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2008 年10月25日 高橋 俊二
ローレンスの知恵の七柱

( The Seven Pillars of Wisdom by Thomas Edward Lawrence(1888 - 1935), 1926)


 

ローレンスの知恵の七柱

 

知恵の七柱(The Seven Pillars of Wisdom)

 

ローレンス(T.E. Lawrence)

1926年出版

(The Seven Pillars of Wisdom by Thomas Edward Lawrence(1888 - 1935), 1926)

 

65頁からの抜粋

 

船が動いている時には決して暑くは成り過ぎない紅海の快適な気候の中をいつも通り静かにジッダ(Jidda)に向け我々は帆走していた。しかし、強烈に光り輝く空と広い潟に一杯に埋めたその反射の間の白い町の沖合の港外に最後に投錨すると、アラビアの熱が鞘から抜いた刀の様に出て来て我々に言葉に表せない程の打撃を加える。それは真昼で東にある正午の太陽は月光の様に色をぼんやりさせている。そこには光と影だけがあった。白い家々と通りの黒い裂け目、前面には港の中に立ちこめるかげろうの青ざめた輝きがあり、後には形の無い砂の長く長く連なる輝きがあり、かすかに遠くに熱の霞があるのを暗示していた。

 

72頁からの抜粋

 

(注)栄光のあった時代のジッダ建築の典型的なごりを今に残している建物。

 

これは本当に非凡な町である。通りは狭い小路(alleys)であり、主なバザアールには木製の屋根が掛けられているが、至る所でそびえ立つ白い壁の家々のてっぺんの間に隙間があり空が見えている。これらの家々は45階建てで、珊瑚礁で作られたスレート(coral rag)が四角い梁に取り付けられ、基礎から床まで通る灰色の木製の壁板にはめ込まれた広い張り出し窓で飾られている。ジッダにはガラスは無いが、上質な格子戸は豊かであり、幾つかの非常に繊細な彫刻が窓枠に施されている。扉は重い、チーク材の2枚戸であり、深く彫刻され、時にくぐり戸が設けられている。高価な蝶番と鉄輪ノッカーが取り付けられている。

 

多くの鋳物或いは切り漆喰があり、古い家々の上には精巧な楣石(まぐさ石(stone head)や内庭を見る窓のだき石(jamb)がある。家の正面は空想的(romantic)な舞台装置の為のボール紙の切り抜きの様に見えるまで、すり減らされ、穴を開けられ、そして飾り塗りされている。全ての階は突出しており、全ての窓はどちらにしても傾いて居り、時には壁まで傾斜していた。この市は死んだ様で、足元は清潔、とてもひっそりとしていた。

 

風が吹くと通りは砂で埋まり、時間によって固まり、カーペットの様に足音を消してしまう。格子と壁返しが声の反響を弱めてしまっている。荷馬車は無く、どの通りも荷馬車、蹄鉄を付けた動物や賑わいには十分な広さが無かった。全てが鎮まらされ不自然でこそこそしている様でもあった。家々の扉は我々が通過すると穏やかに閉まった。喧しい犬も泣き叫ぶ子供も居なかった。本当にバザアールを除けば旅行者も殆ど居なかった。

 

 

雰囲気は重苦しく、致命的であった。この市の中には生命が無い様に見えた。これは焼ける暑さでは無いが、湿気を帯び長い年月とまるで他の地に属している様な疲弊の感覚があった。スミルナ(Smyrna)、ナポリ(Naples)或いはマルセイユ(Marseillais)の匂いの様な熱情では無いが、古くから使用、多くの人々の呼息、継続する風呂の熱さと汗の感じはある。「長年にわたりジッダは風に吹き飛ばされて居ない。建てられた時から長い間、家々が耐えて来た様に、その通りはその空気を年の終わりから年の終わりまで保って来た」と誰かが言った。バザアールには買う物が無い。

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