規模農業化が目覚しく進展し、全国津々浦々までハイウェイと送電線が走っている。オアシス農業や遊牧の伝統は無くなりつつあるが、この10年来は外国人に頼って来た労働力のサウジ化を強力に推進し、工業都市化のみでは無く、高度商業都市化や観光開発を目指すイスラム近代国家を目標と進んで来ている。
しかしながら、サウジアラビアの国家基盤は石油輸出によるオイルマネーである事には代わりが無い。従来、そのオイルマネーを安定的に確保するする為に代替えエネルギーが採算に乗る以下の値段をバスケット価格帯として設定し、原油価格が上がり過ぎも下がり過ぎもしない様に世界的原油供給のスイングプロデュサーとして原油の供給をサウジアラムコは調整して来ている。それがエネルギーの適正値段での安定供給と言う意味で世界経済の発展に貢献した役割は大きい。
サウジアラムコは前社長のナイミ博士(Dr. Ali Ibrahim Naimi)が1995年に石油鉱業相( Minister of Petroleum and Mineral Resources) に任命されて以来、上流部門の原油・ガス開発だけでは無く、下流部門の石油精製および石油化学を合併統合し、外資導入や民営化を先導する国営企業としてさらに発電、造水にも影響を持ち、サウジアラビア経済での地位を一段と高めている。
サウジアラムコの最大の武器がその保有する原油埋蔵量にある事は言うまでも無いが、サウジアラムコの力はその前身のカソク(CASOC)が1933年に操業を開始して以来、営々と育成して来たサウジ人テクノクラート集団にある事は周知の通りである。石油鉱業相アリ アル ナイミ博士をトップとするそのテクノクラート集団が石油関連の広範囲な企業を融合し円滑に運営して行くサウジアラムコの大きな原動力となっている。
2002年1月から始まり、2005年8月30日に$70.85/BBLまで値上がりした原油価格急騰はサウジアラビアの増産努力の最中の事であり、「その原因としては消費国特に米国の精製能力不足、イラン、イラク、露西亜、ナイジェリア、サウジアラビア等での治安問題やハリケーン等の自然災害、埋蔵論論議等で大量の流動している国際投機資金が動き、直ぐに高騰すると言う情況がある」とされている。しかしながら、この原油の高騰は一過性のものでは無く、それぞれ13億人の人口を持つ中国、10億人の人口を持つインドおよび東南アジアの工業国としての台頭があり、その人口が先進8カ国並にエネルギーを消費し始めていると云う底流があり、世界で唯一、生産余力を持ち、スイング プロデュサー(the Swing Producer)として増産に努めているサウジアラビアの影響力にも陰りが出て来ているし、原油価格が更に高騰する可能性も大きい。
エネルギー価格が上がれば、埋蔵量5.25兆バレルといわれ、その66%がオリノコ川流域の(Venezuelan Orinoco)とカナダ アサバスカ(Canada’s Athabasca)に埋蔵されているタールサンド(Tar Sand)、埋蔵量1.6兆バレルでその大半が米国のコロラド(Colorado)、ユタ(Utah)、ワイオミング(Wyoming)等に埋蔵されているといわれる含油頁岩(Oil Shale)、1.25X1017バレルともいわれるメタンハイドレート(Methane Hydrate)、原油埋蔵の10倍は存在するとされている石炭の液化等の原油・天然ガスと同様の炭化水素資源のみならず、 原子力も可能性を増しているし、風力、水力、波力、潮力、太陽光発電、燃料電池、バイオ燃料、バイオエタノール等大量には作れなくても補助的には十分に利用できる資源の可能性も急速に高まっている。
2000年2月のアラビア石油旧中立地帯沖合の石油利権消滅の後、日本とサウジの間の関係が冷えて来て居るにせよ、サウジに取って日本は輸出の14.5%、輸入の11.1%を占める第二の貿易取引国でもあり、対サ投資の18.5%に当たる30億ドルを投資している第二の外資投資国であるし、ペトロラビーグへの参加でこの比率はさらに高まる。日本にとってもサウジは原油の安定供給国としてエネルギー安全保証に重要な国であり、その原油、天然ガスへの施策については今後共、サウジアラビアとの関係は強化して行くべきである。
高騰したエネルギー価格は売れ行き好調なハイブリッド車に代表されるエネルギー節約技術や様々な代替えエネルギー技術の開発・技革新に大きな可能性をもたらしているとも言える。又、今後のサウジアラムコに取っても急増するアジアを初めとするエネルギー需要に対応し、サウジアラビアの発展に貢献するには今後は価格安定よりはむしろ高い原油価格を利用してこれまで開発していないマージナルな油田・ガス田を開発し如何に原油･ガスの安定供給を保証するかが役割になってくると考える。
The various accounts reported by Arab News.
Country Studies/Area Handbook Series sponsored by the U.S. Department of the Army between 1986 and 1998.
Country Analysis Briefs on August 2, 2005 sponsored by the Energy Information Administration of the U.S. Government.
History of Oil prepared by the Ministry of Petroleum and Mineral Resources of the Kingdom of Saudi Arabia.
World Oil Market and Oil Price Chronologies(1970 –2004) by Energy Information Administration of the U.S. Government in March 2005
Saudi ARAMCO and its world.
The Kingdom of Saudi Arabia published by Stancey International. |
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