「アシールの国」要件一覧

表題

ページ数

表 1 女性作者達

4

表 2 地形・地理

5

表 3 アシールの県

11

表 4 オスマン帝国のアシール州

12

表 5 十三世紀の分断支配

12

表 6 サウジ領へ

13

表 7 歴史的な場所

16

表 8 住人の祖先

22

表 9 定住人

24

表10 非定住民

25

表11 アブハー市

33

表12 アブハー県人口分布

34

表13 観光地

35

表14 建築様式

37

表15 建物利用

39

表16 装飾と塗装

40

表17 家具

42

表18 家庭用品

43

表19 囲炉裏用品

45

表20 台所用品

46

表21 掃除用品

48

表22 おもちゃ

49

表23 住居家具変化

50

表24 衣装

52

表25 衣装の例

55

表26 武器装飾

58

表27 武器装身具

60

表28 香料

62

表29 医療

65

表30 治療法

68

表31 化粧品

72

表32 食事

72

表33 料理

76

表34 飲み物

77

表35 婚約

78

表36 結婚

81

表37 出産

83

表38 成長祝い

86

表39 割礼

87

表40 宗教行事

89

表41 葬儀

91

表42 社会通念変化

93

表43 社会関係

96

表44 対話、歌と踊り

107

表45 格言

112

表46 昔の教育文学

118

表47 教育の普及

122

表48 文学の発展

125

表49 農業牧畜

128

表50 交易の営み

134

表51 養蜂

137

表52 伝統産業と雇用

138

表53 交通手段

140

表54 電力通信及び情報

143

表55 出典と参照

146

 

表1　アシールの国を著述した三人のサウジ女性

① ノウラ

アミラ・ノウラ・ビント・ムハンマド・サウード (Amirah Noura bint Muhammad al Saud)

　

  資格：　キング・サウード大学1973-1974年度アラビア語学科文学免許

　

　業務及び活動：　アブハー南部慈善婦人会総裁

　

　担当：　地理、歴史、人文、出典参照

　

　人柄：　力量があり、調査活動を行った数多くの専門家に相談し、その意見を聴取した努力

② ジャウハラ

 ジャウハラ・ムハンマド・アンカリ(Al-Jawharah Muhammad al-‘Anqari)

　

　資格：　レバノン、ベイルート・アメリカ大学1975-1976年度人類学科学位

　

　業務及び活動：　ジェッダ、 ファイサリヤ婦人会社会部門、アブハー南部協会、アブハー

　

　　　　　　南部婦人会会員、アブハー南部婦人協会およびアブハー女子教育単科大学講師

　

　新聞報道：　サウジ雑誌及び新聞の編集及び寄稿

　

　研究活動：　UNICEF（国連児童援助基金）

　

　担当：　構想の実現、住居、衣装装飾、香料医療、食事飲み物、習慣行事、民芸、

　

　　　　　　教育文学、産業、社会地盤および現地調査

　

　人柄：　想像の概念を実現する夢と能力と意欲を持つ女性

③ マデハ

マデハ・ムハンマド・アジュロウシュ(Madeha Muhammad al-‘Ajroush)

　

　研究活動：　UNICEF（国連児童援助基金）

　

　業務及び活動：　ジェッダ、 ファイサリヤ婦人会託児所、リヤード学校、UNICEF（国連

　

　　　　　　児童援助基金）計画課

　

　写真撮影：　1975年（ヒジュラ暦1395年）に自宅のスタジオで民間伝承の衣服や物の撮影

　

　　　　　　開始、撮影技術は米国およびレバノンで学習

　

　担当：　写真撮影

　

　人柄：　アマチュア写真家で教育、知性、気力、意欲を比類の無く兼ね備えた女性

 

表2　アシールの地形地理および動植物

① 位置と境界

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アシール('Asir)は南のイエメンから北はアカバ湾まで続いているアラビア半島西の山並みサラワート(Sarawat)一部であり、イエメン北部から北はバーハ(Bahah)州の州境のバーハ・ガーミド(Bahah Ghamid)まで続いている。これは北緯17度25分から北緯19度50分の間であり、南西の端の東経41度50分から300km北東へと延びている。この山脈の幅は35kmから45kmの範囲であり、その広さは約1万2千平方キロにおよぶ。アシールの名は中世に成って、特にサラート・アザド(Sarat al-Azad)を中心としたサラワート高地に住む部族同盟の名として使われた。やがてこの地はアシールとして知られる様になった。アシールの位置や境界は歴史の時々によって変わっており、ある時代にはジシ(Jishi)と呼ばれた。ジシの町はサラート・ウバイダとラフィーダ(Sarat Ubaydah and Rafeedah)にある涸れ谷ビーシャ(Wadi Bishah)の上流にあった。この町は外へとジャバル・シュクル・ガルビ(Jabal Shukr al-Gharbi)の麓に近い平地に2.5kmも広がっていた。彫刻された遺跡や岩そして住居跡等は今でも見られる（後述のJirshおよびJarashも涸れ谷ビーシャ上流にあり、このJishi地区の英文読みの異なりと思われる) 。この地の多くの山や谷の間に難路である細道や山道があった為、アシールの名はアラビア語で困難を表すウスル(al 'Usr)に由来していると考えている。アシールの名は現在ではザハラーン・ジャヌーブ(Dharan al-Junub)と呼ばれる涸れ谷・アリーン(Wadi al-Areen)から北のビラード・ハシャアム (Bilad Khash'am)まで、そして西の紅海岸から東のリマール・タスリース(Rimal Tathleeth)までを含む地を指すように成った。

② 行政区範囲

 

 

 

 

 

 

アシール地方はサウジアラビアの南西部の中央に位置し、北緯17度20分から20度50分、東経41度30分から44度30分の範囲にある。この地方の延長はおおよそ四百キロメートルである。アシール地方はジーザーン(Jizan)州のダルブ(al-Darb)、シュカイク(Shuqaiq)およびビーシャ(Bisha)県の南西から南東のイエメン(Yemen)国境そして北のリヤード(Riyadh)州ワーディー・ダワースィル(Wadi al-Dowasir)州境からメッカ(Makkah)州のランヤ(Ranyah)、バーハ(al-Baha)州のガーミド(Ghamid)およびザハラーン(Zahran)まで、又、メッカ州の海岸平地のクンフザ(al-Qunfudhah)付近まで広がっている。又、その州境は東側ではナジュラーン(Najran)州と接し、西側では紅海岸や クンフザ(al-Qunfudhah)県と接している。

③ 地形の特徴

 

 

 

 

 

アシールはユニークな地形特徴を持ち、それがこの地域に住む人の生活に重大な影響を及ぼして来た。アシールの地勢は現在の紅海を含む深い盆地を作っている連続した地質的変動を通して紅海岸の両側に沿って二つ平行して延びて聳える山並みを作り出した。この内の紅海の東側に連なる山並みはアラビア半島の西側と南から北へ交差して居り、この障壁の山並みはイエメンでは１万１千フィートに達しているが、アシール山系やヒジャズ山系と北に延びるの連れ次第に低くなっている。山並みの障壁はアシールを地形的にも住民に与える影響に関しても海岸地域と内陸地域を明確に二つの地域に分けている。

③-1 ティハーマ

 

 

 

ティハーマ海岸地域(Tihamah Coastal Area)

この地域は内陸側の山並みの障壁に近く、聳え立つ山々と紅海岸との間に位置している。各々の山が谷で別れ連続しては居ないがジバール・ティハーマ(Jibal Tihamah)と言う山塊を作っている。この山々は紅海岸の両側に沿って二つ平行して延びて聳える山並みよりも標高が低い。

③-2 内陸地域

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジバール・サラート(Jibal al-Sarat)地域および空白地帯(the Empty Quarter)に至る内陸地域

ここでは山並みの障壁はアラビア半島西のサラート山脈（サラワート山脈）の西の縁を形作る程、高く聳えている。これらの山々の斜面はティハーマに向かっては壁の様に急であり、東に向かってはなだらかに下っている。この壁の稜線は分水嶺に成って居り、片側ではティハーマに向けて谷が傾斜しており、半島側では空白地帯に向けて谷が下っている。ティハーマに向かって下っている谷の上流部分をアガバト(al-'Aqabat)と呼んでおり、住人はここからティハーマへと下って行く。これらの山々の中で スーダ(al-Sawdah)は海抜3,130 m (9,550 ft)である。この山の頂上一帯には スーダ村が広がり、平らな高原の様に見える。この高原はティハーマ側には急峻に下り、東には穏やかに下っている。スーダ山の近くには ファス(al-Fas)山があり、殆ど同じ高さで、ティハーマへと急勾配に下っている。アブハーから スーダ山への間にはガワ(Ghawa)山が標高8,500 ftで聳えている。ドゥッラア(Dhurrah)山がアブハーの南に高く聳え、タハッルル(Tahallul)山は スーダの北に横たわる。アガバト・シッアル('Aqabat Shi'ar)の近くにはバアルル(Ba'rur)山が立っている。

（注）スーダはソウダ或いはサウダ(As Sudah or As Soudah)とも転写される。

④ 気候

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アシールの標高と地勢の起伏が王国の他の地方と異なった別個の気候をこの地域にもたらして来た。最も重要な要素はアシール州が７月および8月が最も気温の高い熱い地域にあるアラビア半島西部に位置している事である。気温は標高に影響され、特に高山地帯では緯度よりも標高による影響の方が遙かに強い。1,000 ft高度を増す毎に気温は華氏3°F下がるので、標高8,000 ftでは最高気温が華氏80°F（摂氏27°Ｃ)であり、熱い夏の盛りでさえ、山々の気候は凌ぎやすい。9月のアブハーの平均気温は20 ～25℃であり、10月には18℃に下がり、一年の残りの月は15℃まで下がる。アシールは降雨に関しては王国の中で一番豊かな地方であると考えられており、しかも夏期に豊かな雨に恵まれている。この雨は北に行くに連れ少なくなり、例年は涸れ谷ヒラ(Wadi Hila)で終わる。降雨の殆どはサラートの山並みの急峻な西の傾斜地に降り、内陸に入るに連れて減って行く。ジーザーン(Jizan)を除いてティハーマ低地には雨は不規則で殆ど降らない。雨は通常、夕方に降る。普通、朝は輝く日の光で始まり、澄んだ空は雲が出来始める昼まで続く。その後に、雲が厚さを増し、夕暮れの後、時には驟雨と成って、時にはこぬか雨と成って降る。やがて、雲は散り、澄んだ空に再び戻る。アシールでの雨は一年中、何時でも降るけれど特に西および南の季節風に直接曝されている山地が年間の降雨量で最も大きな部分を占めている。冬場には重要な気象現象がアシールに起きる。ティハーマの谷々から霧が上がって来て山々の山頂に集まり、空をぼんやりさせ、視界を数メートルまでに遮ってしまう。霧は晴れるまでに何日も掛かる。

⑤ 動植物性

 

 

 

気候はその豊富な季節的な降雨に相応しいやり方で人間や動物、植物の生存に著しい影響を与えて来た。降雨の量と植物の広がりが直接結びついたアシール山岳地域において、これは著しく顕著である。アシールの大部分は植生が豊かであり、特に、山岳南部や西側の斜面では背の高い緑の樹木の密林や密生した草むらやその他の草木が繁茂している。

⑤-1一般的樹木

 

常緑樹のビャクシン(al-'Ar'ar Tree、Prickly Cedar)、 イツム(al-'Itm、Oleaster)、野生のオリーブ、棘のある シハラト(al-Shiharat又はal-Shawkiyyah)等

⑤-2 その他

　

　背の高い薬草

 

アチッリア ビィベルステイニイ(Achillea biebersteinii）　通常群生の形で見つかる羽の様な灰緑色の葉を持つ背の高い芳香を持つ薬草。

　赤いアロエ

 

アロエ ニエブホブリアナ(Aloe. sp.aff. Niebuhbriana）　最も美しいアロエで鮮やかな赤い花を付け、尖った葉を持つ汁気の多い植物である。

　黄色のアロエ

アロエ キャステロルン(Aloe Castellorum) 　鮮やかな黄色の花を加え、棘のある汁気の多い植物。

　脆弱な赤い花

ポッピィ(Papaver, Poppy) 　脆弱な赤い花は朝に短い期間開花するのみ。

　多葉のハーブ

 

ネペタ ディフラーシアナ(Nepeta Deflersiana)　 芳香があり葉の多い紫の花のハーブでアシールのどこにでも岩の間で見つかる。

　春の花

 

アントヘミス(Anthemis)とアチッリア(Achillea) 　アッシールの何処にでも見つけられ、春の花で自然の花束を作り出す。

⑤-3 浸食防止

 

上記の様に多くの植物が生えて居り、季節的な降雨のあった後、これらの森は土壌の浸食を防ぎ、土壌の水分含有量を保持する。

⑤-4 野生動物

この地域は野生動物が豊かに繁殖しており、素晴らしい事に多くの動物の生息地である。

　哺乳動物

狼、ハイエナ、豹、狐、マントヒヒ、ガゼル、アイベックス、野ウサギ

　爬虫類

蛇、トカゲ、カメレオン

　鳥類

鷲　

⑥ 棚畑農業

西側の斜面の伝統農法　

⑥-1 棚畑農地

 

 

 

 

西側の斜面では季節的な雨交じりの風を受け、絶えず毎年、雨が降っている。土壌は急な斜面を中腹や谷の両側、更に平原へと運び下ろされる。この結果、農地が散在し、砂やローム（Loam、砂と粘度の混じり合って柔らかい土）の堆積した場所を作り出した。農民は土壌の浸食を防ぐ為に山の斜面に農業用棚畑を作り上げて来た。緩やかに起伏する土地はこの地域の農業の形成に著しい影響を与えたし、丘に広がる小さな農場は平野の農場とは大変異なって居る。

⑥-2 農作物

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アシールで栽培できる農産物はその標高、特に温度の影響を強く受ける。        例えばナツメヤシは標高1,800 m以上では順調な生育は出来ないので高地での栽培は上手く行かない。アーモンドはこれと対象に高地の気候に合って順調に生育する。森林では例えば タルフ(al-Talh、棘のあるアカシヤ科）や野生のオリーブは標高900 -1,800 mの範囲で繁殖するのに対して、アルアル(ビャクシン)は標高1,800 - 2,200 mで繁殖する。アシールの高低の多い地形やその険しい細道や山道は農業生産物を作るのに大きく影響し、結果として農業生産は商品化作物よりもこの地方の需要に合わせる傾向を持ってきた。夏と冬の気温の違いが夏と冬の作物の多様性を作る重要な役割を果たしている。小麦、大麦そしてレンズ豆は冬に高地と高原で育つ。アシールでは冬でも気温は5℃以下には下がらないので作物は冬でも育ち続ける。トウモロコシ、真珠キビや胡麻は冬にティハーマで生育するが高原や高地では育たない。寒い冬に高地では育たない野菜でもティハーマでは生育出来、又、この逆も真である。農民は気候の変化に適応し一年を通じてこの地域に季節の作物を供給している。どの植物もある温度以上でも以下でも成長を止めるので温度は植物の生長に重要である。

 

表3　アシール州の九つの県と各県毎の人口分布

 

 

番号

県名

人口

県内の村、部落数

州の出張所数

1.

アブハー(Abha)

115,000

392

4

2.

 

ハミース ムシャイト(Khamis Mushait)

（シャハラン内、in Shahran)

173,222

465

8

3.

ムハーイル(Muhayil)

237,571

1,580

13

4.

ナマース(Al-Namas)

122,422

509

5

5.

ビーシャ(Bishah)

131,022

212

8

6.

タスリース(Tathleeth)

103,400

136

6

7.

サラート・ウバイダ(Sarat 'Ubaidah)

100,168

427

7

8.

サブト・アラーヤー(Sabt al-'Alayah)

77,344

218

6

9.

ザハラーン・ジャヌーブ(Dhahran al-Junub)

25,054

68

2

10.

アハド・ラフィーダ(Ahad Rafidaha)

　

　

　

11.

リジャール・アルマア(Rijal Alma’)

　

　

　

12.

マジャールダ(Majardah)

　

　

　

13.

バルカルン(Balqarn)

　

　

　

計

　

1,085,203

4,007

59

（注）2004年にFarsiから発行された「Asir Region」と云う地図ではサブト・アラーヤー県(ﺎﻳﻼﻌﻠا ﺖﺒﺳ  Sabt al-'Alayah)が無くなり、上記の

10、１1、12および13番の県が追加されている。

 

表4　グレゴリオ暦の十六世紀オスマン帝国支配下のアシール州（州都アブハー）の県

県名

県庁

概略

①ナマース(Al-Namas)

 ナマース(Al-Namas)

アブハーの北からクンフザの西まで

②ガーミド(Ghamid)

ラガダン(Raghadan)

ナマースの北で紅海岸のドガア港の東、クンフザの北に横たわる区域

③リジャール・アルマア(Rijal Alma’)

シュウバイン

(al Shu'bayn)

山脈の斜面の端からアブハーの西までの区域

 

④ムハーイル(Muhayil)

ムハーイル(Muhayil)

涸れ谷ハリー(Wadi Hali)上流ティハーマ山地

⑤クンフザ(Al Qunfudhah)

 

クンフザ(Al Qunfudhah)

 

紅海岸のジェッダ(Jeddah)南約230ｋｍ付近にあり、現在はメッカ州(Emirate of Makkah)に属し、涸れ谷カヌーナ(Wadi Qanunah)の河口域。

⑥サブヤー(Sabya)

 

 

サブヤー(Sabya)

 

 

ジーザーン港の北西部。サブヤーはジーザーンの北西ではあり、直ぐ北に位置している為、この帰属に関しては多くの論争が行われて来ている。アブー・アリーシュ(Abu 'Arish)はジーザーンの東の町である。

 

表5　ヒジュラ暦十三世紀初めの首長(シャイフ）や君主(Prince)による分断支配

支配者

支配地域

①ヤズィード(Al Yazid)

アブハー、シャ アフ(Sha'af)

②シュクバーン(Al Shukban)

ビーシャ(Bishah)

③イブン・ダフマン(Ibn Dahman)

バニー・シャフル(Bani Shahr)

④マシト・イブン・サリーム(Mashit ibn Salim)

カフターン(Qahtan)

 

⑤イブン・カルマラ(Ibn Qarmalah)

カフターン(Qahtan)

シャイフ・ムハンマド・イブン・アブドゥル・ワッハーブ(Shaykh Muhammad ibn 'Abd al-Wahhab) のヒジュラ暦1213年(西暦1798年/1799年)の復帰の呼びかけの受け入れ

受け入れた首長

支配地域

①サリーム・イブン・シュクバーン(Salim ibn Shukban)

ビーシャ

②ムハンマド・イブン・アデル・ワッハーブ・ムタミ(Muhammad ibn ‘Adel al Wahhab al-Muhtami)

タバブ(Tabab)

 

③ガラル・イブン・シャール(Gharar ibn Shar)

バニー・シュウバ(Bani Shu'bah)

④シャリーフ・ハムード・アブー・ミスマル(Shrief Hamud abu Mismal)

ミフラーフ・スライマーニーヤ(al-Mikhlafat al Sulaymaniyah)

（ジーザーン州の一地方）

 

表6　サウディ領への編入までの近代史

16世紀

 

 

 

 

 

 

 

グレゴリオ暦の十六世紀に、オスマン帝国が東に西にアラブの国にその支配を拡大し、北はガーミド (Ghamid)、西はドガア渓谷(Doqah)の端から北の クンフザ(al-Qunfudhah)を境界とするアシール州をこの帝国は作った。アブハーを首都とするこの州には表4に記載した6つの県が置かれた。オスマン帝国の統治の概念は単純であり、外敵から守り、税を徴収するだけで、属国の境界を越えて支配を広げる事は無かった。その他の事は帝国の管轄を越えていると考えられていた。その結果、信仰心の無さとイスラームやシャリーア法の無視が一般化し、力と権威を争う多くの競合する支配者が跋扈するこの地域では政治的分裂、混乱そして無秩序が広がり、互いに争いの絶え間が無い部族の間で相当な敵対と争いが起きた。分断政治の詳細は表5に記載。政治的緊張や無秩序がアラビア半島の統一を復活やイスラームの厳しい遵守への動きの誘因となった。

ヒジュラ暦1213年

(西暦1798/99年)

サウード(Al-Sa'ud)の支援の下でのシャイフ・ムハンマド・イブン・アブドゥル・ワッハーブ(Shaykh Muhammad ibn 'Abd al-Wahhab)のイスラームへの復帰の呼びかけ

ヒジュラ暦1215年

(西暦1800/01年)

 

シュクバーンおよび ムタミと指導者二人のディルイーヤ(Dir'iyah)を訪問北はビラード・バニー・シャーヒー(Bilad Bani Shahi)から西はミフラーフ・スライマーニーヤ(al-Mikhlaf al Shulaymani)まで抵抗する者とのイスラーム復帰の戦いを行い首長国を拡張。

ヒジュラ暦1217年

(西暦1802/03年)

 

 

 

 

アブー・アリーシュ(Abu 'Areesh)）の戦いで サウードの軍隊が勝利した後、ガラル・イブン・シャール(Gharar ibn Shar)はミフラーフ・スライマーニーヤ(al-Mikhlafat al Sulaymaniyah)の首長に成った。この首長国はその後、拡大し、南のズバイド(Zubayd)から北のal-Darb(ダルブ)迄広がった。これらの征服はアブー・ミスマル(Abu Mismar)の名で知られるハムード・イブン・ムハンマド(Hamud ibn Muhammad)にティハーマにおけるディルイーヤの権威と サウードへの臣従からの独立を促した。結果的にはアシール首長は彼を再度服従させる様に命じられた。

ヒジュラ暦1225年

(西暦1810/11年)

 

涸れ谷 ビーシャでの戦い

ディルイーヤ勢が勝利した。ハムード・イブン・ムハンマドと彼の軍隊は敗北したが、アシール首長のアブドゥル・ワッハーブ・イブン・アミール('Abd al-Wahhab ibn 'Amir)は殺された。

ヒジュラ暦1230年

 (西暦1814/15年)

 

 

 

シャリーフ・ハムード・イブン・ウマル(Shareef Hamud ibn 'Umar)はサウードがアシール首長の死にかかずらっているのを機にヒジュラ暦1230年（西暦1814年/1815年）以降、南のズバイドから北のサラート山脈までをティハーマの王として統治した。その後、アシールの山岳地帯に目を向け、その地帯の君主達と休戦し、この地域のトルコ勢力と敗北させ、勝利を得るまで戦った。その後、 サラート山脈の露営地に戻り、そこで三年後に病死した

トルコの脇役化

 

 

 

 

ハリル・パシャ(Khalil Pasha)の指導の下、ムハンマド・アリー・パシャ(Muhammad Ali Pasha)が戦っていた時でもミフラーフ・スライマーニーヤ(al-Mikhlafat al Sulaymaniyah)ではトルコは脇役であった。シャリーフ・ アハマド・イブン・ハムード・イブン・ミスマル(Shareef Ahmad ibn Hamud ibn Mismar)を捕虜にしてエジプトに送り、ティハーマの北部をシャリーフ・アリー・イブン・ハイデル(Shareef 'Ali ibn Haider)に引き渡した。

ヒジュラ暦1233年

 (西暦1817/18年)

 

 

アシールはヒジュラ暦1215年（西暦1800/1801）に サウードの影響下に入ってからはディルイーヤとの繋がりを保ち、この年までムタミ(al-Muhtami)を首長に仰いでいた。シャリーフ・ムハンマド・イブン・アウン(Shareef Muhammad ibn 'Awn)は軍隊をアシールへと進め、占領し、征服してムハンマド・アリー・パシャの支配下に置いた。

ヒジュラ暦1238年

 (西暦1822/23年)

 

 

サイード・イブン・ムスラト・ムフィーディ(Sa'eed ibn Muslat al-Mufeedi)に率いられたアシールの住人はタバブのシャリーフ・ムハンマド・イブン・アウンの要塞を襲い、彼を殺し、要塞の守備隊長のハッザ・イブン・ アウン(Hazza ibn 'Awn)を放逐した。サウード・イブン・ムサーイド(Sa'ud ibn Musaed)が力を持ち、アシールの首長にはバニー・ムフィード(Bani Mufeed)が任命された。

ヒジュラ暦1249年

(西暦1833/34年)

 

 

 

最も卓越した首長バニー・ムフィードはアリー・イブン・ミフサル・ムフィーディ('Ali ibn Mihthal al-Mufeedi)で、彼が没するヒジュラ暦1249年（西暦1833年/1834年）までイスラームを支持し、最大の保護と配慮をもって尽くした。その後はアイド・イブン・マリー('Ayid ibn Mar'i)が引継ぎ、北はバスルハマル族(Baslhamar)の区域から南はズバイド、西はカムハフ(al-Qamhah)海岸、東はタスリース(Tathleeth)まで首長国の領域を広げた。その後、フサイン・イブン・アリー・イブン・アイド(Husayn ibn 'Ali ibn 'Ayid)が支配権を奪った。

ヒジュラ暦1338年

 (西暦1919/20年)

 

 

ムハンマド・イブン・アリー・イドリーシー(Muhammad ibn 'Ali al-Idrisi)との戦いはアブドゥルアズィーズ・イブン・アブドッラフマーン・サウード王 (King 'Abd al-'Aziz ibn 'Abd al-Rahman al-Sa'ud)が軍隊を組織し、アブドゥルアズィーズ・イブン・ムサーイド('Abd al-'Aziz ibn Musa'id)の指揮の下にアシールに派遣し、ヒジュラ暦1338年にこの地域を占領するまで続いた。

ヒジュラ暦1340年

(西暦1922/23年)

ファイサル・イブン・アブドゥルアズィーズ首長(Amir Faisal ibn 'Abd al-'Aziz)の軍隊がアブハーに侵攻、無血入城し征圧した。ファイサルはこの地域の治安を強化し、首長を任命した。この時からアシールはサウジアラビア王国の中の独立した行政体として残って来ている。

イエメン戦争

 (西暦1932年）

 

プリンス・サウード・イブン・アブドゥルアズィーズ(Saud bin Abd al Aziz Al Saud)（後の第2代サウジアラビア国王, 1953 - 1964）が参戦。

 

 

表7　歴史的場所や宮殿

①ファーディル城

 (Fadil Palace)

 

 

 

 

 

 

 

この城はアブハーから11km離れたサブト・バニー・ラジン(Sabt Bani Razin)市場の東の ムハンマド・イブン・アリー(Al-Muhammad ibn 'Ali)村にある。石で作られ、白い玉石で飾られ、100年以上も生きて今でもここに住んでいるシャイフ・アブドゥッラー・イブン・ムハンマド・イブン・グルム(Shaykh 'Abd Allah ibn Muhammad ibn Ghurm)に所有されて居る。建設された年代はハッキリしないが、シャイフ・アブドゥッラーは「この城は立てられておよそ4世紀が経って居る」と言っている。この城の構造は戦時への装備を反映している。防御の為の要塞としての弓矢やライフルを射撃する為の場所が設けられている。入り口を入った場所に三つの穀物貯蔵庫がある他に、中壁の一つが秘密の穀物貯蔵場に成っている。城の近くにはラディー(Radi)と呼ばれる井戸があり、城とその周囲の農地に水が供給されている。この城はこの地方の建築芸術の荘厳さを代表すると共に、この様な砦の難攻不落さと堅固な要塞化を思い起こさせる。

②ムシュリフ城

(Mushrif Palace)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

故アブドゥルアズィーズ・イブン・アブドッラフマーン・サウード王(King 'Abd al-'Aziz ibn 'Abd al-Rahman al-Sa'ud)の支持で、故シェイフ・アブドゥル・ワッハーブ・イブン・ムハンマド・アブー・マラーフ(Shaykh 'Abd al-Wahhab ibn Muhammad Abu Mallah)はこの城をヒジュラ暦1347年（西暦1934年/1935年）にマラーフ(al-Mallah)山の山頂に建てた。この城はヒジュラ暦1353年（西暦1934年/1935年）まで故シェイフ・アブドゥル・ワッハーブ・イブン・ムハンマド・アブー・マラーフが占拠していたが、それ以降、サハト・ビハール(Sahat al-Bihar)の縁に故シェイフ・アブドゥル・ワッハーブ・イブン・ムハンマド・アブー・マラーフは自分の城を建て移った。首長のトゥルキー・スダイル(Amir Turki al-Sudairi)がムシュリフ城に代わって入城した。この城は美しさと堅固さそれに難攻不落さに恵まれて居り、今でもこの地方の建築芸術の現存するモデルであり、建設された当時の構造的型を今に伝えている。石造りで小石を積み上げては居らず、ビャクシンを木材として天井、扉、窓や入り口が作られている。この大工仕事はこの地方地方の職人の手で行われ、150kmから170kmの範囲の職人が集められた。首長のトゥルキー・スダイルの後任として故トゥルキー・ビン・ムハンマド・イブン・マーディー(Amir Turki ibn Muhammad ibn Madi)がヒジュラ暦1371年（西暦1951年/1952年）の断食月に任命され、ここに住んだが、やがて、この城は使われなくなった。

③ナジフ城

(Najih Palace)

 

 

 

 

 

 

この城はアブハー北西の サッカ(al-Saqqa)村にある。これはここに建てられた三番目の城である。ハジム(Khazim)と呼ばれた最初の城は完全に消滅してしまっている。ウマル('Umar)と呼ばれた二番目の城の残った部分が現在の地上階にあり、ナジフ城の北西側に隣接している。ナジフ城は今でも残って居り、三つの城全てがムダフマル(Mudahmar)の名で知られるムハンマド・イブン・アハマド・イブン・ムハンマド・イブン・ヤフヤー・ザイダニ(Muhammad ibn Ahmad ibn Muhammad ibn Yahya al-Zaydani)の所有であった。ムダアマルがこの地域の首長であったヒジュラ暦1170年（西暦1756年/1757年）から彼が没したヒジュラ暦1215年（西暦1800年/1801年）にこれらは建てられた。ナジフ城は4階建てであり、4階部分にはモスク、喫茶室と防衛の為の平らな部分がある。堅固で難攻不落を特徴とするこの城の建設には地場の建築材が使われた。

④シャダ城

(Shada Palace)

 

 

 

 

 

 

 

この城はアイド・イブン・マリー('Ayid ibn Mar'i)が自ら首長を引き受けたヒジュラ暦1250-1273年（西暦1834年/1835年～1856年/1857年）の間に建てた。その息子のムハンマド・イブン・アイド(Muhammad ibn 'Ayid)はこの城の周囲に城壁を設け、その要塞としての機能を強化し、ヒジュラ暦1287年（西暦1870年/1871年）にはこの城を住居とした。その後、トルコの支配が始まり、そして1337-1338年（西暦1918年/1919年-1919年/1920年）の間にタシュ・キシュラ(Tash Qishlah)と呼ばれる要塞が追加された。それからサウジ時代の繁栄が来て、この城は州庁舎になった。トゥルキー・スダイル首長がシャダ城からムシュリフ城に移ったヒジュラ暦1353年（西暦1934年/1935年）迄の間、首長達は何代かに渡ってこの城に居住した。この城の建物は崩壊の危険を兆しが出て、取り壊され、ヒジュラ暦1399年（西暦1978年/1979年）に現在のサウジ自動電話ビルに建て替えられた。

⑤ワーディー城

 とアズィーズ城

(Wazi' Palace and

'Aziz Palace)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アブハーの西、約15kmの アジザ谷(al-'Aziza)に二つ隣り合った6階建ての城がある。ムハンマド・イブン・アイシュ(Muhammad ibn 'Ayish)の統治の始め頃のヒジュラ暦1274年（西暦1857年/1858年）に最初の城が建てられ、ムハンマド・イブン・アイシュ(Muhammad Muhammad ibn 'Ayish)の統治の終わる直前のヒジュラ暦1287年（西暦1870年/1871年）に二番目の城が建てられた。両方の城ともシャイフ・ラヒク・イブン・アハマド・アブー・スィラ(Shaykh Lahiq ibn Ahmad Abu Sirah)が建て、最初の城はバニー・ムフィード(Bani Mufeed)の ワーディー(Al Wazi')に因んでワーディー城と名付けられた。二番目はやはりバニー・ムフィード(Bani Mufeed)のアブドゥルアズィーズ(Al'Abd al-'Aziz)に因んでアズィーズ城と名付けられた。二つの城は3階の特別な通路で互いにつながれている。両方の城とも石積みで作られ、玉石を漆喰で固め、仕上げられて居る。地上階は貯蔵場として使われ、その他の階は住居用である。上の階は守備用の場所や銃眼が設けられ、区別されている。両城ともマラディ(Maradi)と呼ばれ、攻撃的意図を持って城門に近づく者に上から石を落すのに使う場所も設えてある。両城の北側には三ヶ所穀物を脱穀する為の場所が隣接している。これらの脱穀場と城内の貯蔵場をつなぐ小さな開口が設けられ、それを通して脱穀された穀物が貯蔵場へと流れる。30m離れた場所に井戸があり、地下の水路を通り、住人や馬に水を供給していた。その遺構は今でも残っている。城を守る為に周囲全てに守備用の場所や防塞が設けられているが、特に北側は農業活動や灌漑作業を防御する為に特別な守備用の場所や防塞が設けられている。両城は今もなお建っており、その美しさが両城を建設した時の配慮や注意を表している。

⑥マスリ城

(al-Masri Palace)

 

 

 

この城はムシャッバ(Mushabba)のマルカト(Marqat)村西の山の頂きに建てられている。これはムハンマド・マスリ(Muhammad al-Masri)がムハンマド・イブン・アイド(Muhammad ibn Ayid)の治世のヒジュラ暦1280年（西暦1863年/1864年）に建設した。これは石で組まれ3階建てである。その天井、扉や窓はビャクシン材で作られている。この建物はその際だった場所、堅牢さおよび要塞化等全ての点で地方性を感じさせる。今日でもこの城は住居として使われ、普通の生活が営まれている。

⑦ムカビル城

 (Al Muqabil Palace)

 

 

 

 

 

この城はアブハーのムカビル地区に建っている。アシールの住人の長老は「これはアハマド・ファイディー(Ahmad Faydi)の治世のヒジュラ暦1298年および1299年（西暦1880年/1881年および1881年/1882年）にディミトリ(Dimitri)と言う名のギリシャの商人が建てた」と言う。後にこれは故アリー・イブン・ハサン・イブン・カンフール('Ali ibn Hassan ibn Khanfur)の所有と成り、更にその後に州庁の所有となり、ヒジュラ暦1332年から1337年（西暦1913年/1914年から1918年/1919年）のムハイ・ディーン・パシャ (Muhyi al-Din Pasha)の治世に司令所に改造された。その内壁の一部と外壁は今でも立っている。商人のディミトリが建設し、 アイドの誰かが改造して来た事のどちらもそれらを実証出来る証拠は今では見つけられない。

⑧マルハフ城

(Malhah Palace)

 

 

 

 

 

アブドゥル・ワッハーブ・アブー・マルハフ城 (The Palace of 'Abd al-Wahhab Abu Malhah in Abha)城はアブハーの中心にあるサハト・ビハール(Sahat al-Bihar)の端に位置している。地上階は石積みで出来ているが他の二つの階はブロック積みである。この城はアブハー市の財政長官をしていたシャイフ・アブドゥル・ワッハーブ・イブン・ムハンマド・アブー・マルハフ(Shaykh 'Abd al-Wahhab ibn Muhammad Abu Malhah)が自分のアブハーの住居としてヒジュラ暦1351年（西暦1932年/1933年）に建設した。ここが考古学博物館に転用する為に収容されるまでその子供達が住んで居た。マルハフ城は地場の建材で建てられている。他と同じに天井、扉および窓は地場職人がビャクシン材で作った。この城は要塞化が行われて居ない点で他と違って居た。

⑨ムシャラフ城

 (Musarraf Palace)

 

 

 

この城はタハブ村(Tahab)にあり、アブー・ヌクタ(Al Abu Nuqtah)の所有である。 ジャッザル(al-Jazzar)の名で知られるムハンマド・イブン・アハマド・ムフタミ(Muhammad ibn Ahmad al-Muhtami)が建設した。アシールをヒジュラ暦1215年から1230年（西暦1800年/1801年から1814年/1815）まで支配した アブー・ ヌクタの卓越した立場と要塞化されたこの城の重要さを考えると建設はヒジュラ暦1220年（西暦1805年/1806年）であったようだ。

⑩政府城と城郭

 ((al-Shu'bayn)

 

 

 

 

シュウバイン(al-Shu'bayn)の政府城とサフィヤ城郭(Safiyah Castle)はシュウバイン(al-Shu'bayn)の丘の一つにムフヒ・ディーン・パシャ(Muhyi al-Din Pasha)によってヒジュラ暦1335年（西暦1916年/1917年）に建設された。巨大な軍事目的の城郭もサフィヤ山の頂上に建設された。シュウバインの東側の眺めはサフィヤ城郭の名で知られている。これらの場所とハリー(Hali)、リジャール・アルマア(Rijal Alma’)、 アウス(Al-'Aws)、カッサン(Kassan)およびシャウカン(Shawkan)の谷々を防衛する為に、幾つもの城郭や警察駐屯所が山々に設けられた。

⑪ムフタハ

 (Al-Muftahah)

 

ムフタハ城郭Al-Muftahah Castle)はムフタハ地区の北西に位置し、ヒジュラ暦1242年（西暦1826年/1827年）に首長の義務と責任を引き受けた後にアリー・イブン・ミフシル('Ali ibn Mihthil)によって建設された。城郭の北側には城郭の防衛の要塞であるカスバ(Qasbah)があった。遺構と土台の一部が今でも見られる。

⑫タシュ・キシュラ城

 (Tash Qishlah)

 

 

タシュ・キシュラ城はシャダ城(Shada)の北側をムシュリフ城(Mushrif)に至るまで延びていた。これはヒジュラ暦1294年（西暦1877年/1878年）にアハマド・ファイド(Ahmad Fayd)によって作られたが、後に崩壊し、首長トゥルキー・スダイルが再建し、ヒジュラ暦1355年（西暦1936年/1937年）にムシュリフ(Mushrif)城の別館とした。しかしながら長く空き家と成って居たために雨水で損傷され、ついには取り壊された。

⑬フィルカ

 (Al-Firqah)

 

フィルカ城(Al-Filqah)はヒジュラ暦1314年（西暦1896年/1897年）にユスフ・パシャ(Yusuf Pasha)が自らの司令部として建設した。 フィルカはマラーフal-Mallah)山の北の外れにある。繁栄したサウード治世の始めに警察の司令部となった。旧い建物は取り壊され新しい建物と入れ替えられた。

⑭トバジッヤ (Al-Tubajiyyah)

トバジッヤ(Al-Tubajiyyah) この地区は昔、騎兵と砲兵が使って居たので トバジッヤーと呼ばれる。その後、この地域全体が開発され、かつての面影は今や全く残っていない

⑮ジャラシュ

 (Ruins of Jirsh

or Jarash)

 

 

ジャラシュ(Jirsh)の遺構はアブハーの南東約40kmのシャカル(Shakar)山の西側のラーフィダ(Rafudah or Rafeedh)地区の中の市である。これは古代の市であり、その遺跡は広い平原全域に散らばっている。この場所は非常に重要な歴史的遺構であり、特に重要なのはアラビア語の装飾した碑文、ヘブライの象徴および彫刻された岩である。ここには直径が2メートルを越す、巨大な里程標があり、それを作るために巨大な石が加工されて居た。それらがここに非常に重要な考古学的遺構があることを裏付けて居る。

⑯ターバ・モスク

(Tabah Mosque)

 

セントラル・ターバ・モスク(Central Tabah Mosque)はヒジュラ暦1220年（西暦1805年/1806年）に故サウード・イブン・アブドゥルアズィーズ・サウード一世(the late Saud ibn 'Abd al-Aziz al-Saud the First)の指示で建てられた。モスクの建設は首長アブー・ヌクタの子息のムハンマドとアブドゥル・ワッハーブが行った。

⑰中央モスク

 (Central Mosque)

 

 

 

 

ミナデェル・モスク　(Minadher Mosque)とアブドゥルアズィーズ王の中央モスク(Central Mosque) はヒジュラ暦1260年（西暦1844年/1845年）のイブン マリー(ibn Mar'i)の治世に歴史的なミナデェル地区の南のバディー(al-Badi')広場の一角に建てられた。ヒジュラ暦1355年（西暦1936年/1937年）に故アブドゥルアズィーズ国王陛下は大モスクを建設する様に勅命を出した。このモスクは最新の建築技術を駆使した更に大きなモスクを建てるためにヒジュラ暦1406年（西暦1985年/1986年）に取り壊された。ヒジュラ暦1398年（西暦1977年/1978年）、近代的建築設計で巨大なモスクがミナデェル モスクのあった場所に建設された。

⑱マスキー・モスク

 (al-Masqi Mosque)

 

 

 

 

マスキー村(al-Masqi)はアブハーの南30kmの距離にある。中央マスキー・モスク(Central al-Masqi Mosque)はアブドゥルマーリク・イブン・マルワーン(Abd al-Malek ibn Marwan)の治世のヒジュラ暦170年（西暦786年/787年）に建てられた。その土台は石作りであったが上層部はブロックで作られていた。モスクの中央には礼拝前の禊ぎを行う為の水盤が設けられ水は近くの井戸から汲み上げられ、水道網で水盤へと注がれた。このモスクは高いミナレット(Minaret)を持っていた。この塔は15mの高さがあり、相当に遠くからも眺めることが出来た。モスクが再建された際に、この塔は取り壊された。

 

表8　アブハー周辺の住人の祖先

住人の祖先

古代アラビア人、アズド族（ウズード族）、アドナーン族、カフターニ族

古代アラビア人

 

 

 

サラート(Al-Sarat)には古代から人が住み続けて来た。そこに住み、すでに死に絶えてその跡形も無くなっている民族もあれば、そこを立ち去り、他の地域に移って行っていた民族もある。アマーリーク人(Amelikites or Amalek)と呼ばれる古代アラビア人、中でもヒジャーズ(Hijaz)の住人は皆殺しになるまでこの地域に住んでいた。ナバテア人(Nabateans)族がシリア大砂漠へ移住したのはこの地からであった。

アズド族（ウズード族）

(Azd or Uzud)

 

 

その後に、マレブ(Mareb)ダムの崩壊の為に四散したウズード族(Uzud)が北上して来た。この民族の一部が サラート(Al-Sarat)へ至り、先住民を圧倒し、ここへ住み着いた。先住民はこの新住民を自分たちの同族と区別して彼等にその帰属をしめす肩書きを与え、ウズード・サラート(Uzud al Sarat)、ウズード・シャヌア(Uzud Shanuah)およびウズード・オマーン(Uzud Oman)等と呼んだ。

アドナーン族

 ('Adnanities)

 

イスマーイール・イブン・イブラーヒーム(Ishmail ibn Ibrahim)の子孫である。彼等は偉大な祖先アドナーンまで家系を辿れる部族で元々はヒジャズ(Hijaz)からやって来た。ムーイド(Mu'id)およびニザール(Nizar)はこの部族の中では一番知られている支族である。

カフターニ族

 (Qahtanites)

 

 

神が平安を与えられた予言者フド(Hud)、カフターン・イブン・アマール(Qahtan ibn 'Amar)の子孫である。この部族の良く知られた支族はサバ(Saba)、ヒムヤール(Himyar)、カフラーン(Kahlan)等である。これらの部族の間に社会的に下層と考えられた幾つかのグループが居り、部族の構成員が行わない賤しい仕事を引き受けていた。

アシール族

 (Asir)

 

 

 

 

 

 

 

アシールは古代ここに住んでいた人の名前がこの地域名となった。彼はバニー・ シハラ(Bani Shihara)族でアシール・イブン・アブス・イブン・シハラブ('Ashir ibn 'Abs ibn Shiharab)と言う名であり、彼の名はアシール・ イブン・アラシュ・イブン・アンズ・イブン・ワイル・イブン・カセト・イブン・ハルブ・イブン・アサファ・ イブン・アムル・イブン・ジャディーラ・イブン・アサド・イブン・ラビーア・イブン・ナザール・イブン・ムーイド・イブン・アドナーン('Asir ibn Arash ibn 'Anz ibn Wail ibn Qaset ibn Harb ibn Asfa ibn 'Amr ibn Jadilah ibn Asad ibn Rabi'ah ibn Nazar ibn Mu'id ibn Adnan)とも言う。

発祥： この地域の部族は互いに団結してアシール族を編成した。

語源： アシールと言う部族名はこの地域の名前を取って名付けた。

参加部族： カフターン(Qahtan)族およびシャフラーン(Shahran)族の幾つかの集団とウズド(Uzud)族

 

表9　アブハー周辺の定住人

定住民(Settlers)

 

 

このグループの人達は村や市街に住み、農業で生計を立てている。彼等の村は小さく、畑や農業用棚地の間の広い場所にまばらに散らばっている。村々は一般的に一部族ないしその中の一支族だけが住んでいる。従って、これらの村々の殆どはその名をそこに住む部族や支族名の後に付けている。

① 気質

 

 

 

 

昔は、部族への帰属が強さや有利さを与え、外敵からの相互防衛の為に、山々や高地に住む小さな家族単位を大きな集団として誇示した。安全が十分行き渡っている現在でも、これらの家族は山の高地にある住居や農業用の棚地を捨て、発展と拡張の為に適した平地に下るのは難しいと考えている。大部分の人達は一般的に「自分たちの住んでいる土地は個人の所有であろうと、集団の所有であろうと、共通の祖先を持ち、つながっているグループの所有である。」と信じている。

② 部族

 

 

リジャール・アルマア(Rijal Alma’)、バッラスマール(Ballasmar)、サラート(Sarat)、ウンム・バイダー('Um Baidah)、シュウフ・シャフラーン(Shu'f Shahran)、バニー・アムル(Bani 'Amr)、バッラフマル(Ballahmar)、カスアム(Kath'am)そして サラーマ(Al Salamah)等

③ 居住地区

必ずしも全部では無いが、次の様な部族、支族で占められている。

③-1Farshah

 

 

ファルシャ(Al-Farshah)地区

ジャフラ(Al-Jahrah)、 サルハン(Al-Sarhan)、 フザイイム(Al-Khuzayyim)、グラーブ(Ghurab)およびハサン(Al Hasan)

③-2 Qatee'ah

 

 

カティーア(Al-Qatee'ah)地区

ジャフラ(Al-Jahrah)、 シャフラーン(Al-Shahran)の支族のバニー・マジュール(Bani MaJoor)、 ワーイラ(Al-Wailah)および ハビーブ(Al-Habib)

③-3 Marba

 

マルバ・ベトウイン(Marba Bedouin)地区およびアブハーの ガイナ(al-Ghayna)地区

バニー・ナアアル(Bani Na'ar)およびバニー・マゼン(Bani Mazen)

③-4 Amwah

 

 

アムワ(Amwah)センターのカフターン(Qahtan)のハジャディール(al-Hajadir)およびカフターン(Qahtan)の‘アイン(al-'Ayn)

ハバイブ(Habayib)族、 アティーフ(Al 'Atif)および サアド(Al Sa'd)

③-5 Junub

 

 

ザハラーン・ジャヌーブ(Dhahran al-Junub)

ムフタ(Al-Muftah)、ウム・ハティーブ(Al Um Hathib)/ティハーマ(Tihamah)およびワーディー.・ゴウル(Wadi al-Ghoul)又はガイル(al-Ghayl)

 

表10　アブハー周辺の非定住人

非定住民

(Unsettled Inhabitants）

 

 

このグループの部族はアシールの山の斜面やティハーマ山系の山の頂上に住んでいる。そこは涸れる事の無い泉や緑の牧場の豊かな場所であり、彼等はいまだに草と水を求めて放浪する定住しない遊牧の生活を送っている。彼等は駱駝、羊や牛を飼い、その生計を立て、テント生活を送り、テントは次の露営地に移動する際は駱駝や騾馬に担がせて運ぶ。

① 部族

 

 

この地域の彼等の中で最も有名な部族はアシール('Asir)、シャフラーン(Shahran)、カフターン(Qahtan)およびリジャール・ハジャルル(Rijal al-Hajar)である。ここではアブハー市近郊に住む幾つかのアシール族に関心を集中したい。

② 支族

 

アシール族はティハーマ・リジャール・アルマア (Tihamat Rijal Alma’)の10部族を含めて14の支族に分かれている。

②-1 Mufeed

バヌー・ムフィード族 (Banu Mufeed Tribe)

　　居住区

この部族はアブハー市とその周辺に住んでいる。

　　隣接部族

 

西はリジャール・アルマア(Rijal Alma’)、東と南はシャフラーン(Shahran)、カフターン(Qahtan)およびバヌー・シュウバ(Banu Shu'bah)に、そして北はアルカム(Alkam)族と境を接している。

　　部族構成

 

 

 

 

この部族はワージー’(Al-Wazi')、アブドゥルアズィーズ(Al 'abd al-Aziz)、アリー・イブン・ガリーブ(Al 'Ali ibn al-Gharib)、バヌー・ナマル(Banu Namar)、イイサ・イブン・ハメド(Al 'Isa ibn Hamed)、ナジフ(Al Najih)、ワイマン(Al Wayman)、ビンヒ・ジャアファリ(Al Binhi Ja'fari)、ナファラー(Al al-Nafalah)およびティハーマのバヌー・ラビーア(Banu Rabee'ah)等のベドウィン族で構成されている。この部族には相当数の部族民を持つ多くの支族がある。

　　部族人数

サラートとティハーマを合わせて部族全体で三万人位の人数である。

　　部族の中心

 

部族の中心はアブハー(Abha)であり、そこはタハッルル(Tahallul)山の東側の低地にあり、多くの城を持ち、穏やかな気候に恵まれている。

　　南の地区

 

 

 

南の地区はスーダ山(al-Sawdah)から700m下っており、西側はシャルキー山(al- Sharqi)に、南西側はこの地域で最も有名な二つの山ナフラン嶺(Nahran)とカウタル山(Kawthar)に囲まれている。南側はアブー・ハイヤル山(Abu Khayyal)およびズィーラ山(Dhirah)に、北側はウンム・ラクブ(Umm al-Rakb)およびラアス ・ミンタ(Ras al-Mintah)山に囲まれている。

②-2 'Alkam

アルカム族 ('Alkam Tribe)

　　居住区

居住地はアシュラール谷('Ashrar)およびその流域の傾斜地に沿って散在している。

　　隣接部族

 

この部族は南をバヌー・ムフィード(Banu Mufeed)、北をラビーア(Rabee'ah)とバヌー・マーリク(Banu Malek)、東をバヌー・マーリク(Banu Malek)そして西をリジャール・アルマア(Rijal Alma’)、バヌー・マゼル(Banu Mazer)およびウダダ('Udadah)に囲まれている。

　　部族構成

 

この部族はバヌー・マゼン(Banu Mazen)、バヌー・シバイリ(Banu Shibaili)、スアイド(Al Su'aydi)、カスィーム(al-Qasim)、アタ(al-'Ata)およびウダダ('Udadah) 等の支族から構成されている。

　　部族人数

この支族とは言え、バヌー・マゼンとウダダは両方とも２万5千人の部族民を持っている。

　　部族の中心

この部族はアブハーの北のおよそ6kmに居住している。

    部族の先祖

先祖はアシールのアドナーン族(‘Ananite)まで辿れる。

②-3 Rabee'ah

ラビーアおよびラフィーダ族 (Rabee'ah and Rafeedh Tribe)　

　　居住区

 

この部族はその部族名に因んで付けられたラビーア谷およびラフィーダ谷の傾斜地に住んでいる。アブハー北西25 km付近で見かける。

　　隣接部族

 

 

南をアルカム族('Alkam Tribe)、東をバヌー・マーリク(Banu Malik)およびバッラハマール(Ballahamar)、北をバヌー・スウア(Banu Thu'ah)およびバッラハマール(Ballahamar)、西をリジャール・アルマア(Rijal Alma’)およびティハーマ(Tihamah)のバヌー・スウア (Banu Thu'ah)に囲まれている。

　　部族構成

 

 

この部族はアマタラダー(Amataladah)、アセム(Al 'Asem)、ウム・リフカタタイン(Um Rifqatatayn)、ハレス(Al-Hareth)、ガル(Al-Ghal)、バヌー・ スアア(Banu Thu'ah)、バヌー・ガナム(Banu Ghanam)、シャッダーディ(Al Shaddadhi)、タイハン(Al Tayhan)、バヌー・ハサン(Banu Hasan)等の氏族から成っている。

　　部族人数

　

　　部族の中心

その根拠地はアブハーの北西25kmの辺りにある。

    部族の先祖

この部族の祖先はアシールのアドナーン族(‘Ananite)まで辿る事が出来る。

②-4 Bani Malek

バニー・マーリク族 (Bani Malek Tribe)

　　居住区

この部族の居住地区はアブハーの北東10kmの場所にある。

　　隣接部族

 

 

東をシャフラーン族(Shahran)、西をラビーア(Rabee'ah)、ラフィーダ(Rafeedah)、バヌー・マフィード（Banu Mafeed） およびアルカン('Alkan)、北をバッラフマル(Ballahmar)そして南をアルカム('AlKam)およびシャフラーン(Shahran) に囲まれている。

　　部族構成

 

 

この部族は幾つかの支族を持っており、その中でも大きな氏族がバヌー・リザン(Banu Rizan)、ムジャンマル(Al Mujammal)、ヤアラ(Al Ya'la)、バヌー・ラビーア(Banu Rabee'ah)、ハバシ(Al al Habashi)、バヌー・ムナッバ(Banu Munabbah)およびルマイヤン(Al Rumayyan)である。

　　部族人数

この部族全体の人数は2万5千人である。

　　部族の中心

　

    部族の先祖

この部族はアドナーン族(‘Ananite)であった祖先まで辿る事が出来る。

②-5 Rijal Alma’

ティハーマ・リジャール・アルマア(Tihamat Rijal Alma’)

　　部族構成

このグループは10の部族に分かれている。

　(1) Qays

カイス・マナーズィル族 (Qays and Manazil Tribe)

　　居住区

 

この部族はシュウバイン(al Shu'bayn)の南5kmのガイズ山山頂に居住している。サドラ(al Sadrah)と呼ばれるグループはファハル(Fakhar)山の傾斜地に住んでいる。

　　部族構成

 

 

この部族はサリーム・イブン・ハゼム(Al Salim ibn Hazem)、ミジザア(Al-Mijiza'ah)、アテフ(Al'Atef)、ヤアラ(Al Ya'la)、マサバラ(Al Masabalah)、マアサム(Al Ma'sam)、ミイバリ(Al Mi'bari)、ヤフヤ・バヌー・ガレブ(Al Yahaya Banu Ghaleb)およびハゼム(Al Hazem)の各支族で構成されている。

　　部族人数

この部族全体の人数は1万5千人である。

    部族の先祖

 

この部族はカイス・イブン・マスウド・イブン・タグルブ(Qays ibn Mas'ud ibn Taghlub)の子孫でアドナーン族(‘Ananite)であった祖先まで辿る事が出来る。

  (2) Banu Zayd

バヌー・ザイド族 (Banu Zayd Tribe)

　　居住区

この部族はハスワア谷(Haswa-Valley)の傾斜地に居住している。

　　隣接部族

西側をバヌー・マフィード族(Banu Mafeed)と境しており、同じくカイス(Qays)、バヌー・フーナ(Banu

　

Hoonah)およびバヌー・バクル(Banu Bakr)とも境している。

　　部族構成

 

 

この部族はハイヤン(Al Hayyan)、マラーク(Al al Malak)、アラフィージャ(Al Arafijah)、アビー・アリー(Al Abi 'Ali)、マスラマ(Al Maslamah)、ニジョオ(Al Nijoo')、ガニム(Al Ghanim)およびウム・ルワイイ(Al Umruway'i)の各支族で構成されている。

　　部族人数

この部族全体の人数は1万5千人である。

    部族の先祖

現在のアシール('Asir)族の一部を成している。この部族はバニー・バクル・イブン・ワーイル(Bani Bakr ibn Wa’il)の子孫のタグルブ(Taghlub)まで祖先を辿れる。

  (3) Bani Bakr

バニー・バクル族 (Bani Bakr Tribe)

　　居住区

この部族はスルブ(Sulb)山の山頂に居住している。

　　部族構成

 

 

アッラフ(Al 'Arraf)、シャフダン(Al Shahdan)、ハウダ(Al Khawdah)、サル(Al al Saru)、サーダン(Al Sa'dan)、ルク(Al Ruq)、マフジャラ (Al Mahjarah)、ウム・シュルワ(Al Umshruwah)およびマーライン・シイブ(Ma'layn Al al Shi'bi)の各支族で構成されている。

  (4) Ibn Dhalim

イブン・ダリム族 (Ibn Dhalim Tribe)

　　居住区

この部族の居住地はハリー谷(Hali Valley)の斜面である。この部族の民が知力と商業の歴史で知られるリジャール村(Rijal Village)の住人でもある。

　　部族構成

 

この部族はミスラム(Al Mislami)、ジャーバダ(Al Ja'badah)、マドラガ(Al Madragah)、マカサダ(Al Maqasadah)およびリジャール(Rijal)の住人で構成される。

    部族の先祖

 

この部族はカフターン(Qahtanite)から分かれた、アルマア・アドナーン バニー・ハリサ(Alma’ 'Adnan Bani Harithah)の子孫である。この部族は、現在ではアシール族の一部である。

  (5) Shahab

バニー・アブド・シャハーブ族(Bani 'Abd Shahab Tribe)

　　居住区

この部族の居住地はリーム谷(Reem Valley)の始まるカドワ山(Qadwah Mountain)の斜面である。

　　部族構成

 

この部族はマジャンム(Al Majamm)、ジヤド(Al Ziyad)、クファイル(Al Qufayl)、ラダ(Al Radah)、ファクワ(Al Faqwah)およびマテル(Al Mater)の各支族で構成されている。

　　部族人数

この部族全体の人数は推定1万5千人である。

    部族の先祖

アルマ(Alma’)およびカフターン(Qahtanite)まで祖先を辿れる。現在のアシール('Asir)族の一部を成している。

  (6) Shadeedah

シャディーダ族(Shadeedah Tribe)

　　居住区

この部族の居住地はガムラ山(Ghamrah Mountain)の山頂である。

　　部族構成

 

 

この部族はムドワ(Al Mudwah)、ウム・シッラ(Al Umshirrah)、サワキイア(Al al Sawaqi'ah)、マフルタ(Al Makhulutah)、イジーム(Al 'Ijeem)、イブン・ムーサー(Al 'Ali ibn Musa)、ダーアジナ(Al Da'ajinah)およびヌッジャダイン(Al Nujjadayn)の各支族で構成される。

　　部族人数

この部族全体の人数は約1万人である。

    部族の先祖

 

カフターン(Qahtanite)から分かれたアルマ(Alma’ )の子孫である。この部族は、現在ではアシール族の一部であると考えられている。

  (7) Hoonah

バニー・フーナー族 (Bani Hoonah Tribe)

　　居住区

 

この部族の居住地はキサン谷(Kisan Valley)の中央部のカリーヤ山(al-Qariyah Mountain)の山頂とその東側と西側の斜面である。

　　部族構成

 

 

この部族はマシュバラ(Al Mashbalah)、ムアサイン(Al Muhasain)、アラー(Al al 'Ala)、ジャンダブ(Al Jandabu)、ウバイド(Al 'Ubaid)、ウムサル(Umsaru)、タワブ(Al Thawab)、マスラタ(Al Maslatah)およびラフジャイン(Al Lahjayn)の各支族で構成される。

　　部族人数

この部族全体の人数は1万5千人である。

    部族の先祖

バニー・フーナー族はアドナーン(’Adnanite)ら分かれたタグルブ(Taghlub)まで祖先を辿れる。

  (8) Qutbah

バニー・クトバ部族 (The Tribes of Bani Qutbah)

　　居住区

この部族の居住地はシュウバイン町(al-Shu'bayn Town)の周辺である。

　　隣接部族

 

 

南をカイス(Qays)およびバヌー・ザレム(Banu Dhalem)と境し、東をバヌー・アブドゥル・ウワド(Banu 'Abd al-'Uwad)およびバヌー・ザイド(Banu Zayd)と境し、西をバヌー・サレム(Banu Thalem)と境し、北をバッナ(al-Banna)と境している。

　　部族構成

 

 

この部族はバヌー・スカイブ(Banu Thuqaib)、ナアミヤ(Al al-Na'amiyah)、ザイダン(Al Zaydan)、マウフブ(Al Mawhub)、アビー・アベド(Al Abi 'Abed)、ラフマン(Al Lahman)、キラン(Al-Qiran)およびマフジャン(Mahjan)の各氏族で構成されている。

　　部族人数

部族の人数は約1万にと推定されている。

    部族の先祖

 

この部族の大部分はカフターン(Qa'htan)の子孫であるが、ナアミヤー(Al al- Na'amiyah)はサウィ・ハサン(Thawi al-Hasan)およびサブト(Al-Sabt)の子孫である。

  (9) al-'Awad 

バニー・アブドゥル・アワド族 (Bani 'Abd al-'Awad Tribe)

　　居住区

この部族の居住地はアワス谷(al-'Awas Valley)およびシャーシア谷(Shas'ah Valley)の傾斜地である。

　　隣接部族

 

 

西はバヌー・ザレム(Banu Dhalem)およびバヌー・クトバ(Banu Qutbah)、東はナッワブ(al- Nawwab)およびシハン(Shihan)、南はカイス(Qays)およびバヌー・クトバ(Banu Qutbah)そして北はラフィーダ(Rafeedah)と境している。

　　部族構成

 

 

この部族はマサンム(Al Masamm)、マブユ(Al Mabyu')、ムシャベ(Al Mushabe)、ブライド(Al Burayd)、ザイド(Al Zaid)、ガンマ (Al Ghanmah)およびハジェブ(Al al-Hajeb)の各支族で構成されている。

　　部族人数

この部族民の数は約1万人と推定されて居る。

    部族の先祖

カフターン(Qahtan)から分かれたアアヤス(al-A'yas)の出であるが、今はアシール族の一部と考えられて居る。

  (10) Al Banna

バンナ族 (Al Banna Tribe)

　　居住区

 

この部族の居住地はハリー谷(Hali Valley)の両岸およびその支流一体であり、又、居住地の一部はラワム(Rawam)にもある。

　　隣接部族

 

 

この居住地の東はラビーア(Rabee'ah)およびラフィーダ(Rafeedah)、西はシャバブ(Shabab)、南はバヌー・クトバ(Banu Qutbah)およびアワス(al-'Awas)そして北はアッセム(Al 'Assem)およびバヌー・スウア(Banu Thu'ah)と境している。

　　部族構成

 

この部族はハレス(Al Hareth)、ヒーバ(Al Hibah)、マシュワザ(Al- Mashwazah)、ハージル(Al Hajir)、マクツフ(Al Maqtuf)、ムジャバハ(Al Mujabahah)およびマシュラム(Al Mashlam)の各支族で構成されている。

　　部族人数

この部族民の数は約1万人と推定されている。

    部族の先祖

 

部族としてはカフターン(Qahtani)の分かれであり、アザド族(al-Azad tribe)のアルマア・イブン・イディ(Alma’ ibn 'Idi)の子孫である。

 

表11　アブハー市

 

位置

 

アブハー市はサラワート山脈(Sarawat Mountain Range)の中にある。この市は北緯18度10分から18度20分、東経42度25分から42度35分の範囲に位置している。

隣接県

 

 

 

東はハミース・ムシャイト(Khamis Mushait)、北はバッラフマル県(Amirate of Ballahmar)、イブン・ハシャバル谷県(Amirate of ibn Hashabal Valley)およびムハーイル県(Amirate of Muhayil)、西はリジャール・アルマア県(Amirate of Rijal Alma’)そして南はフタイハ県(Amirate of Al- Futayhah)に接している。（この記述は現在の県名と一致してない。）

気候

サラワート山脈の東斜面へと気温は上がるが、気候は穏やかである。冬季の降雨量は平均400mmに達する。

地形

 

この地域はサラワート山脈の中の高原から成り、場所によっては海抜2,000mを越えている。豊かな峡谷や谷がその両側に多くの農村を持ち、主に西側および北側へと延びている。

行政区と人口

 

アブハーは町民、農民およびベドウィン等の住人の故郷である。アブハー市の人口は全部で392の付属する村落を含め、11万5千人である。（詳細は表12参照）

アブハー方言

 

 

 

 

 

 

 

ダイレクト (Dailects)　 アブハーの住民の方言は"Kashkaskah"すなはち"k"の代わりに"sh"を使うのが特徴的である。例えば「今日は」をKeef Halakと言う代わりにKeef Hakeshと言うし、「どうしました？」をMa Bikと言う代わりにMa Bishと言う。彼等は又、"Ta marbutah"(女性のH)を"T"と発音する。例えば、「6」をsittahと言わずsittatと言うし、Fatimahと言わずFatimatと言う。更に、"J"をよく"Y"と発音する。例えば「山」をJabalと言わず、Yabalと言い、女性語のHathihiをTihiと発音する。愛情や思いやりを示すのに自己流の祈りに頼っている。例えば、「あなたの為なら私を捧げる。」をana fidakと言う代わりにana fidashと言うし、「神はあなたを刺す代わりに私を刺すだろう。」をAlla Yit 'anni 'Ankと言う代わりにAllah Yit'anni 'Anshと言う。

 

表12  アブハー県の人口分布

 

 

 

番号

郡名　　　　　　　　　　　　　

村落数

県中心人口

県村落人口

人口合計

1

アブハー(Abha)

134

58,147

25,095

83,242

2

シャアーフ

(Al-Sha'af or Al-Masqi)

66

1,571

18,215

19,786

3

スーダ(Al Sawdah)

93

500

7,187

7,687

4

ヒジュラ(Hijla)

99

490

3,795

4,285

　

合計

392

60,708

54,292

115,000

 

表13　アブハー周辺の観光地

重要な観光地

 

 

 

一番重要な観光地の幾つかはアブハー市周辺で見られる。4万5千ヘクタールの国立公園には山の傾斜地と高く聳えた高地の大部分を取り込んでいる。国立公園内のスーダ(al-Sawdah)、カラアー(al-Qar'a)やダラガーン(Dalaghan)は遊歩地として開発されて来た。この中の最も高い160mから240m幅の狭い細長い場所では標高3,040mに達する。

①スーダ公園

 

 

 

 

スーダ公園 (Al-Sawdah Park)はアブハーの北西30kmにあり、サウジアラビアで最も標高の高い地点を含んでいる。遠くティハーマ(Tihamah)からも遠望できる見事な景観とビャクシン(al-'Ar'ar)の密生した森があり、その中に3,000年も前の絵画や碑文を刻んだ岩も見受けられる。農水省は2,800mのアスファルト舗装道路、遊歩客の為の8ヶ所の公共休憩地、114のテーブル、8ヶ所の男女それぞれの洗面所、1,536ｍの舗装道路、観光案内所、カフテリア、254台分の駐車場、公園管理人の宿舎等の施設を夏の行楽客の為に準備している。

②カラアー公園

 

 

 

 

カラアー公園 (Al-Qar'a Park)は特に遊歩客や夏の行楽客に取ってアシールで最上の地域だと思う。密生したビャクシン(al-'Ar'ar)に覆われており、中には樹齢100年から150年に及ぶ木もある。公園内の見晴らし台からはティハーマを一望出来、壮観な景色が見られる。農水省は1,300mのアスファルト道路、5ヶ所の公共休憩地、75のテーブル、78の料理用かまど、男性用の4ヶ所の洗面所、1,925mの遊歩道、ガイドと助言の為の観光案内所および149台分の駐車場を夏の行楽客の為に整備してきた。

③ダラガーン

 

 

 

ダラガーン地域(Dalaghan)は山を含む高原であちらこちらに岩が散らばっている。ここでは谷間に下りると密に生えるタルフ(al-Tahl)と呼ばれる棘のある木が見られる。農水省は4,700mの舗装道路、28の公共ベンチ、179の料理用かまど、ガイドと助言の為の観光案内所、キャフテリア、501台用の駐車場および子供用の遊び場を整備してきた。

④ジュッラ

 

ジュッラ峰(Al-Jurrah)はカラアー公園から10km南に下がった場所で8,000ftの山頂からはティハーマ

の西側傾斜地の景観を望める。

⑤マハーラ

 

マハーラ公園(Al-Maharah)はアブハーとハミス間の道路左（北）12kmにある。ここはタルフの木が豊かに茂り、緑の草と水の流れる谷である。

⑥ハバラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハバラ公園(Al-Habalah)はアブハーからサフン・タムニーヤ(Sahn Tamniyah)への道を52km行った場所に位置している。この村は深く狭く閉じこめられた峡谷にあり、縄ばしごを使ってしか行き着けなかった。シャアーフ(Al Sha'af)地区にあり、ティハーマ(Tihamah)を眺望する聳え立つ山々に囲まれている。バニー・マーリク(Bani Maleek)の一支族がここに住みこの山の急峻な崖に住居を築いていた。シャアーフ(Al Sha'af)との往復はロープを編んだ梯子のみであった。この人々は急峻な山を上がり下りする為に体を自由自在に出来る様に下帯しかまとって居なかった。この人達は全ての作物や果物をそこで栽培し、死体も洞穴に埋めていた。故ファイサル・ イブン・アブドゥルアズィーズ国王(the late King Faisal ibn 'Abd al-'Aziz)の治世に「そこに住んで居ては国が彼等に何も恩恵を与えられない」との考えから渓谷の上の高地に移住させた。ヒジュラ暦1400年（西暦1980年）に彼等全員をファイサル国王村に移住させた。この村には住居、学校、診療所、その他の公共施設が全て揃っていた。この高地の村に最初に移り住んだ一人であるアブー・ラアワン(Abu Ra'wan)は「山の下と上との気候は大きく違い、肉体的にも健康的にも良い生活が過ごせる様に成った」と言っている。しかしながら、彼は「人間関係の絆は下の方が強かった」とコメントし、彼の言葉では「雰囲気は下の方が良かった」と表現している。習慣、伝統および家の造りはこの人達はシャアーフ(Al Sha'af)地区の住人と同じであるけれども、彼等はティハーマ地区の影響をハッキリと受けている。今日、この地区を訪れる人が先ず望むのはハバラ村を見て、山の上から下のコーヒー畑、ザクロの果樹園、ブドウ畑や廃墟となった家々を見下ろす事である。

⑦ハヤル公園

 

 

アブー・ハヤル公園 (Abu Khayal Park)はアブハーの西の環状線にあり、ディラア高地(the plateau of Dila' )を遠望できる。ここには駐車場があり、短い遊歩道も造られている。行楽棟にはステージや動植物の博物館も併設されている。

⑧ハドバ公園

 

 

ハドバ公園 (Al-Hadbah Park)はアブハーの南でカラアー(al-Qar'a)公園に行く道路をシャラク(al-Sharaq)村を過ぎた右側で、バニー・ヒーリー高地(Bani Hiri)の反対側にある。ここの二つの山からはティハーマが一望できる。行楽客の為の駐車場も用意してある。

⑨アブハー・ダム

 

 

アブハー・ダムはアブハーの市の西側にある。このダムで雨水を溜めた二百十三万立方メートルの貯水池が出来て居り、浄水場へと給水している。ダムを越流した水はアブハー谷の両側に散在する井戸の水源と成っている。このダムは住民に取ってはポプラーな場所であり、多くの行楽客を魅了している。

 

表14　伝統的建築様式

①独自の建築様式

 

 

 

人間とそれを取り巻く環境には不朽の関係があり、それぞれが影響し合っている。人間は常にその存在の持続性と最高の生活水準の両方を得られるようなやり方で環境に適合しようとして来た。この地域の地理的な特徴については既に説明しているがその為にアブハーやサラート・アシール(Sarat 'Asir)の建築様式が王国の他の地域と外部的にも内部的にも異なっている。

②降雨と寒さ対策

 

 

この地域は豊富な降雨と冬場の寒さで知られている。この地域への適応は頑丈な土台と壁を持つ住居様式として顕れている。並べられた石の列が豪雨から壁を守り、土壁への雨や霰の浸食を止めている。この構造がこの様式の建物を時には数百年に及ぶ長い期間に渡って保存して来た。

③保存強度の増強

 

 

更に保存と強度を増す為に山岳高地では建物は元々、石で築かれていた。陽光は取り入れるが冷たい風の侵入を防ぐために窓は小さく狭く壁の中程に設けられている。円錐形の建物の構造が風に対する強度を一層強めている。

④建物の形式

 

完全に石造りの建物、石と土で出来た建物および完全に土だけで築かれた建物の三種類がある。この区別は外壁の作りだけで行われて居るが、天井の構造は三つ種類共同じである。

⑤建築方法

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⑤-1石造りの建物： 山から運ばれた石は石工で生計を立てている特殊工によって形を整えられる。石はそれぞ

れの位置にしっかりと置かれた後、泥を使って、それぞれの石の上面が同じ水準に成るまで圧縮する。

 

⑤-2石と泥の建物： まず、フユド(Huyud)と呼ばれる人間の背丈程の高さに石の土台を築く。それからハルブ(Khalb)と呼ばれる小麦を脱穀した後に残る麦藁と泥を混ぜて作った壁土を載せて行く。麦藁と泥は混合し、牛に朝から正午過ぎまで或いは夕暮れまで踏ませる。それからこの混合物は驢馬の背中に積まれマダミーク(Madameek)と呼ばれる壁用の泥層の盛られている現場へと運ばれる。ミドマック(Midmak)と呼ばれるこの泥の層が固まり次第、建物の壁が完成するまで、その上の

泥層が盛られる。一つの層はその幅と厚さにも依るが乾くまで三日位掛かる。床づくりに使う為、泥(al-Khalb)を運び上げるのにも驢馬を使う。床は少なくとも四階分はある。

 

⑤-3泥作りの建物： 土地が固ければ石の土台は必要ない。建築は泥層を直接地面に置くことから始め、上記のような手順で泥壁を築いて行く。驟雨から泥壁を保護する為に、薄い石が建築中に泥層の上に置かれる。

⑥天井、窓、扉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⑥-1天井： 降雨や寒気の様な天候により直接曝される為に、天井の構造は特に重要である。周囲の環境から得られる材料を使い、環境に適応する天井を建設する上でこの事が特にはっきり表れる。天井は木材と泥で作られる。材木は入手の可能性によってアルアル(al-'Ar'ar)、イスル(al-Ithl)およびタラフ(al-Talah)が使われるがアルアル材が好ましい。木製の梁は横に置かれマーダル(al-Ma'dal)とかサワリ(al-Sawari)と呼ばれる。たくさんのチバク(al-Tibaq)やアルファジュ(al-'Arfaj)の枝が上にぎっしりと詰められ、その上にある種の樹木の樹液が撒かれる。ハルブ(al-Khalb、泥)がその上に注がれる。これらの材料全てが堅く密に一体の構造となり、雨水等が浸み込むのを防いでいる。各部屋の天井を同じ方法で作られている。

 

⑥-2扉と窓： 特にタラー(al-Talah)の幅の太い木から扉や窓を作るのを専門にした人達は昔も今も居る。材木は板状に切られ、扉や窓に細工され、飾り付けを施される。そして建物の主が発注次第、取り付けるだけの状態で納入される。

 

表15　建物の利用の仕方

古い建造物は二階建て乃至三階建てに作られるが家主の必要性と能力によっては五階建て、六階建てに作られる。

① 地上階

地上階は穀物の貯蔵、農機具等の格納と共に動物や牛を収容する為に使う。

② 一階と二階

 

 

この部分は居間、客間、ミグラト(Miglatc、食堂)、寝室等に使われる。部屋数の少なさが顕著である。家族は暖を取る為と親密さを図る為に、殆どの時間、同じ場所に集まって居た。一つの階全体が一部屋か二部屋であった。

③ 三階と四階

 

 

ムルハブ(al-Mulhab、台所)は薪や炭を燃やしたアジャジュ(al-'Ajaj、煙)が家中に広がるのを防ぐ為に、建物の最上階に設けられる。洗濯にはアル マサール(al-Mathar、水路）が使われる。建家の中では水は沐浴だけに使われる。用便は建家の外や敷地の外で行われた。

 

表16　女性の役割である装飾と塗装

男の役割と女の役割

 

 

 

 

 

全ての建家の建設は部族や村の仲間に助けては貰っても男が全てを行った。場合によっては仕事の補助の為、人も雇った。男の仕事は建物を建築し、扉と窓を据え付けて終わる。その後は女の番である。女は漆喰塗り、壁や床のならし、壁の装飾や色つけ等の残りの仕事を引き受ける。ウンム・フサイン(Umm Husayn)がこの理由を尋ねられた時に、彼女は「この様な機能は男が傲慢に拒絶している芸術的で女性的な仕事と考えられて居る」と答えた。この様な態度や男は畑仕事の責務がある事から女性がこの仕事をやることを余儀無くして来た。「これは女の家で、内部を装飾するかどうかは女次第である」と言っている。

①家は女の財産

 

女にその様な自由を与えている概念が女に家は自分の財産であるとの感じを与え、かつ自分の家の清潔さ、装飾、色彩に留意するのは彼女に取って重要な問題である。

②女性間の挑戦

 

 

 

ウンム・アリー(Umm 'Ali)は「我々は習慣的に山に石膏（石灰）を取りに行き、それを探して洞穴や洞窟に入る。時には腹張って進み、場合によっては落石で死ぬ場合もある」と話した。この話は自分が曝される危険も省みずに自分の家の装飾や塗装を完成する為の女の強い意志を示している。更に、町や村や部族の女性の間で能力や人格を証明する競争或いは挑戦の気質がある事を示している。

③色彩の準備

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家屋の装飾や塗装の分野を長年に渡って手掛けて来たウンム・フサイン(Umm Husayn)の説明

 

③-1白い塗料： これは石膏とも呼ばれており、山から運ばれた石灰の層で作られている。石灰岩は水に浸かり、同時にタラフ(al Talah)の様な木から集めた樹脂をそれが柔らかくなるまで注ぐ。石灰はそれから漉され、樹脂と混ぜ合わせ、シュワイト(al-Shuwayt)と呼ばれる混合物を形成する。壁はこの粘りのある物質で塗られ、滑らかで柔らかく、白く、又、輝く外観を与える。

 

③-2緑の塗料： カタブ(al-Qatab)と呼ばれる緑のアルファルファを壁に直接塗るか、それを絞りその絞り汁を前述の白い塗料に混ぜて使う。

 

③-3青の塗料： この地域の市場で売られて居る藍色のインディゴ(Indigo)を水に浸してそのまま使うか、何かの樹脂を加えて使う。

 

③-4黒の塗料： 女性がアルファルファを砕き、絞り、それを漉す。蝋燭かケロシン・ランプを灯し、その炎に板か板状の物をかざし、煤を集める。煤をアルファルファの絞り汁に入れると黒色に変わる。黒いタールを使う方法に加えて、イーツム樹(al-'Itm)のしたたる油を作り出す青い樹木を焼いて抽出する方法である。

 

③-5その他の色： アラビア半島の南のアダン(Adan)から持って来ている。赤や黒の泥も彩色材料として使われる。

④彩色方法

 

 

 

 

 

 

 

④-1装飾彩色： 女性が家屋の装飾や彩色を引き受ける。まず、家屋の内部の壁を白い塗料で塗る。それから彼女は室内を落ち着いた、心地良さを得る為に彼女の感覚で他の色を使い家屋内を飾り始めた。窓は外側内側とも塗る。ドアーはタールオイルで塗る。女性達の何人かは床や階段をアルファルファで塗る。

 

④-2塗り返し； 家屋がその家の主婦の芸術性と主婦としての効率性を繁栄する様に女性はお祭りや特別な日に装飾や彩色を繰り返えす。白い塗料で家の外側、特に窓の周辺を塗装する事で十分に満足する。女性は外壁の一番高い場所は梯子を使用し、塗装を行った。場合によっては、この様な仕事に精通した女性が、この建物の所有者がその費用を引き受けてくれる限り、この作業を請け負う事もある。

 

表17　家具

 

①家具と環境適合

 

 

 

 

昔の家具について話す時にはその時代の簡素な生活様式と、人が与えられた環境で入手できる素材を使って、如何にその環境と適合するか営々と努力してきたかを思い起こさなければ成らない。昔の家具はまさにこの努力の歴史の証拠である。家具は殆ど羊の毛、駱駝の皮、ナツメヤシの繊維の房や葉そして木の樹脂から作られている。従って、家具は非常に簡素に見える。そして、又、昔は貧困であった為に、どこの家族も家具を必要最小限に制限していた。

②家具の例と使われ方

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

②-1ファライエク(Al-Farayeq or Al-Fareeqah)： 色彩のある四角の敷物で、座るために地面や土間に広げる。これは今日も使われている。

 

②-2ミルハファー(Al-Milhafah)： 鞣して染めた皮の小片を鞣した皮の紐で縫い合わせ厳しい寒さから身を守る為に羽織ったり、特に客人を座らせる為に床に広げたりした。

 

②-3マサミド： 布を袋状に縫って、中に繊維の房、麦藁、時には干し草を詰めたクッション。綿が詰められるのは偉い人用のクッションのみであった。

 

②-4マムシュート(Al-Mamshoot)： 毛織りの敷物で座る為に地面に広げる。

 

②-5ミアタブ(Al-Mi'tab)： 敷き蒲団のカバーとして使われる一色の布であるが、この地域の殆どの人は持って居なかった。

 

②-6ファールワ(Al-Farwah)： 鞣した皮で、寒さから身を守るために羽織、或いはラッグの様に床に敷いた。

 

②-7ハナビル(Al-Hanabil)： 毎週立つ市で売られている綿の敷物で、つい最近まで目にする事は無かった。

 

②-8ミズバ(Al-Mizba)： 鞣し皮で作った揺り籠で揺らせる様に両端を吊した。大人には殆ど敷き蒲団は無かった。もし有ったとしても、その敷き蒲団は麦藁や繊維の房を詰めた大きな袋であった。裕福な物のみが綿を詰める事が出来た。

 

②-9サイヤア(Al-Sayya')： 着物を吊す木の棒で部屋の壁と壁の間に渡されるのが一般的であった。着物は木箱の中にも保存されていた。

 

表18　家庭用品

 

①入手可能材利用

 

 

アブハー地区の道路には昔は舗装も無く、簡単には近寄り難かった。これまでに既に述べて来た様に、人々は身近な環境で入手可能な物は何でも利用して来た。古い家庭用品の形式やそれらの材料が周囲のある物を最大限利用し適用して来た人間の能力を証す例である。

②家事の知識人

 

 

 

家事に関する深い知識を持ち、堪能している事で知られて居るウンム・ラウダ(Umm Rawdah)から使い方を教わった家庭用品の幾つかを囲炉裏用品、台所用品、掃除用品（衣料を含む）、おもちゃに分けてそれぞれ次の表に記載した。「表19囲炉裏用品サラル(al-Salal)」、「表20台所用品ミハブ(al-Milhab)」、「表21掃除用の消耗品及び備品」および「表22おもちゃ」をそれぞれに参照。

③炊飯の場

（囲炉と台所）

 

 

 

 

 

 

大きかろうと小さかろうと全ての家には台所ミルハブ(al-Milhab)があり、これまでに述べて来た様に家の上部に設けられて居る。これに加えて、サラル(al-Salal)と呼ばれる火が焚ける様に平らな表面と高くなった側面を持つ場所が床に設けられて居る。サラル(al-Salal)を作る代わりに金属や粘土で作った浅い四角な火鉢が使われる事も多い。この中には灰が詰められ、居間に置かれて、暖を取ったり、コーヒーを淹れたりするのに利用する。サラル(al-Salal)はこれらの家庭用品を家族が毎日に生活に事欠かない様にキチンと清潔に保いるか女性の好みや主婦としての能力が示される場でもある。台所用品の基本的な材料は木材、粘土、金属や石細工であった。表19では囲炉裏を紹介し、表20ではパンを焼いたり、調理したりするのに使うかまど、調理用の鍋等の台所用品の主な物を紹介する。

④掃除用品

 

 

 

町であれ、村である、家々の内部の清潔さが非常に印象的であった。最も貧しい人達や低所得者であっても清潔さには非常に注意をはらっている。女性達がその庭で熱心に育てている芳香のある薬草やお香の薫りを嗅がずに家々に入る事は殆ど無かった。家の清掃、台所の清掃、衣服の清掃、衣服のアイロンについて表21に述べる。

⑤おもちゃ

 

昔は母親がその娘に手作りで与える以外は子供達は自分の周りにあるものでおもちゃを作って居た。表22に女の子用および男の子用のおもちゃについて述べた。

 

表19　囲炉裏用品

サラル

 

サラル(al-Salal)と呼ばれる居間の囲炉裏用品は家庭用品の一部としてを家族が毎日に生活に事欠かない様にキチンと清潔に保いるかという女性の好みや主婦としての能力が示される場でもある。

① 乳棒

 

乳棒(Pestle)はニゲル(Al-Niger)又はミフラス(al-Mihras) と呼ばれ、コーヒー豆やカルダモンやその他の南部地方コーヒーの原料をすりつぶすのに使う。

② ふいご

 

ふいご(Bellows)はミンファハ(Al-Minfakha)と呼ばれ木と皮で作られ、空気を送って火を吹くのに使う。地場製の物もある。

③ コーヒー・ポット

 

コーヒー・ポットはディラル(Al-Dilal)と呼ばれ、コーヒーを淹れるのに使う。粘土製の物もあるが真鍮製が一般的である。イエメン製が多いので、イエメン・コーヒーポットと呼ばれる。

④ ロースト平鍋

ロースト用平鍋はミフマス(Al-Mihmas)と呼ばれ、コーヒーを煎るのに使い、金属か粘土製である。

⑤ カップ

カップはファナジール(Al-Fanajeel）と呼ばれ、コーヒーを飲むに使い、粘土製である。

⑥ 籠

 

籠(Basket)はジュナー(Al-Junah)と呼ばれ、様々な大きさがあり、小さい物には香を入れ、大きな物にはパンを入れておく。籠は椰子の枝を使って地場で作られる。

⑦ 陶磁器カップ

陶磁器カップ(Pottery Cup)はコーヒー・カップよりも大きく水を飲むのに使う。

⑧ 木製の箱

 

木製の箱はムバッレド(Al-Mubarred)と呼ばれ、干し葡萄や煎ったコーヒーを保存するのに使い、木で作られている。

⑨　ランプ

 

 

 

 

 

 

ランプにはファヌース(Al-Fanoos)、アトレーク(Al-Atreek)、シェーシャ(Al-Sheeshah)等がある。

 

⑨-1ファヌース(Al-Fanoos)： 灯油が注がれ火が付けられる。それ以前は蝋燭が明かりとして灯されて居た。

 

⑨-2アトレーク(Al-Atreek)；別のタイプの灯油ランプで、どの家でもランプを一つは持っている。

 

⑨-3シェーシャ(Al-Sheeshah)： ランプよりは小さく、ガラスで作られている。

 

表20　台所用品

ミハブ

台所用品はミハブ(al-Milhab)と呼ばれ、昔は木材、粘土、金属や石細工が台所用品の基本的な材料であった。

①かまど

 

かまどはミーファ(al-Meefah)と呼ばれ、パンを焼いたり、調理したりするのに使うかまどは陶器で作られ、側面に薪や炭をくべる為の開口部がある。

②調理用の鍋

 

調理用の鍋(Cooking Pots)はブルム(Al-Burm)と呼ばれ、色々の形と大きさがある。大きな物は羊を丸のまま入れる事も出来る。全て粘土で作られ調理や料理に供するのに使う。

③瓶

瓶(Pots)はブルム(Al-Burm)と呼ばれ、粘土で作られる。深く、蓋が付いて居り、蜂蜜や脂肪を貯えるのに使う。

④鉢

 

鉢(Pots)もブルム(Al-Burm)と呼ばれ、食物を供するのに使う。広く大きくパン生地を捏ねたり、食物に小麦粉をまぶしたりする。

⑤壺

 

壺(Jar)はハウジャ(Al-Hawja)と呼ばれ、粘土で作られ、水を貯めるのに使う。内外面にタールオイルが塗られ、その匂いが壺にしみ込み虫が壺に入るのを防いで居る。

⑥火吹き

火吹きはミシュバ(Al-Mishbah)と呼ばれ、中空の棒で空気を火に吹き込み火を熾すのに使う。

⑦どんぶり

どんぶり(Bowl)はカダ(Al-Qadah)と呼ばれ、粘土で出来て居り、ミルクや水を供するのに使う。

⑧粉砕器

 

粉砕器(Crusher)はミールハカ(Al-Mirhakah)又はミシャガ(Al-Mishagah)と呼ばれ、穀物を粉砕したり磨り潰したりするのに使う。

⑨水袋

水袋(Water Skin)はキルバ(Al-Qirbah)と呼ばれ、皮を鞣して作った袋を泉や井戸から水を運ぶのに使って居た。

⑩手臼

手臼(Hand Mill)はラハ(Al-Raha)と呼ばれ、石で作られ、穀物を粉砕したり磨り潰したりするのに使う。

⑪革袋の容器

ディブヤ(Al-Dibyah)と呼ばれる革袋の容器(Leather Container)はミルクを攪乳してバターを作るのに使う。

⑫革袋の容器

 

シャクワ(Al-Shakwah)と呼ばれる革袋の容器(Leather Container)は鞣した皮で作られ、ミルクを攪乳してバターを作るのに使う。

⑬石鍋

 

ハールダ(Al-Hardah)は石を加工して作った鍋で、食物を供したり、調理したりするのに使う。ナジュラーンやイエメンから持って来られ、その保温力は抜群である。（ビビンバ鍋のアラビア版）

⑭真鍮の鍋

真鍮の鍋(Brass Pot)は最近に成って使われる様に成った。

⑮木製の匙

 

木製の匙(Wooden Spoon)はシワト(Al-Siwat)と呼ばれ、食堂で食物をかき回したり、すくったりするのに使う。全て地場製である。

⑯小さな火鉢

 

小さな火鉢はミジマル(Al-Mijimar)と呼ばれる。粘土で出来た小さな火鉢で、燃えさしを調理に使うために入れておく。

⑰煎り板

 

煎り板(Metal Baking Sheet)はサジ(Al-Saji)と呼ばれる。コーヒーを煎るのに使うが、ロースト用平鍋ミーマス(Al-Mihmas)よりも大きい。

⑱ナイフ

全て地場製である。

⑲火つかみ

 

火つかみ(Fire Tongs)はミルカト(Al-Milqat)と呼ばれ、調理中の肉片を動かしたり、ひっくり返したりするのに使う。

⑳ ミージャン

ミフジャン(Al-Mihjan)は椰子の葉を編んで作ったお盆で、食物を供するのに使う。

21ゴダル

 

ゴダル(Al-Ghadar)又はカイン(al-Qayn)は主として巡礼が持ち帰った物で、豪華な皿或いは鍛冶屋の皿と呼ばれている。

 

表21　掃除用の消耗品及び備品

①掃除の特徴

 

 

 

 

 

 

掃除用品について述べる前に、昔の古い家々を訪問して歩いて発見した重要な特徴について説明する。町であれ、村である、家々の内部の清潔さが非常に印象的であった。最も貧しい人達や低所得者であっても清潔さには非常に注意をはらっている。

女性達がその庭で熱心に育てている芳香のある薬草やお香の薫りを嗅がずに家々に入る事は殆ど無かった。訪問の約束を取らずに訪れても同じ高い水準の清潔さが保たれていた。掃除用品を探す難しさにもかかわらず、昔から女性は自分の家の清潔さを保つ事に誇りを持っていた。ウンム・フサイン(Umm Husayn)はこれについて「これは当たり前の事であり、生まれて来た時からの女性の生き方だ」と言っていた。

②家の清掃

 

 

ミフワカ(al-Mihwagah)と呼ばれる箒は椰子の枝で作られる。床は部分的にラッグが敷かれているだけなので箒は効率的に汚れを除き、掃き清める為に密で柔らかく作られていた。女性は床の清掃と床拭きを少なくとも一日に一度は行っていた。

③台所の清掃

 

アルアル(al-'Ar'ar)（ビャクシン）や椰子の枝の房は調理用の鍋、皿、茶碗やコーヒー・ポットを清掃する唯一の入手可能な材料であった。泥も時々研磨材として使われた。

④衣服の清掃

 

 

 

 

 

 

 

昔は、貧しさの為に多くの人は殆ど衣服を持って居なかった。二つのソーブ(Thobe)を持って、一つを着用し、その間にもう一つを洗濯出来る人はまず居ない。多くの場合、人々はソーブ(Thobe)を一つしか持たず、洗濯し乾き終わるまで待っていた。ほんの僅かな豊かな人達だけが着物の少なさに悩まされずに済んで居た。従って、家庭或いは谷間で行われて居た洗濯に女性が多くの時間を取られる事は無かった。篩いに掛けられた灰が着物を洗うのに使われ、着物を雪の様に白く染めた。

それに加え、アルアル(al-'Ar'ar)（ビャクシン）の葉が衣服洗濯する泡に使う為に粉にされた。黒い衣服は泥で擦った。アブー・アジャラブ(Abu 'Ajalab)或いはアブー・アスカリ(Abu 'Askari)と呼ばれた石鹸は割合と最近シリアからもたらされ、古い洗濯用剤と次第に代わってきた。

⑤アイロン

 

昔、アイロンは知られて居なかったが30年前位にアブハー市内で炭を使ったアイロンが使われ始めた。村によってはアイロンが使われる様に成ったのはごく最近の事である。

 

表22　おもちゃ

 

①女の子用

 

 

 

昔は母親がその娘に作ってやった以外、どんな種類の人形も無かった。母親が人形を作る際には羊の足の骨を利用して居た。

髪を梳く際に落ちた毛を集めて、糊で骨の先に張り付けた。細い枝木が十文字に置かれ、樹木から集めた樹脂をその尖端に付けた。人形は更に残り布や使い古した布を着せられて居た。

②男の子用

 

 

男の子は自分の周りにある全ての物をまねて自分のおもちゃを作った。例えば、自分の父親を真似、棒や石を使って、井戸や手斧を作った。10歳になると参加して遊ぶカールガハン(al-Qargahan)と呼ばれる集団ゲームもあった。

 

表23　伝統的な住居、家具、家庭用品等の変化

①住居の変化

 

 

 

 

伝統的な住居の変化はこの地域全体がサウジアラビアの他の地域と交流し始め変わって来た事と深く関わって居る。石油の発見は国家財政を改善し、この地域への歳出増加をもたらした。道路の建設や交通の進歩で様々な家庭用品、用具や日用雑貨が市場から簡単に調達出来る様に成った。古い住居の建て替えを補助する不動産基金や開発基金が潤沢に用意され、それと共に市民の平均収入が飛躍的に増加した。その結果、レクレーション用品や贅沢品の需要と共にその様な要求に応えられる特殊技能を持つ労働力の供給力が増加した。

②建築様式変化

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな根本的な変化が農業、建築材料、建築方法や流通の分野に起きた。セメントと鉄が石と泥に代わり、サウジアラビア全土で同じ様な外観の住居が建てられる様に成って来た。この相似は建設労務者が同一地方から連れて来られ、彼等が設計技術に高い専門知識を持って居なかった事に由来する。伝統的な古い建物の魅力的な様式はその地域の自然と両立する独自性にあると考える人達には近代的建築様式は独創性が無く、繰り返しのみであると感じられる。近代的住居では住居内に浴室が作られ、台所が住居の一番上に設けられる事も無くなった。電気暖房の導入で家族が暖を取り合う為に一つの部屋に寄り添う必要性は無く成り、寝室の数も増えた。彩色や装飾も少なくなり、最近建てられた幾つの住居に装飾がみられるだけに成ってしまった。彩色は今では住居の外塗りに限られてしまっている。女達は装飾や彩色の仕事をする必要が無くなり、伝統的な材料も方法も失われ、輸入された塗料が市場で売られている。これら全てはアブハー市街地で起きて居る事であるが、近代的な発展や進展にも関わらず、周辺の村々では今も多くを伝統にこだわって居る。

③家具と配置

 

 

 

 

 

 

これまでに述べた様に、昔の家具は僅かな数の簡単な物に限られて居た。しかしながら、簡素さは複雑化され、輸入家具が地場産の伝統的な家具と大きく入れ替わってしまった。詰め張りしたソファーやイスがマラヘフ(Malahef)と呼ばれる鞣し皮で作ったラッグと代わり、イラン製、ドイツ製、トルコ製等のカーペットがファライク(al-Farayiq)或いはハナビル(al Hanabil)と呼ばれる地場産のカーペットに代わった。それでも、多くの家ではいまだに床に直に座る場所が残され、毎日の生活に使われている。カーテンは住居の壁が美しく彩色されて居る部分に吊す。輸入されたベッドが伝統的なマットレスと代わり、代表的な部屋の作りも完全に変わっている。

④台所用品変化

 

 

包括的な変化はこの場所にも起きた。ガス・ストーブが遠隔地の村も含めて殆どの台所に置かれた。ビュルム(al-Burm)と呼ばれる粘土製の鍋が蒸気式調理器に代わり、木や粘土の皿がガラスや陶器の皿に代わった。昔の面影を今に残す粘土のコーヒー・ポットも真鍮、鉄や磁器製に代わった。

⑤掃除用品変化

 

 

椰子の枝で作られて来た箒は電気掃除機と代わり、伝統的な泥やアッファール樹('Affar)の泡やアブー・イジュラ樹(Abu Ijlah)の石鹸は何百種類物もの石鹸や洗剤に代わって来た。手洗いの洗濯は自動洗濯器に代わり、炭火式アイロンは電気アイロンに代わった。

⑥変化への反動

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伝統的な家庭に急激な変化があったのは確かである。「若い世代は変化を望むが、年寄りは古い家の中で死にたい」との文はアブー・アハマド(Abu Ahmad)のこれらの変化に対する反応を示して居る。年輩者には古い伝統的な家屋から動くのを拒否する人達も居る。古い世代とぶつかる一番重要な問題を問いかけるとウンム・アブドゥッラー(Umm 'Abd Allah)は「誰も西洋の浴室やイスやソファーを受け入れ無い」と述べた。シャイフ・アブドゥッラー・イブン・ジヤド(Shaykh 'Abd Allah ibn Ziyad)は蒸気調理器の様な近代的台所用具について、「常時寝る事と緊張の緩んだ無能な主婦の道具の様だ」と述べた。近代的住居とその中味に対する否定的な見方に、電気器具やその他の設備の高い補修費が挙げられている。多くの部屋数と空間を持つ新しい家は殆どの女性がメイドの雇用を主張する結果を招いている。その結果、住居費は増加し、それに財政負担に耐えられない人達は古い家に引き続き住むのを余儀なくされている。シャリ－ファ(Shareefah)はこの状況を詩の中に次の様に謡い込んで居る。「住人は古い家を空けた。そして貧乏人以外そこには残って居ない。しかし、残った者はどんなに快くそして幸せか」少なくとも外見だけは伝統的な建設様式を残す努力への公共的な義務の助長が必要である。

 

表24　伝統的な衣装

①伝統衣装一般

 

 

 

 

 

昔の生活の貧しさと質素さは人を山暮らしに適応させ、他の全ての事と同じ様に自分の周囲で手に入る物を活用して衣服として来た。伝統的なドレスは絶対的に必要な際に使うだけに限られ、普段着は羊毛か鞣し皮で作られた。加えて、アラビア半島の南や大シリアから運ばれて来た衣服の数は限られて居り、男の衣服も女の衣服も地場の仕立屋で作られて居た。豊かな者はその衣服を象牙の箱にしまったし、そうで無い人達は飾りの付いた木箱か、虫除けのタールを塗った木箱を使った。何人かの人達は衣料を壁に吊したり、向かい合った壁に渡されたロープに掛けたり、すれば十分に間に合った。

②男性用衣服

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

およそ二十年前までは男性は大シリアやイエメンから輸入したドート綿(al-Doot)と呼ばれる木綿の布で作られた衣服を着るのが普通であった。布の一巻は11リヤルもして当時は大変に高価であると考えられて居た。この布がこの地方ではムブラム(As Mubram)として知られる白衣であった。

 

②-1ソーブ： ソーブ(Thobe)の長さは畑や岩だらけの山での仕事に動きやすくする為に膝の直ぐ下辺り迄の長さだった。縫い合わせる為の縫い糸は布を裁断した残り布から抜き出した。

 

②-2下着：下着については分からない。

 

②-3頭の覆い：頭の覆いは葉っぱか、バジル等の芳香の有る植物で飾られたターバンであった。

 

②-4リハフ等：男はリハフ(al-Lihaf)として知られる肩まで包む軽い毛で作られた覆いを身に着けた。腰の周りにはベルトを締め、ダガーを差し、そして鞣し皮で出来たサンダルを履いて居た。

 

②-5その他： その他の種類の衣服は、例えば寒さから身を守る為の鞣し皮で出来ているファルワ(Farwah)等、必要に応じて羽織った。仕事中の身体保護の為にソーブの下部にエプロンの様に覆いを着けた。

 

②-6新しい着物： サウジの統治が始まると共に様々な政府の代表がナジド地域からやって来て次第に変化が始まった。この国の正装はこの地域の伝統的な衣服の好みに合わせられ始めた。新しい型の着物が導入され、その他は廃れて来た。伝統的な衣服ソーブ(Thobe)の丈は少し増し、新しい衣服は軽い毛織りで作られたゆったりした衣服のビシュト(al-Bisht)になった。

③女性用衣服

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刺繍を施した黒いドレスはアブハーやサラート・アシールの女性の際だった特徴である。このドレスはドゥアイト・アブー・アスカリー(Duait Abu 'Askari)と呼ばれる布か、それより多少高価なアブー・サーア(Abu Sa'ah)と呼ばれる布で作られて居た。後者は特別な催しに身に着ける。

 

③-1着物の数： アブハーの豊かな家族を除いて、女性は二つ以上のドレスを持たなかったどころか、場合によっては一着しか持って居なかった。夏用と冬用のドレスをそれぞれ一着づつ持っている婦人は幸運だと考えられていた。

 

③-2エプロン： ドレスの下半分の上にエプロンを着用し、腰に縛った。これは黄色と黒を基調として細長い縞模様の色調ある布の一片である。このエプロンはドレスを保護し、寒さからも身を守ってくれた。

 

③-3下着：大昔の下着については分からない。もっと最近ではパンツが導入され、ドレスと同じようにその縁には刺繍が施されて居た。

 

③-4ベルト：女性もベルトを着用し、ベルトは普通、革製で腰の周りに締めた。裕福な家庭の女性は銀製のベルトを着用した。

 

③-5スカーフ：既婚の女性はその頭を赤かオレンジ色の綿で作られたスカーフで覆った。その上に着用したミールヤシャ(al-Miryashah)と呼ばれる他のカバーは綿製で黒色して居り、その端は色付けした糸玉で飾られて居た。黒いドレスと相まって、これが魅力的な効果を与えて居た。更に、頭部はマカーイス(Maka'is)と呼ばれる芳香のある薬草で飾り立てられて居た。未婚の娘に関してはウンム・フサイン(Umm Husayn)は「未婚の娘が四十に成ろうとも彼女はスカーフしか身に着けられない。昔は処女が顔を隠すこと無くその頭にスカーフを被るだけであった。しかしながら、その為に未婚の娘はクフル(al-Kuhl)又はメークアップを施す事は無かった」と言う。この理由を尋ねるとウンム・フサイン( (Umm Husayn)は「この地域にはよそ者は居らず、全ての人が同じ部族かその支族であり、少女にいやがらせしたり、触ったりする者は居なかった」と答えた。

 

③-6服装の変化： 女性の服装の変化は多くの種類の色調と刺繍の施された布がもたらされて始まった。他の地方やテレビの影響による社会文化の交流によって縫製、刺繍や仕立ての方法が変わって来た。女性用衣料は既製服が輸入され、週毎の市で売られた。世界中から輸入した女性用衣料を展示販売する為に多くの店がオープンした。現地調査ではどんな小さな村でも女性用の仕立屋の無い村は無かった。履物については様々なスタイルやモデルが輸入され、この地域の特に若い女性を中心に受け入れられた。伝統的な服装は年輩者や公式行事やお祝いの席で着られるのみに成って来た。

④子供用衣服

 

 

 

 

 

 

子供に衣服はその性別によってそれぞれ男親或いは女親の衣服の模倣である。

 

④-1男の子： 男の子はドート綿(al-Doot)で作ったソーブを着て、ベルトにダガー(Dagger)を差し、そして頭をターバン(Turban)か、タフシャ(al-Tafshah)で覆って居た。殆どの場合、男の子は裸足で歩いて居た。

 

④-2女の子：女の子は刺繍の無いドレス、オレンジ色か赤色のスカーフを着用し、必要な時には帽子タフシャ(al-Tafshah）を被った。

 

表25　衣装の例

 

①男性用伝統的な衣装

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

①-1ソーブ(Thobe)：ムブラム(al-Mubram)で作られ、ミズナド(al-Miznad)と呼ばれた。

 

①-2リハフ(al-Lihaf)： バクダットから運ばれた綿絹を使ってティハーマ地方で織った肩掛け。

 

①-3ミフラジ(al-Mifraj)：長い袖の異なった形のソーブ(Thobe)

 

①-4ファルワ(Al-Farwah)：寒さから身を守る為に羊の皮で作ったコート。

 

①-5ターバン(Turban)：ウママ(Al Umamah)とも呼ばれる。綿花か毛で作られた頭の覆い。

 

①-6ニアーアル(Al-nia'al)： 鞣し皮で作られて居るサンダル（足履き）。

 

①-7ヒザム(Al-Hizam)： 皮のベルト。二つの種類があり、一つはダッガーを差す為のベルトであり、もう一つはミスバト(Misbat)と呼ばれ、弾丸を腰に着ける為のベルトである。

②女性用伝統的な衣装

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

②-1ミズナド(Miznad)： ドレス。

 

②-2セルワル(Serwal)： アンダー・パンツ。

 

②-3マンディル(Mandil)： スカーフ。

 

②-4シャイラ(Shaylah)： ミルヤシャ(al-Miryashah)とも呼ばれる頭部カバー。

 

②-5ミクラマ(Al-Miqlamah)： 頭部カバー。

 

②-6ウィズラ (Al-Wizrah)： スカート。

 

②-7ミザッル(Al-Mizarr)： 縫い合わされた鞣した皮片。

 

②-8ナタア(Al-Nat')： 縫い合わされた鞣した皮片、ミザッル(Al-Mizarr)より小さい。

 

②-9シャムラ(Al-Shamlah)： 小さな毛織りの衣服。

 

②-10ナサーアブ(Al-Nas'ab)： 皮を編んで作ったベルト。

 

②-11タフシャト(Al-Tafshat)： 椰子の葉を編んだ帽子。

 

②-12正装の女性：刺繍したドレス、長いズボン、襟巻き、襟巻きの上のヘッドカバーを着用し装身具を身に付ける。

 

②-13野良着の女性：畑で働く女性は冷たい雨や寒さから自分の身を守るために鞣した小さな皮を縫い合わせて作ったミザッル(al-Mizarr)を羽織った。椰子の葉で作った帽子タフシャ(al-Tafshah)が雨と風から頭部を保護した。

③新しい男性用衣料

 

 

 

 

 

 

 

 

 

③-1ビシュト(al-Bisht)：伝統的な衣服(ソーブ、Thobe)の丈は少し増し、新しい衣服は軽い毛織りで作られた

ゆったりした衣服のビシュト(al-Bisht)になった。

 

③-2グトラ(al-Ghutrah)： ターバンに似た頭の覆いであり、頭に巻くのでは無く、両側が緩んでいる。

 

③-3イカール(I'qal)：黒い毛の糸で作られ、グトラ(al-Ghutrah)を固定する為の編んだ頭のバンド。

 

③-4下着

 

③-5サンダル： ナジュディ・サンダル。

 

表26　伝統的な武器と装身具

① 伝統的武器

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここでは伝統的な装飾や宝石があしらわれ、男が身につけ、誇りに思う武器について記述する。

 

①-1 男粋： アハマド氏(Ahmad)は「武器は男粋の一部であり、護身の為に常に身につけている。特に猛獣や爬虫類、毒蛇や毒虫の生息する自然の儘の山岳地帯では実用上必要になる」という。

 

①-2短剣：経済的な状況とは無関係にダガー（短剣）無しで行動出来ない。男の子は10歳を越えるとその使い方を教わり、身につける。

 

①-3ライフル： ライフル銃がこの地方に伝わってからは、ダガーと同じに重要視され、同じ目的で使われている。」と言う。古いライフルは装飾や彫刻が施され、大切に保存されている事を示して居る。

 

①-4女性の武器： ウンム・フサイン(Umm Husayn)も「我々女性ですら、何かの武器を持たずに外に行く事は無かった。自分を守るだけなら手に持った杖で十分ではある」と言っている。

 

①-5名声と誇り： 昔、男は自分の身体の強健さ、忍耐強さ、持久力そして全ての武器を使いこなせる巧みさを誇りにして居た。この地域のどこで得た名声でも、その名声は自分の村ばかりか、村外ではサラート(al-Sarat)の離れた端の方まで知れ渡った。

 

①-6新たな伝統 サウジの統治が始まると次第に変化し、公式行事の際や年輩者が身に帯びるのに限られているとは言え、男性は伝統的な武器特に短剣(Dagger)は常に所有して来ている。黄金をあしらったり、彫刻で飾ったりする様な幾らかの変化が特に刀剣類等の武器に取り入れられた。この様な武器を所有する事は今でも先祖伝来の誇りの源である。

 

②女性用装飾と装身具

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

②-1伝統的装身具： 全ての場所と全ての時代に、安かろうと高かろうと自分を飾る宝石類を求めない女性を見つけ出す等、殆ど有り得ない。一般的に、アラブの女性は装飾品と宝石への好みと凝った好みで、世界中の女性の中でも際だって居る。アブハーの女性達もその例外では無く、装身具を好んだがその限られた収入の為に銀製の指輪、腕輪、足輪を選んだ。その時代は、装身具の一つでも持てれば大変幸運であると考えられて居た。ウンム・ラウダ(Umm Rawdah)は「女が装身具を持てない場合は他の方法で自分を飾る事を考えた。例えば革の切れ端から作った装飾品である」と述べている。

 

②-2銀製装身具：昔は、装身具の主な材料は銀であった。ある物は地場で作られ、ある物はナジュラーン、イエメンや印度で作られた。これらの銀製の装身具は丁寧に、独自の図案に基づき作られて居た。金がこの地域にもたらされたのは30年程前で、ほんの僅かな量であった。

 

②-3新たな伝統；黄金の輸入と経済的な発展で人々は銀製に代わって金製を買い始め、金細工屋が地元にも営業を始めた。金と装身具の商人は外国から装飾用の真珠や宝石を大量に買い入れた為に、宝石が非常に一般的になった。女性が安定した投資目的としている事も装身の購入を助長している。

 

表27　伝統的な武器と装身具の例

①伝統的な武器

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

①-1杖(Stick)： ミシューアブ(Al-Mish'ab)、スマイル(Al-Sumayl)等

 

①-2斧(Axe)： シャグフ(Al-Shaquf)等

 

①-3槍(Spear)

 

①-4短剣(Dagger)：曲がった柄のある短剣ジャムビイヤ(Jambiyyah)、小さな剣ジールダ(Al-Jirdah)等。

 

①-5ライフル： ファティール(Al-Fateel)、ミフジャラブ(A-Mihjarab)、シャルファ(Al- Shalfa)、ミクマア(Al-Miqma')、ナッブト(Al-Nabbut)、サリー(Al-Tharee')等、多くのライフルがトルコからもたらされた。古いライフルは装飾や彫刻が施され、大切に保存されている事を示して居る。

 

①-6武器の変化：公式行事の際や年輩者が身に帯びるのに限られているとは言え、男性は伝統的な武器特に短剣(ダガー、Dagger)は常に所有して来ている。ピストルの様な近代的な護身用の武器が広まり、入手可能であってもダガー（短剣）の重要性は少しも変わって居ない。黄金をあしらったり、彫刻で飾ったりする様な幾らかの変化が特に刀剣類等の武器に取り入れられた。この様な武器を所有する事は今でも先祖伝来の誇りの源である。

 

②女性の好む装身具

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日では金の装身具が銀の装身具よりもはるかに一般的に成っている。

 

②-1指輪(Rings)

 

②-2耳輪(Earring)： フルサン(Khursan)。

 

②-3首輪(Necklace) ： ルッバ(Al-Lubbah)、マーアニク(Al-Ma'aniq)、ムサンマナト(Muthammanat)等。銀の首飾りの大きな丸い部品は中空であり、「魔よけ(Amulet)が入れられて居たのでは無いか」と思われる。

 

②-4腕輪(Bracelets)： マルウィイヤト(Al-Malwiyyat)、アウダ(Al-Awdah)、ミスク(Al-Misk)、タファ(Al-Tafa)、シュナイリイヤ(Al-Shunayliyyah)、サフィハ(Al-Safihah)等。

 

②-5足輪(Anklet)： ハジュル(Al-Hajul)、ハムバラ(Al-Hambalah)、ヒンジャラ(Hinjalah)等。

 

②-6ベルト(Belt)： ヒザム(Al-Hizam)。

 

②-7鼻輪： ジマム(Al-Zimam)。

 

②-8ヘッドキャップ： アッサバ(Al-'Assabah)、カトファ(al-Qatfah)等。

 

 

表28　伝統的な香料

①香料を使う伝統

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

①-1重要な役割： この地の住人は清潔さと住居と身体への香料の使い方に非常に重きを置いて居る。この地域に芳香植物やハーブが豊富な為にこの様な習慣が助長されて来たのは疑いの余地も無い。

 

①-2髪と衣服： 特に髪を長くするのが習慣であった時代では自分と自分の衣服に甘い薫りを与える為に、バジルの小枝をターバンに差した男はごく普通であった。ウンム・フサイン(Umm Husayn)は誇りで目を見開きながら「香料をまとった男を眺めるくらい素敵な眺めはない」と言う。

 

①-3女らしさと香水： 髪に美しく飾り、香水をつける事を好むように神がお作りに成った女性の場合は香水に関しては男性よりもっと顕著である。香水をつけるのは女性らしさの一部であり、大きな部分である。誰か、アラビアの香水の魅力について聞かなかった人は居るだろうか。女性は自分の畑や家の周りに芳香植物を植えているが、量が要る時には毎週の市で簡単に手に入れられるだろう。

 

②女性のハーブの使い方と香料の作り方

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

②-1衣服への装着： ハーブを直接に頭部のカバーや衣服の折り目に置き、香りを身につけるに使った。

 

②-2居間の芳香： 芳香植物を居間に置いて快く、さわやかな芳香を漂わせた。

 

②-3家族用香水： ある種の植物を砕き、その液や油を抽出して自分や家族の香水として使った。

 

②-4体と髪の香水： ハーブを乾燥させ、すりつぶして油や脂肪に混ぜ、体や髪の毛の香り付けに使った。

 

②-5炊く香： 下記に挙げるこの地方で採れるハーブに加えて多くの香料がイエメン、スーダン、印度や大シリアから輸入されて居た。

 

②-6女性の幸せ： ウンム・サウードは「女性が一瓶の香水を手に入れられるのはどんなに幸運な事か。それは何もこの国で香水が足りないと言う事では無く、全ての種類の香水を愛しているからだ」と言う。

 

②-7ハーブと芳香植物： レーハン(Al-Reehan)（バジル(Basil)）、ビルク(Al-Birk)、ウィザブ(Wizab)、ウィシャル(Wishar)、バルダ(Barda)、ゴーシュ(Qoosh)、ツルカ(Trqah)、バーシャラン(Ba'sharan)（バーサラン(Ba'tharan)）、ワルド(Ward)（薔薇、Rose)）カディー(Kadi)等がある。

 

③今日の香付け

 

 

 

 

 

 

 

 

 

③-1変わらぬ伝統： 香付けはアブハーで外からの影響を受け変化し無かった数少ない事柄の一つである。香り付けの習慣の中で変わったり、無くなったりした物は無い。芳香植物は今でも栽培され、売られて居る。女性は芳香植物から香水を抽出したり、芳香のある香料を作ったりして居り、家々はオリエント的な香りで溢れて居る。

 

③-2香水の導入： この事は近代的な香水が受け入れられて居ないとか、存在しないとか、言う事を意味しては居ない。これまでにも述べて来た様に、香水への嗜好は男女の別無く、この地域の血筋である。アブハーやその周辺の市場にはパリやオリエンタルの香水店が溢れて居る。香水への嗜好はこの地域ばかりでは無く、王国内の殆どの地域でサウジ市民の間に顕著である。高価ではあるが贅沢品では無く、必需品であると考える人も少なく無い。

④香料

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

④-1ウダル(Al-'Udar)： 青いウド(the blue ud').とも呼ばれ、この国では一番重要な種類の香の一つであり、アブハーの火曜市で売られている。

 

④-2ムシャト(Mushat)： 磨る潰され髪に塗られる。ムシャットを塗り、梳られた髪は柔らかく、優雅な香りがする。

 

④-3ダコーン(al-Dakoon)： ダコーンは香料を意味し、香を炊くのは客を接待する最も重要な習慣の一つである。

 

④-4ハーブ： ハーブは磨り潰し、香として炊かれる。その種類にはミスティカ(Al-Mistikah)（アラビアン樹脂(Arabian Gum)）、マーラブ(Al-Marlab or Prunus Mahaleb)、ジャウニー(Al-Jawni)、ジール(Al-Zir)、アンバル('Anbar)、竜涎香(Ambergris)、ミスク(Misk)（麝香(Musk)）およびウダル(Al-'Udar、called the blue 'Ud)等がある。

 

 

表29　伝統的な医療

①健康と病

 

 

 

 

 

 

 

 

 

①-1必要と工夫： 必要は工夫の母であり、実験は最高の証明であるとの諺がある。神のご加護を持って、昔は、医療に対して責任を持った人々が居た事だけが病と闘う唯一の方法だった。

 

①-2健康の概念： 特に人生が贅沢から遙かに遠い存在で、人体が太陽、空気、暑さや寒さ等の多くの自然の風雨に曝されて居た時代には、人間の免疫は特定の病気に抵抗出来るだけ十分に強かった。ウンム・アブドゥッラー(Umm 'Abd Allah)は「昔の生活は健康で喜びに満ちており、食糧は健康食で身体の必要量以上に摂り過ぎる事も無く、人々は家の中や畑の中そして村々の往復に

常に歩き回って居た」と述べている。「身体が強かった為に、簡単な治療でも病気を直せて居た」と言うこの話は昔の人達の健康状態に対する或る程度の概念を与えてくれている。

 

② 不治と不知の病

 

 

 

 

 

 

 

②-1不治の病：　昔は快復も出来ず、又治療法が分からなかった病気もあった。それらには天然痘(Smallpox)、髄膜炎(Meningitis)、腸チフス(Typhoid) およびその他の疫病(Plague)があった。ウンム・フサインは「お爺さんから聞いた話では、神よそれらから我々をお救い下さい、疫病が広がると一つの村全体が全滅し、その犠牲者は数え切れなかった」と言う。

 

②-2不知の病： 今日、知られている糖尿病(Diabetes)、血栓症(Thrombosis)および扁桃炎(Angina Pectoris) 等の多くの病気を昔の人達は知らなかった。

 

③伝統的医療と薬草

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

③-1伝統的医療： 伝統的医療は主にハーブ(Herbs)や焼灼(Cauterization)に頼っていた。吸い血や出血も病気に依ってはその治療に使われて居た。痛みの局部を切開し出血させ、悪い血を放出させた。出血させる事により体内の血液を新しく出来ると考えられて居た。

この様な治療や医療処理に関しては専門の知識も無く、論評しようとは思わない。しかしながら、昔の治療法と現代医療の間の相似性が有る事は理解すべきである。アラブの医者は、男女の別無く、患者を診察し、患者が普段から使い、殆どの家に常備しているハーブで治療させ、それが効果が無い場合に治療や焼灼(Cauterization)の処方箋を作った。

 

③-2薬草類： 過去に最も良く使われた名高いハーブや穀類には次の様な物がある。

a.ミルラ(Myrhh、没薬)　樹木から抽出された苦みのある樹脂。

b.アサフェティダ(Asafetida)とも呼ばれるヘルティート(Helteet)。

c.ヤナソウン(Yanasoun)又はサヌツ(Sanut)と呼ばれるアニスの実(Aniseed)。

d.ハッバ(Al-Habba)又はスダー(Al-Suda)と呼ばれる黒ヒメウイキョウ(Black Caraway)。

e.ヒルバ(Al-Hilbah)と呼ばれるフェヌグリーク(Fennugreek)（胡廬巴）。

f.コーヒー(Coffee)。

g.香辛料(Spices)のナフワブ(Al-Nakhwab)。

h.タールオイル(Tar Oil)。

i.その他プルナス(Prunus)、マラヘブ(Malaheb)、アチッリア・ビィベルステイニイ(Achillea biebersteinii)等。

薬草、穀類および香料を売る専門家であるウンム・サイード(Umm Sa'eed)は「我々の大半は今でもハーブや穀類、特にアニスの実、黒ヒメウイキョウ、ミルラ(Myrhh、没薬)、ナフワブ等を使って居るし、その様なハーブを持たない家は一軒も無い。もし、それらのハーブが役に立たなかったとしても、別に、害にも成ら無い」と言った。

 

④今日の治療法

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

④-1医療施設： 今日では診療所、健康センター又は病院の無い谷は無くなった。アブハー市内には多くの私立診療所の他に、三つの政府の病院、十九の健康センターがある。

 

④-2新しい病気： ウンム・フサイン(Umm Husayn)は「神の御心で、病気が増えて来て居り、これまで以前は全く知られて居らず、何の知識も無い病気を医者が見つけだしている」と言う。

 

④-3粉末ミルク： ウンム・サイード(Umm Sa'eed)は「私達や私達以前の人達は哺乳瓶について何も知らなかったし、そう言う物は発病の元と考えて居た。私達は赤ん坊が離乳するか、妊娠するまで母乳を与えるのが当たり前だった。今は、赤ん坊に粉末ミルクを与えて居り、それが様々な病気の元に成って居る」と言った。

 

④-4予防注射： 一番進歩的な発展は多くの病気に対する強制的な予防注射を全ての赤ん坊に行う事である。南半球の人達は近代的薬品とその科学的基礎を歓迎するけれども、一方で自分の先祖伝来の薬も大切に保持している。

 

表30　各種病傷と伝統的な治療法

①外傷・整形

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

①-1蛇咬み・虫刺され： 咬まれたり、刺されたりした箇所を直ぐに切開し、血を放出させる。血を吸い出し、吐いて捨てるのを繰り返し行う。毒を吸収させる為にカラブ(Khalab)（泥(Mad)）を塗り、その後、タール・オイル(Tar Oil)で擦る。

 

①-2傷(Wounds)： 磨り潰したコーヒー豆を傷口の上に擦り込む。更に、傷口にタールオイルを塗る。ミルラ(Myrhh)（没薬)、カドマ(al-Qadmah)の葉、アル アルアル(al-'Ar'ar)（ビャクシン、ジニパー又は棘つきビャクシン）の葉を傷口に当てる。

 

①-3火傷(Burns)： 粉末にしたザクロの皮を火傷の上に塗る。雄山羊の焼いた角の粉末をその上に加える。

 

①-4骨折(Fractures)： 折れた骨はアラビア整形外科のスペシャリストのよって固定される。最初に骨を固定し、次に添え木を当てる。患者には感染症を防ぐ為のハーブを与える。

 

①-5骨及び関節の障害： 状況には依るが、患者にヒルバ(Al-Hilbah)と呼ばれるフェヌグリーク(Fennugreek)から作ったお茶を飲ませるか、暖まるまで火で熱した地面に溝を掘り、消し炭(Cinder)を取り去り、患者をこの溝に横たえる。熱が患者の体の温湿布を施してくれる。

 

②内臓疾患

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

②-1内臓疾患および疝痛(Colic)： 患者に煮沸したアニスの実(Sanut or Aniseed)の飲料か黒ヒメウイキョウ(Black Caraway)又はコーヒー(Coffee)を与える。治癒しない場合には足の踵を焼灼(Cauterization)する。

 

②-2下痢(Diarrhoea)： ラシュワブ（Rashwab）と呼ばれるバターミルク(Buttermilk)から先ず与える。これを治癒するか、焼灼(Cauterization)されるまでミルラ(Myrhh)（没薬)、ヒルバ(Al-Hilbah) （フェヌグリーク(Fennugreek)）およびハッバ(Al-Habba)又はスダー(Al-Suda)（黒ヒメウイキョウ(Black Caraway)）等も加えて与える。

 

②-3咳および気管支炎(Coughs and Bronchial Infections)： 患者にはハーブの煎じ薬と共に黒胡椒入りの肉スープを飲ませる。胸と背中に暖めた油を擦り込む

 

②-4心臓と胸の障害： これらはかつて知られて居ない病気であった。もし、患者が衰弱を訴えたら、痛み止めの薬を塗り込み、肉スープを飲ませる。

 

②-5尿管の感染(Urinary Tract Infections)： 焼いた大麦を煮て患者に飲ませると、放尿が楽になる。

 

③顔・頭部

 

 

 

 

 

③-1頭痛(Headaches)： 頭を暖めた脂肪で擦る。もし、治らない場合は七日後に頭の四ヶ所を焼灼(Cauterization)する。これを七番と呼んでいる。

 

③-2眼疾(Eye Disorders)： サブガ(Al-Sabghah)と呼ばれる青染料(a blue dye)を目に塗る。あるいは白銀の擦り落としを集め、固形クフル(Kuhl)や石と一緒に潰しまぶたの縁に塗りつける。

 

④伝染病

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

④-1はしかと水疱瘡(Measles and Chicken Pox)： 患者を暖かく保ち、胡椒入りの肉スープを飲ませる。更に、デーツ、黒胡椒および脂身を煮て患者に飲ませる。

 

④-2ハッファ病(Al-Haffa Disease)： この病気は髄膜炎(Meningitis)と腸チフス(Typhoid)併発する。この病気に罹った人は高熱で意識を失い、倒れ込む。七日目に黒胡椒入りの肉スープを飲ませた後、焼灼(Cauterization)する。

 

④-3天然痘(Smallpox)： 病人は、はしか及び水疱瘡(Measles and Chicken Pox)と同じ治療を受けるが、病人の看護は天然痘(Smallpox)に同じく罹病している人によって行い、健康な人間から完全に隔離しなくてはならない。

 

⑤精神的障害

 

 

この様な障害にはコーランを読んで聞かせる。代わりの方法としては焼灼(Cauterization)あるいはヒジャバ(al-Hijabah)と呼ばれる特別な食事療法(Special Diet)が使われる。

 

⑥婦人病等

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⑥-1乳房の病気（腫れおよび負傷）： 出来るだけ早く患部を焼灼(Cauterization)する。感染した箇所を切断し、膿を取り除く。それから傷口を消毒する為に白い樹液を含むムラウッィド(Murawwid)と呼ばれるイチジクの小枝(Twig from a fig tree)を切断した箇所に押しつける。この小枝は毎日取り替える。この傷は乾いて完治するまでは閉じてはならない。

 

⑥-2婦人病(Women's Disorders)： 樹木から抽出された苦みのある樹脂であるミルラ(Myrhh)（没薬）の煙を病人である婦人の体に炊き込める。ミルラは非常に苦いが感染治療にも使われる。又、軟膏(oitment)の一種を体に擦り込む方法もある。又、石板や小さな石のマラシーフ(al-Maraseef)を火で暖める。石が暖まったら、冷たい水に入れ、体をその暖かい蒸気で温める。

汗が出るまで体を包み込んだ後、石板を取り除き、ミルラ(Myrhh)（没薬）を載せて、その上に患者を座らせる。ミルラ(Myrhh)（没薬）と熱がけいれん(Cramp)や筋肉痛を取り除いてくれる。この両方の治療を十日間繰り返すと患者は活動的に成り、快復する。この療法は分娩の後、四十日間続けられる。ミルラ(Myrhh)（没薬）、アサフェティダ(Asafetida)および黒ヒメウイキョウ(Black Caraway)の粉薬や煎じ薬も婦人病に使われる。

 

表31　化粧

 

① ターバン飾り

 

アシール族のティハーマ支族の男がターバンをカルダモン(Cardamom)とカディ(Kadi)の葉で飾り立てている。

② ムシャト(Mushat)

磨る潰され髪に塗られ、髪を柔らかく、優雅な香りにする。

③ ヘンナ

ヘンナは美容上で使われる以外、健康維持にも使われる。

④ クブル

クブル(Kuhl)の塊は粉に磨り潰され、目の周りの化粧に使われると共に、様々な目の障害にも使われる。

 

表32　伝統的な食事

①一般的な料理

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

①-1空腹飽食原則： 最後の預言者でアダム、アブラハム、モーゼ、イエスその他の預言者達が仕える共通の神の使者である預言者「我々は空腹の時にのみ食べ、飽食する前に食べるのを止める民である」とモハメッドは言った。この原則は昔の人々はより厳しく適用して居ただろうし又、その時代に入手可能であった食材の種類もその原則を守るのを可能にして居た。

 

①-2入手可能食材： アブハー地域は或る程度は農業地帯として考えられては居るが、栽培されて来た作物は小麦、大麦、トウモロコシ、幾種類かの果物と野菜のみであった。

 

①-3三要素の食物： 昔の食物は主として小麦で作られて居り、それにブッリ(al-Burri)と呼ばれる動物の脂肪や蜂蜜を加えて居た。この三要素から出来た食物が毎食の決められ変わることの無い部分であった。

 

①-4蜂蜜薬物効果： 蜂蜜を薬物治療の章で記述しなかったのは蜂蜜が毎日の食事に含まれるのは当たり前と考えて居たからである。

 

①-5肉食： 肉食はその家族の財政的状況次第であった。

 

①-6ナツメヤシ： ナツメヤシの実はビーシャ、ナジュドやヒジャーズから毎週、市場に来るのが普通であった。ナツメヤシの実は必要とされ、好まれそして殆どの家で常に供されて居た。

 

①-7限られた食材： この地方で入手可能な食材は限られては居たが、アハマドが言う様にその限られた食材で昔の人は健康、強さ及び活力を保持して来た。

 

①-8日中食と夕食： ウンム・ラウダ(Umm Rawdah)は「祖先も我々も日中には料理した食物は食べず、幾らかのナツメヤシの実と小麦のパンを食べて居た。調理は夕食の為にするのが普通であった」と言う。このやり方に従えば、日中は畑で働くのに最大の活力を得られるし、主餐である夕食は夜中の暖を約束してくれた。これは又、貧困と節約の為でもあった。

 

①-9米と肉： 米等はこの40年間に知られる様に成ったばかりだし、肉と言えば牛か羊であった。鶏は一般的では無かった。

 

②伝統的な宴会料理

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

②-1歴史的寛大さ： アラブは歴史的にその寛大さで知られて居り、そしてこの名声を不朽にする多くの逸話が残って居る。この地域の男は誰彼の違い無く、自分の寛大さの度合いを明らかに出来る自分の特質をたくさん表わそうとして来た。

 

②-2主賓への接待： 客を主餐に招いた時には肉を切り、パンや他の食べ物と一緒に主賓の手の届く範囲に置き、部屋を去る。これで主賓は何に気兼ねする事無く、自分が望むだけ、自由に食べる事を保障される。

 

②-3招待主の親切： かつて食物は十分な量が入手出来ず、人々は自分の空腹の状態をさらけ出すのをきまり悪く思って居た事がこの習慣は説明される。これが主賓に満足行くまで食べる機会を招待主側が親切に提供する理由である。

 

③料理の変化

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

③-1料理の変化： 昔は常用されている料理が変わったり、廃れたりする事は無かった。身体に十分な活力を与えてくれる事が知られて居るので今でも農村では食されて居る。

 

③-2伝統食の摂取： アブハー等の市街地では特別な催しや週末以外は余り食されなく成った。

 

③-3外人との接触： アブハーに出稼ぎに来て居る外国人とふれあいで新しい種類の料理が手に入る様に成った。

 

③-4マスコミの影響： 女子教育の一部として教える家事に対してはラジオ、雑誌やテレビが大きく影響が大きい。

 

③-5新食材と調理： 調理方法や供される料理の変化に加えて人々は鶏肉、米、ペーストリーや野菜等の新しい味覚を取り入れ始めた。又、以前は市場でめったに見る事が無かった魚を料理するのが女性は上手く成って来た。

 

③-6パンの購入： 女達は時々パンを家庭で焼いては居るが、皆はパンを市場で買い始めた。

 

③-7年老い年代： 年老い年代は今でも伝統的な料理を好み、新しい料理には猜疑的である。

 

③-8宴会料理： 寛大さが名誉と密接に結びついた終身の関心である様にここでは何も変化は起こらなかった。一般的な経済状態が改善され宴会に饗される食物の種類や品質が浪費とも言う様な程度にまで増えて来た。来客に一人で饗されたご馳走を食させる伝統的な寛大さはこの地域の多くの人達に今でも見受けられる風習である。

 

表33　一般的な伝統的料理

 紹介者：ウンム・ラウダ(Umm Rawdah)

①アリーカ

 (Al-Areekah)

脂肪と蜂蜜を塗った良く捏ねた小麦粉のパン。時にはパンの中央に脂肪や蜂蜜を入れる穴が作られて居た。

 

②アシーダ

 (Al-Aseedah)

水とペースト状にした小麦粉を良く煮て、肉汁やバターミルクと混ぜる。

 

③タサビーイ

 (Al-Tasabee')

発酵したパン生地を小さい塊にして沸騰したお湯かミルクの中に入れる。

 

④マブスス

 (Al-Mabthuth)

小麦粉に水を振りまき、擦り落とした後、ミルクで煮込んで、脂肪と一緒に供する。

 

⑤小麦のパン

 

 

前もって準備したサワー・ミルクで作られた少量のイーストと小麦粉を良く錬り込む。但し、無い場合はサワー・ミルク無しで済ませる。それから長く伸ばしミーファ (al-Meefah)式オーブンで焼き上げる。パンにはその他多くの種類がある。

⑥ムサイヤラー

 (Al-Musyyalah)

水と捏ねたコーン入りのトウモロコシの粉。一晩置き、二日目に成って、良くかき混ぜ、軽い御菓子として揚げられる。

⑦ラディーファ

 (Al-Radeefah)

清潔な石を真っ赤に成るまで火に入れて熱する。それを小麦の中に置く。熱した小麦粉に熱いバターを加え、暫く置き、焼けたらパンと一緒に食べる。

⑧ラワニ

 (Al-Rawani)

米粉を加え強く混ぜた卵の混合物をトレイか粘土の鍋に載せて焼き上げる。

⑨ラガフェーン

 (Al-Raghafeen)

小麦粉で作った非常に薄いパイ皮にフェヌグレーク(Fennugreek)を混ぜたソースを加える。

 

⑩肉（ハニーダ）

 (al-Haneedh)

肉は主に羊で特別のオーブンか地中に掘った熱い溝に入れて焼く。この様に焼いた肉をハニーダ(al-Haneedh)と呼ぶ。

⑪トルコ風

 

詰めた野菜、シシカバーブやバクラバ(Baklava)それに甘いパン菓子(PieやTart等のPastry)等、トルコの影響を受けて居る。

⑫その他

加工して無い脂肪、ミルクおよびナツメヤシの実等

 

表34　伝統的な飲み物

①茶道具保管

 

ポットと平鍋は居間のサラル(al-Salal)の中に保管されて居る。女性は自分が所有し誇りに思うコーヒー・ポット、皿やその他の家庭用品をそこに配置してそこを飾り立て、小綺麗に保って居る。

②主な飲み物

 

家族と来客に取っての主な飲み物として男も女もコーヒーを作る。作る方や成分に依って様々な種類のコーヒーがある。最も一般的な飲み物を以下に挙げる。

③カルダモン入りコーヒー

コーヒーを淹れる時にカルダモンを加える。

 

④アニスの実およびショウガ入りコーヒー

炒ったコーヒーを煮え立たせサヌト(Sanut)と呼ばれるアニスの実(Aniseed)とショウガを加える。このコーヒーが一般的であるのはショウガが体を温めてくれるからである。

⑤ナフワ・コーヒー

(Nakhuwah Coffee)

このコーヒーは淹れられたコーヒーとナフワー(al-Nakhwah or al-Nankhah)にクローバーとショウガを加えて作られる。

⑥甘いコーヒー

煮沸した肉桂(Cinnamon)に砂糖を加えて作る。これは特におめでたい行事の際に饗される。

⑦ミルク

牛や羊を飼育して無い家は無いので、バター・ミルクとミルクはどこの家にでもある。

⑧お茶

 

お茶はこの40年位の間に知られる様に成っただけである。ウンム・フサイン(Umm Husayn)は「煮沸される前は赤い色をしている」と言う。

⑨飲み物の変化

 

 

 

コーヒーは今でも何処の家でも用意され、今まで通りの方法で淹れられて居る。農村部ではバター・ミルクや牛乳も同じ様に準備されて居る。アブハー市やその郊外のある地域ではヨーグルト、バター・ミルク、粉ミルク或いは殺菌牛乳が色々な種類の缶入りジュースや炭酸飲料と同じ様にどの雑貨店でも手に入る。お茶は人気を高めて続けて来て居る。

 

表35　伝統的な婚約

①結婚

 

 

 

 

全能の神は栄光あるコーランの中で「貴方と共に人生の安寧を求め、愛と情けを授かる為に貴方の妻を神は作った。これは神の驚嘆の一つである」と言われた。この宗教的、社会的そして心理的概念から、回教徒一般に、そしてこの地域の住民には特に、神から課せられた結婚の意義を見いだすことが出来る。実状調査と幾つかの読み物に基づき、昔の結婚規則を幾つかの角度から以下に議論する。

 

②結婚適齢期

 

 

 

 

 

 

 

 

エドワード・エバンス・プリチャード郷は社会人類学の有名な報告の中で「小農達の家族はその家族数の大きさで区別されたのに、両方の性に対する敬意に基づく婚姻は古い時代では行われて居た」と言っているが、これは昔のアブハーには適用出来る。昔の男女の関係は友愛、従順、配慮およびいたわり等で性格付けられて居た。男が25歳以上に達すると結婚適齢期に成る。同じ様に、少女が20歳に成ると、結婚を受け入れるのに十分に心身が整う。この年齢は王国の他の地域における結婚適齢期と較べると少し年を取り過ぎて居る様に思えるが、この理由は家族が娘の家事や野良での労働力を必要としている為である。しかしながら、花婿候補が裕福であったり、美しさの故、多くの花婿候補が求めたりする様な場合には幾らかの例外もあった。娘の技量、活動および成功に加えて、結婚の唯一の条件は成熟した年齢に達したかどうかである。ウンム・アブドゥッラー(Umm 'Abd Allah)は「女達の成功は家庭にある。」と述べて居る。

③婚約

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

婚約について論議やどの様に取り行われるのかを述べる前に誰が少女と結婚する権利を持つかを説明する必要がある。回教が平等を強調して居る事実にもかかわらず、この問題に関する習慣や伝統は大変に重要であり、婚約の承認は花嫁候補の属する部族や支族の承認に基づいて決まった。花婿候補がタラフ(al-Taraf)と言う下層階級の出であるとか、家系の下層階級であるのに娘が立派な部族の出である場合はこの花婿候補は求婚を拒絶される。その反対に花婿候補の家族は花婿候補がタラフ(al-Taraf)と言う下層階級の出の娘と結婚するのであれば同意しない。これは基本な原則であり、ある部族が他の部族よりも上位である場合は常に許容される部族間での比較に成った。その後は花嫁候補、従兄弟、同じ部族の構成員、その支族の構成員の間での比較に成った。少女と婚約を求める者達は男らしさと許容力で同じ水準である場合には血族関係の見地から

の権利が考慮される。しかしながら、求愛者の一人が個人資質に優れて居れば、その願いは容れられ、婚約が取り決められる。この仕組みの肯定的な面の一つは「少女が望まない限りは、彼女は結婚する必要は無かった」というイスラームの宗教的教えを踏襲している点である。アハマド氏は「アブハーの人々は強制結婚を排除して来たし、文盲者を救済する為にも、その様な結婚には同意する者は居ないだろう」と言う。

 

④正式な求婚

 

 

 

 

ウンム・アリー(Umm 'Ali)に依れば、若い男が両親と娘の家族の元にやって来て、「あなた達のお嬢さんに婚約を申し込みたい」と言う。娘の両親に異存の無ければ、皆の前で娘は本人の意見を聞かれる。もし、彼女がその婚約に同意すれば、彼女は「神が彼をお守り下さる様に」と言う。その後でコーヒーとその場で有り合わせの全てが饗され、それから結納金の額が決められる。

 

⑤結納金

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昔の結納金は貧困が蔓延して居た為にその額は少なかった。結納金は処女の場合でも10リヤルを越える事は無く、寡婦や離婚者では更に少なかった。この額を上回る様な場合があると巷の話題に挙げられた。これは花婿の財政的な豊かさと発

展性を象徴しているが一般的に受け入れられているやり方では例外として扱われて居た。お金に加えて、花婿はドレス、シャイラ(Shaylah)と呼ばれる頭部の覆い(Head-cover)、頭部用のネッカチーフ、エプロンそしてシブタ(Sibtah)等の花嫁衣装一式を整えた。花婿の財政事情に依っては銀製の装飾品が用意される事もあった。花婿は更にファリーガ(al-Fareegah)と呼ばれる絨毯やリハフ(Lihaf)と呼ばれるなめし革の上掛けを用意した。最も重要な物は花婿が花嫁の母親へ送る品でドレスとか、例え一リヤルであっても彼女を満足させねば成らなかった。花婿が非常に貧しければ花嫁の為にドレスを借りて来ただろう。ウンム・サイード(Umm Sa'eed)が「娘はそれでよかった。娘は男を買ったのでドレスを買ったのでは無い」と言う様に娘はこれに文句を言わないだろう。村人や部族民は結納や結婚祝いの費用を支払う援助していた。

 

表36　伝統的な結婚式

①結婚式

 

 

 

 

 

 

 

 

花嫁の家族は結婚式の招待状を出した。招待状は魅力的な方法で配られた。花嫁の家族は村の各家々にパンの塊を届け、結婚式の日取りを知らせた。それから村の招待された女性はシナモンと砂糖を入れた甘いコーヒー用意し、花嫁の家族の家に届けた。それから花婿が家族、友人や部族の人々とやって来る。彼等は一丁来を着、武器を帯びている。彼等が花嫁の家族の家に近づくと南アルダ(al-'Ardah)ダンスが始まる。これは男達にとって熱狂的なお踊りでこれが終わると空に向けて鉄砲を発射する。花嫁の家族は彼等を歓迎し村のシャイフ(Shaykhs)（名主）と証人達に依って正式の結婚式が始まる。その後に小麦と脂肪と蜂蜜の昼食が提供される。花嫁の家族の経済的な状況が許せば、羊が殺され、昼食に饗される。昼食が終わる頃には新郎と共に家を離れる花嫁の準備が整う。その時に花嫁は伝統的な衣服をまとうが出来ればそれは新しい衣服でありたい。

 

②花嫁の化粧

 

 

 

 

花嫁はまぶたの縁をコール(Kohl)（アイシャドウ）に用いるアンチモニー等の粉末で塗り、香水を頭にかける。花嫁の手と足は時には花嫁はそれ以前にした事の無いヘンナで着色されている。結婚式の日に花嫁は彼女の髪と足も着色する。ヘンナはクフル(al-kuhl)と共に基本的な化粧手段であり、殆ど唯一の装飾である。彼女は又、出来るだけ多くの銀の装飾品を身に付けて居る。

 

③嫁入り道具

 

 

 

 

この地方ではミラ(al-Mirah)と呼ばれる嫁入り道具(Trousseau)は花嫁の家族が用意する。嫁入り道具は花嫁の家族の印象を反映し家族の花嫁の尊重を示す為に重要だと考えられて居た。嫁入り道具は通常、ファリガー(Fariqah)と呼ばれる一枚か二枚のカーペット、ミルハフ(Milhaf)と呼ばれる毛織りの毛布および木製の箱で構成されて居た。

 

④嫁入り

 

 

 

花嫁は、母親又はタッバーア(al Tahha'ah)（栄光の処女）と呼ばれる親戚の1人と共に、駱駝で運ばれた。花婿は花嫁を夫婦の家へと運んだ。そこでは花婿の家族と空に向かって発砲し、太鼓を叩きだした花婿の友達が花嫁を歓迎した。結婚の儀式はそれ以上続かず、夕暮れかその直ぐ後で終了した。

 

⑤床入り

（純潔の尊重）

 

 

 

 

 

 

 

 

結婚式が終わった後に床入りが行われ、もし妻が処女である事を夫が知ればどんなときでも外に飛び出して自分の喜びと妻への敬愛を示す為に空に向かって発砲した。ウンム・アリー(Umm 'Ali)は「花婿は花嫁の母の元におもむき貴女の娘は処女であったと言い、純潔のマークを自分の杖に付け、人々が証人に成るように、それを花嫁のドレスと共に吊した」と言う。

もし、花婿は花嫁が処女では無いと知ると花婿は花嫁の頭に泥を被せ栄光の処女と共に花嫁を花嫁の家族に返した。これは稀にしか起こらなかった。ウンム・フサイン(Umm Husayn)「昔の慣習は厳しかったけれども同時に人々は優しく、花婿が

自己を失えば、家族も失ってしまう」とコメントしている。多くの場合、花婿は花嫁が処女でなくてもそれを許し、取り繕ってやった。

 

⑥花婿の祝い

(花婿家族の結婚祝い)

 

 

 

 

夜が明けると花婿の家族はコーヒー、パン、ナツメヤシの実、小麦および屠殺した羊で結婚の祝宴を始めた。親戚、家族や隣人が祝いの贈り物を持って集まって来る。祝いの品は多くの場合、穀物、ナツメヤシの実、羊であり、僅か一リヤルの現金の事もあった。それから踊りと歌が始まり終日続いた。花嫁は花婿の家族と客を迎え接遇する為に働いた。もしそうでなければ花嫁は彼女の責務を果たして無いと軽蔑された。日中の祝宴は三日以上も連続して続きその後で処女の栄光が花嫁の状態を確認した印に花嫁の家に返された。

 

⑦結婚後の生活

 

 

 

 

 

この様にして彼等二人それぞれの人生の新しく長い旅が始まる。子宝に恵まれる事を望みながらずーと絶え間無い労働と苦闘続く旅である。妻は夫の家族と共に住み別居する事などは考えなかった。妻がその様に思ったり、要求したり、彼女の家族が干渉したりすると、村人や部族に人々から拒絶され、怒りと軽蔑の目で見られた。ウンム・フサインは「昔の花嫁の安さを述べた詩の一節がある。花嫁をこんなに安く授かった事で神を讃える。100リヤルの結納金の代わりに、我々は25リヤル払っただけで済んだ。殺したの羊では無く、ラビーア(Rabee'ah)族の雄の山羊である。」と言う。

 

表37　妊娠と出産

 

①妊娠

 

 

 

 

 

 

 

特に初産の場合、妊娠は大きな喜びの出来事であった。多くの子供を持つ事は単に家族や部族の存続や生存の為ばかりでは無く、人生の艱苦に対する援護と援助を意味しているからである。労働力が増えるのは畑やその他の仕事の重みを軽減してくれる事を意味した。男女の区別は無く、両性とも助けをもたらしてくれるので両性は対等に扱われた。昔の女は労働やその他の活動で男と同じ役割を担って居た。女は妊娠したからと言って生活でも労働でも何も変わらなかった。パン生地を練る、パンを焼く、掃除する、薪を集める、その他の家事をする或いは夫の野良仕事を手伝う等、妊娠前と同じ様にこれまで担って来た仕事を続けた。食事も変わらなかった。手に入り、他の人達にも供した同じ物を食べた。

 

②分娩

 

 

 

 

 

昔の分娩の場所は女の館であった。しかしながら、絶え間無く、動き続けて来た為に、野良仕事の合間に何事も無く出産し、赤ん坊を抱えて帰宅するのが普通であった。アブー・アリー(Abu 'Ali)は「畑に行って女房を呼ぶと返事をしなかった。女房の所に行くと赤ん坊が一緒に居た。それから家に戻り、火をおこし、子供達に食事を与えた。」と言う。これは神が上手くお計らい下さった時で、分娩が複雑に成った場合はこの地方のお産婆さんの助けを借りた。

 

③女の館

 

 

 

妊婦が分娩の時期が近づくのを感じると、膝の上に座り、背中にクッションをおいて体を支え、出産を迎えるまでその姿勢を保った。この姿勢に成る前に暖の為に火を焚いた。もし、その館に誰か居れば何かと助けて貰えた。

 

④臍の尾の始末

 

 

 

 

 

 

 

分娩の後、昔はナイフを使い、最近ははさみを使って自分で臍の尾を切り、強い糸で臍の尾を縛り、炎症を防ぐためにミルクをスプレーした。臍の尾は男の子の場合は臍から四つ指分の距離で、女の子の場合は三つ指分の距離で切って、縛った。

ウンム・フサイン(Umm Husayn)は「臍の尾を何故その長さで切るのか」その理由を知らないが「見た通りに行っているだけだ」と言う。これは、「将来母親に成る女の子の臍の尾を短く切る事で臍が腹部から飛び出すのを塞ぐ為だ」と思われる。「筋力労働に従事し、重い物を運ぶ男の場合は臍の尾を長く残す事で脱腸に成ることを防いで居る」と思われる。しかしながら、これらに対する医学的な根拠は無い。

 

⑤臍の注意

 

 

 

母親は新生児の臍には特別の注意を払うのが常であった。篩いに掛けた塩や灰を布きれに包んで朝晩暖めて臍の上に置いた。これは塩が炎症を防ぐためであった。更に固形のコフル(Kohl)を磨り砕き、ミルラ(Myrrh)と混ぜ、臍にスプレーした。「三日目か四日目に臍は完全に癒える」とウンム・ラドワ(Aunt Radwa)は言う。

 

⑥難産

 

 

 

分娩が難しい場合にはマットの上に置かれ、二人以上の女が特別な方法で胎児の位置が変わり、神が分娩を下さるまで揺すり続ける。妊婦には腸の位置を動かし胎児の位置が変わりそれに依って分娩が促される様に幾らかの獣脂肪も与えられる。

 

⑦分娩後

 

 

 

分娩の後には子供はドレスを切った布きれかその様なもので包まれ、子供のオシッコを吸収し、風邪を引かないように砂、又は、乾かして砕かれた牛の糞を詰めたなめし革の袋に入れられた。子供は又、両側を結ばれ前後に揺れるなめし革で作られた揺り籠にも入れられた。

 

⑧産後の養生

 

 

 

 

 

 

 

医療の節で述べた様にミルラ(Myrrh)が分娩後に産婦の清潔を保つ効用がある為に基本的な薬として使われて居た。これは色々な方法で使われた。通常はナツメヤシの実とコーヒー豆と浸けられ煮沸され、漉された後に飲用された。分娩後の疝痛の治療には黒ヒメウイキョウ(Black Caraway)と自然の脂肪と混ぜて煮沸した後、漉した混合物が使われた。タルニーブ(al Tarneeb)と呼ばれる習慣は女の子の乳首を搾し、その得られたミルクを将来毛の生えて来る部分に擦り付ける事で構成されて居る。この習慣は今でも行われて居る。産婦の食事は自然の脂肪と蜂蜜を付けた小麦のパン或いは小麦のパンとフェヌグリーク(Fennugreek)を付ける肉のスープであった。

 

⑨産後の復帰

 

新産婦の母親か親戚か隣人が最初の日には助けに来てくれるが彼女達も直ぐに彼女達自身の仕事や責務に戻らなければ成らなかった。

 

表38　赤子の成長のお祝い

①出産のお祝い

 

 

 

 

 

父親は赤ん坊が無事に生まれた事を聞くと外に出て祝砲を空に向けて撃った。ニュースは直ぐに広がり、家族、親戚や隣人が産婦と赤子の無事である事に喜びを示した。お祝いのやり方は父親の財政状況次第であった。或る父親は何頭かの羊と山羊を屠殺し、貧しい他の父親はそれより少なく屠殺した。喜びのお祝いは一日以上も続き、お客には小麦のパンと脂肪と蜂蜜がふるまわれた。家族と隣人は父親にお客に饗する食物を提供し援助して居た。

 

②名付け

 

赤ん坊の名付けには何の問題も無かった。父親は息子に名前を与え、母親は娘を名付ける。

 

③初七日

 

 

 

 

 

 

 

出産から七日目にイスラームの習慣に乗っ取ってウカイカ(al-'Uqaigah)の宴が開かれる。羊が屠殺され、家族、部族及び隣人が招かれた。「妻の家族が彼等の娘を如何に誇りに思うか」を示すために客人の中に含まれる妻の家族も宴を催した。夫が免除しない限り、妻の家族はその宴を行なわなければならなかった。子供の名前はこの七日目に与えられる。その時に或る親は新生児の頭を剃ったが別の親はそうはしなかった。贈り物は数ディルハムから小麦、脂肪、蜂蜜まで様々であった。喜びと歓喜を示す為に弾丸が空に向けて発砲され、踊り、歌そしてタンバリンの演奏が始まった。それは朝から午後まで続いた。アブハー市内では母親は最初に週は自分の家で、二週目は親戚の家での集まりや宴で、三週間目は実家で過ごした。

 

④四十日目

 

 

「産後四十日が経ったと」言う事は「娘が浄化の期間を終え、新たに次の子供が出来る状態に成った」と言う意味であり、妻の家族がその親戚とその事を祝った。ウンム・フサイン(Umm Husayn)は「神によって女は産後40日で妊娠出来るが、彼女が妊娠しようとしまいと本人に取っては同じ事である」と言う。

 

表39　割礼の伝統

①顕著な伝統

 

 

 

 

多分、南部とサラート・アシール(Sarat 'Ashir)を半島の他の地域と区別している最も顕著な習慣である伝統の一つは割礼の実施である。これまでこの地域の人々が過去に人生の厳しい面にさらされ、人間が自然から強いられる耐乏生活を必要とした事は既に論じて来た。どの事よりも村々の住人で作られた習慣と伝統の中から生まれた割礼にこの耐乏生活が表れて居る。

 

②割礼の年齢

 

 

 

 

 

 

割礼は15歳から20歳の間と一般理解よりも上の年齢で行われる。アハマド(Ahmad)は「これは以前に起きた様々な出来事に由来している。若者は割礼の後、子供の時代を終え、大人の仲間入りをし、部族の全ての行事に実際に参加する様に成る。

私的および公的な責任を負える様にも成る。割礼には一般的に冷たい鋼鉄製の武器が使われるので、特に、若者の忍耐力が試されると考えられて居る。割礼の後は婚姻も可能になり、若者の勇気と忍耐力が何と言われるかで娘は彼を受け入れるか拒絶するかを判断している」とその理由を詳細に説明してくれた。

 

③割礼の施術

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

割礼は費用の問題もあり、一日で何人かの若者に施された。その日には割礼の年齢に達した村の若者と近隣の若者が集められた。村人、家族、親戚それに例え他の地域に住んで居ても部族や支族の者がこの大きな儀式に参列する為に集まって来た。女、子供でさえ、若者の勇気の証人と成る為に参加した。専門家は麻酔剤を一切使わずに割礼を施した。若者は痛みの為に動いたり、表情を変えたりする事は許されず、もし、そうすれば、一生、その不名誉を背負わなければならなかた。割礼の後、水に溶かした小麦粉が煮立てられ、出血が止まるまで熱いうちに患部にかけられる。それから若者は踊り、歌い、家族、支族や部族に割礼に耐えた事を誇り、自分の将来に恵まれる勇気、男らしさ、大胆さを示威した。アハマドに依ればこれらの詩や歌はファーワル(Al-Farwal)とかカフ(al-Qaf)と呼ばれた。出血が止まると脂肪がかけられ、塩とハーブの粉又はガダマ(al-Gadamah)或いはアルアル(al-'Ar'ar)の樹木の葉が砕かれ、患部に振り撒かれる。何らかの感染が起きた場合には乾かした駱駝の糞或いは殺菌された葉っぱがくすぶった燠の詰まった穴の上に置かれる。割礼した若者はその上に座り、前もって煮えた脂肪と塩の中に柔らかく成るまで浸けられて居た木の葉で割礼の患部を巻き付けた。邪悪な目やねたみからの保護として、村人は割礼の場所から家までの間に獣脂肪をばらまくのが常であった。

 

④割礼のお祝い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

若者全ての割礼が終わると祝賀、ダンスや祝いの宴が村や町の各家で始まり少なくとも四日は続いた。アブドゥッラー・ヤフヤ・イブン・ジヤド('Abd Allah al-Yahya ibn Ziyad)は昔の割礼は「邪悪で、やっかいな習慣であった。金持ちでも割礼が終わる前に貧しく成ってしまった。それはその費用が結婚式より掛かる為で、父親、母親および父親の兄弟や親戚等皆で分担しなければ成らなかった。」と言う。アブー・アリー(Abu 'Ali)によれば、割礼された若者に依って歌われるのが常であった歌の一つに「私が無事であった様に、貴方も無事だっただろう。私の割礼。蛇にかまれた痛みも二枚のかみそりの切り傷も無かった。もし、泣き叫べば、自分の舌を切り裂き、成り響く杖で自分を叩く。金切り声はナジュラーンを越えて聞かれてしまう。割礼、オー、割礼。私は姉妹・・・の兄弟である」という様な歌詞がある。言い換えれば若者は自分の姉妹にも誇った。この事は「如何に男が自分の姉妹の誇りであったか」を示して居る。割礼が今日の通例よりも遅く行われて居るのは青年達の感染に対する抵抗力が年齢と共に強まる為である。

 

表40　宗教的な行事

①二つの祝祭

 

 

 

 

 

イード(Id or Eid)と言う言葉は神から命じられた二つの祝祭のいずれかを意味する為に回教徒が使っている。イード・フィトル(Id al-Fitr)はラマダーン(Ramadan)（断食月）の後の祝祭でイード・アドハー(Id al-Adha)は巡礼月の後の祝祭である。イスラーム教徒(Muhammadan)の神託は天国から送られて来たので回教徒はこの二つの祝祭を祝い、審判の日まで続ける。この二つの祝祭を祝うのは宗教的義務でもある。これらの宗教的な儀式は時が経っても場所が異なっても同じ様に執り行われる。

 

②イード・フィトル

('Id al-Fitr)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この祝祭の前夜には、ザカー(Zakah)（ザカート(Zakat)）の支払いが全イスラーム教徒に宗教的に義務付けられる。ザカートは宗教的儀式に加え、社会的、規範的そして経済的な目的を持っている。イスラームは現世の生活に配慮しながら同時に来世の生活にも配慮する社会的な宗教である。アブハーの住人と近隣の住人はイード・フィトルのザカートを神が指名した人達に与える様に全能者から申しつけられて居た。

 

②-1アルムス： 「アルムス(alms)は弱者、貧困者、アルムス(alms)を集めるのに従事する者、教義に改宗した者、身代金の要る捕虜や債務者の間で配分しそして神の主張助長の為や同じく徒歩旅行者の為のみに使われる。これは神から下された義務である。神は賢明であり、全てをご承知である」（スラト・タウバ(Surat al-Tawbah)の悔い改め）。

 

②-2ザカート： 当時のザカートは主として食糧、一般には小麦であった。イードの前夜にはザカートの分配が行われるので、イードの朝は全員にそれ以降の喜びと幸せをもたらした。その時代には現金は大変稀にしか見なかったのでので現金が手に入る事は取り分け喜びで

あった。

 

②-3祈りと訪問： イードの始まる朝は、全員お祈りに出掛け、その後でイードの祝祭を祝って、お互いに訪問し合った。

 

②-4歓待と祝い： 全ての家は香水の匂いと芳香植物の香り満ちて居た。芳香植物の一番有名なのはバジル(Basil)であった。主婦は飾り付けをし、自分の家に色彩を施した。ナツメヤシの実、コーヒー、小麦のパン、獣脂および蜂蜜が全ての家で饗された。それから喜びと幸せの表現として歌と踊りでお祭り気分を盛り上げてイードを祝う。

 

③イード・アドハー

(Id al-Adha)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この祝祭では小麦に変わって肉が配られる。（生け贄）イードの前夜に成ると羊、牛や駱駝をそれぞれの意志と財政状態に見合って連れ出す。朝に成ると全員でイードのお祈りを行い、その後、生け贄の動物を屠殺しに戻った。羊の需要はイード・アドハー(Id al-Adha)の間、大きく増える。

 

③-1生贄配分： 生け贄の肉は三分の一を貧者へ、三分の一を隣人と親戚へそして残りの三分の一を家族へ

と言う宗教で決められた規定に依って配分する。

 

③-2訪問祝い： それからお互いに訪問し合い、祝い合う。肉はその日の昼食に饗され、一部の人達は彼等の家族の住む他の地域へと旅をして訪れる。

 

③-3贈り物： 両方の祝祭の日には女性に男の親戚からイードの贈り物が送られるので、女性に取って喜びと楽しみの特別な日である。贈り物は財政状況にもよるけれども通常は財政力に応じた現金であった。子供達に取ってもイードは大いなる幸せの時間である。子供は家々を巡る。家々では子供達は常にナツメ椰子の実、食糧やたまには現金が貰える。

 

 

表41　葬儀

 

①死

 

 

 

 

全能の神はコーランの中で「地上に活きる誰もが必ず死を迎え、神の栄光と恵みが残って行く」と述べられ、死はイスラーム教徒に取っては定められた事である。その信仰心は自らが神から与えられ、神に戻って行かねばならない事を知ると更に強まる。このイスラームの宗教的原理に加えて、昔の生活の厳しさが取り巻く環境の過酷さの中では死は何事でも無く迎えられ、死は何処にでもあり、死亡率も高かった。

 

②死の儀式

 

 

 

 

イスラーム教の伝統から取り入れられた多くの宗教的な方法がある。死が近く成ると死んで行く人は「神以外に神は無い」と言う様に促される。その目がどんよりとして来ると、周りに居る人達は全能の神に死に行く人への哀れみと許しを懇願する。男の死骸は男が、女の死骸は女が洗う。どの町にも村にも死んだ女を洗う専門の女が居る。

 

③死化粧

 

 

 

 

 

シドル(Sidr)の木が乾燥され、その葉はすりつぶされる。シドルは特別な浄化機能を持ち、石鹸の様に泡を作る。死体は三回から五回洗われ、死体が女性の場合はその髪の毛は三つ編みにされ、顔の上に吊された。死体はそれから樟脳(Camphor)、マハレブ(Mahaleb)やバジル(Basil)で香りを満たし、白い木綿地か、入手可能なその他の布で包まれる。それから墓が掘られ、死体は家族、親族それに村人等葬式に急いで参加した人達に見守られながら埋葬される。

 

④食事の習慣

 

 

 

 

 

死体を洗い、布で包み、埋葬の儀式の間中、死者の家の女達はパン、コーヒーそしてナツメヤシの実を準備した。これらの食物はお悔やみに来訪した人やこの不幸を共に悲しむ人達に配られた。二人毎にパンとデーツを載せたが皿が与えられた。これが初日の儀式である。二日目には生け贄の動物が屠殺され、生け贄は死者に変わる施し(Alms-giving)であるとの意図から全ての人が招待された。村の人達は他の地方からやって来た会葬客をもてなす等して死者の家族を助けたので悲しみに加えてそれ以上の出費の負担増を被ら無くて済んだ。

 

⑤弔問の婦人達

 

 

死者が夫の場合は夫に逝かれた妻は黒い衣装をまとった。彼女は忍耐力を見せる事を要求され、他との混ぜ合わせを避け、装飾を控える多くの場合、弔問に大きな声で泣くのは許されなかった。

 

⑥未亡人の再婚

 

 

 

妻は再婚するまで未亡人で居なければ成らない法的な期間は最短でも四ヶ月と十日である。これは彼女が妊娠して居らず、再婚しても父権の問題が起こらない事を保証する為である。この待つ時期が過ぎると彼女の家族と親族はその時期の完了をお祝いした。

 

 

表42　伝統的社会通念の変化

①結婚

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結婚はいまだに社会大系が築かれる重要な社会基盤と考えられて居る。イスラーム教徒は結婚を自分たちの宗教生活の半分と見なして居り、以下に挙げる事項は既に起きている変化の内の一部である。　

 

①-1部族規範： 部族の規範は昔程には厳しくは固執し無く成ったとは言え、尊重されて居る。婚約への娘の同意は今でも前提条件である。

 

①-2女性の顔： アブハーでは男は相手の顔を婚儀が決まるまで見る事は出来ない。しかしながら、村々では生活がいまだに田園風であり、女性も野良に出て働いているので、この件に関してはもっと寛大である。

 

①-3召使い： 昔は娘が行って居た家事にレーバーが使える様になり、平均の結婚年齢は低くなって来た。

 

①-4結納金： 結納金は数ディルハムから数千リヤルにあがり、それに加えて、金の準備やドレスや衣料の材料を送るのが件に成って来た。親戚からの贈り物も資金力の増加に伴って変わった。

 

①-5嫁入リ道具： 嫁入り道具も経済的条件の向上に依って異なって来た。

 

①-6夜の祝い： 結婚式の夜の祝いは真夜中前まで延長され、花嫁は殆どの地域で白いウエディング衣装を着る様に成っていた。この習慣は伝統的なアシールのドレスにこだわる幾つかの村々を除き、普通に成っている。

 

①-7純潔： 処女である事の言及は稀に成った。

 

①-8食事： 饗される食物の種類も又、変わって来た。昔は、食物は入手出来る種類に限られて居たが、今では羊肉、米、野菜そして果物が一般的な食事に加えて饗されて居る。調理の近代化も取り入れられて居る。

 

①-9家族別居： 家族と別居する条件は最早、珍しくも無くなった。これは生活習慣の違いによる妻と義母の間の争いを避ける方法として受け入れられる様に成った。

 

①-10妊娠： 女性が現在恵まれて居る快適さと贅沢それに前の世代が耐えて居た苦しみを受け入れる能力の無さの為にこれも変わって来た。女性は現在では妊娠を知ると自分の健康や身体に十分に気を付ける様になった。医者を訪問するのが女性の自覚の高まりと健康サービスの充実で必須と成った。婦人の食事は他の家族全員の食事と同じように変わって来た。

 

①-11出産： 出産は最新式の医療を使える様に病院で行われる様に成った。ウンム・フサインは「現在では妊娠した始めの日から背中を固定させ、出産の時も背中で横になり、その後、一週間は病院で背中にもたれて座り、退院すると40日も背中にもたれて座って居る」と皮肉っぽく批判している。これはそんなに広まっては居ないにせよ、幾らかの人達がそうであるのは事実である。アブハーや近隣の村々では多くの主婦は出産して直ぐに家事を始めて居る。新生児の産着は近代的な布に成り、寝台を使うのが普通に成って来た。しかしながら、昔ながらのやり方を踏襲する人達も居る。多くの妊産婦が出産の後、いまだにハーブを使って居る。多くの家庭で子供の命名の仕方は伝統を今でも守って居る。

 

①-12お祝い： 赤ん坊が生まれた事の喜びと初七日のお祝いは昔と変わらない。何をお客にふるまうかと何をお客が祝いとして贈呈するかに変化が起きて居る。

 

①-13妻の能力： 唯一の偏向は夫を説得する妻の能力である。ウンム・アリーは「神様、女は変わった」と言う。出産後40日以内には妊娠させないとの勧めは避妊薬が入手可能に成った事で容易く成った。

 

②割礼

 

 

 

割礼は年齢も方法も完全に変わって来た。新生児には妊産婦が退院する前か或いは退院後、数週間以内に割礼が行われる。割礼は今では近代的な医療を使って行われて居る。誇りと喜びに満ちた祝いは現在でも行われて居り、大いなる祝い事として残って居る。唯一の違いは饗される食物と贈り物である。

 

③祝祭

 

 

 

 

 

 

これらは伝統的な行事では無く、宗教的な行事である為に変わっては居ない。これらは伝統的な行事では無く宗教的な行事である為に変わっては居ない。ラマダーン明けの祝日であるイード・フィトル('Id al-Fitr)の間、ナツメヤシの実とコーヒーに変わってお菓子が饗されるが、巡礼月最終日であるイード・アドハー ('Id al-Adha)では肉が主餐である事に変わりない。イードの間中、訪問し合う事は続けられて居るが、交通手段が広くゆきわたり、地域の外に旅するのが普通に成って来ているので、その範囲は狭まれて居る。女子供が親類から物品か現金かの贈り物を受け取る事も続いている。

 

④死

 

 

死亡した時に行われる儀式が宗教の規則や布告に乗っ取って行われているのも変わって居ない。唯一の違いは饗される食物の種類である。葬式への協力と参加の意識は強く変わって居ない。

 

 

表43　社会的関係と役割

①社会関係

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昔は社会関係が生活の基盤を形成していた。誰もが家族や隣人から孤立する事は有り得なかった。宗教と自然環境が各人に社会的な分担と関係を補強する様に強制した。

 

①-1家族； イスラーム教徒に取って家族は、人間関係の原単位である。イスラーム教では家族の絆は不可分であると強調し、家族の形成を人生に取って、必要不可欠で必須であるとしている。息子達の夫、妻および子供だけの単純な家族達と両親が同じ家に住み、一つの農場で働く拡張家族を形成するのが昔は当たり前だった。

 

①-2経済性： この様な生活には経済的な理由もあった。すなはち、一人では生活できず、個々には自分の要求も満たせない者でもグループや大きな家族の中に居れば、それが可能であった。

 

①-3現在社会： 義理の娘の為に別宅を用意するのが当たり前に成った今日では大家族で生活する習慣は、減って来ている。

更に息子達が彼等の伝統的な仕事を変え農業から他の職業に就いた事にも由来して居る。アブハー周辺の幾つかの村を除いて多くの者はこの地域から外に移住し始めた。それでも、なおかつ、家族は今でも重要な役割を果たして居る。

 

②家長の役割

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

父親は「神は男に女より優る強さを与え、男は自らの収入で女を養わなければ成らないので、男は女の保護者であり、扶養者である」と言う神の言葉（アラビア語原典からA.・ユーシフ・アリー(A. Yusif Ali)が翻訳した「スラト(Surat)の女性」）に基づき、イスラーム教によって、申しつけられた役割を持っている。ここで言う役割は教育、知性および保護義務と解釈できる幾つかの要素である。

 

②-1優位性： 神は男に女より強い体を作られた。年齢に関係なく男は家族と故郷を守る為に戦ったし、男には月経、妊娠や出産の様な心理的、身体的な変化が無い。女は感情に圧倒され、感情が女の決断に大きく影響する。加えて研究や知識の利用によって男は過去の全ての文明への広い教養を身につけて居る。

 

②-2男の責任： 男は自分が享受した利点に応じた方法で自分の家族に対しての責任を負って居る。イスラーム教では神の前では男も女も平等であるが、一家を構える必要性から男が責任を持った。この為、一家の権威を担う男がその家族を世話し、面倒を見ると云うのが宗教的な規範と成った。

 

②-3昔の役割： 昔は生活のかけ離れた困難さがこの役割を強化し、強調して居た。しかしながら、これは男が考え方や行動様式が利己的で決定に対して独裁的であったと言う意味では無かった。環境が厳しく、困難であった昔の家長はその家族に影響する事柄に関しては、特に大家族の場合、皆に相談すべきと考えて居た。

 

②-4今の役割： 今日でも家族が同じ家に住んで居る場合には父親の役割は変わって居ない。息子達が別居したり、仕事を見つけたりして、他の地方に移住すると農地からの収穫物への依存度が無くなり、農地での労働が父親に限られて来て状況は変わってしまう。決定者あるいは指導者としての父親の役割が削減し、長老としての家族の相談役としての新しい役割を担う結果となった。

 

③女の役割

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昔、女性は畑で男と並んで働く重要な役割を担って居た。女性も建築、農耕、収穫、又、生産物の売買に携わって居た。女性は更に家事、出産、育児等に責任を持って居た。

 

③-1女の生活： ウンム・アリーは今でも村々の家屋の一つに住み、夫と共に野良で働いている。そのウンム・アリーが「夜明けの祈りの前に起きだし、牛に餌をやり、臼で穀物を挽き、家族を起こし、全員で神に祈った後、火を燃やし、コーヒーを淹れ、ナツメヤシの実とコーヒーの朝食を作る。その後、牛の乳を搾り、水を汲みに行き、パンを焼き、ミルクを揺すり、そしてパンと脂肪と蜂蜜で野良での昼食を用意する。それから、夕方まで野良仕事を手伝い、家に戻って、イシャー(al-'Isha)の祈りを行って、主餐である夕食を調理する。これが私の一日であり、それが終わると夜明け前から起き出して明日の仕事を始める為に眠りに着く。この日常は幾世代前から引き継がれて来て居る」と言っている。これら全てに加え、女は客を迎え、夫の前で客をもてなした。

 

③-2苦闘の昔： 昔の女性の生活は夫や子供達の協力さえあれば彼女はどんな努力も厭わない称賛に値する苦闘であった。彼等の間で論争が起きても調整に時間は掛からなかった。何故なら、彼等は常に生存の為の生活と苦闘の中から糧を求めると言うもっと重要な事項で常に忙しかった。

 

③-3夫の折檻： アブー・サイード(Abu Sa'eed)は「男が妻の仕事が怠慢である等の必要な場合には妻を折檻する事が許されて居た。それにもかかわらず多くの年月が離婚等と言う出来事を聞く事も無く過ぎて行った」と言う。ウンム・フサイン(Umm Husayn)は「女自身が自分に対する折檻の原因を作った。妻が自分の家、夫や子供に対する義務をキチンと行って居れば夫の気が狂ってでも無い限り夫に殴られる事は無かった」と言う。

 

③-4重婚不可： 昔の時代の生活ではよほどの理由が無い限り重婚は許されなかった。この関連でアブー・アリー(Abu 'Ali)は「生活の糧が豊かでは無かった為に特別の理由が無い限りは男は新たに結婚する事は無かった」と言う。彼は尊敬と感謝の微笑みを持ってウンムー・アリー(Umm 'Ali)を見ながら「妻が死んだり妻が不妊症にもかかわらず、子供が要ったりする場合は男は二度目の結婚を求めた。善良で貞淑な妻は子供達よりも重要で世界全部よりも価値があった」と付け加えた。

 

③-5経済向上： 今日、経済状態の向上により野良仕事でも家事でも外国人労働者に頼るのが一般的になり、これが特にアブハーでは女性の役割を変えた。現在では女性が担っている役割は殆どが家事に限られて居るけれども、村々では依然として野良仕事の一部は女性が行って居る。アブハーでは家事を手伝う為に雇われたメイド達を良く見掛ける。この事は女達に無学文盲との闘い、社会活動への参加や仕事への従事等、家事以外の事に注意を向ける機会を多くしてくれた。

 

③-6離婚重婚： 経済的な環境が改善した結果、離婚や重婚の両方が増えた。これは今では余り正当な理由が無くても重婚や離婚をし、それらに耐えるだけの財政責任を負える男が居る様に成った為である。

 

④子供の役割

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昔、子供達は家族単位の中で重要な役割を負って居た。子供達は自分たちの役割を知って居たし、家族全体に悪影響を及ぼす様にサボったり、遊んで居たりするような場所も無かった。

 

④-1家事作業： 作業は野良ばかりでは無く、至る所で生存の為の最低収入を保証する為に行なわれて居たし、この様な共同社会にはぜいたくな事の為の場所は無かった。

 

④-2親と同居： 例え結婚した後でも子供達は両親と住み続け、その関係は変わらずに続いた。息子達は自分の興味や、自分の妻との関係を犠牲にしても、父親には敬意を払い、従わなければ成らなかったし、母親には愛、尊敬およびいたわりを示さなければ成らなかった。彼等の愛を示し、両親を大切にする事で彼等は全能の神の言葉を実行していた。「神は定めら

れた。汝は神以外の何物も拝んではならないし、両親には敬愛を示さなければならない。両親の片方或いは両方が年老いた時には両親には親切な言葉で語り掛ける以外、不愉快でも不平を言ってはいけないし、非難してもいけない」。

 

④-3離農化： 今日では就職の可能性と学業を続けたいとの希望から多くの若者が特に町に出てしまい、極めて限られた若者だけが農村に残る結果と成って居る。しかしながら、若者達、特に両親に物的な援助を行う義務を負った長男は、両親に敬意を示し続けて居る。父親の収入が無くなると、生活費の適当な割合の額の支払いが息子に課せられる。

 

⑤ 親戚年長者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

親戚と年長者の役割の範囲はその関係の親密さ次第である。父方の叔父は父の直ぐ後に位置するし、父親の不在の際は指示したり助言したり出来る権利を持っている。母方の叔父は彼等自身の姉妹やその子供の面倒をみる権利を持っている。この役割は特に家畜の群、蓄えや財産を分ける場合などは、特に今日でも変わらず見ることが出来る。

 

⑤-1家畜の群： 昔、家畜の群は親戚の間では分ける事はせず、その様にするのは恥だと考えられて居た。今日では、この様な事はそれ程、きまりの悪い事では無くなった。

 

⑤-2近親結婚： 父方と母方の従兄弟の近親結婚が家族の絆と内部関係を補強するのを助けて居た。

 

⑤-3父方叔母： 父方の叔母は彼女の兄弟と子供から尊敬され、彼女が正しい意見を持っているのが分かると、皆、彼女の言葉に従った。今日でも、父方の叔母は家族に影響力を持っている。

 

⑤-4義母： 義母についてシャリーファ(Shareefah)は「もし、彼女が全てに良い人であれば、素晴らしい。そうでなければ、彼女は突発する火事の様な物だ。従って、彼女の個性次第では彼女の役割が重要と考えられて居る」と言う。家族の長きに渡る幸福は義母次第であり、彼女が義理の娘を好きか嫌いか次第である。

 

⑤-5長老： 家族は年老いた彼等を深く尊敬し、彼等と相談し、彼等に服従する。また、家族や部族のもめ事も早い段階で彼等と相談される。彼等が部族や村の重要な地位を占めて居れば彼等は尊厳と尊敬を得て大きな影響力を持つと思われる。これは時の経過と共には変化しない。

 

⑥隣人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウンム・アブドゥッラー(Umm ‘Abd Allah)は「昔、隣人は殆どの場合、家族の構成員よりも親しく、隣人の助けで人々は多くの問題から救われて居た」と言う

 

⑥-1 イスラーム： イスラーム教では隣人には両親と同じ様に世話と配慮を行う様に教えて居る。神の祝福を受けて預言者ムハンマドは「ガブリエル(Gabriel)が余りにひっきりなしに『隣人の世話をしろ』と促すので『ガブリエルがその隣人に遺産の一部をやるつもりだ』と思った」と言った。

⑥-2 隣人関係： 昔の生活様式では「今日は隣人を助け、明日は隣人が助けてくれる」との標語が表して居る様に隣人同士の結束が強かった。ウンム・アブドゥッラー(Umm ‘Abd Allah)は現在の彼女の隣人との関係を尋ねられると「神様に誓って、隣人との関係は良好で、今までの私達の隣人関係の習慣は立派であり、称賛に値する。隣人が問題や債務を抱え困って居る場合には私達は資金を集め助けた。住んでいる地域の全ての住人がその隣人を助けるのに参加した。もし、誰かに客人があれば我々全員がその客人に歓待の意を示しその隣人を助けなければ成らなかった」と答えた。

 

⑥-3女隣同士： 女性の隣人同士も互いに助け合うのが常であり、特別の出来事の場合は女主人の家はまるで隣人の家の様であった。隣人は家の飾り付け、清掃、調理を引き受けた。女主人が客を迎え、手に入り難い貴重な肉を料理して居る様な時に隣人は彼女に臆面も無く、「私の子供達への肉汁も忘れないで欲しい」と言った。

 

⑥-4経済発展： ハウス・マイドの雇用と隣人相互扶助の喪失（メイド雇用）。シャリーファ(Shareefah)は「今では経済的な発展が大きな要因と成ってハウス・マイドが殆どの家で雇われて居り、特別な出来事あった場合でも女性は自分もハウス・マイドを持っているので隣人を昔の様にお互いに助けようとはしなくなった」と言う。

 

⑦シャイフ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部族のシャイフ（首長）は部族社会で重要な役割を持っている。これはサラート・アシール(Sarat 'Asir)に限らず、半島全体で共通している。この役割は今でも残っており、シャイフは争議、特に土地や家畜の所有権に関する調停に関して責任を持って居る。

 

⑦-1司法権限： 昔、シャイフは司法の権限を代表して居り、部族社会全体のシャイフをシャイフ・シャムル(Shaykh al Shaml)とも呼んだ。シャイフは自分の責務を代行する代理人を持って居り、彼等が或る争議を調停出来ないと分かるとその争議をその時代にもあった法廷に持ち込んだ。

 

⑦-2弱者保護： シャイフは人々、特に貧困者、年輩者、未亡人等の状況を知る為に定期的に訪問視察を行って居た。

 

⑦-3部族代表： シャイフ（部族代表又は首長）は、客を受け入れ、部族行事や他の村の行事に部族や村を代表して居た。

アブドゥッラー・イブン・ムハンマド・アブー・ダーエシュ(Dr. 'Abd Allah ibn Muhammad Abu Dahesh)は、「ティハーマ(Thiham)とアシール('Asir)はトルコの統治の成功した段階から得た結果である社会的影響に曝されて居た。しかしながら、部族精神は個人や連帯したグループを先導した最も重要な要素の一つとして残って居る」と言う。

 

⑦-4選出方法： 部族や村のシャイフは手腕、聡明、忍耐、雅量、気力、個性の強さ及び神への恐れを持つ様な資質を備えて居なければ成らない。

a.資質： シャイフは人々と彼等の権利を扱う責任を任されて居るからその様なシャイフの資質は必須である。その時代の生活は集団社会の構成員同士の友好な関係に負って居たのでシャイフはみんなを満足させなければ成らなかった。

b.世襲制： 伝統的にシャイフは世襲であり、シャイフとしての資質が満たされて居る事を条件に或る一家のみがシャイフを出す事に成って居た。

c.選出の役割： しかしながら、継承者が居ない場合や部族や村の人達がシャイフを選ぶ役割を行使し、シャイクの地位は一つの家族から別の家族へと移された。人々はモスク或いは年長者の家に集まり、彼等の間で新しいシャイフとして最も相応しい人物を選ぶ。この場合には、前に述べたシャイフとしての優れた資質のある部分が欠けて居る人物でも大目に見て選ばれる事もあった。

d. 暗殺： ハーシム・ニーミー(Hashim al-Ni'mi)は「部族から訴えられた不満と無関係に、シャイフを辞める事は許されない。これはシャイフの暗殺を招くだろう。昔は多くのシャイフが暗殺を受けた」と言う。

e.今の仕組み： シャイフの選出は今日でも昔と大きくは変わって居ない。

 

⑦-5 今の役目： 今日でもシャイフは同じ様な重要さを持ち、同じ様に強力な権限をふるって居る。人々は今でも争論の最初の段階をシャイフに訴えて来る。もし、可能であればシャイフは友好的に調停を行うし、それが駄目な場合はその地域のカーディー(Qadi、Judge、判事）に委ねる。それに加えて、シャイフは州政府に対して自分の部族や村を代表して要求や困窮を訴える。

 

⑧社会的共同

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全能の神は栄光あるコーランの中で「慈善と信心に関する事には互いに協力し、犯罪や攻撃（正当な理由の無い）に関する事には協力しては成らない」と言われた。イスラーム教によって課せられた神聖の命令と同じ様に、個人および部族間の社会関係における協力は昔の厳しい環境に上手く適合して行く必要性から必須であった。協力は色んな事で行われたが、その中でも一番重要な事項を下記に一覧する。

 

⑧-1 共済講： ウシュル(al-'Ushr、one-tenth)と呼ばれる共済講があった。前に述べたザカート(Zakah、alms、義援金)を農産物から差し引いた残りの十分の一を各農夫から集めた。これは豪雨、住宅の崩壊、牛の死亡、商いや負債の損害での他の農夫の窮境を救う為に使われた。この講の基本的な目的は農業の支援であった。個人が家を建てたいと意思表示すると講は基礎の為の石材や木材を支給して、援助の意思を表示した。耕作用、農作業用、運搬用そして建築用の機具を持たない者には貸し与えた。

 

⑧-2 接遇と歓待： 部族や村の客を接遇する時の歓待は別の種類の協力であった。寛容さや歓待の意を客に見せるのは部族の務めであり、共同して行う義務があると考えられて居た。もし、この義務が疎かにされると、その部族或いは村は面目を失うと思われて居た。この場合の歓待の意にはそれぞれの能力に応じて必要な羊を提供し合う仕組みが含まれて居た。羊は客が宿泊する場所に配られた。客は先ず、部族のシャイフにもてなされ、それからシャイフは客を村の何処に泊めるかを決めるのでそれに応じて部族民や村人は客に対する彼等の義務を履行した。接待の宴は三日間続くのが普通であった。村人はシャイフの指示でスホーン(Suhoon)と呼ばれる小麦と脂肪の食事も用意した。

 

⑧-3 義務遂行： それぞれの個人に割れ当てられた単純な義務は神聖な責務と考えられて居た。この義務の遂行を避ける者は誰でも常軌を逸しているとされ、道徳的にも実質的にも罰せられた。これは忘れ難い不名誉であり、本人にも家族にも恥辱であった。

 

⑧-4 互いの絆： これまでに起きた変化にもかかわらず、宗教上の命令からも逸脱しているとの非難は今も続いて居る。預言者ムハンマドは神の祝福を受け、「決してお互いの絆を断ち切ったり、お互いに背を向けたり、お互いに憎しみ合ったり、妬み合ったりしては成らない。互いに神を崇拝する者同士なのだから」と言った。サヒー ・ブハリ(Saheeh al Bukhari)に依ればイスラーム教徒は決して仲間のイスラーム教徒を見捨てては成らない。

 

 

表44　サラート アシールの対話、歌唱、ダンス等

①民芸

 

 

 

 

サラート・アシール(Sarat 'Asir)でポピュラーな芸術はこの地域の特有の物で、アラビア半島の他の地域とは異なって居る。この違いは環境に由来して居ると思われる。この地域へ全能の神の作られた自然の美しさに対する人々の楽しみと喜びは、語り、書きそして歌う事全てに反映されている。アシールの対話、歌唱、ダンス等のポピュラー芸術（民芸）の幾つかをその特徴および特質の詳細を含めて概要を次ぎに述べる。

 

②対話

 

 

 

 

 

 

ラダ・エド(Al-Rada-ed)と呼ばれる対話(Dialogues)ではスピーチの言葉は注意深く選ばれ、そのリズムから美辞麗句的な音楽的な特徴を持って居る。二つの部族が集会を持つ場合はその始めに一方の部族のシャイフに依って対話としてスピーチ

が行われるのが普通である。その後で、相手の部族のシャイフが返礼のスピーチを行う。部族民は市場で出会った場合などにお互いの情報やニュースを知らせ合う。例えば、お互いに自分自身や家族の最新の出来事を伝え、彼等の地域の状況に着いて論議する。このスピーチの習慣は今では殆ど失われてしまった。

 

③歌唱風

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポピュラー芸術には詩が含まれて居り、詩はジェスチュアを添えた動きを伴って歌われた。バヤデール(al-Bayader)に名付けられた研究で述べられて居た様にこの芸術に単純化した評価を与えてみたい。

 

③-1マッワル： 色んな種類の歌と歌い方がある。マッワル(Mawwal)はしばしば芦笛の伴奏で歌われる話し言葉の詩である。

 

③-2マナセム： マナセム(Al-Ｍanathem)はギーファン(Al Qeefan)と呼ばれる話し言葉の教訓的韻を踏んだ詩(Colloquial Didactic Rhymed Poem)である。マッワル(Mawwal)の様に歌われる長い詩があり、感激、忠告そして感情等色んな事柄を網羅している。マナセムは詩人の一人が自分の父親について作った忠実(Loyalty)と名付けられた詩によって例示される。「父の功業は自ら明らかで、称賛や賛美を越えて居る。父は自分の仲間を幸せにし、攻撃を撃退した。父は全てを理解する聡明なシャイフであった。戦争を終結させ、戦闘を止めさせた。神は父を人生の惨禍からお守り下さる。そして全ての災害からお救い下さる。父よ、貴方は私と兄弟達に、そして、全ての部族民と親戚達に、いたわりと慈悲を授けてくれた。今、私は父が疲れ、消耗し切っているのを見ている。そして老いの始まりを示す白い頭髪を見つけている」。

 

③-3ワッナ： ワッナ(Al-Wannah)は農夫が働く時や旅人が歌うマッワル(Mawwal)の一種である。又、夕べの宴席でも歌われる。言葉は一般的にもの悲しく、自分の愛を悲しい調子で書く詩人の言葉の例示と成っている。「愛する者よ。運命は貴女を我々が遠く離れ離れになる被害者にしてしまった。そして、その墓はこの下に貴女が眠っているのを隠してしまっている。貴女は最も素晴らしい特質、品位に満ちた作法を持ち、敬虔と実直さで信仰に奉じて居た。間違いなく、貴女は私達親族の明るい輝く光であった。運命がこの様に決められたのも神のご意志である。私の心に宿る悲しみそして涙を語りたい。見る事も能わず、彼女がみまかってしまった事で私の深い悲しみと悲嘆は募る一方だ。例え私が遠く彼女と離れる事に成っても私の命と彼女の命を代えられないだろうか。しかし、私は神の定められた運命に為す術は無い。そして、私の悲しみの涙が添えた苦悩の燃え上がる火を消して居る間に定められた運命がなんであれ、従って行かなければ成らない」。

 

③-4ワハ： ワハ(Al-Waha)は羊飼いが芦笛で伴奏して歌ったマッワル(Mawwal)である。これは羊飼いと彼の羊の群との間でお互いに理解が出来る言葉である。

 

③-5タルク： タルク(Al-Tarq)はアシールの殆どの地域でポピュラーな違った種類の歌で宴席や長い旅の間に歌われた。以下に紹介するのがこの種類の歌の例である。「尊敬の念を持って慕っている力強く率直な娘にもっと愛を示さなくては成らない。彼女に誠実で正直でなければ成らない。宗教の儀式を行う場合や高潔で正しい行いをする場合に彼女を保護し、慈しみそして支えなくて成らない。彼女は祝福を受け、彼女の胎内から立派で、優しく、敬虔な子供を産むだろう。立派な女性であるこの娘こそが必要な富であり、恵まれた世界であり、家の光として貴方に豊かさと幸福をもたらしてくれるだろう」。

 

④ダンス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歌声と振り付け（ダンス）には二つの種類がある。

 

④-1熱狂の歌： 熱狂の歌は男だけが自分たちの勇気、雅量そして如何に自分たちの故郷を誇りに思っているかを表現している。

 

a.アルダ： アシールの全ての部族はアルダ(Al-'Ardah)の様な歌を持っている。この歌はそのリズミカルな動きに特徴があり、歌に合わせて空に目がけて発砲し、それぞれに踊りながら跳び上がる。次に紹介するのは話し言葉の詩であり、踊りながら歌われて居る。「悪意や邪悪のある目的の為に来たのでは無い。運命を信じ、成り行きに任せなければ成らない。神によって、感動し、踊りそして歌う。神はどういう成り行きであってもお引き受け下さる。私達には運命をどうする事も出来ないし、それを支配するのは全能の神である。貴方達の下に貴方達と幸せを分け合う為にやって来た。従兄弟達よ、どんな不快であっても神は取り除こうとして下さる」。

 

b.ザミル： ザミル(Al-Zamil)はアシールの殆どに地方で知られている熱狂型のダンスであり、リズミカルな動きで男達によって踊られている。

 

c.ダンマ： ダンマ(Al-Dammah)はサラート部族(al-Sarat)の殆どの人達にポピュラーであり、この歌はリズミカルな踊りの振りと共に歌われる。このダンスの為の歌の詩は言う。「イスラーム教徒よ。神は全能であり、奇跡と驚異を起こされる。神の力は卓越し全てを包み込み、ジプシーとアラブによって目撃されて来た。オー アルカム族('Alkam)よ。協力し合う様に忠告する。（アルカムの返事からの詩）何かを言う前に全能の神に神聖なご加護を賜るように懇願する。神の名を讃え、神は太陽と月をお与え下さる。全能の神のお助けへの求めが協力の始まる為の願いに先んじる」。

 

④-2感情の歌： 感情的な歌と踊りは特にうれしい行事や結婚式で演じられ、二種類ある。

 

a.ハトゥワ： ハトゥワ(Al-Khatuwah)と呼ばれるステップ(Step)のダンスは女性によって演じられ、ダンスの動作、リズムおよび感情的な言葉に特徴がある。女性のグループがお互いに手を取り、グループが揃って安定したステップで足を動かす。その例としてこの種の歌と踊りの達人であるサフィイヤ(Safiyyah)によって歌われている次の言葉を聞いて欲しい。「若い女性は言う。愛は私の血の中を流れ、それが私を殺すのでは無いかと恐れて居る。若者よ、私の愛を直して欲しい。何故なら愛は私の心に取って蛇の毒の様なものだから」。この詩はいまだに結婚式で歌われて居る。

 

b.ザフファ： ザフファ(Al-Zahfah)は歌を伴ったリズム・ダンスであり、リズムで体を揺さぶって、お互いに手をつないだグループで踊られる。これは男と女で一緒に踊られる。サフィイヤ(Safiyyah)はこのダンスと一緒に歌われる歌の例として次の詩を紹介した。これの言葉は今でも幸福な行事とか結婚式に歌われる詩からの歌詞である。「昨夜、私はまるで病人か囚人の様だった。私に害を与えてきた邪悪な目から神の救いを求める」。

 

 

表45　伝承的な格言

①格言について

 

 

 

詩や歌等のポピュラーな芸術は研究者に大きな価値があり、先祖からの遺産の情報と人々の興味を与えてくれる。同じ様にポピュラーな諺は昔から今日までこの地方の人々の生き方や文化を反映している。アブハー地域にはその伝統遺産の重要な部分を成しているポピュラーな諺が豊かに残っている。

 

②ポピュラーな格言

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

②-1： 「もし、心配事が多く成って来たら、横たわり、緊張を緩めると良い」。言い換えると、もし問題が増えて来たら心配や不安で消耗するな、リラックスして全てを神の御心にお任せしろ。

 

②-2： 「もし、神がこの家の主人を愛して居るのであれば、客が揃って、やって来る」。これは恐らくお客を一人一人別々に呼ぶよりは客を一度に呼ぶ方が経済的である事を暗示している。

 

②-3： 「悪い猿が来ない様に自分の猿を守れ」。これは今置かれて居る状態に満足する必要性を示している。これは男が次の妻を娶ろうとする場合にも言われる。

 

②-4： 「無学な人達の馬鹿話に気を付けろ」。この言葉は「無学な人達と議論し、交際を続けて行くのを控えるべきである」と言っている。

 

②-5： 「もし、少年に関しもっと知りたければ、その叔父に聞け、もし、少女に対してもっと知れたければ、その叔母に聞け」。

 

②-6： 「立ち上がり、座り直し、私を高い尊敬の念で包んで欲しい」。これは虚栄心と尊大さへの好みを反映している。

 

②-7： 「豊かな恩恵か、一年も続く干魃か」。言い換えれば多くの美徳か、多くの悪徳か。

 

②-8： 「家は女であり、糧食は穀類であり、金は男である」。これは女を中心にした理想的な家を描いている。食糧の重要さを強調し、男は生存に必要な糧食を調達して来るのでその重要さは金にたとえられている。言い換えれば、「重要なのは人間であり、物では無い」と主張している。

 

②-9： 「ブルマ(Al-Burmah)はソースを美味くする」。ブルマは粘土製の鍋である。これは「格納する手段によって内容物はより魅力的に成る」との意味である。

 

②-10： 「足をヘトヘトに疲れさせる方が心を怒らせるよりもずうっと良い」。これは無思慮で、手ぬるく無関心であるのに代わって、精力的に片方の端を追求する必要性を示して居る。

 

②-11： 「力は腕の中にある」。人は道具よりも立派である事を意味して居る。

 

②-12： 「理想的な人間は勤勉な人に不安や苦悩を与える原因となる」。これは働かない人が働き者に気を揉み、活動を混乱させてしまう事を意味して居る。

 

②-13： 「暖を取る為にその覆いを被ったけれども反対に私がその覆いに暖を与えつつある」。これは誰か或いは何かに対する失望を示している。

 

②-14： 「世界は空虚の数日に居る。その始まりには何も無く、又、終わりにもない」。これは世界に価値が無い事を意味している。

 

②-15： 「生計の方法は人生の進行と共に移る」。言い換えればキチンとした生活を守る為に働く事は重要である。

 

②-16： 「コップを修理する方が、新しいのを買うよりも良い」。これは古い物を直す方が新しい物を買うよりも良い方法である事を意味している。

 

②-17： 「アブハーの人達の住んでいる地域を通り抜ける道路は簡単である」。

 

②-18： 「彼は背が高く好男子であるけれど、手にスッテキを持っている」。これは力ずくで物事を改めようとする人間の事を言っている。

 

②-19： 「鷹が獲物を選ぶのに忙しい間に少年は鷹を欺けるだろう」。これは重大さの遅れや欠乏が劣った人にも勝つ機会を与える事のあるのを意味している。

②-20： 「ソーブ(Thobe)は体の敏感な部分を覆って居るが、家は全ての物を完全にその中に隠し込む」。何が重要かそして何が最も重要かをこれは示している。

 

②-21： 「全てのフサスグリ(Currant)はその後ろに小さな乾いた小枝を持っている」。自分自身には見え無いけれども自分の中にある欠陥と欠点の存在をこれは示している。

 

②-22： 「どの位がイナゴで、どの位がその体液か」。物の欠乏とそれでもそれから得られる物の不十分さをこれは表現している。

 

②-23： 「全ての欠陥はお前にある。オー衣服よ」。これは「問題を起こした本当の原因でも無く、非難するに当たらない物を非難する」との誤りを示して居る。

 

②-24： 「柔らかい言葉が強い骨も壊す」。優しい言葉が著しい効果を持つ事が出来るのをこれは示して居る。

 

②-25： 「現在、入手可能な物の一口の方が実在しない物の十口よりも優れて居る」。何が良く、何が悪いかの区別をこれは示している。

 

②-26： 「焼灼治療師(Cauterizer)は焼灼される人の裏面にあるのは何かに関する知識は持っていない」。この言葉は無知が大きな災いを引き起こす事を示している。

 

②-27： 「以前に蛇に刺された為に、ナツメヤシが彼を恐れさせて居る」。或る人が蛇に刺された経験をした時からいつまでもそれを恐れ、ナツメヤシの葉先の棘でさえ、彼を恐怖に陥れてしまう事をこれは表している。

 

②-28： 「飼葉にする植物が近寄れない場所に繁茂している」。通行人が稀な場所に飼葉にする植物が繁茂している事をこれは意味する。

 

②-29： 「若くて美しい私を愛している彼は年老いて、皺のよった私も愛してくれるだろう」。これは女性への愛の誠実さと忠実さを表現している。美しい年代の或る女性を愛した男は彼女が年老いて美しさを無くなった年代に彼女を疎遠にしたり、愛を失ったりしては成らない。

 

②-30： 「カルダモン(Cardamom)で歓迎。大きさも無く、重さも無く」。最高の歓迎はこの言葉の中に表されて居る。カルダモンはとても高価な為にここで使われて居る。

 

②-31： 「全てを望む者は全てを失うだろう」。言い換えれば、欲をかくと全てを失う。

 

②-32： 「ターバンを巻いた頭に丸出しの尻」。頭を被って居ても尻は丸出しの人が不釣り合いな行為を提案している事をこの言葉は述べている。尻と言う言葉は多くの諺にしばしば使われて居り不適当の言葉だとは見なされて居ない。

 

②-33： 「どうして雄牛は私がアンタル(Antar)だと分かるのか」。アンタル(Antar)は古代アラビアの歴史や文学に登場する有名な英雄である。この諺は「有名な人物について何も知らない者は雄牛と同じように無知である」。と言う事を意味している。

 

②-34： 「誉れ有る行動を取り、不名誉な行動を避ける様に、息子に忠告しなさい」。この諺は「有益な事を行い、有害な事を避ける様に息子に忠告しなさい」と言う事だ。

 

②-35： 「無分別を除く、多くの後込み」。これは無知と素朴さを表している。

 

②-36： 「誰と昼食を摂ったかによってその日が評価される」。案じたり、働かなかったりする代わりに過大な仕事に賢く対応し処理する必要性をこの言葉は表している。

 

②-37： 「我々は彼等の羊を望んでいたが、彼等は我々の駱駝を奪って行った」。この言葉は誰かの失敗は相手の成功である事を表している。他人から多少の事は得られたけれど、その他人はそのかわりにもっと多くを自分から奪って行った。

 

②-38： 「アシールの太陽」この言葉は疲労を表している。この諺はアブハーの人々がハミース・ムシャイト(Khamis Mushait)の市場で買い物をするのが常で有る事に由来して居る。朝、ハミース・ムシャイトに向かう時には太陽が正面から照らして居り、午後に帰って行く時も同じ様に太陽は正面から照って居る。それによって、アブハーの人達は大変に疲れた。

 

表46　サラート アシールの昔の教育・文学的生活

①三つの要因

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サラート・アシール(Sarat 'Asir)地域の昔の教育的、文学的生活はミッフラフ・スライマーニ(al-Mikkhlafu al-Sulaymani)やリジャール・アルマア(Rijal Alma’)等の地域と較べると卓越して居た。これは三つの主な要因に基づいて居る。

 

①-1トルコ語； トルコ支配の否定的な効果として、この時代を通じてトルコ語が教育に使われた言葉であった為に人々が教育から顔を背けて居た。

 

①-2近寄り難さ： 整備されず、近寄り難い道路や小道が交通を難しくして居た。

 

①-3部族割拠： 多くの部族のアミールやシャイフが割拠し、互いに争い、混乱と政治不安を導いて居た。

 

②教育度低下

 

 

 

 

 

その結果、教育程度は低下し、教育はコーランの暗記に加え、或る程度の算術、読み書きに限られてしまった。学習はモスクで行われ、先生はファキーフ又はムッタッウェ(Faqeeh or Mutawwe)と呼ばれた。ウンム・フサイン(Umm Husayn)は「少年が６才か8才に成ると、その利口さにより、モスクのファキーフの下に連れて行かれ、そこでコーランを暗唱して習わされ、多少の算術を学習した。もし、それ以上の興味を示す少年が居れば、その少年はコーランを全て暗唱するまで学習を続けられた」と言う。

 

③少女の教育

 

 

 

 

少女の教育についてアハマド・ムタイーン(Ahamad al-Muta'in)は「少女の教育はコーランの幾つかの章に限られていた。それにもかかわらず、コーランの全章を完全に暗唱している少女達も居た。これは少女の家族次第であった。家族が家庭労働に少女を必要として居なければ、少女はもっと学習する事が出来た。そうでなければ、少女への教育は祈りの儀式に必要な事を覚えるのに止まって居た」と言う。

 

④導師と月謝

 

 

通常はモスク(Mosque)の導師(Imam)であった先生（ムタッウェ(al-Mutawwe)）は月謝として1サアアー(Saa')（容量の単位）の穀物か１リヤルを各生徒に請求した。子供達は一年間学び、彼らは木版の上に字を書いた。

 

⑤学習用インク

 

 

インクに関してラウダ（Rawdah）は「子供達はインクを蝋燭の黒い煤から作り、それに木炭と水を混ぜて居た。中には煤に鉄片から取った粉状の錆びを混ぜる子供も居た」と言う。

 

⑥コーラン暗証

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「読める」と言う意味は読んでコーランを暗唱している或いはコーランを暗記し暗唱していると云う意味である。或る子供がコーランを首尾よく暗記し、読みそして暗唱し終えると彼らの幸福と先生の名誉を表す為に、祝賀会が催しされる。人々はそれぞれの経済状態に基づき、この宴会の為に、贈り物や食料を用意した。先生への感謝には歌が唄われる。アブー・アリー(Abu 'Ali)は地方方言のその様な歌の例を一つ紹介している。「神は先生とその両親そして我々の両親をお許し下さる。崇拝する神は時間と数え切れない出来事や状況を称えられる。神は天上よりコーランを大いなる光明そして正しい導きとしてお送り下された。我々の知識深い先生はそれを伝える為に全力を尽くして来た」。更に、彼は古典的なアラビア語でも同じ言葉を伝えている。「崇拝する神は時間、数え切れない出来事や状況を称えられる。神はモーゼに教え、ムハンマドを選び、天上よりコーランを大いなる光明そして正しい導きとしてお送り下された。」

 

⑦コーラン学校

 

 

 

カタティーブ(Katateeb)（コーラン学校）はヒジュラ暦(Hijrah Century)13世紀後半のアミール・アイド ・ムフィーディ(Amir 'Ayid al-Mufeedi)の治世に開らかれた。それから、この様な学校が子供達にコーラン、算術及び手習いを教える為に広まった。

 

⑧女子教育

 

女の子に対する教育はコーランと手習いを教える為に南からやって来た女達によって広まり始めた。

 

⑨知的高揚

 

 

 

 

ムハンマド・イブン・アブドゥル・ワッハーブ(Shaykh Muhammad ibn 'Abd al-Wahhab)に導かれたイスラームの呼びかけ到来と共に、知的精神はこの地域を席巻し、多くの人達が教育と行政知識を求め始めた。アミールの何人かはこの動きを奨励し彼らと親しい宗教家を呼び寄せ、教育に携わるのを許可した。このようなアミールの最右翼はアリー・イブン・ミフタル・アシーリー(Ali ibn Mihthal al-'Asiri)であった。

 

⑩私設図書館

 

 

人々は本を読み、集めたが、この地域での文学的作品や書かれた本は無かった。その結果、多くの私設図書が創設された。

 

⑪重要な文人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アハマド・ムタイーン(Ahmad al-Muta'in)氏は昔の文学的生活に著しく影響を与えた重要な文人として下記の人達を挙げて居る。

 

⑪-1： アハマド・アブドゥルカディール・ヒフディー氏(Scholar Ahmad 'Abd al-Qadir al-Hifdhi)

⑪-2： シャイフ・ムハンマド・イブン・アハマド・ヒフディー(Shaykh Muhammad ibn Ahmad Hifdhi)

⑪-3： アミール・ムハマド・アブー・ヌクタ(Amir Muhammad Abu Nuqtah)

⑪-4： ムダウィ・イブン・ムハンマド・ムフタミー（Mudawi ibn Muhammad al-Muhtami）

⑪-5： アブドゥッラー・イブン・ムハンマド・ニーミー('Abd Allah ibn Muhammad Al-Ni'mi)

⑪-6： アミール・ムハンマド・イブン・アハマド・ムサミー(Amir Muhammad ibn Ahmad al-Muthami)

⑪-7： シャイフ・ムハンマド・イブン・ミスベル・アハマリー(Shaykh Muhammad ibn Misbel al-Ahmari)

⑪-8： シャイフ・アリー・イブン・アハマド・ムフィーディー(Shaykh 'Ali ibn Muhammad al-Mufeedi)

⑪-9： シャイフ・イブラーヒーム・イブン・サリフ・ザムザミー

(Shaykh Ibrahim ibn Muhammad ibn Salih al-Zamzami)

 

⑫韻文

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昔の韻文の多くは政治活動、宗教教義および社会的な出来事を取り扱って居た。その為、韻文が重要な歴史的記録と成った。次の文章はこの様な韻文の例であり、これはアミール・ムハンマド・イブン・アハマド・ムサミー(Amir Muhammad ibn Ahmad al-Muthami)がヒジュラ暦1233年にムハンマド・アリー・パシャ(Muhammad 'Ali Pasha)の捕虜としてエジプトに居た時に作ったものである彼がアシールの家族の元に送って来た韻文は感激と誇りに満ちて居た。「今日まで、私は希望に満ち溢れて居り、偉大な事の最も偉大さも私には重要な事では無かった。今は、しかしながら、事態は変わり、希望は絶望に代わってしまった。遠く故郷と家族から離れた所での運命的な抑圧によって私の悲しみと嘆きは激しく成って来て居る。全能の神は我々の故郷にお恵みを下され、その土地を天国の雨で潤して下さる。そこにはムフィード(Mufeed)、アルハム('Alkham)、マーリク(Malik)およびアフラフ(Ahlaf)諸部族がアダムの時代から住んで来て居る。オー、イエメンの隊商(Yemeni Caravan)よ、私は貴方に困っている人間としての助言を与える事が出来る。貴方がタイマー(Taima)の険しい谷に着いたら､脇に避けそしてタバブ(Tabab)へ行きなさい。そこには剣と槍が立派な男達の手に握られて居る。私はその近隣に住む私の部族への貴方の保護を信じる。彼等は一つ一つ、そこここに、散らばった真珠の飾りみたいで、もう一度、彼等を一緒に繋げようとする人は誰も居ない」。

 

表47　教育の普及

①男子教育

 

 

 

 

 

組織的な男子教育はヒジュラ暦1361年（西暦1941年）にアブハーに最初の学校が開校して始まった。男子教育は大きく発展し、環境の難しさにもかかわらず多くの学校が開校している。ハーシム・アブドゥッラー・ニーミー（Hashim 'Abd Allah al-Ni'mi)の調べた教育省の統計によるとヒジュラ暦1407年（西暦1987年）の学校の数は「表47　教育の普及」の付属表1（ヒジュラ暦1407年（西暦1987年）の男子学校の数と生徒数）に示す通りである。

 

②女子教育

 

 

 

 

 

 

女子教育はヒジュラ暦1380年（西暦1960年）まで始まらなかった。女子に対する組織的な教育は懸念と心配を伴って始まった。人々は女性が彼女達の家庭労働に必要もない物事を学習するのを恐れた。しかしながら､時と共に、教育の恩典は明白に成り、女性も家庭の外で働け、そして家族に収入をもたらす可能性が分るに連れて、もっと多くの学校が必要に成って来た。ヒジュラ暦1407年（西暦1987年）で、女子学校の数はアブハーだけでも「表47　教育の普及」の付属表2（ヒジュラ暦1407年（西暦1987年）の女子学校の数と生徒数）に示す通りである。

 

③高等教育

 

 

 

中学校を卒業した後、この地域の男子の多くは彼らの勉学を続けたいと望み、高等教育の様々な分野での専門技術や学位を取得或いは提携による大学教育を受ける為に他の地域に移住せざるを得なかった。このような学生の増加に伴い、この地域でも次ぎの様な高等教育機関を設立する事が必要と成った。

 

④教育単科大学

 

 

 

 

キング・サウード大学付属としてヒジュラ暦1396年（西暦1976年）に設立された。この大学は教育、心理学、教科課程および教授法、歴史、地理、英語、物理、生物、数学及び化学の各学科で構成されて居る。現在、1,540名が在籍して居り、777名が既に卒業している。ヒジュラ暦1407年（西暦1987年）には1,725名在籍、246名卒業の見込みである。

 

⑤医学単科大学

 

 

 

 

この単科大学は高等教育省の下でヒジュラ暦1400に設立され、後にキング・サウード大学の付属校と成った。教育はヒジュラ暦1402/1403年（西暦1982/1983年）に始まった。この大学は生理学、解剖学、生化学、病理学、生物組織学、家庭および社会薬学、婦人科、小児科、経口薬学および外科によって構成されて居る。ヒジュラ暦1407年（西暦1987年）には初めて10名が卒業し、94名が在籍して居る。

 

⑥シャリーア単科大学

 

 

シャリーア単科大学はイマーム・ムハンマド・イブン・サウード(Imam Muhammad ibn Saud)大学の付属校である。ヒジュラ暦1396年（西暦1976年）に設立し、1,673名が在籍して居る。

 

⑦アラビア語大学

 

 

アラビア語単科大学もイマーム・ムハンマド・イブン・サウード(Imam Muhammad ibn Saud)大学の付属校である。ヒジュラ暦1396年（西暦1976年）に設立し、1,245名の学生が幾つかの学科に分かれて在籍して居る。

⑧女性高等教育

 

 

 

 

 

 

女性の為の単科大学はヒジュラ暦1401年（西暦1981年）にアブハーに開校され、女性教育庁(Presidency of Girls' Education)の付属校とされた。イスラーム教学、アラビア語、化学、物理および英語の各専門分野の学科が設けられて居る。2クラス124名が既に卒業しており、ヒジュラ 暦1407年（西暦1987年）には708名が在籍して居る。多くの女子学生が他の学科で学習を続ける為、或いはマスターやドクターの資格を習得する為の更に高度な学習を受ける為にサウジ国内の他の地域に移住して行ってしまった。他の女子学生は提携によってアブハーの男子単科大学に学籍を置き､既にその多くが卒業して居る。

 

「表47　教育の普及」の付属表1（ヒジュラ暦1407年（西暦1987年）の男子学校の数と生徒数）

学校の種類 

学校数 

生徒数

学校の種類

169

28,489

中学校

51

8,287

高等学校

25

3,821

教育専門学校

2

145

身体障害者教育

1

43

高等中学校

2

25

アマル(Al-Amal)黙唖学校

1

28

ヌール(Al-Noor)盲学校

1

33

「表47　教育の普及」の付属表2（ヒジュラ暦1407年（西暦1987年）の女子学校の数と生徒数）

学校の種類

学校数

生徒数

小学校

64

8,408

中学校

12

2,645

高等学校

3

1,800

女子教育高等専門学校

１

99

 

表48　文学の発展

① 文学の認識

 

 

教育施設の充実と国による学性に対する給与や奨励金等の刺激が教育の水準を高め、文学の重要性に関する認識が増して来た。その結果として多くの文学者がその名声を高めて来た。

 

② アブハー・クラブ

 

 

アブハー文学クラブの設立は図書の提供を通じて、或いは様々の作品の出版を援助する事によって読書の機会を提供し、アシール地域の知性および文学的運動を活気付けた。

 

③ 重要な人物

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アブハー地域での知性的文学的活動での一番重要な人物達は次の通りである。

 

③-1： ウスタド・ハーシム・イブン・サイード・ニーミー(Ustadh Hashim ibn Sa'eed al-Ni'mi)。

③-2： アブドゥッラー・アブー・ダヘシュ博士(Dr. 'Abd Allah Abu Dahesh)。

③-3 ザヘル・アウワド・アラマアイ博士(Dr．Zaher 'Awwad al-Alma'i)。

③-4 ムハンマド・イブン・ズィルファ博士(Dr. Muhammad ibn Zilfah)。

③-5 ハサン・イブン・アリー・ヒフディー(Al-Hasan ibn 'Ali al-Hifdhi)。

③-6 ムハンマド・アブドッラフマーン・ヒフディー(Muhammad 'Abd al-Rahman Hifdhi)。

③-7 アハマド・バイハン(Ahmad Bayhan)

③-8 アブドッラフマーン・イブラーヒーム・ザイン・アブディーン('Abd al-Rahman Ibrahim Zayn al 'Abdeen)。

③-9 アリー・ウマル・アシーリー('Ali 'Umar 'Asiri)。

③-10 アリー・アブドゥッラー・マフディ(Ali 'Abd Allah Mahdi)。

③-11 ムハンマド・ザーイド・アルマアイ(Muhammad Zayid al-Alma'i)。

③-12 アハマド・アブドゥッラー・アシーリー(Ahmad 'Abd Allah 'Asiri)。

③-13 アリー・ハサン・アスマリー('Ali Hasan al-Ali-Hasan al-Asmari)。

③-14 ヤフヤー・イブラーヒーム・アラマアイ(Yahya Ibrahim al-Alama'i)

③-15 ムハンマド・アリー・アルワーン(Muhammad 'Ali 'Alwan)。

③-16 トゥルキー・アシーリー(Turki al-'Asiri )。

③-17 ムハンマド・アブドゥッラー・フマイド(Muhammad 'Abd Allah al-Humayd)。

③-18 アハマド・イブン・イブラーヒーム・ムタアイン(Ahmad ibn Ibrahim al-Muta'in)。

③-19 ハサン・ニーミー(Hasan al-Ni'mi)。

③-20 アハマド・アリー・アシーリー(Ahmad 'Ali 'Asiri)。

③-21ムハンマド・ハサン・ガリーブ・アルマアイ(Muhammad Hasan Ghareeb al-Alma'i)。

③-22 イブラーヒーム・ムハンマド・イブン・タリーアル・アルマアイ(Ibrahim Muhammad ibn Tali'al al-Alma'i)。

③-23 スライマーン・アリー ・ヒフディー(Sulayman’Ali Al-Hifdhi)。

③-24 アーティスト・サウード・カフターニ(Artist Sa'ud al-Qahtani)。

③-25 アーティスト・アブドゥッラー・シェルティ（Artist Abdullah al-Shelty)

③-26 アーティスト・アブドゥルアジーズ・アワジー(Artist Abulaziz Awaji)

 

④ 多様な作品

 

 

 

上記に含まれない文学活動かもこの他にたくさん居る。文学的な価値や水準からここに載せられなかった。彼らの作品は多様で、彼らの専門的な仕事は歴史、宗教、文学、韻文および絵画を含む多くの分野をわたっている。

 

⑤ 女性の文人

 

 

 

 

 

 

 

 

女性もこの分野で活躍を始め、アブハー州は教育と文学に卓抜した何人かの女性に恵まれて来た。物語著作から社会的な論争迄、多くの記事が婦人達によって新聞や雑誌に書かれて来て居る。彼女等の中には次の婦人達を含んでいる。

 

⑤-1： ザハラ・アハマド・アラマアイ(Zahrah Ahamad al-Alma’i)（アブハー地域で最初に心理学のマスターの学位を取得した）。

⑤-2： アーイシャ・サファル・カフターン博士(Dr. 'Ayishah Safar al-Qahtani)。

⑤-3： ラミア・ムハンマド・アリー・アブー・ウシュ博士(Dr. Lamia Muhammad 'Ali Abu 'Ush)。

⑤-4： トゥキーヤ・アハマド・アラマアイ(Dr. Turkiyah Ahmad al-Alma'i)。

 

表49　アシールの農業、牧畜および狩猟

①アシールの農業

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

①-1肥沃な土地： 農業はアシールの主要な経済活動で、この地域では全員が農耕に就労出来る程、土地が肥沃だった。

 

①-2昔の農作業： 昔、農夫は土地を耕し、井戸からの水汲みに駱駝、驢馬や牛等の素朴な方法に依存して居た。灌漑用の水は谷の流れを堰止めて手に入れて居た。灌漑活動は同じ谷間の農民のグループが交代で行い、それぞれの農地に指定された灌漑期間が割り当てられて居た。

 

①-3昔の農作物： 昔の主な農作物は小麦、大麦、コーン、レンズ豆、コーヒー、イチジク、印度イチジク、リンゴ、プラム(Plum)、杏(Apricot)、ザクロ(Pomegranate)、葡萄、くわ(Mulberry)、マルメロ(Quince)、西洋梨、キャベツ、トマト、カボチャ、ジャガイモ、ニラネギ(Leek)、トウチシャ(Chard)およびムラサキウマゴヤシ(Alfalfa)であった。

 

①-4トルコ占領下： トルコの占領下で多くの種類の野菜がこの地域にもたらされた。これに加え、様々な種類の香料や医薬用のハーブが栽培されて居た。

 

①-5収穫：

 

a.小麦： 昔、小麦は手鎌を使って収穫されて居た。小麦は切り取られ、そして脱穀用の土間に運ばれ、そこで数日太陽に当てられ乾燥させられた後、特殊な石を引きずった牛によって踏みつけられた。小麦は木製の簸用の熊手で簸られ、穀粒は麦藁から分けられる。

 

b.作業協力： 村の住人間の協力は収穫の季節に明確に計画され実施された。収穫の時期には、特定の日程が異なった農家に割り当てられた。各農家への割り当ては農地の大きさにも依るが一日以上に及ぶ。男達は農地に集まり、収穫作業を開始する一方で、女達は刈り取られた小麦を脱穀用の土間に運び、食事を用意した。

 

c.収穫処分： この様な作業が最高の状態で収穫を行う為に、夜半過ぎ迄続けられた。収穫作業の間、人々は楽しく歌を歌った。他の村からも手助けの代わりに、収穫の一部を貰おうと他の村の男達もやって来る事もあった。作業が終了すると家族は自分達の一年分の必要量を確保し、残りはこの地方のマーケットか、或いは又、駱駝で遠くヒジャーズおよびナジュドまで運んで売り捌いた。

 

①-6昔の農機具： 昔使われた農耕用の機具は素朴な物であった事は既に述べた。下記に紹介するのは現地調査で見つけたこの様な農耕用機具の一部の名前である。

 

a.ミールサ(Al-Mirsah)：鋤(plough)。

b.ダル(Al-Dalu)： 水用のバケツ(a water bucket)。

c.ジャルフ(Al-Jarf)： シャベル(a shovel)。

d.ミーシャ(Al-Mishah)： 踏み鋤(a spade)。

e.ミドマド(Al-Midmad)： 揚水用ロープ(a rope connecting the cows together while fetching water)。

f.アティーファ(Al-'Ateefah)： 斧(an axe)。

g.ミクタル(Al-Miktal)： 背負い籠(a large basket to hold alfalfa or the like and hung on the back)。

h.サリーマ(Al-Sareemah)： 大鎌(a sickle or scythe)。

i.ダッラジャ(Darrajah)： 水容器牽引用ロープ(a rope tied to a piece of wood and used to drag water containers)。

j.イバヤ(Al-'Ibayah)： 貯蔵用皮袋(a leather bag in which dates and the like are stored )。

k.ガルブ(Al-Gharb)： 井戸つるべ用バケツ(a bucket and rope for drawing water from well)。

l.シャッダド(Al-Shaddad)： 乗馬用鞍(a riding saddle for horses and donkeys)。

m.ハスブ(Al-Khathb)： 乗駱駝用鞍(a riding saddle for camels)。

n.ムラッヒラ(Al-Murahhilah)： ナツメ椰子の葉製鞍袋(a saddlebag made of palm leaves)。

0.サナド(Al-Sanad)： 鋤(an implement used in ploughing)。

 

①-7農業の変化： 農業におびただしい変化が起きて来た。或る変化は農業に肯定的であったし、他の変化は農業に否定的であった。

 

a.肯定的： 機械化の導入は農作業にかかわる肉体的な努力を緩和するのに大きく貢献した。外国人労務者の導入は農業生産を向上させた。農業銀行が設立され、農民に補助金を支給したり、貸付を行ったりする様に成った。更に、農業水資源省は農業活動を支援する為にアブハーに支局を開設した。道路の整備が農地への運搬を容易にした。高地に真水を供給する為に建設中の脱塩淡水化プラントが間もなく完成する。給水の可能性が農業生産を増産させる重要な要素であるので、これは一番重要なプロジェクトの一つである。

 

b.否定的： 多くの若者が農耕作業から離れて行った。ウンム・アリー(Umm 'Ali)は「若者が学校で学習する最初の事が作付けと収穫であるが、彼等は自分達が学習した事を実践しない」と言う。言い換えると、学校は理論面の見地のみにしか注意を払って来なかった。魅力的な梱包の輸入農産物が地方産の農作物を駆逐している。利益に較べ、上昇する経費の為に、多くの村人が働く機会に恵まれ、生計を立てるのが容易い都市へと流入し続けて居る。

 

②アシールの牧畜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

②-1家畜の飼育： 家畜の飼育は耕地での農業に継いで経済的に大切であった。牧畜民の労働は土地が広く、草が豊富であり、農耕に較べれば、その労働は厳しくは無かった。

 

②-2収穫： 家畜が生産する全てが収穫であった。それには、肉、毛、ミルクやその酪農製品、敷物、被い、プロウイング(ploughing)や水袋にする皮、肥料となる糞等が含まれて居た。

 

②-3飼育普及： 家畜は収入源として大切なばかりでは無く、客人にもてなしを施す手段でもあった。従って、アブハーでは家畜を飼育して無い家は無かった。

 

②-4種類： 家庭や市場での需要から、大切なのは駱駝、牛および羊であった。家禽はそれに較べるとさほど重要性は無かった。

 

②-5酪農製品： 今日、牧畜業は輸送手段の発達によって或る程度まで発展して来た。しかしながら、大規模な酪農会社が生産する酪農製品が広く出回る様になり、自家製酪農製品用の乳牛を増やす必要性は減って来て居る。

 

②-6自家製： ウンム・フサイン(Umm Husayn)は「私達は自家製のヨーグルト、バターやその他全ての酪農品を作るのが当たり前だった。しかしながら、火曜市で買う天然脂肪以外は全て製品で買える様に成り、今では自家製の酪農品を作る事は無い」と言う。

 

②-7肉と鶏： 肉と鶏の消費に関しては、ウンム・アブドゥッラー(Umm 'Abd Allah)は「昔の羊は良い草ばかり食べて居たので、肉から得られる利点は大変に多かった。今日では羊を昔のように放牧には出さず、化学飼料で育て、肥育して居るので、それを食べる人間も太ってしまう。鶏の方が害の無い事を知っては居るが、つい肉を食べてしまう。鶏にしても、今日は小さいけれども、明日は化学飼料によって大きくされてしまうだろう」と言う。養鶏場は広く行き渡り、鶏は羊よりも安いので、その製品は市場性に優れて居る。

 

②-8ナジュド羊： ラウダ(Rawdah)は「私達が羊を買うのはせいぜい2リヤルであった。ところが、今日、ナジュド羊は数百リヤル支払わないと買えない」と言う。サフィイヤ(Safiyyah)は口語調の韻文の中で「私は誓う。祭礼のご馳走が例え無くても痩せた子羊は買わない。私はナジュド羊を見るのが好きだけれど、それでもその一頭を買う事はしない」とコメントして居る。

 

③アシールの狩猟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

③-1狩り： ずーと昔は、槍や矢の様な簡単な狩りの道具が使われた。狩りは必要な時にだけ行うと制限して居た為に、山々の豊富な動物や鳥類の豊かさに影響を与える事は無かった。狩りの季節は特には無いけれども、その季節は男らしさの連想によって特徴付けられる。父親は少年が一人で狩りが出来る程、十分に強く成るまで訓練する。

 

③-2絶滅危機： ライフルの様な他の種類の武器がこの地に到来した時から狩りの活動は楽になり、結果として多くの動物や鳥類が絶滅の危機に瀕してしまった。

 

③-3禁猟保護： 環境保全の重要性の認識が高まるに連れて、動物や鳥類の保存に大きな注意が払われる様に成った。狩りの解禁季節が決められ、その結果、殆ど絶滅しかけていた動物や鳥類の一部がタイイ山(Tayyih)の原生地に姿を現し始めた。

 

③-4獲物： この地域で、人々が狩りを好む動物と鳥類にはレイヨウ(Gazelle)、野生の山羊(Mountain Goat)、ウサギ(Rabbit)、砂雷鳥(Sand Grouse)、ハト(Dove)、山ウズラ(Partridge)、野雁(Bustard)及びダマン(Daman)等が居る。アハマド・ムターイン(Ahmad al-Muta'in)はレイヨウ(Gazelle)と野生の山羊(Mountain Goat)は既に絶滅したと言う。イナゴ(Locust)も捕獲され、食用にされたが、今では殆ど姿を見ない。

 

表50　交易の営み

 

 

①営みの重要性

 

 

何時でも何処でも交易は重要な営みであった。これを通じ、地域社会は物と物を交換するか、金で買い入れるかして、必要な物を手に入れて居た。

 

②活動への努力

 

 

アブハー地域は山に囲まれて居るので、相当程度、隔離されて居ると考えられて居た。この地勢が住人にこの地方で一番必要な主要な経済活動にその努力を集中する様に強いて居た。

 

③ 週市場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この地方は週に一度開かれる市で有名に成って居た。毎日、行き来するのが難しい為に、一週間分の必要な物を週に一度の市では揃えて販売して居た。一週間の特定の日が或る市或いは幾つかの村単位に定められて居た。

 

③-1 火曜の市： アブハー(Abha)の市は火曜日。

③-2 木曜の市： ハミース・ムシャイト(Khamis Mushait)では木曜日。

③-3 日曜の市： アハド・ラフィーダ(Ahad Rafeedah)では日曜日。

③-4 土曜の市： ヤズィード(al-Yazeed)では土曜日。

③-5 金曜の市： ラビーア(Rabee'ah)では金曜日。

③-6 月曜の市： シャアーフ(al-Sha'af)では月曜日。

 

④ 有名な市

 

 

 

幾つかの市はその開かれる日が町の名前に付け加えられる程に有名に成って来た。例えばハミース・ムシャイト(Khamis Mushait)のハミース(Khamis)は木曜だし、アハド・ラフィーダ(Ahad Rafeedah)のアハド(Ahad)は日曜日である。

 

⑤ 市の機構

 (Market Organization)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⑤-1 地域商品： 市の日に成ると市の開かれる町や村あるいは隣接した地域から食糧、皮、家畜、蜂蜜、酪農製品、蜂蜜、ハーブ、椰子の葉で編んだ手工芸品、羊毛、粘土の壺等が集まって来た。この地域の工業の一つは椰子の葉を編んだ仕事の完璧で色合いの美しい手工芸である。

 

⑤-2 隊商商品： 布、香水、香辛料、石鹸、塩、マッチ等のその他の商品は大シリア、イエメン、ヒジャーズ、スーダンやイラクから輸入された。隊商はこの様な商品を運んで来て、この地方の住民に売り、替わりに穀物、皮製品、蜂蜜等を手に入れる為にやって来た。

 

⑤-3 通貨： アブー・シュッラ・スルターニ('Abu Surrah al-Sultani)と呼ばれたフランス・リヤル(French Riyal)を使って交易して居た。これはエジプトのピアストル(Egyption Piastres)とほぼ、同じ価値であった。

 

⑤-4 男女の別： 商品の売り手は二つに分けられる。野菜、酪農品、香水、衣料、ハーブ或いはその様な商品は特定の場所で女が売って居た。男は別の場所で穀類、家畜、蜂蜜及び皮製品を売って居た。女性は常に市の重要な役割を担い、その習慣は今日でも続いて居る。

 

⑤-5 法度保護： 市はその特有な決まりを持って居た。暴力や大声で口論、喧嘩は御法度であった。市は敬意を持って扱われ、市の在る場所を支配する部族に依って保護されて居た。

 

⑥ 交易の変化

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

交易はいまだにこの地域の生活にとって重要であり、幾つかの理由に依って、大きく発展して来た。

 

⑥-1 交通手段： 交通手段を確保し、市へ商品が折り良く到着する様に多くの高速道路や出入り道が建設されて来た。

 

⑥-2 奨励政策： 政府の施設及び奨励策の結果、幾つかの交易ストアが開店して来た。市と交易ストアは全ての需要をまかなえる商品を揃えた総合センターに発展して来た。

 

⑥-3 収入増加： 各人の収入の増加はそれに見合う購買力の増加を生み出して来た。

 

⑥-4 週一市： 週一度の市は今でも同じ様に重要であるが、商品の種類が二倍以上に成って来た為に、その重要さは昔以上には成って居る。

 

⑥-5 女の働き： 女性は引き続き、市で働いて居る。ウンム・サイード(Umm Sa'eed)は年を取っても何故、女の市で働き続けるのかと聞かれ、「オー、ウンム・ムハンマド。神よ。私は経済的には豊かに成った。全ての私の子供は働いて居るし、不足など無い。けれども、もし、家の中に籠もって居れば、病気に成った気がするし、市で働くと健康で居る気がする」と答えた。

 

表51　アシールの養蜂

①重要商品

 

 

この地域は豊富な樹木や花に恵まれて居り、従って、養蜂が経済活動の重要な位置を占めるのは自然の成り行きであった。

 

②補助食品

 

蜂蜜は補助的な食品よりも重要視されて居たし、この地域の住民も一般的な調理を蜂蜜に依存して来た。

 

③名産

 

 

 

この地域で取れる蜂蜜はアラビア半島全域で有名であり、スーダ山塊(al-Sawdah Mountains)で取れる蜂蜜は格別、評判が良かった。蜂蜜は週に一度の市に運ばれる。そこでは外国産に較べるとこの地元産の蜂蜜の需要は非常に高い。この為、もっと多くの巣箱の設置が必要であり望まれて居る。

 

④上等な種類

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蜂蜜の種類は蜂蜜が蜜を採集する樹木や花の種類に依って変わって来る。蜂蜜の上等な種類は下記の通りである。

 

④-1シャウカ(Al-Shawkah Honey)： この種類の蜂蜜はシドル(al-Sidr)、カルド(al-Qard)、シルム(al-Silm)およびシャブラム(al-Shabram)等の棘のある樹木の花からの蜜を集めて出来て居る。これら樹木はサラワート山塊(al-Sarawat Mountains)に豊富にある。この蜂蜜は暗い色合いをして居り、食べた後に苦さが残り区別できる。この蜂蜜の主な用途は医学用である。

 

④-2マフラ(Al-Mahrah Honey)： この蜂蜜はその透明な白い色で識別され、リジャール・アルマア(Rijal Alma’)の白い花から蜜を取って居るミツバチによって作られる。この蜂蜜は取り分け甘く、液体と言うより固体の様に粘性が高い。

 

表52　伝統産業と雇用

①手作業

 

 

自分を自分の置かれた環境に適合させようとする努力が自分の必要とする多くを地元で自給する為に手作業を始められ、殆どのものは自給自足出来る様に成った。

 

②伝統工芸品

 

 

 

 

この地方の工芸品には農業用機具製作、大工道具製作、鍛冶、皮加工、毛織りと仕立て、粘土ポットの制作、油抽出、建築用石材の切断と切り込みおよび椰子の葉の手芸等がある。例えば女性がナツメの葉から作ったバスケット（ジュナ(al-Junah)）。大きなバスケットはパンの貯蔵に使われ、小さな物は香料や香水の貯蔵に使われた。

 

③職人

 

 

 

これらの制作に携わる職人は他の手作業にも携わって居た。これら全ては素朴な技巧で作られては居たが、希望する目的を十分に達成して居た。熟練技能者は今でも居るが、輸入製品との競争の為に、今日では重要さが殆ど無く成ってしまって居る。

 

④伝統保護

 

 

 

この様な製品をこの地方の伝統の一部として保存して行く見地からは生産能力や流通は最低の規模に制限しながら続けられては居る。これらの手作業の原料は特に無料で手に入るのでこの様な事業が再びこの地に発展する様に願っている。

 

⑤新たな雇用

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昔、政府の仕事は大きくアミレート(Amirate)に付属して居り、この様な仕事にありつけた人はラッキーだと思われて居た。

 

⑤-1政府雇用： この仕事にアミレートの事務局、シャリーア・コート(Shari'ah Court)（裁判所）、軍隊、警備、事務、モスクのイマム、郵便配達等がある。給与は或る場合には数百リヤル、場合によってはそれ以下であった。

 

⑤-2魅力人気： この様な政府の仕事に雇われている限り、農耕や他の伝統的な仕事に較べて殆ど努力をしないで済むので、今日では、特に若い人の間で、これまでよりも人気が出て来て居る。州の事務所が設立され、アブハーに様々な事務所を新たに開設されるのに伴って、就職の機会が増加した。更に、幾つかの手当と共に、月給も増加したので、多くの人が政府の仕事に魅力を感じて居る。

 

表53  交通手段

 

①昔の交通

 

 

昔は、交通の手段は素朴ではあったが、凸凹の多い地形には適して居た。人々は駱駝、驢馬、騾馬に頼って居たし、多くの場合は、徒歩で場所から場所へ移動するのが普通であった。

 

②車両

 

 

 

 

 

車や他の車両は故アブドルアジズ国王の治世にアブハーに始めて渡来した。最初の車はトゥルキー・スダイル(Turki al-Sudayri)の知事の時代に到着し、フォードであった。当時、財務事務所長のシャイフ・アブドゥル・ワッハーブ・アブー・ ミルハ(Shaykh 'Abd al-Wahhab abu Milhah)が柔らかい上部を持つ車を所有し、ラフザ((Abu Rafzah)と呼ばれた。シャイフ・アハマド・ムハンマド・アブー・フライル(Shaikh Ahmad Muhammad Abu Hlayl)が同じ年にこの地域で三台目の車を所有した。

 

③道路

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、車の使用は広がり道路網が建設された。今日、アブハーにつながる最も重要な道路を以下に紹介する。

 

③-1州内道路：

 

a.ハミース道路： アブハー(Abha)からハミース・ムシャイト(Khamis Mushait)への道路。

 

b.フッラ道路； アブハー(Abha)からカラアー(al-Qar'ah)を通り、フッラ(al-Hurrah)への道路(38 kilometers)。

 

c.マッラハ道路： アブハー(Abha)からスーダ(al-Sawdah)を通り、マッラハ (al-Mallahah)への道路(62kilometers)。

 

d.ナフラン山道路： アブハー(Abha)からナフラン山(Jabal Nahran)への道路(12 kilometers)。

 

e.その他州道： これらは幾つかの村とハイウェイを結ぶ道路に加えて建設されて来たし、現在、その他、多くの道路が建設中である。

 

③-2幹線道路： ハイウェイはアブハーと他の都市や地方を結ぶ幹線道路である。

 

a.ヒジャーズ道路： アブハー(Abha)からバラスマル(Balasmar)、タヌーマ(Tanumah)、ナマース(al-Namas)、バーハ(al-Bahah)を通り、ターイフ(Tayif) までのヒジャーズ(Hijaz)道路。延長543kmでサラワート山脈(al-Sarawat)の地形の折り重なり、しばしば霧に包まれる幾つもの美しい村々を通過している。

 

b.海岸道路： アブハー(Abha)からジェッダ(Jiddah)を通り、メッカ(Makkah)までの道路。全長570kmでアガバト・シーアル('Aqabat Shi'ar)の高い山を抜ける為の幾つものトンネルが建設されて居る。道路はムハーイル(Muhayil)を通り、海岸道路と呼ばれる紅海岸に沿ってライス(Layth)へ至り、最終的にジェッダ(Jiddah)或いはメッカ(Makkah)につながる。この道路は又、ヤラムラム(Yalamlam)を通過する。ヤラムラム(Yalamlam)はイエメン(Yemen)、ジーザーン(Jayzan)或いはアシール('Asir)からメッカへの巡礼の途中であり、巡礼達はイフラーム(Ihram)の儀式を行い、男女ともメッカへの最後の道中に備えた。

 

c. ジーザーン道路： アブハー(Abha)からジーザーン(Jayzan)への道路。ダルブ(al-Darb)とサブヤー(Sabya)を通り、全長188kmである。

 

d. リヤード道路： アブハー(Abha)からリヤード(Riyadh)への道路。ワーディー・ダワースィル(Wadi al-Dawasir)を通り、全長1,200kmである。

 

e. ナジュラーン道路： アブハー(Abha)からナジュラーン(Najran)への道路。ハミース・ムシャイト(Khamis Mushait)および ザハラーン・ジャヌーブ(Dhahran al-Junub)を通り、全長247kmである。

 

④交通手段

 

 

 

 

 

 

タクシーの使用や後に公共の乗り物としてのバスの利用がこの地域全体に広がった。  この様な交通手段の利用の為に女性が運転する利点について質問した時にある婦人は「私      達は運転手がこの地域の人間ならばタクシーに乗るけれども、そうでなければ乗らない。」と言った。年老いた婦人はこの様な交通手段から恩恵を得て来たが、若い女性はタクシーに乗りたいとは望まない。これは、昔は家族や部族以外の見知らぬ人間が居なかったので、女性達が一つの村から次の村へと何も恐れずに旅が出来た。でも、今では、あらゆる種類の国籍の人間が周りに居り、女性は注意深くなり、自分達だけで旅する事は無くなった。

 

⑤航空機

 

 

 

 

 

 

 

 

アブハー空港の地方支配人は「この地域の空路はヒジュラ暦1377年（西暦1957年）にピストン・エンジンの飛行機で始まった。唯一の滑走路はカムバル(Qambar)とイルク(al-‘Irq)の間にあった。これはハミース・ムシャイト(Khamis Mushait)市近傍の土の滑走路であった。」と言う。ヒジュラ暦1379年（西暦1959年）、スカイマスターとコンバイア(Skymaster and Convair)機でダコタ航空(Fights of Dakota)の飛行便が始まった。便数は乗客次第であった。ヒジュラ暦1382年（西暦1962年）に現在はキング・ハーリド(King Khalid)空軍基地のある場所に滑走路が建設された。DC9機が就航し、この滑走路は空軍基地が建設された後も使われ続けたアブハー民間空港がハジュラ(Hajlah)に建設され、ヒジュラ暦1398年（西暦1978年）に開港した。ジェット機やその他の機種がここから運行されたが、当時、就航回数は離着陸合わせても15           回を越えることは無かった。現在では離着陸合わせて一日124回を越え、季節によっては更に追加便が必要である。

 

表54　通信、電力及び情報

①通信

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

①-1昔の通信： 昔、手紙は場所から場所へと人手によって運ばれて居た。

 

①-2郵便と電話： 郵便は公用の袋で政庁へと運ばれ、そこから手紙は各宛先に配布された。最初に、電話とテレタイプが政庁に置かれた。現在、アブハーには７つの私文書郵便センター、6つの郵便局、1つのテレックス受付所と5つのテレタイプ所がある。電話についてはアブハー、ハミース・ムシャイトや近傍を含む地域対して一つの自動電話センターが設けられて居る。このセンターから世界中のどの国でも、王国内のどの地域にでも電話が繋がって居る。電話は通信の為の労力や費用を節約すると言う大きな影響をこの地域に与えた。家族間の通信や人々の間の繋がりを強化すると言う社会的影響に加えて、電話は多くの活動や公共サービスを容易にして来た。

 

①-3電話と女性： 電話が女性達に男達に混じり合う事無く、社会的・業務的役割を行う事を可能にした利点を忘れては成ら無い。サフィイヤ(Safiyyah)は結婚式や特別な行事で歌う歌の言葉で電話に関し、「少女は言う。もう、手紙は要らない。電話が貴方の車の中に有り、いつも貴方の傍に有るのだから。」という意見を述べて居る。

 

②電力

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

②-1昔の灯火： 昔、この地方の人達は、王国内の他地方の人達同様に明かりにはケロシン・ランプかランタンを使って居り、ケロシンが発見される前は脂肪か蝋燭を使って居た。ケロシンは十分には行き渡って居らず、多くの人達は一軒で一つのランプしか使わなかった。そして、必要に応じて、家の中のあちこちにランプを移して使った。

 

②-2発電機： モーターとして知られた発電機がこの地方に渡来すると、人々は富にまかせて買い求めた。

 

②-3発電所： アブハー電力会社の記録によれば最初の発電所はヒジュラ暦1388年（西暦1968年）にアシールのアブハー市で750kilowattsの規模で設立された。

 

②-4電力需要： 建築、経済および農業の発展の結果、電力需要は飛躍的に増大した。この為、受電加入者の需要に合わせ、各地区毎の照明を隔日に給電する方式が採らざるを得なかった。

 

②-5発電増強： ヒジュラ暦1359 - 1399年（西暦1975 - 1979年）間に、最初のジーゼル発電所がラーサン(La'san)で22,400 kilowattsの規模で始まり、次の発電所はハミース・ムシャイト(Khamis Mushait)に18,830 kilowattsの規模で作られ、そして、ヒジュラ暦1399年8月5日（西暦1979年）に500余りの村落に給電する90 Megawatts規模のアシール中央プロジェクトが始まった。

 

②-6受電加入者： ヒジュラ暦1390年（西暦1970年）の受電加入者は1,634件であったが、ヒジュラ暦1406年（西暦1986年）までに87,295件と成った。将来計画の電力供給容量にはまだ照明用電力の給電されて無い村々への給電の検討も含まれて居る。

 

②-7電力の恩恵： 電力の恩恵でこの地域は多いに潤って来た。電気製品は多くの時間と労力を節約してくれるので、電気需要は増え続けている。電力が経済、社会そして科学の分野に与えた貢献は大きい。

 

③情報手段

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

③-1情報の影響： 疑いも無く、大変早い時期から情報手段は全ての地方の成長と発展に大きな影響を与えて来た。

 

③-2ラジオ： 情報手段の中で最も重要なのはラジオである。ラジオは社会的文化的意識に重要な役割を担っている。ラジオはそれを通じてこの地域の人々が世界を見る窓の様な存在である。

 

③-3発刊物： 王国の他の地域と異なってこの地域では新聞、雑誌と言う様な発刊物が無かった。出版物は他の地域から持ち込まれ、遅ればせながらジャヌーブ(al-Junoob)と言う表題の雑誌が発刊されて居る。

 

③-4テレビ： この地域社会に近年、影響を与えた強力な情報手段はテレビジョンである。テレビジョンは全ての家庭に入り込み、全ての階層の人々に語り掛けて居る。アブハーのテレビ局はヒジュラ暦1397年（西暦1977年）、アブハー、ハミース・ムシャイト及びその周囲の村々が対象に設立された。

 

③-5ビデオ： ビデオ・レコーダーもこの地域全体に急速に広まった。この機械の普及の影響は目覚ましかったがそれについてはここでは割愛する。それにもかかわらず、人々、特に若者を建設的な仕事や活動への意欲を無くさせてしまう為にこの機械が積極的な面より消極的な面が多い事だけは述べて置きたい。

 

③-6公共心高揚： 発展の重要な要素は公共意識の高まりを作り出す事にある。様々な社会的、文化的な活動が婦人会、文学の会、科学研究所に依って行われ、活動の様々な分野が計画した多くの意識週間が持たれて来て居る。この様な全てやその他の活動が地域社会をより良い未来へ導く道の始まりであり、正しく適正なステップにあると考えて居る。

 

表55　出典と参照

 

①特色

 

 

 

 

この本の最も重要な特色は現地調査であり、老婦人との個人面接、民間伝承の専門技能を持つ女性との面接、シャイフや老人への面接とその答えが伝承伝統の記載の殆どを締め、その様な伝承伝統が殆ど消えかけている現代においてこの様な作業を再び行う事は難しい上に女性はならではの功績は大きい。面接者については名前付きで掲載あるいは本文中に記述して居る。

 

②出典と参照資料

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

②-1 ： Hashim Sa'eed al-Ni'mi. “History of 'Asir in the Past and the Present”.

②-2 ： Dr. 'Abd Allah ibn Muhammad Abu Dahesh. “Intellectual and Literary Life

in the South of the Arabian Peninsula”.

②-3 ： Hamad al-Jasir. “In Sarat Ghamid and Zahran”.

②-4 ： Muhammad Shaker. “The Arabian Peninsula”.

②-5 ： Dr. 'Abd al-Rahman al-Shareef. “The Geography of the Kingdom of Saudi Arabia”.

②-6 ： Dr. Sayyid Yunis. “Glimpses from the History of 'Asir”.

②-7 ： Dr. Ahamad Amin. “The Early Period of Islam”.

②-8 ： Dr. Muhammad Abu al-'Ula. “'Asir Region South West of the Kingdom of Saudi Arabia,.

Published by the Arab League, Arab Research and Studies Institute

Copied from ‘Abd al Wase’ al-Wasi’I “The History of Yemen”. 

②-9 ： Dr. Sayyid Yunis. “The Structure of the Kingdom of Saudi Arabia”.

②-10： Dr. 'Abd al-Rahman al-Shareef “ 'Asir Area”.

Article in al-Khafji Magazine, Fifth Issue, Seventh Year August 1977

②-11： Fuad Hamza. “In ‘Asir Area”.

②-12： Makki Muhammad 'Aziz “Rainfall in the Kingom of Saudi Arabia”

College of Education Magazine, King Saud University, Second Issue, 1971/72.

②-13： Muhammad 'Umar Rafi'. “'Asir Memories and History”.

②-14： Yahya Ibrahim al-Alma'i. “Popular Saying in the Southern Area”.

②-15： Muhammad Abu al-'Ula. “’Asir Region Special Studis,

 Arab Research and Studies Institute, First Issue”.

②-16： Muhammad ibn Ahamad al-Uqayhi. “Memoir of Shafeeq Pasha,

Governor of 'Asir. (First Edition)”.

②-17： Muhammad ibn Ahmad al-'Uqayhi. “Al-Mikhaf al-Sulaymani or South Arabia in History”.

②-18： Dr. Zayn al-Din 'Abd al-Maqsood. “Man and Environment”.

②-19： Sir Edward Evams Pritchard. “Social Anthropology”.

Translated by Dr. Ahmad Aby Zayd.

②-20： Ahmad Ibrahim Mutain. “Examples of Frequently Used Environmental Poetry in 'Asir”..

②-21： Bayadir – “Great Culture File” Published by Abha Literary Club, First Edition.

②-22： “Popular Heritage and the Problem of its Classification”.

From Popular Heritage Magazine. Second Issue. First Year. Published

by the Arab Gulf Countries Popular Heritage Center, Doha, Qatar.

②-23： Twitchell.” Water Resources of Saudi Arabia”.

Geography Review. Vol 34, July 1944.P.65.

②-24： Gressey G.B. “Crossroads, Lands and Life in South West Asia”.

②-25： Hashim ibn Sa'eed al-Ni'mi. “Unpublished research” submitted to Abha Literary Club.

②-26： Ahmad Ibrahim al-Muta'in. “A Study of Customs in 'Asir.” Unpublished.

Submitted to the Popular Festival organized under the supervision of the National Guard

②-27： Ahmad Ibrahim al-Muta'in. “Unpublished research on archeological sites in Abha”.

②-28： サウジ政府機関発行の様々な統計や老人、老婦人、シャイフ、よく知られた

熟練作業専門家の女性達への面接結果。